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丹沢行(1)
若きウエルテルの村田君
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さてしかし、このF1の結果を見ていまの順番すなわち俺、カナ、ミカ、大伴さんの順を保つこととなった。これは蓋し俺が沢登りの経験者であることを大伴さんが認めてくれたからだろう。これに応えるべくこのあと俺は、F2横向の滝を滝横の右岸から登り、F3・5Mの幅広の滝も左側ルンゼ状の窪みから難なく登り、5M平岩ノ滝はその滝右にある階段状の平岩をトントンと上がってみせ、F5A形の滝は左から巻き気味に行き、左より枝沢が流入する4M滝ではミカの二の舞いを演じぬよう三点ホールドに気をつかったが、F5板立ノ滝では右側のルンゼ状の窪みすばやく選んでみせたりで、畢竟うしろの3人を快適に先導してみせた。この間にいつの間にか隊列はいちいち滝の前で止まったりせずに、適度な間隔を保っての、スムーズな形となっていた。唯一ミカのカバーに大伴さんが気を使い続けてはいたが。「よーし、村田君!ここらで休憩しましょう!」F5板立ノ滝を過ぎて谷が広くなった景色のいい辺りでうしろから大伴さんの声がかかる。些かでも覚え始めていた疲労と緊張をほぐすグッドタイミングだ。この疲労と緊張というのはこのいまのシチュエーションすべてが俺にとっては初体験だったがゆえのことである。普段の学校生活、友達が一人もおらず貝のように押し黙って毎日を過ごしていた俺であればいまは奇跡の現出でしかない。この認識の持続が疲労と緊張を呼んでいたということだ。F1出立以来約50分俺は緊張をほぐすため息をひとつついて、腰掛けるにちょうどいい岩を選び腰をおろした。他の3人もてんでに岩を選んで腰をおろしそれぞれのリュックの紐を解く。さて、始めてこうして女性たちとの会話の場を得たわけだが、如何せん何を話していいのかさっぱりわからない。ただ押し黙っている俺に(俺と同じ)葛葉の銘水を口にしたあとで大伴さんが気安く話しかけてくれる。何と称すか『きみの孤独の次第はわかっているぞ』とでも云いいたげな意味深な笑顔を浮かべて。「村田隊長、いいペースじゃない?こんな初心者用の葛葉沢なんてお茶の子さいさいって感じね」「いいえ、そんな…」はにかみながらも改めて大伴さんの姿に魅入られてしまう俺だった。憧れたマドンナがいま目の前にいる。口を交わせる…この喜びを表現できる言葉があれば誰か教えてほしい。
【夢か?目の前にマドンナ…シャーロットに魂を魅入られる若きウエルテルのごとき村田君】
【夢か?目の前にマドンナ…シャーロットに魂を魅入られる若きウエルテルのごとき村田君】
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