エッセイのプロムナード

多谷昇太

文字の大きさ
上 下
7 / 65
アジア小説との出会い

キラ星のごとき作家たち

しおりを挟む
さてこの他にも「上海のフォックストロット」といういかにも斬新で小気味のいい作品があった。こちらの作者穆時英などは蓮花池で云えば漢奸となってしまいそうだ。事実日本軍協力の廉かどで国民党軍に殺されたのだが、私に云わせれば漢奸どころか漢雄だ。後の台湾における国民党軍の白色テロや、現中国の経済に驕った姿まで予見したような、まさしくこれからの中国の、真の暁への指針を描いて見せているようにも思えた。あとは蕭乾の「夕立の女」がいい。不貞の夫とその情婦に家から放逐されて、同情を受けるべき身なのにもかかわらず、かえって世間からも村八分を食うという男社会、農村封建社会の不合理さをよく描いている。思わず私が「夕立に軒乞うひとを科女とて追ひし農夫は憂き世ならずや」あるいは「塵染まぬ少年の目には哀しかり雨か涙か夕立の女」と歌を詠んでしまうほどのそこには義憤があった。同趣旨で「破鞋(中国語で身持ちの悪い女)」がこれに優るとも劣らない。他にも文革関連で残雪という女流作家の幻想小説に独特のものがあり(「弟」「余所者」など。表立って文革を批判できないのだ。すれば摑まってしまうのでこのスタイルに逃げたとも思えるが、しかし却ってそれが小説に趣旨と力を与えている)、また‘詩小説’とでも云うべき廃名の「桃畑」、あるいは鉄擬の「十二夜」などなど、キラ星のごとく名作があって、それらは余りにも見事であり、小説の手法においても主題においても私は新境地へと誘われる思いがしたものである。まさに出会いであった。

【エッセー返歌】

「生死場は無体のかぎりわが身には死ぬるもくやし蕭紅たらむ」

※返歌とは和歌の世界における長歌に対する返歌の形式に習ったものです。私の原点は和歌、歌人としてのそれでして、エッセーに限らず小説などでもこの趣向を使わせてもらっています。ここでの歌意は蕭紅が日本軍の進撃の為に辛酸な目に会いながらでも、その本懐を曲げなかったように、私も、ある理不尽な苛みに抵抗し、必ずやみずからの本懐を遂げたい…というものです。詳しくはこのエッセイ第二章「引越し顛末記」をご覧ください。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

流れのケンちゃん

多谷昇太
ライト文芸
〈お断り〉取りあえずこれはラジオドラマ用のシナリオです。‘目で聞く’ラジオと思ってください。配役はお好きな俳優を各自で当ててください。 以下あらすじ:25才の青年が九州は博多の街に流れ着きます。彼はここにいたる前の2年間をヨーロッパを中心に世界中(ロシア・ヨーロッパ・中近東・インド・タイ等)を単身で放浪して来た身の上でした。放浪のわけは「詩人・ランボーに憧れて」と「人はなぜ生まれたのか、また何のために生きるのか、現に生きているのか…を探る」の2点でした。つまり早い話がそんなことにかまけている、世間知らずの甘ちゃんだったわけです。そんな彼に人生の解答を与えてくれた女性がいました。彼より3つ年上の元・極妻だった女性。「ケンちゃん、運命(さだめ)を超えないけんよ。さだめ橋を渡らな。うちもいっしょに行ったるっちゃ」と云って諌めてくれます。みずからの身体をも与えて…。さて、あらすじより本編です。どうぞラジオドラマをお楽しみください。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

処理中です...