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第一章 山倉タクシー

ストーカーのからくり

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挙句それに絆されて後者を選び入寮すると、当日の晩から隣室から「プータ」「まだ居るよ(引っ越したばかりで〝まだ〟はないもんだ)」「まだ生きてるよ」「死ね」等々お馴染みの声で、お馴染みの罵り文句を聞かされ、最後にザマ―見ろと云わんばかりに嘲笑されるに至る。これはもう何度も経験したことである、この20年間のうちに…。
 ところでこう聞いて来て合点の行かないことが読者諸氏には何点かあることだろう。例えば「じゃあそいつらはなぜ、そうも旨い具合にお宅の隣室に入ることが出来るんだ?」と思われるだろうし、「それなら隣室に直接行って抗議し、そいつらの顔を確かめればいいではないか」とも思うだろう。しかしそれこそ、ご指摘のこの点こそが、今の格差世の横暴と、またその被虐者にとってはハートレスなミステリーを、奇しくも現してもいるのである。そして、であるがゆえに、私は自分の生き恥をさらしてでも、この小説を書こうとするそれが所以である。さて解答の方だが二言で云えば〝親分なる者の顔の広さと影響力〟そして〝業界の結託〟と云えるだろう。私の生涯の仕事はほぼガテン系だがこの系統の会社同士(特に土木・建築・警備業)のつながりを使って、私が寮に入ればその隣室に件のチンピラどもを住まわすことが出来、一般のアパートに入ってもこちらは仲介不動産を通じて同様のことを彼は為し得る。従って寮でもアパートでも隣室騒音を会社や不動産業者に訴えても、それこそハナっから相手にもされない。そして直接隣室に文句を云いに行っていくらドアを叩いても居留守を使うか、偶に出たかと思うとそれは此奴らストーカーどもではなく、そこを(親分か不動産を介して)此奴らに又貸しをしている、普段はそこに居ないが依頼されて一時そこに戻って来ている、本来の部屋の借主が出て来て「知らぬ存ぜぬ」を云うのである。
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