自らを越えて 第一巻

多谷昇太

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丹沢行(2)守護・指導霊の出現?

もうここに居たくない!

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カナはと云えば持ち上げるどころか申しわけ程度に俺の背を押すだけ。舌打ちされないだけでもマシというものだ。俺のGパンの裾をまくし上げて足首から先をそっと滝壺の水に浸すと「このままじっとしてて。冷たくなったら足を引いていいから。ね?」と云いつけたあと「ところでカナ。あんたまさか村田君を後ろからせかさなかったでしょうね?え?どうなの?」「…だってあんまり遅いから」「何いぃ?…」などと俺の身体を挟んで大伴さんがカナに詰問し始めた。「ゆっくりでいいとあたしが下から云ったでしょ?!聞かなかったの?!」「聞いたよ。だからさ、こいつにあたしが先頭代わるって云ったんだ。それなのに…」「こいつう?…こいつ、こいつとは何だ?!」「自分が云ってんじゃねえかよ」つかみ合いを始めかねない2人の様子に俺はたじたじとなる。大伴さんの剣幕の凄さ、カナの負けん気…ただ恐れ入るばかりだ。ミカと云えば青くなって佇むばかり割って入ることなど望むべくもない。俺はとにかく人と人が争うのが嫌いでそんな場面に出くわせばすぐに逃げ出すのだが今はそうは行かない。女性と女性の言い争い、ましてその原因が"俺〟とは…これはまったく始めての経験だ。いつでもどこでも自分を勘定に入れない(謙虚だからではなくただ弱いから)性癖の俺であったればこそもう居たたまれなかった。「あの、大伴さん、俺が悪い…」か細い声で仲裁しようとする俺の言葉などまったく耳に入れず「カナ、来い!分からなきゃ身で教えてやる!」と云いざま俺の身体越しにカナの襟首を取る大伴さん。その際大伴さんの胸が(乳房が)俺の横顔にくっついたがさすがにここは欲情するべくもない。「上等じゃねえか」カナは応戦する様子。もう、もう、どうしよう…?このままもうどこかに行ってしまいたい。もうここに居たくない…と念じるあまり意識さえもが薄れようとする。ところがこの時俺の口が突然勝手に動き出した。
「ちょっと待って!大伴さん、カナさん。ほらミカさんを見て!」自分でも驚くようなしっかりとした強い口調で俺はそう2人に呼びかけていた。「えっ?」とばかり2人が俺を見、続いてミカを見る。そこには呆然と涙を流しながら俺たち3人の様子を眺めているミカがいた。「ミカ?!」大伴さんとカナが同時に声を上げる。大伴さんの手がカナの襟首から離れる。
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