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海を渡る風

チンチン、乾杯!

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などとご大層な詩の目指した先が、その戦場とやらがこのバイト決定の場面なのかと笑われましょうが、しかし、そうなのです。実にこの場面、瞬間こそが私にとっては紛うことなき戦場の一場面だったのです。なぜと云うに物質的に恵まれ安穏に包まれた渡欧以前の私の生活であっては、身体の五官に流されて心は死んでおり、魂の覚醒など思うべくもなかった。ところがヨーロッパに来てみれば廻りがすべて異邦人、一食・一宿を得るにさえ毎日が命がけです。実にシリアスです。この切迫の中の一行為一行為が私にとっては生きている証しであり、期した戦場でのひとつひとつの戦いであった分けです。あれほど悩んだ青少年時代の孤独癖など最早笑いごと、日本人〝仲間〟たちとの関わり合いに、また言葉さえ儘ならない西欧人たちへのコンタクトにと、私は断然人間に、〝人〟との〝間〟という人の本懐に既に生きれるようになっていたのでした。
 この辺の心の有り様は当アルファポリス誌に既掲載の「人生詩集」を就中〝少年・青年編〟と〝海外放浪編〟をお読みください。より赤裸々に往時の懊悩とそこからの解放を願う心が描かれていると思うし、また何よりこの和歌集同様にこの詩集が他の方々への心の糧になると、時に辛苦に苛まれるやも知れぬ人生を生き行く上での糧になると、そう私は固く信じている次第ですので(※このことは前ページの「脚注&挿絵添え文」の厳然たる事実があろうともやはり云えることだと、そう自負しているのです。人生の末路如何によってその人の人生すべてを結論付けるべきではありません)…。

【就職先決定の祝いの乾杯。この写真では手がひとつ足りません。5人いたのでした。女性の手。明関夫人の手になるかな】


久方の光あふるるひとときを豊穣のホップに味はひにけり

ズーリックYHの近くに一軒のカフェがありました。私は全然気づかなかったが〝でか男〟氏がよく知っていて、その彼の音頭で私と松山氏の就職祝いをしてもらったのです。メンバーはでか男氏と松山、私、そして明関夫妻でした。「それでは松山氏と多谷氏(本名ではなく私の筆名を作品中では使用します)の就職を祝して、そして明関夫妻の早期の就職を期して…(5人そろって)カンパーイっ!!!!!」というでか男氏の音頭でチンチンをしました。私は本来下戸なのですがいやその折のビールのうまかったこと!そして過ごしたひとときの楽しかったこと!アルコールが入ったせいか普段は慎重な口の利き方をする礼子さんが「ねーえ。ホントによかった。一人で心細い思いをしてた多谷さんがバイトに就けて」と当てこするように私への評を口にされ、本音では夫君や松山氏と同様に、私のいくじなさを面白がっていたことを吐露されたのは心外でしたが。ま、ともかくもこうして私の道は開かれたのでした…。
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