エッセイのプロムナード

多谷昇太

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引っ越し顛末記(一)

厄難の始まり

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 17年前私は横浜市鶴見区にある1DK8世帯のベランダ形式のアパートに引っ越して来た。丸々一棟を近くにある土木会社(か解体屋)の寮としているようなアパートで、一般の住人は(おそらく)私一人ではなかったかと思う。単身者もいれば夫婦者もいたがしかし夫婦者とは云っても勝手に女を連れ込んでしまうような、管理のいい加減なものだった(か、あるいはオーナーの許認可まかせだったかも知れない)。ニッカポッカを穿いた物騒な兄ちゃんや中年男らが出入りしている光景を見て、「これはえらい所に来てしまった」とほぞをかんだがあとの祭りだった。実はその前のアパートもこれと同じような環境で、そこでえらい目に会って越して来たのがこれだったからだ。なにごともなければいいがと願いつつ愛車のポン太(中古で購入した軽のワンボックス、キャブが狸面していたので命名)を駆って毎日の仕事へと通い始めた。勤め先は川崎の東扇島、フォークに乗りながら倉庫の管理をしていた。引越し当初は夜寝る時になると家では寝ずに、表に行って車の中で寝ていた。なぜそんなことをしたかと云うと、若い時からずーっと止められないタバコのせいで口腔内が荒れ、就寝当初はすさまじいイビキをかくからだった。以前の住まいも、その前も、さらにその前も、ひんしゅくを買ったのがこれで、その原因だったタバコを止めるまではと念じつつ、夜になると表に出かけていたのだ。早朝に帰って来ては身支度をし、勤めに出る。ガソリン代も時間ももったいなく何よりわずらわしかったが、タバコタバコと念じつつがんばっていた。しかしいくばくもなく無体なことがひとつと理解不能なことがいまひとつ出来する。真下の部屋には中年の夫婦者が住んでいたが(私の部屋は2F角部屋)その亭主の方が棒かなにかで天井を叩きはじめ、部屋の中で激しく足踏みをし始めたのだ。さすがに毎日車中泊では身がもたないので週末とかは部屋で寝るのだが、その折りは就寝前に喫煙をしばしやめるとか、あるいはうつぶせで寝るとかしていた(こうするとイビキがあまりしない)。にも拘らずおっぱじめたわけだ。なぜか私のことを「プータ(プータローの略)」とののしり且つ「おまえのやることはみんな気に食わない」と云ってはそれらのことをし続ける。ちなみに仕事から帰って私のやることと云ったら油絵を描くこと(若い頃から描いていた。イーゼルもあった)、小説や和歌を執筆することだった。あとは英語をものにしたくてNHKラジオ英語講座等のテキストを音読していた。それらが一切合切彼の気に食わないということらしい。英語や絵は音と匂いで気づいたかも知れないが小説となるとわからないはずだ。しかしその執筆表現の内容などを女房と笑ったりしている(安アパートで声がほぼ筒抜けだ)。ハハアとしかし私はすぐに合点した。「霊視だな」と。
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