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裏ノ鏡編
大陸八暴閥
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「は? ヴァルヴァリオンに行くのは延期してくれだぁ? ……なんで」
「分家派当主の私としては、最後に一つだけ、やっておきたい事があるのです」
煙草を蒸かしながら、灰皿に灰を落とす澄男は、唐突に転移してきた弥平の請願を聞くや否や、不満に満ち満ちた感情を露にする。
「やっておきたい事って……今更ここで何するってんだ」
「結論から申しますと、上威区かみのいくで澄男様当主就任の祝宴会を開催したいと愚考しております」
澄男の表情が、一瞬にして鬼の形相に変わる。だが作り笑いの笑顔を絶やさない。
「当然ただの祝宴ではありません。情報探査の一環でございます」
「……まあいいや。聞くだけ聞いてやる」
煙草の煙で、居間の空気は大きく淀んだ。
弥平みつひらは澄男の傍に座り、煙草を片手に眉をひそめる彼に対して、突拍子もない結論に至った過程を真摯に説明していく。
あくのだいまおうの助言により、ヴァルヴァリオンへの遠征は決定したが、遠征を行う前に、絶対に明らかにしておきたい事があった。
それは反流川分子の洗い出しである。
武市において、流川に対し不満を持つ暴閥は沢山いるが、ほとんどは結託したところで、警戒するまでもない暴閥ぼうばつばかりである。
それは、流川が絶大な力を全世界に示しているからであり、誰もが知っている事実だからだ。
大半が魔術しか使えない者達しかいない中で、上位互換の概念である魔法を使いこなし、圧倒的な科学技術を有している大暴閥。格が全然違う。
だが、世界とは広い。
常勝無敗の流川家に匹敵する勢力と立ち位置を持つ大暴閥は、少数ながら存在する。
「澄男様や御玲は御存知ですよね。大陸八暴閥」
「流川、花筏、笹舟、水守、白鳥、擬巖、覇劉、裏鏡の八家ですね」
「ダメだ。興味無くて記憶に残ってねぇ……花筏は聞いたことある気がしないでもねぇが」
「その八家の現当主も、既に世代交代しているらしいのですが、御玲。全員の暴名を復唱してください」
はい、と御玲は凜とした返事をする。
―――大陸八暴閥。
ヒューマノリア大陸に現存する全暴閥の中でも、一大国家並みの勢力を誇り、現世の礎を築いた八つの暴閥の総称である。
原則、大陸八暴閥に名を連ねる当主は暴閥界隈もとい武市などでは本名ではなく、暴名という二つ名で呼ばれる。
敵対分子の襲撃を極力避ける為に身分を隠すというのが暴名の真の存在意義だが、巷では、その強さを称える畏敬の念で用いる事もしばしばある。
「大陸八暴閥は更に``五大``と``四強``に分かれています。まず、``五大``から」
御玲は、一人一人、暴名を口にしていく。
``五大``とは、暴閥界の中で、二番目に強い威勢を誇る当主の総称である。
基本的には``四強``に譲るが、場合によっては下克上し、暴閥界の頂点を取れる可能性を秘めているという意味合いで、その名が冠されている。
―――白鳥家当主``淵猟``
「この方は、私の従兄妹です」
「え。分家にも側近いたの。てかお前、いとこいたのか……」
「いますよ。まあ、あまり表沙汰になりませんがね。陰の実力者って感じです」
「白鳥家は分家派の側近を司り、諜報活動、情報探査、政治工作などを分家派と提携して行っていると聞いたことはあります」
「その通りです。ちなみに私が永住護衛を勤めている間は、分家派当主代理も務めています。中々皆さんに顔向けする余裕がありませんが、非常に良い子ですよ」
「へー……」
―――擬巖家当主``裁辣``
「誰だー……」
「中威区の実権を握っている暴閥ですね。総力はそこそこですが、最近はめきめきと頭角を現わしつつあります」
「そうなのか……全然ノーマークだわ……」
―――覇劉家当主``極龍``
「無駄に格好良いなオイ」
「武術に長けた暴閥の代表格です。体内に全く霊力を宿していない者達が集まり開闢したと言われている、由緒ある暴閥ですね」
「霊力宿してない? それってつまり、魔法とか魔術とか使えないってこと?」
「はい。殴る蹴るの物理的な打撃攻撃を主とし、力と技を長年研鑽し続けています。一対一の戦いなら、流川にも後れをとらないと言われています」
「霊力無いのに俺らとタメ張るとかバケモンじゃねぇか……」
「ただ先祖代々山篭りしているので、人数は極めて少なく、集団戦が不得手みたいですね。あくまで一対一の対人戦特化の武力集団のようです」
「なるほど……」
―――笹舟家当主``拳骨``
「この方はとても有名です。暴閥界を支える重鎮の一人に数えられるくらいに」
「え。そうなの」
「花筏の側近として仕え、武芸を極めたとされる偉人。武力統一大戦時代、前線で花筏を支援し、私達の親とも互角に渡り合ったと言われています」
「あのババアとか!?」
「それは分かりませんが、前線での戦歴を持ちながら、今もご存命ですからねぇ」
「バケモンかっての……」
「弥平みつひらさま、一つ疑問が。何故当主なのでしょう。大戦時代を考慮するなら、``当主``ではなく``総帥``では」
「大戦終結後、人数が減り、今では彼一人だそうです。家をつなげるため、今も当主をやっているそうですよ」
「最後に水守家当主``凍刹``。私が名を連ねます。そして、``五大``の格上とされるのが、``四強``」
御玲が再び一人一人、暴名を復唱していく。
``四強``は暴閥界の頂点に最も近いと目されるルーキー達の総称。世代が変わり、現代の人類社会を牛耳る存在として期待されている者達である。
―――流川本家派当主``禍焔``
―――流川分家派当主``攬災``
「禍焔は澄男様、攬災が私なのは、各々把握していますね。さて、ここからが本題。次のお二人こそ、我々にとって重要な存在になります」
―――花筏家当主``終夜``
「あ。花筏は聞いたことあんぞ。母さんが言ってたわ。北方の巫女どもに喧嘩売るならマジ気をつけろって」
「喧嘩なんて絶対売らないで下さいよ。花筏を敵に回すと、流石の流川もかなりの深手を負うことになりかねませんから」
「そんなにか……」
「``南の流川、北の花筏``という呼称があるくらいには。正式名称``花筏巫女衆``。無系魔法を駆使した巧みな集団戦術を得意とし、独神なる御神体を崇拝している暴閥。流川以外で唯一、魔法を扱える暴閥でも有名な武力集団ですね」
「集団戦術かぁ……確かに敵に回すと面倒くさい相手だな」
「それだけじゃありませんよ。彼らは皆同じ顔、同じ体型、同じ服装をしていて、関係者以外では個人の判別が不可能と言われています」
「は……? 待って。なんとなく察したけど、超怖ぇぞそれ……」
「両親曰く、全員同じ姿の巫女がどこからともなく襲ってきて全力で殴り殺しにくる感じだそうで。幼少の頃より、``花筏の巫女だけは敵に回すな``は分家派の家訓となっております」
「あの常時アドレナリン分泌しまくってるバーサーカーだったババアが気をつけてたあたり、相当だぞ……。あんま関わらない方がいいかな……。……しかし、そんな有名なのに、当主の暴名は初耳だな……なんでだ」
「先代の当主がお亡くなりになって後、先代の愛娘が就いたそうなのですが、これまた大変な放浪癖がある方らしく……当主としての責務を、ほとんど果たしていらっしゃらないそうなのですよね」
「まさかのサボり常習犯……大変そうだな他の巫女」
弥平は苦笑いを浮かべた。
御玲が最後の一人を言おうとするが、弥平は右手を挙げ、大きく遮る。澄男と御玲は訝しげに彼を見つめた。
「``四強``の最後の一人ですが、この方こそ、今回私達が祝宴会を開く理由の根本となる当主です。すみません、御玲。では最後の方の暴名を」
―――裏鏡家当主``皙仙``
「コイツが……? さっきの花筏の方が重要な気がすっけど……」
「それがそうでもないのです。この裏鏡家という暴閥、大戦終結後に突然頭角を現わしたのですが、大戦が終結して三十年が経った現在……この暴閥について、何も分かっていないのですよ」
「お前らでもか?」
「はい。組織構造、当主の真名、経緯、歴史背景、領地。その全てが謎に包まれています。分かっているのは、当主と思われる存在の容姿と、どうやって頭角を現わしたかの経緯のみです」
「私も存在だけは聞いた事があります。あまりに素性が不明なので、一種の都市伝説になっていますよね。異界から来たとかなんとか、そんな噂も流れているくらい」
「どこに家があるのかも分からんとか、ガチの都市伝説というかもうホラーじゃん……で、容姿はどんななんだ?」
「鏡面加工されているかのような銀髪と、ブラックホールのような瞳が特徴。顔は中性的ですが、性別は男。というのが公式ですかね」
「そんだけ!? ……いや、でも結構特徴的か。鏡面張りの銀髪とか絶対二人も三人もいないし……。つか普通に気持ち悪いな……。絶対眼が痛くなるヤツじゃん」
「ははは……。頭角を現わした経緯は、数年前に隣国が骨頂品の一斉盗難被害に遭ったのが始まりで、武市の方でも、当主や武芸に長けた戦闘民が次々に襲撃を受ける事件が起こりました。それをきっかけに、``八番目の暴閥``の出現が囁かれ始めたわけです」
「それが裏鏡家か。ソイツは裏鏡って名乗ったのか」
「それは分かりません。噂では、鏡の裏の世界のような異界から突然やってきて、気がついたら狩られていた、という手口から……だった気がします」
「胡散臭いな。鏡の裏の世界って、ンなもんあるわけないのに」
「でも一部では、ターゲットと全く同じ容姿に化けた何者かに襲われた人もいるそうですよ。まるで、姿見で映した自分の鏡像のようだったとか」
「いや……魔法で化けてただけじゃ……。変身の魔法とかあるんだろ? 知らんけど」
「まあ、ありますね。でもほんとに神出鬼没らしくて、気がついたら背後にいる、気がついたら意識を失っていた。やり返そうにも、どこにいるのか分からない。そんな噂が蔓延して、異界に住まう化物というイメージが定着しているわけです」
「つまり、鏡の裏の世界とかいう絶対存在しない世界から来たんだ!! とでも言わないと説明できないぐらいヤベェ奴ってことか」
そうです、と弥平は返す。全員挙げ終えたところで、澄男は話題が次に移ると予想したが、弥平は何故か表情を翳らせる。
「因みに、私も被害に遭っているのですよね。その``皙仙``に」
二人は目を丸くした。
四強の一角が四強を襲う。それは流川に対する宣戦布告とも解釈できる行為。
何故それが浮き彫りになっていないのか、という疑問が浮き出たが、それはきっと弥平の性格故の事だろう。
弥平みつひらは``皙仙``に出会った経緯をつまびらかにしていく。
今から一年前、親から言い渡された巫市での実地訓練を終えた日の出来事。
円満に終わる予定だった潜入訓練が、最終日に限って滅茶苦茶にされ、命からがら逃げ遂せたこと。
襲った人物は背後が壁であるのにも関わらず、壁をすり抜けて王手をかけ、なおかつ``皙仙``と名乗ったこと。
「そして、彼はこう言いました。``俺は未曾有の強者を求めている。お前をその強者と目し、もう一度だけ述べてやろう。攬災、俺と戦え``と」
「喧嘩屋かよ……。傍迷惑なのはおいとくとして、マジでソイツそう言ったのか」
「首元を狙われていたので姿はみていませんが、声音、戦術、能力。その全てがあまりに印象的でしたので、今でもよく覚えております」
「で、結果は?」
「戦う理由がない上、情報も足りないので戦略的撤退を選択しました。あまりにしつこいので、分家邸を動かし、ようやく撒けた感じですね」
「ふーん……で、結論、お前はその``皙仙``って奴をどうしたいんだ?」
「``皙仙``は強者を求めている。強者を求め、世界を徘徊している。つまり、我々が追っている敵組織の情報を有しているやも、と私は踏んだわけです」
なるほど、と二人は頷く。
敵組織の情報を得る為の指針は、あくのだいまおうから先月聞き出した。だが確かに、確固たる情報が得られたわけではない。
情報を得る為にヴァルヴァリオンという地に赴け、と言われただけである。そしてそれが、本当にあるのかどうかも分からない。
普通に考えるなら、実在するかどうか分からない地に赴く前に一段落入れるべきである。もし存在しなかった場合のリスクを考慮するならば。
「澄男すみおさまの当主就任式を開催なされば、八暴閥を呼び寄せる正当な理由になりますし、強者が一斉に会する訳ですから、``皙仙``を誘き寄せる罠には最適ですね」
「全員来るかどうかは分かりませんが、敵対分子の精査、``皙仙``の誘導、大陸八暴閥から情報の収集。これらを一括で行えるので、一石三鳥の作戦です」
御玲の発言を、弥平が補足する。
流川家と同等の力を持つ大陸八暴閥から、敵対分子の精査。なおかつ、彼らを潤沢な情報収集源として利用する。
ヴァルヴァリオン等の御伽噺じみた情報に従う前に、それよりも妥当な線を調べてからでも遅くはない事を、弥平は提案していたのだ。
つまり、灯台で遠くを照らすのではなく、灯台の光が当たらない、入り口付近を順当に掘り起こすことが、今回の作戦の主眼。
灯台下暗しということわざがあるように、遠くばかり見ていると真下にある掘り出し物を見逃してしまう恐れがある。
実際、大陸八暴閥から情報を得られた場合、あくのだいまおうの証言より確証性も、信ぴょう性も高い情報が期待できる。実行しない理由が無い。
「文句なしの完璧な作戦じゃねぇか……! で、いつやる?」
「準備が完了次第、御通達致します」
そうか、と澄男は首を縦に降る。
会場の確保と設営は当然分家派が全て行うべきだ。
人員も分家側の人間の方が動かせやすく、人数も満足している。なにより本家に手間をかけるわけにはいかない。
エスパーダ戦以降、澄男すみおは本家邸裏手の道場で常に修行しているようであるし、御玲も広大な本家派の敷地を、ただ一人で管理している。
彼等に設営とかを任せるのは、酷というものだろう。
「数日程、時間を頂ければ早急に準備致しますが……」
澄男の顔色を伺うようにして、屈み込む。彼の仕草を、不思議な面差しで見つめた。
「実質、澄男様を囮に用いるような真似を致す事になるのですが……問題はありませんか。不快でしたらとりやめを……」
と、言いかけたところで澄男は手で台詞を遮る。
言いかけの台詞から、彼が言わんとする意志を察したのか、澄男は煙草を灰皿に押し付け、強く述べた。
「問題無い。ただの祝宴なら殴ってたが、作戦の一環なら危険は承知の上だからな」
弥平は少し頬を緩めると、話は以上です、と締めくくり、御玲達は部屋を後にしようとする。
御玲が台所の方へ行ったのを確認すると弥平は脳内で澄男を意識する。澄男に霊力を送るイメージで。
『お待ちを。内密に御話したい事がございます。自然な形で私の部屋に来て下さいませんか』
『……俺以外に聞かれたらマズイ話か』
『今、私室には魔法的な傍聴対策を幾重にも施しております』
自然と廊下に出て行くフリをしつつ、分かった、と述べ、トイレの方へ歩いていく。
弥平は普通に私室に入ると、しばらくして澄男が部屋に入ってきた。部屋のドアを静かに閉める。
「で。話って」
「分家邸の調査で新たに発見した情報がありまして。これは澄男様の御耳にも入れておくべき事かなと」
前振りで一息置き、澄男に今朝母親から通達された事を話す。
三月末に襲来してきた者達の装備が元は流川家の私物であった事。
その分析結果から、流川家に内通者がいる、という事―――。
「……糞が……!」
先程までの納得したという表情から一変。苦虫を噛み締め、眉間に強く皺が寄る。
弥平は澄男の機嫌を伺いつつ、分析結果の詳細を伝える。
調査の結果、彼らの使っていた甲型霊学迷彩は、流川るせん家に使用されたモデルの中で、最も古いバージョンである事が判明した。
甲型霊学迷彩の発明は、先代流川るせん家の次男であり、澄男すみお達から見て叔父の、本家派の元技工士流川久々によって齎された恩恵である。
今から三十年以上前、竜暦一八〇〇年代の終盤。
当時流川本家領で研究開発を行っていた久々は、武力統一大戦に勝ち抜くため、探知系魔術を素通りできる装備を開発し、実戦導入を推し進めた。
当時、霊学迷彩の弱点は探知系魔術であるのが通説であったため、甲型霊学迷彩の登場は、他の暴閥勢力に対して阿鼻叫喚の絵図を描かせた。
しかしそれでも久々はアップグレードを重ね、大戦時代が終幕しても、甲型霊学迷彩の透過性能向上に努めていた。
そして、武力統一大戦時代から三十年が経った現代。
流川分家邸が使用している甲型霊学迷彩の規格は、久々がアップグレードを繰り返した末の最終形を用いている。
対して、敵組織の組員が装備していた甲型霊学迷彩は比較的初期型に近い代物であった。
経年劣化が顕著に現れており、現存量産されている最新型と比べ、視認度は高いものになっている。
「分家側に最新型以外の霊学迷彩は現存しておりません。戦時、古い型の霊学迷彩は澄会すみえ様に随時譲渡されていったためです」
「つまり、古くなった奴は全部こっちにあったって事か」
「厳密には澄会様の直属部隊``水守守備隊``が常用していたという記録が残っています」
澄男は深く溜息を吐く。
水守守備隊とは、武力統一大戦時代に流川本家派の影として、先祖代々流川本家派当主を守ってきた直属精鋭部隊である。
特筆する点は、部隊全員が水守家関係者で構成され、代々水守家の当主が部隊の将を務めるという取り決めがあった事である。
先代当主流川澄会の代も同じく、先代水守すもり家当主水守璃厳が将を務めていた。
大戦が終幕して後、長きに渡る戦いの責務を終えたため部隊は廃止されたが、彼らが常用していた甲型霊学迷彩は、流川本家派が保管・管理していることになっている。
「でも、実際そうじゃなかったと」
「可能性自体は極めて高いですね。澄男様も、この家で霊学迷彩は見た事がないのでしょう?」
「無いな。あの脳味噌全て筋肉のババアが、そんな姑息なモン使うと思えねぇし、正直普通にゴミ箱に捨ててそうなイメージある」
「旧型とはいえ、れっきとした軍用装備なので、流石にそれはないと思われますが……澄会様ならば不要と断じ、他の流川本家派関係者もしくは水守すもり家に譲渡した線は大いに考えられます」
「あー……だから御玲にバレねぇようにここに来いって言ったのか」
流川澄会の関係者で候補に挙がるのが、まず流川分家派と分家派側近の白鳥家、本家派側近の水守家の三種類。
分家派と側近白鳥家は、譲渡する側であるので除外するとして、残るは水守家のみとなる。
尤も澄会と距離が近しい存在と言えば水守家であり、霊学迷彩を与えていたとするなら、水守家である可能性が非常に高い。
つまり内通者の元手は水守家であり、もしそうなら水守家が流川家に敵対している事を意味している。
武市において、味方だと思っていた暴閥が、気がつくと敵に寝返っていたという事は、よくある事である。
それは流川家や水守家のような大暴閥ぼうばつといえど、例外ではない。
「となると……アイツも怪しくなってくるな」
澄男の顔が一層険しくなる。弥平は神経を逆撫でしないよう、慎重な声音で問いかけた。
「水守守備隊の関係者……でございますか」
「ああ。俺の親父……流川佳霖だ」
弥平の表情が一層暗くなる返答であった。
流川佳霖。流川家出身の者で、彼の名を知らない者はいない。
大戦時代、水守家の推薦で流川家に編入してきた、いわばあくのだいまおう達と同じ余所者。
璃厳に実力を見初められ、大戦時代は彼の副官を務めていた。
戦後は澄会と結納し、二児の父となった存在として、流川家内では名が知れた存在である。
二児とは澄男と久三男の事であり、彼らの実父なのだから。
「澄男様の父上様は戦後、何をしていらっしゃった方なのです?」
「さあ。親父は半年に一回無いかぐらいしかこっちに居なかったからな。母さんが死んだときも音沙汰無かったし、どこで何してんだか」
「ほとんど本家邸にはいらっしゃらなかった訳ですか……」
「そうだよ、何か悪いか」
黒い眼光で睨みつけてくる澄男にい、いえ滅相もありません、と忙しなく首を横に振る。
「正直俺や久三男が小さい頃から、自分の事は何一つ話してくれねぇ奴だった。聞いてもはぐらかされるし、ぶっちゃけあんまり好きじゃなかったな」
「そんなに……。水守家にいらっしゃるとか……?」
「しらねぇよ。そもそも御玲の実家自体どこにあんだよ」
なるほど、と話が進む度に空気が淀んでいくのを感じ、話を打ち切る。
澄男が父親の事をほとんど知らないのは予想外であった。
確かに母君である澄会が死んだというのに、父親の姿が全く無かった事にはかなりの不思議な感覚ではある。
しかし本家派の人間程となると、忙しくて姿が現わせないだけかと、そう思っていた。
「ここまでの話を総括しますと、内通者の目星は水守家と、守備隊関係者だった……」
「いや別に良いよ気ぃ使わなくても。どうでもいいしそんな奴……」
「……佳霖様になります。ここで、私が考えている仮説があるのですが」
「どんな」
「擬巖家が敵組織である、という仮説です」
澄男は唐突に怪訝な顔を浮かべた。
この仮説は、当初、凪上家に潜入しようと画策したときに構成した仮説だ。
仮説を支える前提が、根も葉もない噂という信憑性に欠ける弱点のある―――。
「こういう想像はできませんか。内通者は彼ら、擬巖家が我々に敵意を抱いている。水守家が擬巖家に内通しているとしたら?」
「十寺じてらは擬巖の関係者でも筋は通るし、ありえる線ではあるワケか。でも擬巖が敵意を抱いてるかどうかの根拠ってあんの?」
お前の事だろうから絶対なんかあって言ってんだろうけど、と弥平の顔を覗く。作り笑い地味た表情で、爽快に唇をつりあげた。
「それを確かめるのも、この祝宴会作戦の隠された目的の一つですよ」
揚々と指を立てて締め括る。
分家邸調べで流川家関係者や親族の中に内通者がいるのは、もはや自明。
しかし次なる問題は、内通先はどこか、である。
ヴァルヴァリオン等の伝説を敢えて度外視して身近に考えるならば、敵意をもっていると目される擬巖家が候補に挙がる。
流川家は八暴閥の中でもトップの強大な一勢力。
相手取るには少なくとも八暴閥の中のうちの一つでなければ、まず勝ち目が無い。
敵は沢山いるであろう、しかし流川るせん家との相対的な強さを考えれば、八暴閥以外の暴閥は選択肢に入らない。
もし八暴閥の中に敵組織がいるなら、密偵を送り込んでくるはずであるし、逆に堂々と敵の首魁がいる可能性も少なくない。
コソコソするから怪しまれる、ならば逆に堂々としていれば、他人の警戒心が煽られる事はほとんどない。
今宵の祝宴会は、白鳥家を除く全ての暴閥が敵だ。
まずは裏鏡家当主の``皙仙``の発見だが、御玲には内密に暴閥関係者のあらいだし。
他暴閥から情報収集を並行して行うというビッグスケジュールである。
「マジで灯台下暗しな部分に無理矢理光を当てて掘り起こす作戦だな……御玲も疑わなきゃならねぇなんて……はぁ……」
「心配は無用です。仮に水守家が裏切っていたとしても、分家派と白鳥家は常に貴方の味方ですから」
胸に手を当て力強く表明するものの、澄男の表情は暗いまま首を横に振りつつ、項垂れながら溜息を吐くだけであった。
自分以外は全て裏切者の可能性があるという話をしているのだ。
流石に大きな不信感を持たれるのはまずいが、流川に仇為す敵を炙り出し殲滅するためにも、彼に寄り添い続ける必要がある。
いくら個々が有能とはいえ、必要最低限度の信頼が無ければ、ただの烏合の衆に他ならない。
澄男が信用していない人間の話をあえて聞いているのも、彼なりに信用できる人間を探しているのだろう。
心の底を気兼ねなく打ち明けられる相手を。
本来ならば母親や父親が相手になってくれるはずだ。自分だって、悩んだときや行き詰ったときは、両親に相談して解決してきた。
しかし、彼の側には誰もいない。
母親と友人は死に、父親は行方不明。唯一の家族である弟とも絶縁状態。彼は今、いつ終わるかも知れない真の孤独に苛まれている。
だからこそ、流川本家派に必要なのは信頼関係だ。三人とも、あまりに互いの信頼関係が無さすぎる。
三月十六日に起こった出来事を鑑みれば致し方ない状況ではあるが、いつまでも平行線になっていては、物事は好転しない。
三人が全く一歩を踏み出そうとしない今踏み出すべきが誰か、語るべくもないだろう。
「澄男様。では設営準備にとりかかりますので、しばらく留守に致します。修行の程が実る事を切に願っております」
「ああ……うん」
「……」
「……」
「……もし私に時間の空きがあれば、修行の相手を」
「いや。いい……。お前はお前のやるべきをやれ……」
畏まりましたと述べつつ静かに一礼。澄男は返事をする事なく、部屋を後にした。
気付けば、時間は午前十一時になろうとしていた。そろそろ修行しに行く時間である。
弥平は前髪を掻き揚げつつ、憔悴した澄男を案じながらも、懐から技能球を取り出し、分家邸の私室を頭に思い浮かべる。
今の状況で次にできる事を、思索するのだった。
「分家派当主の私としては、最後に一つだけ、やっておきたい事があるのです」
煙草を蒸かしながら、灰皿に灰を落とす澄男は、唐突に転移してきた弥平の請願を聞くや否や、不満に満ち満ちた感情を露にする。
「やっておきたい事って……今更ここで何するってんだ」
「結論から申しますと、上威区かみのいくで澄男様当主就任の祝宴会を開催したいと愚考しております」
澄男の表情が、一瞬にして鬼の形相に変わる。だが作り笑いの笑顔を絶やさない。
「当然ただの祝宴ではありません。情報探査の一環でございます」
「……まあいいや。聞くだけ聞いてやる」
煙草の煙で、居間の空気は大きく淀んだ。
弥平みつひらは澄男の傍に座り、煙草を片手に眉をひそめる彼に対して、突拍子もない結論に至った過程を真摯に説明していく。
あくのだいまおうの助言により、ヴァルヴァリオンへの遠征は決定したが、遠征を行う前に、絶対に明らかにしておきたい事があった。
それは反流川分子の洗い出しである。
武市において、流川に対し不満を持つ暴閥は沢山いるが、ほとんどは結託したところで、警戒するまでもない暴閥ぼうばつばかりである。
それは、流川が絶大な力を全世界に示しているからであり、誰もが知っている事実だからだ。
大半が魔術しか使えない者達しかいない中で、上位互換の概念である魔法を使いこなし、圧倒的な科学技術を有している大暴閥。格が全然違う。
だが、世界とは広い。
常勝無敗の流川家に匹敵する勢力と立ち位置を持つ大暴閥は、少数ながら存在する。
「澄男様や御玲は御存知ですよね。大陸八暴閥」
「流川、花筏、笹舟、水守、白鳥、擬巖、覇劉、裏鏡の八家ですね」
「ダメだ。興味無くて記憶に残ってねぇ……花筏は聞いたことある気がしないでもねぇが」
「その八家の現当主も、既に世代交代しているらしいのですが、御玲。全員の暴名を復唱してください」
はい、と御玲は凜とした返事をする。
―――大陸八暴閥。
ヒューマノリア大陸に現存する全暴閥の中でも、一大国家並みの勢力を誇り、現世の礎を築いた八つの暴閥の総称である。
原則、大陸八暴閥に名を連ねる当主は暴閥界隈もとい武市などでは本名ではなく、暴名という二つ名で呼ばれる。
敵対分子の襲撃を極力避ける為に身分を隠すというのが暴名の真の存在意義だが、巷では、その強さを称える畏敬の念で用いる事もしばしばある。
「大陸八暴閥は更に``五大``と``四強``に分かれています。まず、``五大``から」
御玲は、一人一人、暴名を口にしていく。
``五大``とは、暴閥界の中で、二番目に強い威勢を誇る当主の総称である。
基本的には``四強``に譲るが、場合によっては下克上し、暴閥界の頂点を取れる可能性を秘めているという意味合いで、その名が冠されている。
―――白鳥家当主``淵猟``
「この方は、私の従兄妹です」
「え。分家にも側近いたの。てかお前、いとこいたのか……」
「いますよ。まあ、あまり表沙汰になりませんがね。陰の実力者って感じです」
「白鳥家は分家派の側近を司り、諜報活動、情報探査、政治工作などを分家派と提携して行っていると聞いたことはあります」
「その通りです。ちなみに私が永住護衛を勤めている間は、分家派当主代理も務めています。中々皆さんに顔向けする余裕がありませんが、非常に良い子ですよ」
「へー……」
―――擬巖家当主``裁辣``
「誰だー……」
「中威区の実権を握っている暴閥ですね。総力はそこそこですが、最近はめきめきと頭角を現わしつつあります」
「そうなのか……全然ノーマークだわ……」
―――覇劉家当主``極龍``
「無駄に格好良いなオイ」
「武術に長けた暴閥の代表格です。体内に全く霊力を宿していない者達が集まり開闢したと言われている、由緒ある暴閥ですね」
「霊力宿してない? それってつまり、魔法とか魔術とか使えないってこと?」
「はい。殴る蹴るの物理的な打撃攻撃を主とし、力と技を長年研鑽し続けています。一対一の戦いなら、流川にも後れをとらないと言われています」
「霊力無いのに俺らとタメ張るとかバケモンじゃねぇか……」
「ただ先祖代々山篭りしているので、人数は極めて少なく、集団戦が不得手みたいですね。あくまで一対一の対人戦特化の武力集団のようです」
「なるほど……」
―――笹舟家当主``拳骨``
「この方はとても有名です。暴閥界を支える重鎮の一人に数えられるくらいに」
「え。そうなの」
「花筏の側近として仕え、武芸を極めたとされる偉人。武力統一大戦時代、前線で花筏を支援し、私達の親とも互角に渡り合ったと言われています」
「あのババアとか!?」
「それは分かりませんが、前線での戦歴を持ちながら、今もご存命ですからねぇ」
「バケモンかっての……」
「弥平みつひらさま、一つ疑問が。何故当主なのでしょう。大戦時代を考慮するなら、``当主``ではなく``総帥``では」
「大戦終結後、人数が減り、今では彼一人だそうです。家をつなげるため、今も当主をやっているそうですよ」
「最後に水守家当主``凍刹``。私が名を連ねます。そして、``五大``の格上とされるのが、``四強``」
御玲が再び一人一人、暴名を復唱していく。
``四強``は暴閥界の頂点に最も近いと目されるルーキー達の総称。世代が変わり、現代の人類社会を牛耳る存在として期待されている者達である。
―――流川本家派当主``禍焔``
―――流川分家派当主``攬災``
「禍焔は澄男様、攬災が私なのは、各々把握していますね。さて、ここからが本題。次のお二人こそ、我々にとって重要な存在になります」
―――花筏家当主``終夜``
「あ。花筏は聞いたことあんぞ。母さんが言ってたわ。北方の巫女どもに喧嘩売るならマジ気をつけろって」
「喧嘩なんて絶対売らないで下さいよ。花筏を敵に回すと、流石の流川もかなりの深手を負うことになりかねませんから」
「そんなにか……」
「``南の流川、北の花筏``という呼称があるくらいには。正式名称``花筏巫女衆``。無系魔法を駆使した巧みな集団戦術を得意とし、独神なる御神体を崇拝している暴閥。流川以外で唯一、魔法を扱える暴閥でも有名な武力集団ですね」
「集団戦術かぁ……確かに敵に回すと面倒くさい相手だな」
「それだけじゃありませんよ。彼らは皆同じ顔、同じ体型、同じ服装をしていて、関係者以外では個人の判別が不可能と言われています」
「は……? 待って。なんとなく察したけど、超怖ぇぞそれ……」
「両親曰く、全員同じ姿の巫女がどこからともなく襲ってきて全力で殴り殺しにくる感じだそうで。幼少の頃より、``花筏の巫女だけは敵に回すな``は分家派の家訓となっております」
「あの常時アドレナリン分泌しまくってるバーサーカーだったババアが気をつけてたあたり、相当だぞ……。あんま関わらない方がいいかな……。……しかし、そんな有名なのに、当主の暴名は初耳だな……なんでだ」
「先代の当主がお亡くなりになって後、先代の愛娘が就いたそうなのですが、これまた大変な放浪癖がある方らしく……当主としての責務を、ほとんど果たしていらっしゃらないそうなのですよね」
「まさかのサボり常習犯……大変そうだな他の巫女」
弥平は苦笑いを浮かべた。
御玲が最後の一人を言おうとするが、弥平は右手を挙げ、大きく遮る。澄男と御玲は訝しげに彼を見つめた。
「``四強``の最後の一人ですが、この方こそ、今回私達が祝宴会を開く理由の根本となる当主です。すみません、御玲。では最後の方の暴名を」
―――裏鏡家当主``皙仙``
「コイツが……? さっきの花筏の方が重要な気がすっけど……」
「それがそうでもないのです。この裏鏡家という暴閥、大戦終結後に突然頭角を現わしたのですが、大戦が終結して三十年が経った現在……この暴閥について、何も分かっていないのですよ」
「お前らでもか?」
「はい。組織構造、当主の真名、経緯、歴史背景、領地。その全てが謎に包まれています。分かっているのは、当主と思われる存在の容姿と、どうやって頭角を現わしたかの経緯のみです」
「私も存在だけは聞いた事があります。あまりに素性が不明なので、一種の都市伝説になっていますよね。異界から来たとかなんとか、そんな噂も流れているくらい」
「どこに家があるのかも分からんとか、ガチの都市伝説というかもうホラーじゃん……で、容姿はどんななんだ?」
「鏡面加工されているかのような銀髪と、ブラックホールのような瞳が特徴。顔は中性的ですが、性別は男。というのが公式ですかね」
「そんだけ!? ……いや、でも結構特徴的か。鏡面張りの銀髪とか絶対二人も三人もいないし……。つか普通に気持ち悪いな……。絶対眼が痛くなるヤツじゃん」
「ははは……。頭角を現わした経緯は、数年前に隣国が骨頂品の一斉盗難被害に遭ったのが始まりで、武市の方でも、当主や武芸に長けた戦闘民が次々に襲撃を受ける事件が起こりました。それをきっかけに、``八番目の暴閥``の出現が囁かれ始めたわけです」
「それが裏鏡家か。ソイツは裏鏡って名乗ったのか」
「それは分かりません。噂では、鏡の裏の世界のような異界から突然やってきて、気がついたら狩られていた、という手口から……だった気がします」
「胡散臭いな。鏡の裏の世界って、ンなもんあるわけないのに」
「でも一部では、ターゲットと全く同じ容姿に化けた何者かに襲われた人もいるそうですよ。まるで、姿見で映した自分の鏡像のようだったとか」
「いや……魔法で化けてただけじゃ……。変身の魔法とかあるんだろ? 知らんけど」
「まあ、ありますね。でもほんとに神出鬼没らしくて、気がついたら背後にいる、気がついたら意識を失っていた。やり返そうにも、どこにいるのか分からない。そんな噂が蔓延して、異界に住まう化物というイメージが定着しているわけです」
「つまり、鏡の裏の世界とかいう絶対存在しない世界から来たんだ!! とでも言わないと説明できないぐらいヤベェ奴ってことか」
そうです、と弥平は返す。全員挙げ終えたところで、澄男は話題が次に移ると予想したが、弥平は何故か表情を翳らせる。
「因みに、私も被害に遭っているのですよね。その``皙仙``に」
二人は目を丸くした。
四強の一角が四強を襲う。それは流川に対する宣戦布告とも解釈できる行為。
何故それが浮き彫りになっていないのか、という疑問が浮き出たが、それはきっと弥平の性格故の事だろう。
弥平みつひらは``皙仙``に出会った経緯をつまびらかにしていく。
今から一年前、親から言い渡された巫市での実地訓練を終えた日の出来事。
円満に終わる予定だった潜入訓練が、最終日に限って滅茶苦茶にされ、命からがら逃げ遂せたこと。
襲った人物は背後が壁であるのにも関わらず、壁をすり抜けて王手をかけ、なおかつ``皙仙``と名乗ったこと。
「そして、彼はこう言いました。``俺は未曾有の強者を求めている。お前をその強者と目し、もう一度だけ述べてやろう。攬災、俺と戦え``と」
「喧嘩屋かよ……。傍迷惑なのはおいとくとして、マジでソイツそう言ったのか」
「首元を狙われていたので姿はみていませんが、声音、戦術、能力。その全てがあまりに印象的でしたので、今でもよく覚えております」
「で、結果は?」
「戦う理由がない上、情報も足りないので戦略的撤退を選択しました。あまりにしつこいので、分家邸を動かし、ようやく撒けた感じですね」
「ふーん……で、結論、お前はその``皙仙``って奴をどうしたいんだ?」
「``皙仙``は強者を求めている。強者を求め、世界を徘徊している。つまり、我々が追っている敵組織の情報を有しているやも、と私は踏んだわけです」
なるほど、と二人は頷く。
敵組織の情報を得る為の指針は、あくのだいまおうから先月聞き出した。だが確かに、確固たる情報が得られたわけではない。
情報を得る為にヴァルヴァリオンという地に赴け、と言われただけである。そしてそれが、本当にあるのかどうかも分からない。
普通に考えるなら、実在するかどうか分からない地に赴く前に一段落入れるべきである。もし存在しなかった場合のリスクを考慮するならば。
「澄男すみおさまの当主就任式を開催なされば、八暴閥を呼び寄せる正当な理由になりますし、強者が一斉に会する訳ですから、``皙仙``を誘き寄せる罠には最適ですね」
「全員来るかどうかは分かりませんが、敵対分子の精査、``皙仙``の誘導、大陸八暴閥から情報の収集。これらを一括で行えるので、一石三鳥の作戦です」
御玲の発言を、弥平が補足する。
流川家と同等の力を持つ大陸八暴閥から、敵対分子の精査。なおかつ、彼らを潤沢な情報収集源として利用する。
ヴァルヴァリオン等の御伽噺じみた情報に従う前に、それよりも妥当な線を調べてからでも遅くはない事を、弥平は提案していたのだ。
つまり、灯台で遠くを照らすのではなく、灯台の光が当たらない、入り口付近を順当に掘り起こすことが、今回の作戦の主眼。
灯台下暗しということわざがあるように、遠くばかり見ていると真下にある掘り出し物を見逃してしまう恐れがある。
実際、大陸八暴閥から情報を得られた場合、あくのだいまおうの証言より確証性も、信ぴょう性も高い情報が期待できる。実行しない理由が無い。
「文句なしの完璧な作戦じゃねぇか……! で、いつやる?」
「準備が完了次第、御通達致します」
そうか、と澄男は首を縦に降る。
会場の確保と設営は当然分家派が全て行うべきだ。
人員も分家側の人間の方が動かせやすく、人数も満足している。なにより本家に手間をかけるわけにはいかない。
エスパーダ戦以降、澄男すみおは本家邸裏手の道場で常に修行しているようであるし、御玲も広大な本家派の敷地を、ただ一人で管理している。
彼等に設営とかを任せるのは、酷というものだろう。
「数日程、時間を頂ければ早急に準備致しますが……」
澄男の顔色を伺うようにして、屈み込む。彼の仕草を、不思議な面差しで見つめた。
「実質、澄男様を囮に用いるような真似を致す事になるのですが……問題はありませんか。不快でしたらとりやめを……」
と、言いかけたところで澄男は手で台詞を遮る。
言いかけの台詞から、彼が言わんとする意志を察したのか、澄男は煙草を灰皿に押し付け、強く述べた。
「問題無い。ただの祝宴なら殴ってたが、作戦の一環なら危険は承知の上だからな」
弥平は少し頬を緩めると、話は以上です、と締めくくり、御玲達は部屋を後にしようとする。
御玲が台所の方へ行ったのを確認すると弥平は脳内で澄男を意識する。澄男に霊力を送るイメージで。
『お待ちを。内密に御話したい事がございます。自然な形で私の部屋に来て下さいませんか』
『……俺以外に聞かれたらマズイ話か』
『今、私室には魔法的な傍聴対策を幾重にも施しております』
自然と廊下に出て行くフリをしつつ、分かった、と述べ、トイレの方へ歩いていく。
弥平は普通に私室に入ると、しばらくして澄男が部屋に入ってきた。部屋のドアを静かに閉める。
「で。話って」
「分家邸の調査で新たに発見した情報がありまして。これは澄男様の御耳にも入れておくべき事かなと」
前振りで一息置き、澄男に今朝母親から通達された事を話す。
三月末に襲来してきた者達の装備が元は流川家の私物であった事。
その分析結果から、流川家に内通者がいる、という事―――。
「……糞が……!」
先程までの納得したという表情から一変。苦虫を噛み締め、眉間に強く皺が寄る。
弥平は澄男の機嫌を伺いつつ、分析結果の詳細を伝える。
調査の結果、彼らの使っていた甲型霊学迷彩は、流川るせん家に使用されたモデルの中で、最も古いバージョンである事が判明した。
甲型霊学迷彩の発明は、先代流川るせん家の次男であり、澄男すみお達から見て叔父の、本家派の元技工士流川久々によって齎された恩恵である。
今から三十年以上前、竜暦一八〇〇年代の終盤。
当時流川本家領で研究開発を行っていた久々は、武力統一大戦に勝ち抜くため、探知系魔術を素通りできる装備を開発し、実戦導入を推し進めた。
当時、霊学迷彩の弱点は探知系魔術であるのが通説であったため、甲型霊学迷彩の登場は、他の暴閥勢力に対して阿鼻叫喚の絵図を描かせた。
しかしそれでも久々はアップグレードを重ね、大戦時代が終幕しても、甲型霊学迷彩の透過性能向上に努めていた。
そして、武力統一大戦時代から三十年が経った現代。
流川分家邸が使用している甲型霊学迷彩の規格は、久々がアップグレードを繰り返した末の最終形を用いている。
対して、敵組織の組員が装備していた甲型霊学迷彩は比較的初期型に近い代物であった。
経年劣化が顕著に現れており、現存量産されている最新型と比べ、視認度は高いものになっている。
「分家側に最新型以外の霊学迷彩は現存しておりません。戦時、古い型の霊学迷彩は澄会すみえ様に随時譲渡されていったためです」
「つまり、古くなった奴は全部こっちにあったって事か」
「厳密には澄会様の直属部隊``水守守備隊``が常用していたという記録が残っています」
澄男は深く溜息を吐く。
水守守備隊とは、武力統一大戦時代に流川本家派の影として、先祖代々流川本家派当主を守ってきた直属精鋭部隊である。
特筆する点は、部隊全員が水守家関係者で構成され、代々水守家の当主が部隊の将を務めるという取り決めがあった事である。
先代当主流川澄会の代も同じく、先代水守すもり家当主水守璃厳が将を務めていた。
大戦が終幕して後、長きに渡る戦いの責務を終えたため部隊は廃止されたが、彼らが常用していた甲型霊学迷彩は、流川本家派が保管・管理していることになっている。
「でも、実際そうじゃなかったと」
「可能性自体は極めて高いですね。澄男様も、この家で霊学迷彩は見た事がないのでしょう?」
「無いな。あの脳味噌全て筋肉のババアが、そんな姑息なモン使うと思えねぇし、正直普通にゴミ箱に捨ててそうなイメージある」
「旧型とはいえ、れっきとした軍用装備なので、流石にそれはないと思われますが……澄会様ならば不要と断じ、他の流川本家派関係者もしくは水守すもり家に譲渡した線は大いに考えられます」
「あー……だから御玲にバレねぇようにここに来いって言ったのか」
流川澄会の関係者で候補に挙がるのが、まず流川分家派と分家派側近の白鳥家、本家派側近の水守家の三種類。
分家派と側近白鳥家は、譲渡する側であるので除外するとして、残るは水守家のみとなる。
尤も澄会と距離が近しい存在と言えば水守家であり、霊学迷彩を与えていたとするなら、水守家である可能性が非常に高い。
つまり内通者の元手は水守家であり、もしそうなら水守家が流川家に敵対している事を意味している。
武市において、味方だと思っていた暴閥が、気がつくと敵に寝返っていたという事は、よくある事である。
それは流川家や水守家のような大暴閥ぼうばつといえど、例外ではない。
「となると……アイツも怪しくなってくるな」
澄男の顔が一層険しくなる。弥平は神経を逆撫でしないよう、慎重な声音で問いかけた。
「水守守備隊の関係者……でございますか」
「ああ。俺の親父……流川佳霖だ」
弥平の表情が一層暗くなる返答であった。
流川佳霖。流川家出身の者で、彼の名を知らない者はいない。
大戦時代、水守家の推薦で流川家に編入してきた、いわばあくのだいまおう達と同じ余所者。
璃厳に実力を見初められ、大戦時代は彼の副官を務めていた。
戦後は澄会と結納し、二児の父となった存在として、流川家内では名が知れた存在である。
二児とは澄男と久三男の事であり、彼らの実父なのだから。
「澄男様の父上様は戦後、何をしていらっしゃった方なのです?」
「さあ。親父は半年に一回無いかぐらいしかこっちに居なかったからな。母さんが死んだときも音沙汰無かったし、どこで何してんだか」
「ほとんど本家邸にはいらっしゃらなかった訳ですか……」
「そうだよ、何か悪いか」
黒い眼光で睨みつけてくる澄男にい、いえ滅相もありません、と忙しなく首を横に振る。
「正直俺や久三男が小さい頃から、自分の事は何一つ話してくれねぇ奴だった。聞いてもはぐらかされるし、ぶっちゃけあんまり好きじゃなかったな」
「そんなに……。水守家にいらっしゃるとか……?」
「しらねぇよ。そもそも御玲の実家自体どこにあんだよ」
なるほど、と話が進む度に空気が淀んでいくのを感じ、話を打ち切る。
澄男が父親の事をほとんど知らないのは予想外であった。
確かに母君である澄会が死んだというのに、父親の姿が全く無かった事にはかなりの不思議な感覚ではある。
しかし本家派の人間程となると、忙しくて姿が現わせないだけかと、そう思っていた。
「ここまでの話を総括しますと、内通者の目星は水守家と、守備隊関係者だった……」
「いや別に良いよ気ぃ使わなくても。どうでもいいしそんな奴……」
「……佳霖様になります。ここで、私が考えている仮説があるのですが」
「どんな」
「擬巖家が敵組織である、という仮説です」
澄男は唐突に怪訝な顔を浮かべた。
この仮説は、当初、凪上家に潜入しようと画策したときに構成した仮説だ。
仮説を支える前提が、根も葉もない噂という信憑性に欠ける弱点のある―――。
「こういう想像はできませんか。内通者は彼ら、擬巖家が我々に敵意を抱いている。水守家が擬巖家に内通しているとしたら?」
「十寺じてらは擬巖の関係者でも筋は通るし、ありえる線ではあるワケか。でも擬巖が敵意を抱いてるかどうかの根拠ってあんの?」
お前の事だろうから絶対なんかあって言ってんだろうけど、と弥平の顔を覗く。作り笑い地味た表情で、爽快に唇をつりあげた。
「それを確かめるのも、この祝宴会作戦の隠された目的の一つですよ」
揚々と指を立てて締め括る。
分家邸調べで流川家関係者や親族の中に内通者がいるのは、もはや自明。
しかし次なる問題は、内通先はどこか、である。
ヴァルヴァリオン等の伝説を敢えて度外視して身近に考えるならば、敵意をもっていると目される擬巖家が候補に挙がる。
流川家は八暴閥の中でもトップの強大な一勢力。
相手取るには少なくとも八暴閥の中のうちの一つでなければ、まず勝ち目が無い。
敵は沢山いるであろう、しかし流川るせん家との相対的な強さを考えれば、八暴閥以外の暴閥は選択肢に入らない。
もし八暴閥の中に敵組織がいるなら、密偵を送り込んでくるはずであるし、逆に堂々と敵の首魁がいる可能性も少なくない。
コソコソするから怪しまれる、ならば逆に堂々としていれば、他人の警戒心が煽られる事はほとんどない。
今宵の祝宴会は、白鳥家を除く全ての暴閥が敵だ。
まずは裏鏡家当主の``皙仙``の発見だが、御玲には内密に暴閥関係者のあらいだし。
他暴閥から情報収集を並行して行うというビッグスケジュールである。
「マジで灯台下暗しな部分に無理矢理光を当てて掘り起こす作戦だな……御玲も疑わなきゃならねぇなんて……はぁ……」
「心配は無用です。仮に水守家が裏切っていたとしても、分家派と白鳥家は常に貴方の味方ですから」
胸に手を当て力強く表明するものの、澄男の表情は暗いまま首を横に振りつつ、項垂れながら溜息を吐くだけであった。
自分以外は全て裏切者の可能性があるという話をしているのだ。
流石に大きな不信感を持たれるのはまずいが、流川に仇為す敵を炙り出し殲滅するためにも、彼に寄り添い続ける必要がある。
いくら個々が有能とはいえ、必要最低限度の信頼が無ければ、ただの烏合の衆に他ならない。
澄男が信用していない人間の話をあえて聞いているのも、彼なりに信用できる人間を探しているのだろう。
心の底を気兼ねなく打ち明けられる相手を。
本来ならば母親や父親が相手になってくれるはずだ。自分だって、悩んだときや行き詰ったときは、両親に相談して解決してきた。
しかし、彼の側には誰もいない。
母親と友人は死に、父親は行方不明。唯一の家族である弟とも絶縁状態。彼は今、いつ終わるかも知れない真の孤独に苛まれている。
だからこそ、流川本家派に必要なのは信頼関係だ。三人とも、あまりに互いの信頼関係が無さすぎる。
三月十六日に起こった出来事を鑑みれば致し方ない状況ではあるが、いつまでも平行線になっていては、物事は好転しない。
三人が全く一歩を踏み出そうとしない今踏み出すべきが誰か、語るべくもないだろう。
「澄男様。では設営準備にとりかかりますので、しばらく留守に致します。修行の程が実る事を切に願っております」
「ああ……うん」
「……」
「……」
「……もし私に時間の空きがあれば、修行の相手を」
「いや。いい……。お前はお前のやるべきをやれ……」
畏まりましたと述べつつ静かに一礼。澄男は返事をする事なく、部屋を後にした。
気付けば、時間は午前十一時になろうとしていた。そろそろ修行しに行く時間である。
弥平は前髪を掻き揚げつつ、憔悴した澄男を案じながらも、懐から技能球を取り出し、分家邸の私室を頭に思い浮かべる。
今の状況で次にできる事を、思索するのだった。
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