自らを越えて 第一巻

多谷昇太

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丹沢行(1)

野鳥の祝福

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「え?何で?〝隊長さん〟は水の中に入って行ってるよ」と云うカナに「いいの。村田君はキャラバンだからそうしてるの。いいから私の云う通りにして」と大伴さんが答え「ちぇっ、それだったらそう云ってくれよな。足がびちょびちょだよ」とカナが俺に小声で毒づく。一方すばやく指示に従ったミカが「あ、ホントだ。この方が全然いい。猿飛佐助になったみたいだ。ほらピョンピョンと…いくらでも早く行けるよ」と云いながら前に距離を詰めて来、カナが「だよな。隊長さん、もっと早く行ってくれよ」と俺をせかす。しかし大伴さんの「こら、カナ。余計なことを云うな。村田君にペースを合わせて行けばいいの」に「ちぇっ」と舌打つ。うしろのカナがやたらブーたれてやりにくいが無視して上って行く。それに大伴さんもそんなことを云うんだったら自分が先導してくれればいいのにとも思うけれど、しかしそんなことを一切度返ししてもこの初体験、すなわち自分が他人を先導して行く、何より他人といっしょに行動している、分けても大伴さんと連れ立っていられるという喜びに胸は湧き心は踊るのだった。時々必要もないのにうしろをふり向いてはマドンナの姿を確認しこのいまの正夢を噛みしめる。もっともその度に不審の眼と眼付けを送るカナが忌々しかったが。谷のあちこちでコガラやシジュウカラ、メジロなど、野鳥の鳴き声が響きわたり俺の喜びを共有してくれるようだった…。
 そうこうして30分ほど行くうちに最初の滝であるF1四段目(高さ6メートル)が現れた。「どひゃー、これを登るんでがすかあ?」「へええ、上等じゃん」とミカとカナが云う。「そう。これが沢登りの醍醐味。いい?じゃあね、この始めの滝はわたしが最初に登って見本を見せるから。村田君は最後に残って万一2人が落ちたら支えてあげて。ね?」と大伴さんが云いさらに「2人が登ったらわたしはもう一度降りてあなたを見るから」とつけ加える。

            【愛らしいシジュウカラの姿】
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