ゼフィルス、結婚は嫌よ

多谷昇太

文字の大きさ
上 下
11 / 33
チェリッシュ

魅惑の惑香

しおりを挟む
「それはないでしょ、彼女。無視は。ひどいじゃんよ。ウンとかスンとか、何とか云ってよ。俺たちって透明人間なのかなあ、なあ、おい」と相方にうそぶいては厚かましいことはなはだしい。いかにも金持ちのボンボン風の男で、相方の方はその取り巻きのような、体格のいい、体育会系風の男である。萎縮する惑香にその取り巻きの方が空笑いしながら「へいき、へいき。俺たちは大学生であやしいもんじゃないっすよ。なにかひとこと答えてやってくださいよ」とあたりに歓談をよそおう。人混みの中でのナンパに慣れっこの、また人というものは男女の仲やトラブル事を無視するものだということをよく心得ている風がある。主役のボンボンがたまたま通りかかった惑香に目をつけたものか、それとも公演会場の中から目をつけていたのかまではわからない。いつもそうだがまた決して高価なものを身に着けているわけではないが、惑香のきょうのいでたちはフロントのボタンとリブ地が美しいラインを作っているニットワンピースを着用におよんでいる。その胸元はデコルテが綺麗に見えるVネックで、ハイウエストでウエストマークを付けているベルトが効果的だったし、またそこから大きく垂らしたリボンのフリルのアクセントが実に見事だった。そして何よりもその華麗なファッションの主である惑香自身の美貌と来れば、酔漢ならずとも思わずその大きく開いたVネックの胸元から手を差し入れたくもなり、また見事に浮き出た身体のラインの、なかんずく腰に手をまわして、抱き寄せたくもなるのだった。その惑香に目を奪われて、会場の中から目をつけていたことも大いに考えられた。ふだんのナンパにおいて実に効果的だった自分の金力をちらつかせれば、またこちらも大いに役立っていたに違いない、取り巻きの男のマッチョながたいとその無言の威嚇を効かせれば、いつものようにモノにできるとボンボンは踏んでいたのに違いない。しかしいかんせん標的の惑香がゼフィルスの化身であることに気づくことはなく、またその連れ合いの美枝子の強さに思いを致すこともなかっただろうボンボンは、この直後に手痛いしっぺ返しを受けることになる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

エッセイのプロムナード

多谷昇太
ライト文芸
題名を「エッセイのプロムナード」と付けました。河畔を散歩するようにエッセイのプロムナードを歩いていただきたく、そう命名したのです。歩く河畔がさくらの時期であったなら、川面には散ったさくらの花々が流れているやも知れません。その行く(あるいは逝く?)花々を人生を流れ行く無数の人々の姿と見るならば、その一枚一枚の花びらにはきっとそれぞれの氏・素性や、個性と生き方がある(あるいはあった)ことでしょう。この河畔があたかも彼岸ででもあるかのように、おおらかで、充たされた気持ちで行くならば、その無数の花々の「斯く生きた」というそれぞれの言挙げが、ひとつのオームとなって聞こえて来るような気さえします。この仏教の悟りの表出と云われる聖音の域まで至れるような、心の底からの花片の声を、その思考や生き様を綴って行きたいと思います。どうぞこのプロムナードを時に訪れ、歩いてみてください…。 ※「オーム」:ヘルマン・ヘッセ著「シッダールタ」のラストにその何たるかがよく描かれています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

渋谷少女A続編・山倉タクシー

多谷昇太
ライト文芸
これは既発表の「渋谷少女Aーイントロダクション」の続編です。霊界の東京から現実の東京に舞台を移しての新たな展開…田中茂平は69才になっていますが現世に復帰したA子とB子は果してあのまま…つまり高校生のままなのでしょうか?以降ざっと筋を述べたいのですがしかし叶いません。なぜか。前作でもそうですが実は私自身が楽しみながら創作をしているので都度の閃きに任せるしかないのです。唯今回も見た夢から物語は始まりました。シャンソン歌手の故・中原美佐緒嬢の歌「河は呼んでいる」、♬〜デュランス河の 流れのように 小鹿のような その足で 駈けろよ 駈けろ かわいいオルタンスよ 小鳥のように いつも自由に〜♬ この歌に感応したような夢を見たのです。そしてこの歌詞内の「オルタンス」を「A子」として構想はみるみる内に広がって行きました…。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

処理中です...