エッセイのプロムナード

多谷昇太

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アジア小説との出会い

クワンティエンの伝説

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 さてラストがベトナム小説である。スアン・テュウの「クワンティエンの伝説」を上げたい。ベトナム戦争からの題材ということで悲惨極まりないものを予想したのだがさにあらず。なんと北ベトナム軍女性兵士と猿のあいだにおける性的なものも含めた(?)情の交流を描いているのである。戦争という極限時下、人と獣のあいだにも至ってレアなことが起こるようだ。しかしこのレアな交流を神と人間の間の交流、絶対的禁断な領域まで含めて比較、検討されていて、私はまことに意表をつかれたことだった。神、仏との交わりは神聖なものであらねばならない、清廉なものであるべきだということに異存はないが、はてそれは方やが絶対的な、且つ至高なるもので、方やが卑近でしかないものであり続けるのだろうか?交わることのない永遠の平行線のままだろうか?彼のルネサンスの巨匠ボッティチェリの「神秘の降臨」には天使と人間が抱き合っている光景が描かれている。またわが国の歌人釈迢空の歌で「人間を深く愛する神のゐてもしもの云はばわれのごとけむ」なる一首がある。絵、和歌ともあたかも神と人との合一を示しているかのようだ。このことは所詮頭ではわからない。まして私など卑近きわまる存在では不可能事と思えるが、しかし文字どおりサルが神を思慕するがごとくに、愚直に迫ってみようとも思うのだ。

【当サイトにおける私の小説「クワンティエンの夢」をご参照ください。下記の表紙絵は待賢門院璋子が転生して現世に生まれ変わり亜希子になったとして…そのイメージを掲げたものです。写真はモデルの方です】

※なおこの他にもネット同人文芸誌「みなせ文芸2」における「あおむしさん」に於ても、同名で掲載しておりますので、みなさんにはぜひご覧いただきたいものです。サルがこのスアン・テュウの小説の主人公、ムイ女性兵士を追うがごとくに悪戦苦闘しておりますので、その様をどうぞお笑いいただきたいと存じます。
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