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魔王アスラー
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街灯に照らされた通りには禍々しさが充ちていた。ダリの描く超現実派の絵画のように無人の街角を二人の少女が手に手を取って逃げて行く。どのビルの口も固く固く鎖されていて決して少女たちを受け付けない。自我と自己保存の、それは究極の写し絵とも見れたことだった。のっしのっしと二人を追って巨大な悪魔が歩いて行く。裕に三十メートルはあろうかというその後姿は西洋の典型的な悪魔のそれだったが、しかし肩越しに私を睨み付けたその横顔の凶悪さと、身体のマッスの迫力は圧倒的で、魔の力の何たるかを全身の恐怖以て認識させられた。全人類の怒り・恨み・妬みなどの負の想念を一身に顕現、物質化した如くであり、その瘴気だけで私など無に帰しそうだった。いったいなぜ私は表に出てしまったのだろう。この魔物はその気になれば簡単に私を踏み潰すなり何なりするだろうし、そして私は逃げようがない。だが今更後悔はしたくなかった。両腕を揉みしだきながら取るに足らぬ私の水晶の部屋に感動してくれたA子。そして例え一瞬なりとも、両腕に抱きしめ得た正しく‘愛そのもの’の波動を忘れようがなかったからだ。固く凝り固まった人間の自我の殻に隙間を見つけて訪ねてくれた天使がいたとして、一度でもその存在に魅了されるならば、魂は疼き、人は彼を忘れることができない。そしてついには自覚を促され、自らして、殻を打ち壊すことがあるやも知れない。剥き身のままの魂で表に出るならば傷つくことも半端ではあるまいが、その代わり裸の目でものを見、裸の身で世界と触れ合うことができる。斯くのごとく天使との邂逅に尋常ではいられない私、田中茂平だった。
【瘴気の塊りのような魔王アスラー ↑作品by Markéta Bouškov】
【瘴気の塊りのような魔王アスラー ↑作品by Markéta Bouškov】
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