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いっしょにバイトを…

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「わたしね、ちょっと前まで優雅な旅をしていたんですよ。ユーレイルパスを使って、一等車乗り放題で…でもそれも切れちゃって。今は移動するのも大変…あなたは?まだパスをお持ちなんですか?」
「いえ、あなたとまったくご同様です。2ヶ月も前に切れて今はバイト捜しの身の上です」
「えっ?バイト捜し!?ほんとですか?嬉しい…実はわたしもそうなんです。1人じゃ心細くって…どうしようかと思ってた。どうですか、呉越同舟、これからご一緒しませんか?」
 夢のようなあれよあれよの展開に相好が崩れ行くのを止められない。ついこの間までの悲惨さが嘘のようなラッキーストライクぶりである。つい2週間ほど前のこと、俺は異国の地、ここフランクフルトの街角で無一文の身となっていたのだった。渡欧以来の要領を得ぬ、また小心者ゆえの、度胸のない求職ぶりでは勤め口が見つからなかったからだ。止むを得ず自らに禁じていた家族へのSOSを手紙に託したあと、俺は寝袋ひとつを頼りに人目を避けるべく、市郊外のタウヌス山にこもっていた。しかし厳寒と空腹に耐え切れず、やがて市街に戻って来ては夜間のウインドウショッピングをしていた男に、身につけていたセイコーの腕時計を売りつけて小銭を得、市内ユースホステルに素泊まりを重ねていたのだった。ようやくにして家族からの金が届き、また現地バイト経験を持つ日本人ボヘミアン(俺が命名、其其の目的を持って欧州を流浪する者たち)からの有力な情報も得て、いまスイスへの決死行の身の上だった。失敗は許されなかったのだ…。
この女性がそこまで窮していたかどうか知らないが、どこか余裕のない切迫した口ぶりにその辺りをも案じてしまう。しかしだったらなおさら俺はスイス行きへと彼女をエスコートしたかった。日本人ボヘミアンの情報に誤りはないと思われた。当地には外国人専門の職安もあるらしいのだ。俺は得たり賢し顔で立ち上がっては「もちろん、こちらこそぜひ、お願いします。しかしだったら、さあ、もう乗車しましょう。あのスイス行きはもうすぐ発車しますよ」などと、映画サウンド・オブ・ミュージッ内のトラップ大佐を気取っては、気障に決めてみせる。しかし彼女の返事は意外だった。

    【東京の花のOL…と聞けばつい邪な連想を彼女にしてしまう】
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