自らを越えて 第一巻

多谷昇太

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3人のアポ(1)

ヒュラス村田君なのか?

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しかしすぐにカナとミカの目を慮って俺も荷を置き左側の渓流で手と顔を洗い出した。沢の水が冷たくて気持ちいい。耳にはシジュウカラなど野鳥の鳴き声が聞こえてくる。洗い終って顔をタオルで拭いながらもマドンナ始め〝連れ〟の3人を盗み見ては「ああ、いいな」と小声でつぶやかざるを得ない。「来てよかった」といまは本気でそう思う。これはまるで、以前に暗い心のままに見て憧れていた、ウイリアム・ウォーターハウスのニンフとヒュラスの絵そのものではないか、とさえ思う。3人に、マドンナに、泉の底へ引きずり込まれるなら本望だろうななどと妄想さえしてしまう。そんなニンフの女王から「さ、村田君、ここへ来て。いっしょにお弁当広げましょう」と誘いの声がかかる。大伴さんは当たり前のようにカナとミカが荷を置いた辺りに自らの荷を置いて俺を誘っているのだ。「おいおい」カナが小声でクレームするが気にもしない。俺には小学生自分のトラウマがあって好かれてもいない、いや、どころか目一杯嫌われているだろうグループに割って入るなど本来ならとても出来ないことだった(当小説4ページ「魂の原風景」を参照)。しかし大伴さんの元へ、引き込まれるヒュラスの心境となって、俺はリュックを持って3人の傍らへと移動し、おずおずと適当な岩の上に腰かけた。

   【ウイリアム・ウォーターハウスのニンフとヒュラス from pinterest】
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