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防衛西支部編
西支部正門前 ~澄男・百代サイド~
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静かだ。俺たちが西支部正門前に待機して十数分くらいが経っただろうか。
正門防衛を任されたのは俺を含めて四人と五匹。西支部の巨人女、澄連トリオとミキティウス、ポンチョ女と百足野郎、そしてこの場において最大戦力である花筏百代だ。
巨人女はクソ暇そうにしていたから、てっきり西支部監督官がいないことをいいことに喧嘩ふっかけてくるかと身構えていたものの、辺りを流れる不気味なまでに静かな雰囲気を感じられないほど、空気が読めないわけじゃないらしい。俺たちには、騒ぐ気の起こらない緊張感に縛られていた。
最悪の治安を誇ると評判の中威区西部都市。治安が悪いならガラの悪い雑魚の一人や二人、街中を馬鹿みたいに闊歩してウザ絡みしてきてもおかしくないはずだが、その雑魚すら姿を現さない。というか、人の気配が全くしないのだ。まるで都市から人という人が消え失せ、西部都市が本当の意味でゴーストタウンと化したかのように。
「昨日の今日だが……東支部ンときの任務を思い出すな」
誰に向かって言ったわけでもないが、一人でにぽつりと呟く。
武市の連中は聡い。ルールも何もない、力こそがモノを言うこの世界で、ノロマな奴からクソ間抜けに死んでいくのは火を見るより明らかなことだが、それは中威区東部の連中のみならず、西部の連中にも言えることのようだった。むしろ東にいたときよりも、西の連中は気配を絶つのが上手そうに思える。
気配を殺し、息を殺し、迫りくる脅威から逃れる。無駄な戦いはしない。度重なる紛争を乗り越えてきた、西の生き残る知恵ってやつだろう。
「では、役割を決めるとしようぞ」
腰に手を当てた百代が、俺たちの前に仁王立つ。
そういえば百代は金髪野郎直々に俺らの指揮を取るように言われたんだったか。正直誰かの下につくなんざ御免被りたいのだが、相手が百代となると納得している自分がいるのも事実。
少なくとも、百代以外の奴らの下につけって言われた方が胸糞だった。
「わっちはそなたらの音頭をとらねばならぬから決しておるとして、遊撃は澄男、そこなぬいぐるみでよいか?」
特にないと返事をする。カエルたちも了承の意を示した。
俺や澄連が後方とかありえないので、この采配は妥当だ。俺の灼熱砲弾による広範囲攻撃や、澄連の二頭身形態による攪乱は、なにより遊撃に向いている。敵の目標を定めず、とりあえず敵軍そのものをブチのめすだけでいいので、頭を使わずに済むからだ。
「おいおい寝ぼけてんじゃねーぞコスプレ野郎。なんで俺が前衛じゃねーんだよアホなんかオメー?」
うるっせぇのがなんか知らんけど駄弁り出した。
金髪野郎と百足野郎に自分から喧嘩売っといてクソ間抜けにも負けた奴が前衛やりたいとかテメェこそ寝言かよって話である。偉そうな口叩くなら、自分が売った喧嘩にきっちり勝ってから言ってほしい。
「そなたも前衛で戦ってもらうぞ、ただわっちの監視下で、じゃがの」
「はぁ!? 意味わかんねー、なんでオメーの眼がねーとダメなんだよ!」
「でなければ勝手な真似をするじゃろうて。わっちが認める範囲内であれば、好きにするがよい」
「ざけんじゃねーぞぺーぺーのチビが!! どちらにせよ俺様は前衛しかできねーんだ、邪魔したらオメーごと潰すからな!!」
「うむ。好きにせい」
巨人女の巨体から放たれる物理的な圧に気おされる様子は微塵もない。百代のそっけない態度に更なる怒りを燃やし、でけぇ図体に物を言わせて地団太を踏む巨人女は、そっぽを向いて拗ねてしまった。
百代はサクッと視線を切り替え、ポンチョ女と百足野郎のコンビに向き直る。
「そなたらは後衛で支援を願いたい。できるか?」
「むーちゃんむけーもつかえっし、らくしょー」
「おいおい、百足野郎こそ前衛だろ。なんでそんなサポート役なんだよ」
割って入るつもりなんざ毛頭なかったのだが、聞き捨てならないことが耳に入ってしまったので思わず口に出してしまった。
そこにいるだけで特に何もできないポンチョ女はともかく、前衛戦力として超絶有用な百足野郎をただのサポート役でとどめてしまうのは些か気に入らないというか、違うそうじゃない感が凄まじいというか。
コイツを敵軍のど真ん中に突っ込ませて敵陣をぐちゃぐちゃにかき回した方が、前衛遊撃部隊の俺と澄連トリオがやりやすくなる上に一々雑魚をぶん殴る手間もいくらか省けるしで、尚更前に出張ってもらうのが適役だ。
「それでは前衛が過剰戦力じゃろう。全員を前に配置してしまうと回復・強化等を行う輩がいなくなってしまうし、有事に備えられぬ」
「あー……まあ、そうだけどよ……別にそこまできっちりする必要なくないか? 相手はただの全能度五百の集団だぜ……」
「それは慢心というものぞ。確かにわっちらからすれば数をいくら揃えたとて物の数に入らぬが、万が一わっちらの想定を上回る事態がおきるとも限らぬ。油断するべきではあるまいよ」
そこまで言われると、我を押し通して失敗したときがクソ間抜けになるので、ぐうの音も出なくなる。
個人的には百足野郎に攻撃指示を出すだけで俺らが出るまでもなくすべてが終わるし、ここにいる奴らのほとんどが人外だしで、相手が全能度五百の集団といえど過剰戦力である。
だがソイツらを指揮するリーダーの実力は、依然として不明だ。
攻める側だって余程情報収集する気のない無能な指揮官でもない限り、こっちが戦力を集中させているのを知っているはず。東支部のことだって昨日の今日だ。真正面から馬鹿正直に、なんて流石に安直すぎる話でもある。東支部のときだって、確実に東支部を落とすために伏兵が潜んでいたくらいだし。
「まあ、こんなもんじゃろ。後は状況を見つつ、適宜変更していけばよかろうて」
懐から塩握りを取り出し、無邪気な笑顔でパクリと頬張る。
「ふ? ふぉ、ふぃふぁお」
突然、百代が北の方角を指差す。食べるか指さすかどっちかにしろと言いたくなったが、とりあえず全員が指さした方向に視線を投げる。人の姿はおろか、生き物の姿一匹も見えない殺風景な景色に、ほとんどが首をかしげた。
「あ? デタラメ言ってんなよコスプレ野郎。なんもいねーじゃねーか」
巨人女は殺気すら込めているんじゃないかと思うくらい鋭い眼光で睨みつける。百代は案の定、意に介した様子はないが、俺から見ても何が迫っているのか皆目分からないでいた。
見渡す限りゴミが散乱し、舗装された幅広い道路に明らか鉄屑へ成り果てた廃車が何台かあるのみで、人の気配は一切感じられない。俺は探知とか苦手な方だし、精々殺気とかに聡い程度だからなんともいえないが、百代が言っているなら的外れじゃない気はする。
「コイツがいってんのはまちがいじゃねー。むーちゃんもおなじこといってる」
意外や意外、だんまりを決め込んでいたポンチョ女が援護射撃してくる。
ポンチョ女自体に探知はできていないんだろうが、おそらくは百足野郎の探知能力によるものだろう。百足野郎は百代ほどじゃないだろうが能力は高い。タイマンだと侮れないと思える程度には強いのだ。この中で最大戦力並の奴らが全員口揃えて同じことを言っているのなら、情報としての信用度は跳ね上がる。
「あー……? たくよぉ、どいつもこいつもわけわかんねーぜ」
全員が納得しかけたってのに、空気の読めねぇ木偶が一人。当の本人に気づかれないよう、小さめに舌打ちする。
脳味噌の九割が筋肉でできている自負がある俺でも、今の状況は百代と百足野郎の話に乗るべきって分かるのに、それが分からんとなるといくらなんでも察しが悪すぎるんじゃなかろうか。どれだけ自分の力に自信があるのだろう。ある程度のプライドがある俺でも得手不得手ぐらいは把握しているのだが。
「否、まもなく来る」
口に含んでいた塩握りを飲み込み、百代がまた同じ方向を指さしたそのとき。その方向から、薄らだが人集りのようなものが見えてくる。俺の視力でもってギリギリ黒い点々が見えるレベルだが、魔生物じゃないのはなんとなく分かる。
アレは人だ。それもただの人集りじゃなく、かなりの力を持った奴ら。基本的に全能度の測定なんざしない俺がなんとなしにやってみると、先頭を走る奴の全能度は五百前後、それ以外も似たり寄ったりの数値で、そんなのが軽く六十ぐらいはいるだろうか。支部勤めの連中をブチ殺すには、あまりに大袈裟な戦力なのは明らかだ。
「な、なんじゃこりゃ!? オイオイオイ、本部レベルの奴らが軍隊率いて攻めてきやがったぜ!! こんなことあんのかよ!?」
図体がデカいだけに声もデカい。るせぇな木偶がと思いつつも、巨人女に視線を投げる。台詞の割に顔は紅潮していた。
「はしゃいでんじゃねーよ、めんどくせーな」
予想は的中。台詞の中身の割に焦りがまるで感じ取れなかったからもしやとは思ったが、あの巨人女、はしゃいでやがる。いや確かに俺らからしたら``そこそこ歯応えのある雑魚``の群体でしかないけども。
さてそれじゃブチのめしにいくかと指の関節を打ち鳴らしていると、突然体が七色に光りだす。
辺りを見渡すと俺だけじゃなく、澄連や巨人女も俺と同じく体が七色に光りだしていた。
「むーちゃんがしえんまほーつかった。あるていどにくたいのーりょくつよくなってるはず」
確かに心なしか体の奥底から活力がみなぎってくるような感じがする。今まで肉体強化なんざしてもらったことがないし、気合を込めれば力も自然と出てくるもんだったから支援なんざ必要ないと思っていた。
これならあんまり高出力の火の弾ブチ投げなくてもいいかもしれない。ちょっとしたチョロ火程度でも大ダメージを与えられそうだ。
「ハッハァ!! まさかシャバの空気吸ったばっかでこんなでけぇヤマに出会えるたぁツイてるぜ!! 豚箱生活のせいで運動不足だったんだ!! 全員まとめて俺様がブチのめす!!」
「こ、これ!」
支援魔法でテンション上がっちまったのか、百代の制止などガン無視し、一人持ち場を離れて群体に突っ込む巨人女。あまりの突拍子のない行動に全員呆気にとられてしまう。
普通の家と大して変わらない図体で六十人規模の群体に突っ込むなんぞ恰好の的にしかならないのに、一体何を考えてやがるのか。
「お前らは一応ポンチョ女の所で待機しておけ。用があれば呼ぶから、そのときは来いよ」
「「「アイアイサー!!」」」
「フッ、分かってます。パンツに誓って必ず!」
澄連も連れていくと流石に乱戦になって誤射る可能性が出てくるため、ポンチョ女周辺で待機だ。盾役を任せる手もあるが、そこまでの強敵じゃないだろう。
しかし元気のいい返事で清々しい。約一名、パンツを頭からかぶってやがるロン毛だけは意味が分からなかったが、おそらく分かったって認識でいいだろう。
さて本部クラスの肉体能力を持つ集団の力はどんなもんじゃろな、と。
一人勝手に昂って軍団に突っ込んでいった巨人女と、ソイツを追いかけていった百代の後を追い、俺も戦線に参加する。
やはり任務請負機関本部クラスの肉体能力を持っているだけあって、統率は取れていた。東支部防衛戦のときにカチ合った十三万のクソザコどもと違って、全員が戦術を意識した配置になっている。
前衛は太刀やハンマー、片手剣や双剣といった近接武器を持ち、その前衛どもを支援する魔導師が後衛におり、ここぞというタイミングでチクチク邪魔してくる。
魔法の威力ははっきりいってゴミだが、攻撃系魔法の属性は千差万別だ。魔導師の数もそれなりにいるせいで、実質全ての属性魔法を網羅している。
俺にとって火属性魔法は脅威になりえないが、ときどき飛んでくる水と氷属性の魔法が邪魔くさい。水も存外嫌いだが、特に嫌なのが氷だ。寒いのが大嫌いな俺にとって氷属性魔法は浴びると力が抜けてしまうから、攻撃が鈍ってリズムが崩れるのである。
まあ、そういう奴には他の二倍くらいの威力の火の弾を顔面にぶつけて始末しているわけだが。
早速戦いに慣れたので、戦場を俯瞰してみる。やはり一発で目に入ったのは、最前線で暴れ回る巨人女。その様は、まさに暴虐の巨神に相応しい暴れっぷりだ。
今回攻めてきている敵の群体は一人一人が全能度五百。言ってしまえば、一人一人が一軍をも凌ぐ力を持った連中だ。少なくとも東支部で戦ったギャング連中なんぞ比較にならないと言ってもいい。
だがそれでも、それだけの強さを持った奴らがギャング連中と戦ったときとあまり強さの体感が変わらないのは、俺個人との実力差もあるだろうが、やはり目の前にそれ以上の暴力が荒れ狂っているのが第一原因だろう。
魔法を放とうと魔法陣を展開するよりも速く、拳を振り上げるだけで軽く最前列にいた奴らはなすすべなく吹っ飛んでいく。その吹き飛び方は異様で、まるで散弾のように四方へお手玉の如く宙を舞いながら吹き飛ぶのだ。
普通なら弧を描くように吹き飛ぶはずなのに、物理法則を無視しているとしか思えない吹き飛び方をしているのがすごく気になったが、なんにせよ吹き飛んだ連中はもれなく腕や足があらぬ方向へ折れ曲がり、軒並み痙攣して動かなくなってしまう。もはや戦う余力はないと見て間違いない。
ただ馬鹿みたく突っ込んでいったから死ににいったものとばかり思っていたが、やはり巨人らしくパワーに偽りはなかったらしい。だが、俺たちと連携せず勝手に突っ走ったのは事実である。
遊撃をしてくれていると思えば聞こえはいいが、さっきから四方八方に人を吹っ飛ばしやがるので、氷属性魔法ほどじゃないにせよ邪魔に思えてきたのは否定できない。
「ばかったれめ! 勝手な真似をするでないわ! 力加減もできておらんし、大怪我負わせて如何とする!」
「ああん!? テメー馬鹿か? 敵なんだから怪我の一つや二つで負わせるぐれーマシな方だろーが!! つーかぶっ殺してねーだけでもありがたく思えって話よ!!」
「問答無用! 成敗!」
「は!? おま、なにすぐはぁ!?」
百代が巨人女の脳天を瓦割りの要領で小突く。とはいえ小突いたにしてはその威力は高く、質量を無視するように踏み潰された蛙みたく地面に叩きつけられる。
舗装された道路に蜘蛛の糸が張り巡るが、間髪入れず巨人女のクソでけぇ足の隅を掴み、こっちまで引きずってくる姿からは、華奢な身体に似合わない膂力を感じさせた。
「ふぅ……まったく、加減の知らん奴じゃ。この程度の者たち、峰打ちで十分じゃというのに」
暢気に言っているが、その絵面は小さい女の子が自分の身長をはるかに上回るデカい肉の塊を引き摺るという、なんとも現実離れを地でいく絵面だ。
甘いことを宣うだけに、俺が不満を漏らす隙もなく秒で解決してしまった。これには流石に粗探ししようがない。潔く首を縦に振った方が、こっちが無様を晒すことになるだろう。
「さて背後がくる奴らは空結界で一旦足を止め……!?」
百代が気絶した巨人女を引き摺る間、ようやく事態を飲み込んだであろう敵群体が、一斉に魔法陣を展開し始め、それ以外の奴らは千差万別の武器を手に取り、百代と巨人女へ殴りかかろうとするが、百代は、俺は、群体の隙間を縫うようにして現れたソレを、決して見逃さなかった。
「ぐは……!?」
胸から腹にかけ、冷たい何かが走りだす。命が抜け落ちる感覚とともに、着ていたTシャツが赤色に染まり、肌にぴっちりと纏わりつく不快感でようやく現実を認識する。
目の前に現れたのは、薄汚い灰色のローブを着た何か。フードを深く被り、右手には白く輝くナイフが握られていた。俺の血がべっとりとついてなお、その輝きを失わない白さは、一瞬宝石にでも抉られたのかと錯覚するほどだ。
ここまでの流れ、体感だがおそらく二秒も経っていないだろう。この俺の察知能力を見事に掻い潜り、完全な不意打ちをしかけてきた謎のフード野郎を暴くべく、手を伸ばす。
「なっ……!?」
瞬き一つ許さぬ刹那の時の中で、拙い理解能力がついに限界を迎えた。
瞬きすらできないほどの一瞬、一体全体何が起きたのか。突然目の前に謎のフード野郎が現れて、防御する暇もないまま胸から下腹部まで切り裂かれ、そしてトドメと言わんばかりに右横腹を真っ二つに裂かれ。その程度で死ぬわけもない俺だが、二秒はなくとも一秒あれば相手に触れることぐらいはできると、深々と被ったそのフードに手を伸ばす。
しかし、結果はスカ。
フードに手が触れる、その寸前のところでフード野郎の姿は掻き消えた。まるでどこかへ飛び去ったかのように。
「ど、どういうことだ!? 一体どこへ……!?」
全身の毛穴という毛穴から、一瞬にして脂汗が際限なく滲み出る。
周りを仕切に見渡すが、内心無駄だとすぐに思った。正直否定したい。そんなことはあるはずがない、絶対にありえない、と。だがアレは、目の前で起きたあの現象は、馬鹿でアホな俺が思いつく限りで、説明できるものはただ一つしかない。
「クソが……!! なんで……!! なんで転移魔法が使える!!」
思わずその知っているただ一つのことを口に出した。
謎のフード野郎が使ったのは、間違いなく転移魔法。自分が思い浮かべた場所へなら、どこからでも一瞬で移動することができる究極の移動魔法だ。使える奴なんて俺ら流川をおいて他にいないはずなのに。
「そなた、そなたッ」
肩をぶっ叩かれ、思考の渦から引き摺り出される。本来なら痛くてキレるところだが、予想外にも程があることが起きたせいか、怒りが湧いてくる余裕すらない。
「わっちは支部へ戻る! そなたは奴らの相手を頼む」
「……なんで」
「先ほどそなたの不意を打ったあの者、今は支部の中にいる」
「なんだと!?」
なんで居場所がわかるんだとか、至極当たり前のことが頭の中に湧いて出たが、それを一瞬で上回るものが、脳内を埋め尽くした。
整ったメイド服を飽きもせず毎日着ては、身の丈に合わない槍を携え、サファイアを彷彿とさせる青い髪と青い瞳を持つクールでストイックな俺の仲間―――水守御玲。俺の仲間で唯一、人の枠組みから外れていない、人の限界を極めたメイドが頭に浮かんだのだ。胸底から一気に何かが噴き出した。
「待て!! わっちが行く!!」
「離せ!! 殺すぞッ!!」
百代が俺の両脇から素早く腕を通し、羽交い絞めにしてくる。
流石というべきか、一連の動作が速すぎる。静かに流れる水流の如く、俺の察知能力を児戯と言わんばかりの所作だ。そして振り解こうにもビクともしない。容赦なく全力を振り絞るが、まるで巨大な木の幹に挟まれたかのように、身を捩ることすら許してくれない。
だが、それでも、だ。ひくわけにはいかない。
仲間は死んでも守り切る、それが俺の絶対ルール。木萩澪華という``帰らぬ仲間``を二度と作らぬため、己自身に打ち立てた誓約。その約定に逆らうことは何があっても絶対ない。たとえこの場全てを破壊し尽くし殺し尽くすことになろうとも、絶対に。
「落ち着け、そして思い出せ。あの者の技量、そなたが行って倒せるとて、新たな血を流す好機を与えるのみぞ」
「な……にィ……!」
耳元でなだめるような優しい声音が鼓膜を揺らす。その程度で落ち着けるわけもないのだが、謎のフード野郎と相対した、刹那の時が脳裏をよぎる。
確かに、アレは強い。正直一瞬とはいえ間合に入られたことを悟れなかった上、不意打ちを二回も受けてしまった。そして反撃する暇もなく転移魔法で撤退。粗探ししようにも、その余地が欠片も見当たらない無駄のなさは、まさに芸術の域だ。
最近戦う相手が雑魚ばかりで鈍っていたのもあるだろう。クソ親父やクソ寺、そして裏鏡以来、強敵という強敵と戦う機会がなかっただけに、久方ぶりに``強い``と純粋に思える相手に出くわしてしまった。
正直、いくら致命傷を受けたところで死にはしない。たとえ頭を吹っ飛ばされようと、身体を粉微塵にされようと俺を殺すことは不可能だ。さっきは不意を突かれたが、倒そうと思えば倒せない相手じゃないだろう。直感だが、強いと感じこそすれ圧倒的とは感じなかった。
だが、あの手の輩は厄介だ。ただのパワー押しだったなら話は早かったが、無駄も迷いも一切ない輩は、自分の目的を果たすためなら、いかなる手段も躊躇いなく実行する。それだけ付け入る隙がなく、逆にいえばこちらの隙をいくらでも利用してくる相手と言い換えられるのだ。
不甲斐ない話だが、俺はパワーに自信こそあれ隙を失くすことには自信がない。生じた隙は、有り余るパワーと霊力で無理矢理埋めているにすぎないからだ。
正直、単純に敵を倒す破壊力なら自信はあるが、誰かを守りながら戦うとなると難しい。御玲だけは巻き込まないように神経を尖らすにせよ、煉旺焔星を直撃させられなかったとしたら、謎のフード野郎はどういう行動をとるだろうか。敵が広範囲を焼き尽くす攻撃をしてくる。周りは火で焼かれ、室内は業火と煙と埃で視野が狭くなる。相手だって馬鹿じゃない、転移魔法で俺の反撃を許さなかった奴だ、俺と真っ向勝負は絶対しようとしないだろう。だとすると奴が取りうる手段は―――。
「チッ……!!」
その先は考えるまでもない。分かりきったことだ。悔しいし、すんなりと認めたくはないが、俺と百代なら実力は百代の方が遥かに上。戦わずとも霊圧の質でその強さは直感で大方測れるというもの。流石に本気になったらどこまでなのかわからないが、なんにせよ本気じゃない時点で俺の直感が格上と認知しているのだから、実力が未知数なのは確定だ。
となると単純にパワー押ししか芸のない俺が行くよりも色々融通が効き、実力も申し分ない百代が行った方が、結果的に御玲の生存率は大幅に上がる。不甲斐ない思いだが、それで御玲の生存率が少しでも上がるなら、プライドなんぞいくらでも捨ててやる。
脱力し、反抗の意志はもうないことを伝える。言葉にせずとも全身から力の奔流が鳴りを潜めたことを悟ったのだろう、同時に百代が拘束を解いてくれる。
「ただ、一つだけ言わせろ」
ビルに戻ろうとした百代の肩を掴む。百代はきょとんとした顔で少し首を傾げるが、構うことなく言葉を続けた。
「御玲に傷一つつけるな。テメェは俺より強ぇんだ、それだけのことをやってみせろ」
これが、今の俺が提示する最大限の譲歩。
百代は俺より強い。そして俺には到底できない真似を平然とやってのけられる。素直に認めるなんざ男として、流川本家の家長としてクソッタレな気分にならんでもないが、それだけ強いのなら、無茶な条件の一つや二つ増やしたところでどうということはないだろう。
それが無理ならただ力が強いだけの木偶、俺と大して変わらんだけの奴だったってだけの話だ。
「なんじゃ、そんなことか」
男として家長としての全てを賭けている俺とは裏腹に、百代の表情はとても軽く、清々しく、穢れや淀みの一つも感じない。清廉潔白な微笑みで、俺の前に仁王立つ。
「御玲だけとは言わず、全員無傷で守りきってみせようぞ!」
これは流石に呆気にとられてしまった。何を言い出すかと思えば、俺以上の無茶振りを自らに課したのだ。
これが百代でなかったら、なにアホぬかしてんだ舐めんじゃねぇやっぱ俺が行くと顔面に一発入れて誰が何と言おうと御玲のもとへ走っていくところだが、百代が言うと普通にやってのけてしまうんじゃないかと、そう感じてしまう。
なんたって百代の表情からは、無理を言っているようには思えず、いつも通り朗らかな、余裕しかない笑顔を浮かべている。それが作り笑いとも思えないのだから、凄まじいことだ。百代にとって、あの手練れ相手に全員無傷で守りきること自体、本当に大したことじゃあないのだろう。
ではのー、と暢気に手を振って支部ビル内に消えていく百代を呆然と見送り、思わず頭を掻きながらため息をついてしまう。
「ったく、なんて野郎だ……」
俺は日頃から無茶振りを誰かに課す自覚は、昔からあった。その無茶振りを何食わぬ顔でこなす奴など、今まで弥平か久三男ぐらいなもんだったが、まさか自分の無茶振りを平然と受け入れた上で、それ以上の無茶を自ら課すような輩がいるとは思わなかった。百代じゃなけれりゃただの無謀なアホと罵り、その場で殺していただろうが、やはり格上は考えている内容の次元が違う。男としても、仲間を守る誓約を己に立てている身としても、その次元に一刻も早く辿り着きたい思いで一杯だ。
「御玲は百代に任せて大丈夫そうだな……百代はああ言ってたが、御玲さえ無事なら俺からは文句ねぇし、とりあえず放っておこう」
そのとき一瞬、金髪野郎の清々しくも悪どい笑顔が脳裏をよぎる。
なんだかんだ行動することが多いせいか、少し情が移ってしまっただろうか。仲間以外の奴に思うことなんてこれっぽっちもないはずだが、正直な本音を心の内のみでこぼすなら、金髪野郎は瀕死でもいいから可能なら生きていてほしい。
アイツの存在は、俺が本部に出世する上で必要な存在だ。いなくなると機関則とかいうクソ面倒なものを一々意識しなきゃならなくなって必ず俺の成すべきことの障害になる。そうならないためにも、肉壁として奴の存在は利用価値があるというものだ。
改めて含み笑いをこぼす。やはり情が移ったわけじゃないようだ。俺にとっての真の味方は、復讐をともに乗り越えた奴らのみ。それ以外はあくまで知り合い以上の他人か、ただの他人かのどちらかなのだ。
「おい、おまえ」
さっきまで傍観していたポンチョ女が百足野郎の身体の隙間から、目だけを覗かせて俺を睨んでくる。さっきまでの綻ばせた顔色を一変させ、俺も負けじと険しい顔で応戦する。
「おれもビルんなかであのフードのやつとたたかう。オメーとギガレックスとキモいぬいぐるみどもはあそこでたちおーじょーしてるザコどもをブチのめしてろ」
ポンチョ女は顎で視線を誘導すると、そこにはいつのまに張られたのか、ぱっと見ガラス製に見える箱の中に、例の全能度五百くらいの群体がすっぽり閉じ込められて身動き取れない状況になっていた。
内側から魔法や魔術、あらゆる武器でカチ割ろうとしているが、箱があまりにも堅すぎるせいで、ヒビすら入る気配がない。紛れもなく強力な霊力由来のバリアで、袋のネズミとなっていた。さっきから全然気配も何もしないと思っていたら、バリアの中で燻ってやがったようだ。確かに雑魚なのは認めるが―――。
「なんでテメェに指図されなきゃなんねぇんだ? つーか、テメェが行く必要皆無だと思うんだが?」
それはそれ、これはこれだ。百代はいいとして、なんでコイツの言い分も聞かなきゃならないのか。
「あーしは、ねんのためだよ。せんりょくはおーいほーがいーだろ、むこーはよ」
より一層ポンチョ女を強く睨むが、奴はどこ吹く風だ。
コイツが行ったとして、一体なんの足しになるのだろうか。確かに百足野郎は有用だが、ポンチョ女自体は雑魚極まりない存在だ。正直僅かとはいえ俺や百代の不意を突けるだけの実力を持つ奴からしたら、コイツの存在はクソザコナメクジ以外の何者でもないし、そのクソザコナメクジのせいで僅かな隙が生まれ、そこを付け入られたらその時点で負け確。いくら百足野郎が有用だからって、自惚れすぎである。
そもそもの話、ビル内で百足野郎が暴れたら色々ブチ壊れるだろうし、敵の思う壺だと思うんだが。
「どっちみちここにいてもできることねーよ、おめーらでカタつけられるだろ? だったらしごとのあるほーにいくよ、レクと……みれーがしんぱいだし」
「テメェに心配される筋合いなんざねぇと思うけどな。むしろ邪魔になるだけじゃねぇの?」
「むーちゃんはゆーのーだから」
「テメェは無能じゃん」
「だまれ、ばをあらすしかげーのねーやつはだまってせんぱいのゆーこときーとけや」
「あ? たかが数年先に動いてるってだけだろうが。実力も能力も大したことねぇくせに大口叩くんじゃねぇよ」
ポンチョ女は盛大に、これでもかってくらいの恨みをこめて舌打ちをかます。
舌打ちしたいのはこっちだし、何もできない分際で先輩ヅラとか八つ裂きにして灰にすんぞボケカスってハナシだが、ここでコイツと殺りあったところで意味はない。無駄に疲弊するだけだし、なにより目下の雑魚どもを排除するのが先だ。巨人女はクソ間抜けにもまだ気絶しているし、澄連はアレだし、統率できそうな奴は誰一人いない。
御玲たちがいる戦場を混乱させたくない俺としては、コイツを行かせたくはないのだが、それを言ってもコイツは従わないだろう。せめて百足野郎だけで行くなら、好きにしろって話で終えられるのだが、俺の予想が正しければおそらく―――。
「百足野郎、テメェだけで上手くやれるか?」
駄目元で聞いてみる。ムカデだし、表情筋がないから何を思い、何を感じているのかさっぱり読めないが、口元の触覚を打ち鳴らし、気味の悪い金切り音を唸らせて胴体を左右に揺らす。
「それはできません、おいていけません、まもりますってさ」
「ああ!? お前この状況がわかんねぇ馬鹿じゃねぇだろ!! そんな足手纏い抱えて殺り合えると本気で思ってんのか!?」
思わず怒鳴ってしまった。ダメで元々だったとはいえ、だ。
ポンチョ女の存在は完全なる足手纏い。そして今回の敵は今まで戦ってきたような、魔術すら使えないギャング連中とはわけが違う。ほんの僅かな隙が戦局をひっくり返しうるぐらいの技量を持った敵だ。ポンチョ女を抱えながら戦うなんざ舐めプもいいところ、それで勝てるのはいくら百足野郎でも自惚れがすぎるってもんだ。
「どうでもいいです、そんなにだいじなら、なんとかしてみせるといい」
通訳代わりのポンチョ女がうそぶく言葉に、反論の糸口が一瞬にして断たれた。喉から出そうになった言葉を胃袋に押し返す。
大事なものを守りたければ自分でなんとかしてみせろ。御玲のことで頭が一杯で考えが回らなかったが、百代に委ねた時点で俺がどうこう言う筋合いは本来ない。
筋が通っていないことが嫌いな割に自分の事になると言ってしまう。そんなの小物がやることだ。今ここで気づいただけまだマシだと思いたいが、気づいた以上、今の俺では百足野郎の考えは変えられない。ここで喧嘩してゴリ押し説得なんざそれこそ愚策だ。
クソ怠げに頭を掻きむしり、恨めしく奴らを睨むが、ため息を吐き散らして視線を外した。
「百代の邪魔だけはすんなよ」
納得したわけじゃない。筋が通っていないことを相手に強要するのが許せないだけだ。そうでなけりゃポンチョ女の言うことなんざ聞く意味も価値もない。こうなったらここは素直に従っておいてとっとと雑魚どもをブチのめし、俺も御玲たちと合流して俺の懐に潜り込んできた本丸をブチのめす。
思考を切り替え、百代が展開した防壁に閉じ込められているクソ間抜けども一瞥し、いつまでも地面に伸びたまんまと巨人女に駆け寄った。
「おい! いつまで寝てやがる、起きろ間抜け!」
デカい奴ってのは一つ一つの挙動も長いのか。そんなクソつまんねぇことを考えつつ、巨人女の顔面に蹴りを入れ、百代が張ったバリアの中にいまだ囚われている間抜けどもをじっと見据えるのだった。
正門防衛を任されたのは俺を含めて四人と五匹。西支部の巨人女、澄連トリオとミキティウス、ポンチョ女と百足野郎、そしてこの場において最大戦力である花筏百代だ。
巨人女はクソ暇そうにしていたから、てっきり西支部監督官がいないことをいいことに喧嘩ふっかけてくるかと身構えていたものの、辺りを流れる不気味なまでに静かな雰囲気を感じられないほど、空気が読めないわけじゃないらしい。俺たちには、騒ぐ気の起こらない緊張感に縛られていた。
最悪の治安を誇ると評判の中威区西部都市。治安が悪いならガラの悪い雑魚の一人や二人、街中を馬鹿みたいに闊歩してウザ絡みしてきてもおかしくないはずだが、その雑魚すら姿を現さない。というか、人の気配が全くしないのだ。まるで都市から人という人が消え失せ、西部都市が本当の意味でゴーストタウンと化したかのように。
「昨日の今日だが……東支部ンときの任務を思い出すな」
誰に向かって言ったわけでもないが、一人でにぽつりと呟く。
武市の連中は聡い。ルールも何もない、力こそがモノを言うこの世界で、ノロマな奴からクソ間抜けに死んでいくのは火を見るより明らかなことだが、それは中威区東部の連中のみならず、西部の連中にも言えることのようだった。むしろ東にいたときよりも、西の連中は気配を絶つのが上手そうに思える。
気配を殺し、息を殺し、迫りくる脅威から逃れる。無駄な戦いはしない。度重なる紛争を乗り越えてきた、西の生き残る知恵ってやつだろう。
「では、役割を決めるとしようぞ」
腰に手を当てた百代が、俺たちの前に仁王立つ。
そういえば百代は金髪野郎直々に俺らの指揮を取るように言われたんだったか。正直誰かの下につくなんざ御免被りたいのだが、相手が百代となると納得している自分がいるのも事実。
少なくとも、百代以外の奴らの下につけって言われた方が胸糞だった。
「わっちはそなたらの音頭をとらねばならぬから決しておるとして、遊撃は澄男、そこなぬいぐるみでよいか?」
特にないと返事をする。カエルたちも了承の意を示した。
俺や澄連が後方とかありえないので、この采配は妥当だ。俺の灼熱砲弾による広範囲攻撃や、澄連の二頭身形態による攪乱は、なにより遊撃に向いている。敵の目標を定めず、とりあえず敵軍そのものをブチのめすだけでいいので、頭を使わずに済むからだ。
「おいおい寝ぼけてんじゃねーぞコスプレ野郎。なんで俺が前衛じゃねーんだよアホなんかオメー?」
うるっせぇのがなんか知らんけど駄弁り出した。
金髪野郎と百足野郎に自分から喧嘩売っといてクソ間抜けにも負けた奴が前衛やりたいとかテメェこそ寝言かよって話である。偉そうな口叩くなら、自分が売った喧嘩にきっちり勝ってから言ってほしい。
「そなたも前衛で戦ってもらうぞ、ただわっちの監視下で、じゃがの」
「はぁ!? 意味わかんねー、なんでオメーの眼がねーとダメなんだよ!」
「でなければ勝手な真似をするじゃろうて。わっちが認める範囲内であれば、好きにするがよい」
「ざけんじゃねーぞぺーぺーのチビが!! どちらにせよ俺様は前衛しかできねーんだ、邪魔したらオメーごと潰すからな!!」
「うむ。好きにせい」
巨人女の巨体から放たれる物理的な圧に気おされる様子は微塵もない。百代のそっけない態度に更なる怒りを燃やし、でけぇ図体に物を言わせて地団太を踏む巨人女は、そっぽを向いて拗ねてしまった。
百代はサクッと視線を切り替え、ポンチョ女と百足野郎のコンビに向き直る。
「そなたらは後衛で支援を願いたい。できるか?」
「むーちゃんむけーもつかえっし、らくしょー」
「おいおい、百足野郎こそ前衛だろ。なんでそんなサポート役なんだよ」
割って入るつもりなんざ毛頭なかったのだが、聞き捨てならないことが耳に入ってしまったので思わず口に出してしまった。
そこにいるだけで特に何もできないポンチョ女はともかく、前衛戦力として超絶有用な百足野郎をただのサポート役でとどめてしまうのは些か気に入らないというか、違うそうじゃない感が凄まじいというか。
コイツを敵軍のど真ん中に突っ込ませて敵陣をぐちゃぐちゃにかき回した方が、前衛遊撃部隊の俺と澄連トリオがやりやすくなる上に一々雑魚をぶん殴る手間もいくらか省けるしで、尚更前に出張ってもらうのが適役だ。
「それでは前衛が過剰戦力じゃろう。全員を前に配置してしまうと回復・強化等を行う輩がいなくなってしまうし、有事に備えられぬ」
「あー……まあ、そうだけどよ……別にそこまできっちりする必要なくないか? 相手はただの全能度五百の集団だぜ……」
「それは慢心というものぞ。確かにわっちらからすれば数をいくら揃えたとて物の数に入らぬが、万が一わっちらの想定を上回る事態がおきるとも限らぬ。油断するべきではあるまいよ」
そこまで言われると、我を押し通して失敗したときがクソ間抜けになるので、ぐうの音も出なくなる。
個人的には百足野郎に攻撃指示を出すだけで俺らが出るまでもなくすべてが終わるし、ここにいる奴らのほとんどが人外だしで、相手が全能度五百の集団といえど過剰戦力である。
だがソイツらを指揮するリーダーの実力は、依然として不明だ。
攻める側だって余程情報収集する気のない無能な指揮官でもない限り、こっちが戦力を集中させているのを知っているはず。東支部のことだって昨日の今日だ。真正面から馬鹿正直に、なんて流石に安直すぎる話でもある。東支部のときだって、確実に東支部を落とすために伏兵が潜んでいたくらいだし。
「まあ、こんなもんじゃろ。後は状況を見つつ、適宜変更していけばよかろうて」
懐から塩握りを取り出し、無邪気な笑顔でパクリと頬張る。
「ふ? ふぉ、ふぃふぁお」
突然、百代が北の方角を指差す。食べるか指さすかどっちかにしろと言いたくなったが、とりあえず全員が指さした方向に視線を投げる。人の姿はおろか、生き物の姿一匹も見えない殺風景な景色に、ほとんどが首をかしげた。
「あ? デタラメ言ってんなよコスプレ野郎。なんもいねーじゃねーか」
巨人女は殺気すら込めているんじゃないかと思うくらい鋭い眼光で睨みつける。百代は案の定、意に介した様子はないが、俺から見ても何が迫っているのか皆目分からないでいた。
見渡す限りゴミが散乱し、舗装された幅広い道路に明らか鉄屑へ成り果てた廃車が何台かあるのみで、人の気配は一切感じられない。俺は探知とか苦手な方だし、精々殺気とかに聡い程度だからなんともいえないが、百代が言っているなら的外れじゃない気はする。
「コイツがいってんのはまちがいじゃねー。むーちゃんもおなじこといってる」
意外や意外、だんまりを決め込んでいたポンチョ女が援護射撃してくる。
ポンチョ女自体に探知はできていないんだろうが、おそらくは百足野郎の探知能力によるものだろう。百足野郎は百代ほどじゃないだろうが能力は高い。タイマンだと侮れないと思える程度には強いのだ。この中で最大戦力並の奴らが全員口揃えて同じことを言っているのなら、情報としての信用度は跳ね上がる。
「あー……? たくよぉ、どいつもこいつもわけわかんねーぜ」
全員が納得しかけたってのに、空気の読めねぇ木偶が一人。当の本人に気づかれないよう、小さめに舌打ちする。
脳味噌の九割が筋肉でできている自負がある俺でも、今の状況は百代と百足野郎の話に乗るべきって分かるのに、それが分からんとなるといくらなんでも察しが悪すぎるんじゃなかろうか。どれだけ自分の力に自信があるのだろう。ある程度のプライドがある俺でも得手不得手ぐらいは把握しているのだが。
「否、まもなく来る」
口に含んでいた塩握りを飲み込み、百代がまた同じ方向を指さしたそのとき。その方向から、薄らだが人集りのようなものが見えてくる。俺の視力でもってギリギリ黒い点々が見えるレベルだが、魔生物じゃないのはなんとなく分かる。
アレは人だ。それもただの人集りじゃなく、かなりの力を持った奴ら。基本的に全能度の測定なんざしない俺がなんとなしにやってみると、先頭を走る奴の全能度は五百前後、それ以外も似たり寄ったりの数値で、そんなのが軽く六十ぐらいはいるだろうか。支部勤めの連中をブチ殺すには、あまりに大袈裟な戦力なのは明らかだ。
「な、なんじゃこりゃ!? オイオイオイ、本部レベルの奴らが軍隊率いて攻めてきやがったぜ!! こんなことあんのかよ!?」
図体がデカいだけに声もデカい。るせぇな木偶がと思いつつも、巨人女に視線を投げる。台詞の割に顔は紅潮していた。
「はしゃいでんじゃねーよ、めんどくせーな」
予想は的中。台詞の中身の割に焦りがまるで感じ取れなかったからもしやとは思ったが、あの巨人女、はしゃいでやがる。いや確かに俺らからしたら``そこそこ歯応えのある雑魚``の群体でしかないけども。
さてそれじゃブチのめしにいくかと指の関節を打ち鳴らしていると、突然体が七色に光りだす。
辺りを見渡すと俺だけじゃなく、澄連や巨人女も俺と同じく体が七色に光りだしていた。
「むーちゃんがしえんまほーつかった。あるていどにくたいのーりょくつよくなってるはず」
確かに心なしか体の奥底から活力がみなぎってくるような感じがする。今まで肉体強化なんざしてもらったことがないし、気合を込めれば力も自然と出てくるもんだったから支援なんざ必要ないと思っていた。
これならあんまり高出力の火の弾ブチ投げなくてもいいかもしれない。ちょっとしたチョロ火程度でも大ダメージを与えられそうだ。
「ハッハァ!! まさかシャバの空気吸ったばっかでこんなでけぇヤマに出会えるたぁツイてるぜ!! 豚箱生活のせいで運動不足だったんだ!! 全員まとめて俺様がブチのめす!!」
「こ、これ!」
支援魔法でテンション上がっちまったのか、百代の制止などガン無視し、一人持ち場を離れて群体に突っ込む巨人女。あまりの突拍子のない行動に全員呆気にとられてしまう。
普通の家と大して変わらない図体で六十人規模の群体に突っ込むなんぞ恰好の的にしかならないのに、一体何を考えてやがるのか。
「お前らは一応ポンチョ女の所で待機しておけ。用があれば呼ぶから、そのときは来いよ」
「「「アイアイサー!!」」」
「フッ、分かってます。パンツに誓って必ず!」
澄連も連れていくと流石に乱戦になって誤射る可能性が出てくるため、ポンチョ女周辺で待機だ。盾役を任せる手もあるが、そこまでの強敵じゃないだろう。
しかし元気のいい返事で清々しい。約一名、パンツを頭からかぶってやがるロン毛だけは意味が分からなかったが、おそらく分かったって認識でいいだろう。
さて本部クラスの肉体能力を持つ集団の力はどんなもんじゃろな、と。
一人勝手に昂って軍団に突っ込んでいった巨人女と、ソイツを追いかけていった百代の後を追い、俺も戦線に参加する。
やはり任務請負機関本部クラスの肉体能力を持っているだけあって、統率は取れていた。東支部防衛戦のときにカチ合った十三万のクソザコどもと違って、全員が戦術を意識した配置になっている。
前衛は太刀やハンマー、片手剣や双剣といった近接武器を持ち、その前衛どもを支援する魔導師が後衛におり、ここぞというタイミングでチクチク邪魔してくる。
魔法の威力ははっきりいってゴミだが、攻撃系魔法の属性は千差万別だ。魔導師の数もそれなりにいるせいで、実質全ての属性魔法を網羅している。
俺にとって火属性魔法は脅威になりえないが、ときどき飛んでくる水と氷属性の魔法が邪魔くさい。水も存外嫌いだが、特に嫌なのが氷だ。寒いのが大嫌いな俺にとって氷属性魔法は浴びると力が抜けてしまうから、攻撃が鈍ってリズムが崩れるのである。
まあ、そういう奴には他の二倍くらいの威力の火の弾を顔面にぶつけて始末しているわけだが。
早速戦いに慣れたので、戦場を俯瞰してみる。やはり一発で目に入ったのは、最前線で暴れ回る巨人女。その様は、まさに暴虐の巨神に相応しい暴れっぷりだ。
今回攻めてきている敵の群体は一人一人が全能度五百。言ってしまえば、一人一人が一軍をも凌ぐ力を持った連中だ。少なくとも東支部で戦ったギャング連中なんぞ比較にならないと言ってもいい。
だがそれでも、それだけの強さを持った奴らがギャング連中と戦ったときとあまり強さの体感が変わらないのは、俺個人との実力差もあるだろうが、やはり目の前にそれ以上の暴力が荒れ狂っているのが第一原因だろう。
魔法を放とうと魔法陣を展開するよりも速く、拳を振り上げるだけで軽く最前列にいた奴らはなすすべなく吹っ飛んでいく。その吹き飛び方は異様で、まるで散弾のように四方へお手玉の如く宙を舞いながら吹き飛ぶのだ。
普通なら弧を描くように吹き飛ぶはずなのに、物理法則を無視しているとしか思えない吹き飛び方をしているのがすごく気になったが、なんにせよ吹き飛んだ連中はもれなく腕や足があらぬ方向へ折れ曲がり、軒並み痙攣して動かなくなってしまう。もはや戦う余力はないと見て間違いない。
ただ馬鹿みたく突っ込んでいったから死ににいったものとばかり思っていたが、やはり巨人らしくパワーに偽りはなかったらしい。だが、俺たちと連携せず勝手に突っ走ったのは事実である。
遊撃をしてくれていると思えば聞こえはいいが、さっきから四方八方に人を吹っ飛ばしやがるので、氷属性魔法ほどじゃないにせよ邪魔に思えてきたのは否定できない。
「ばかったれめ! 勝手な真似をするでないわ! 力加減もできておらんし、大怪我負わせて如何とする!」
「ああん!? テメー馬鹿か? 敵なんだから怪我の一つや二つで負わせるぐれーマシな方だろーが!! つーかぶっ殺してねーだけでもありがたく思えって話よ!!」
「問答無用! 成敗!」
「は!? おま、なにすぐはぁ!?」
百代が巨人女の脳天を瓦割りの要領で小突く。とはいえ小突いたにしてはその威力は高く、質量を無視するように踏み潰された蛙みたく地面に叩きつけられる。
舗装された道路に蜘蛛の糸が張り巡るが、間髪入れず巨人女のクソでけぇ足の隅を掴み、こっちまで引きずってくる姿からは、華奢な身体に似合わない膂力を感じさせた。
「ふぅ……まったく、加減の知らん奴じゃ。この程度の者たち、峰打ちで十分じゃというのに」
暢気に言っているが、その絵面は小さい女の子が自分の身長をはるかに上回るデカい肉の塊を引き摺るという、なんとも現実離れを地でいく絵面だ。
甘いことを宣うだけに、俺が不満を漏らす隙もなく秒で解決してしまった。これには流石に粗探ししようがない。潔く首を縦に振った方が、こっちが無様を晒すことになるだろう。
「さて背後がくる奴らは空結界で一旦足を止め……!?」
百代が気絶した巨人女を引き摺る間、ようやく事態を飲み込んだであろう敵群体が、一斉に魔法陣を展開し始め、それ以外の奴らは千差万別の武器を手に取り、百代と巨人女へ殴りかかろうとするが、百代は、俺は、群体の隙間を縫うようにして現れたソレを、決して見逃さなかった。
「ぐは……!?」
胸から腹にかけ、冷たい何かが走りだす。命が抜け落ちる感覚とともに、着ていたTシャツが赤色に染まり、肌にぴっちりと纏わりつく不快感でようやく現実を認識する。
目の前に現れたのは、薄汚い灰色のローブを着た何か。フードを深く被り、右手には白く輝くナイフが握られていた。俺の血がべっとりとついてなお、その輝きを失わない白さは、一瞬宝石にでも抉られたのかと錯覚するほどだ。
ここまでの流れ、体感だがおそらく二秒も経っていないだろう。この俺の察知能力を見事に掻い潜り、完全な不意打ちをしかけてきた謎のフード野郎を暴くべく、手を伸ばす。
「なっ……!?」
瞬き一つ許さぬ刹那の時の中で、拙い理解能力がついに限界を迎えた。
瞬きすらできないほどの一瞬、一体全体何が起きたのか。突然目の前に謎のフード野郎が現れて、防御する暇もないまま胸から下腹部まで切り裂かれ、そしてトドメと言わんばかりに右横腹を真っ二つに裂かれ。その程度で死ぬわけもない俺だが、二秒はなくとも一秒あれば相手に触れることぐらいはできると、深々と被ったそのフードに手を伸ばす。
しかし、結果はスカ。
フードに手が触れる、その寸前のところでフード野郎の姿は掻き消えた。まるでどこかへ飛び去ったかのように。
「ど、どういうことだ!? 一体どこへ……!?」
全身の毛穴という毛穴から、一瞬にして脂汗が際限なく滲み出る。
周りを仕切に見渡すが、内心無駄だとすぐに思った。正直否定したい。そんなことはあるはずがない、絶対にありえない、と。だがアレは、目の前で起きたあの現象は、馬鹿でアホな俺が思いつく限りで、説明できるものはただ一つしかない。
「クソが……!! なんで……!! なんで転移魔法が使える!!」
思わずその知っているただ一つのことを口に出した。
謎のフード野郎が使ったのは、間違いなく転移魔法。自分が思い浮かべた場所へなら、どこからでも一瞬で移動することができる究極の移動魔法だ。使える奴なんて俺ら流川をおいて他にいないはずなのに。
「そなた、そなたッ」
肩をぶっ叩かれ、思考の渦から引き摺り出される。本来なら痛くてキレるところだが、予想外にも程があることが起きたせいか、怒りが湧いてくる余裕すらない。
「わっちは支部へ戻る! そなたは奴らの相手を頼む」
「……なんで」
「先ほどそなたの不意を打ったあの者、今は支部の中にいる」
「なんだと!?」
なんで居場所がわかるんだとか、至極当たり前のことが頭の中に湧いて出たが、それを一瞬で上回るものが、脳内を埋め尽くした。
整ったメイド服を飽きもせず毎日着ては、身の丈に合わない槍を携え、サファイアを彷彿とさせる青い髪と青い瞳を持つクールでストイックな俺の仲間―――水守御玲。俺の仲間で唯一、人の枠組みから外れていない、人の限界を極めたメイドが頭に浮かんだのだ。胸底から一気に何かが噴き出した。
「待て!! わっちが行く!!」
「離せ!! 殺すぞッ!!」
百代が俺の両脇から素早く腕を通し、羽交い絞めにしてくる。
流石というべきか、一連の動作が速すぎる。静かに流れる水流の如く、俺の察知能力を児戯と言わんばかりの所作だ。そして振り解こうにもビクともしない。容赦なく全力を振り絞るが、まるで巨大な木の幹に挟まれたかのように、身を捩ることすら許してくれない。
だが、それでも、だ。ひくわけにはいかない。
仲間は死んでも守り切る、それが俺の絶対ルール。木萩澪華という``帰らぬ仲間``を二度と作らぬため、己自身に打ち立てた誓約。その約定に逆らうことは何があっても絶対ない。たとえこの場全てを破壊し尽くし殺し尽くすことになろうとも、絶対に。
「落ち着け、そして思い出せ。あの者の技量、そなたが行って倒せるとて、新たな血を流す好機を与えるのみぞ」
「な……にィ……!」
耳元でなだめるような優しい声音が鼓膜を揺らす。その程度で落ち着けるわけもないのだが、謎のフード野郎と相対した、刹那の時が脳裏をよぎる。
確かに、アレは強い。正直一瞬とはいえ間合に入られたことを悟れなかった上、不意打ちを二回も受けてしまった。そして反撃する暇もなく転移魔法で撤退。粗探ししようにも、その余地が欠片も見当たらない無駄のなさは、まさに芸術の域だ。
最近戦う相手が雑魚ばかりで鈍っていたのもあるだろう。クソ親父やクソ寺、そして裏鏡以来、強敵という強敵と戦う機会がなかっただけに、久方ぶりに``強い``と純粋に思える相手に出くわしてしまった。
正直、いくら致命傷を受けたところで死にはしない。たとえ頭を吹っ飛ばされようと、身体を粉微塵にされようと俺を殺すことは不可能だ。さっきは不意を突かれたが、倒そうと思えば倒せない相手じゃないだろう。直感だが、強いと感じこそすれ圧倒的とは感じなかった。
だが、あの手の輩は厄介だ。ただのパワー押しだったなら話は早かったが、無駄も迷いも一切ない輩は、自分の目的を果たすためなら、いかなる手段も躊躇いなく実行する。それだけ付け入る隙がなく、逆にいえばこちらの隙をいくらでも利用してくる相手と言い換えられるのだ。
不甲斐ない話だが、俺はパワーに自信こそあれ隙を失くすことには自信がない。生じた隙は、有り余るパワーと霊力で無理矢理埋めているにすぎないからだ。
正直、単純に敵を倒す破壊力なら自信はあるが、誰かを守りながら戦うとなると難しい。御玲だけは巻き込まないように神経を尖らすにせよ、煉旺焔星を直撃させられなかったとしたら、謎のフード野郎はどういう行動をとるだろうか。敵が広範囲を焼き尽くす攻撃をしてくる。周りは火で焼かれ、室内は業火と煙と埃で視野が狭くなる。相手だって馬鹿じゃない、転移魔法で俺の反撃を許さなかった奴だ、俺と真っ向勝負は絶対しようとしないだろう。だとすると奴が取りうる手段は―――。
「チッ……!!」
その先は考えるまでもない。分かりきったことだ。悔しいし、すんなりと認めたくはないが、俺と百代なら実力は百代の方が遥かに上。戦わずとも霊圧の質でその強さは直感で大方測れるというもの。流石に本気になったらどこまでなのかわからないが、なんにせよ本気じゃない時点で俺の直感が格上と認知しているのだから、実力が未知数なのは確定だ。
となると単純にパワー押ししか芸のない俺が行くよりも色々融通が効き、実力も申し分ない百代が行った方が、結果的に御玲の生存率は大幅に上がる。不甲斐ない思いだが、それで御玲の生存率が少しでも上がるなら、プライドなんぞいくらでも捨ててやる。
脱力し、反抗の意志はもうないことを伝える。言葉にせずとも全身から力の奔流が鳴りを潜めたことを悟ったのだろう、同時に百代が拘束を解いてくれる。
「ただ、一つだけ言わせろ」
ビルに戻ろうとした百代の肩を掴む。百代はきょとんとした顔で少し首を傾げるが、構うことなく言葉を続けた。
「御玲に傷一つつけるな。テメェは俺より強ぇんだ、それだけのことをやってみせろ」
これが、今の俺が提示する最大限の譲歩。
百代は俺より強い。そして俺には到底できない真似を平然とやってのけられる。素直に認めるなんざ男として、流川本家の家長としてクソッタレな気分にならんでもないが、それだけ強いのなら、無茶な条件の一つや二つ増やしたところでどうということはないだろう。
それが無理ならただ力が強いだけの木偶、俺と大して変わらんだけの奴だったってだけの話だ。
「なんじゃ、そんなことか」
男として家長としての全てを賭けている俺とは裏腹に、百代の表情はとても軽く、清々しく、穢れや淀みの一つも感じない。清廉潔白な微笑みで、俺の前に仁王立つ。
「御玲だけとは言わず、全員無傷で守りきってみせようぞ!」
これは流石に呆気にとられてしまった。何を言い出すかと思えば、俺以上の無茶振りを自らに課したのだ。
これが百代でなかったら、なにアホぬかしてんだ舐めんじゃねぇやっぱ俺が行くと顔面に一発入れて誰が何と言おうと御玲のもとへ走っていくところだが、百代が言うと普通にやってのけてしまうんじゃないかと、そう感じてしまう。
なんたって百代の表情からは、無理を言っているようには思えず、いつも通り朗らかな、余裕しかない笑顔を浮かべている。それが作り笑いとも思えないのだから、凄まじいことだ。百代にとって、あの手練れ相手に全員無傷で守りきること自体、本当に大したことじゃあないのだろう。
ではのー、と暢気に手を振って支部ビル内に消えていく百代を呆然と見送り、思わず頭を掻きながらため息をついてしまう。
「ったく、なんて野郎だ……」
俺は日頃から無茶振りを誰かに課す自覚は、昔からあった。その無茶振りを何食わぬ顔でこなす奴など、今まで弥平か久三男ぐらいなもんだったが、まさか自分の無茶振りを平然と受け入れた上で、それ以上の無茶を自ら課すような輩がいるとは思わなかった。百代じゃなけれりゃただの無謀なアホと罵り、その場で殺していただろうが、やはり格上は考えている内容の次元が違う。男としても、仲間を守る誓約を己に立てている身としても、その次元に一刻も早く辿り着きたい思いで一杯だ。
「御玲は百代に任せて大丈夫そうだな……百代はああ言ってたが、御玲さえ無事なら俺からは文句ねぇし、とりあえず放っておこう」
そのとき一瞬、金髪野郎の清々しくも悪どい笑顔が脳裏をよぎる。
なんだかんだ行動することが多いせいか、少し情が移ってしまっただろうか。仲間以外の奴に思うことなんてこれっぽっちもないはずだが、正直な本音を心の内のみでこぼすなら、金髪野郎は瀕死でもいいから可能なら生きていてほしい。
アイツの存在は、俺が本部に出世する上で必要な存在だ。いなくなると機関則とかいうクソ面倒なものを一々意識しなきゃならなくなって必ず俺の成すべきことの障害になる。そうならないためにも、肉壁として奴の存在は利用価値があるというものだ。
改めて含み笑いをこぼす。やはり情が移ったわけじゃないようだ。俺にとっての真の味方は、復讐をともに乗り越えた奴らのみ。それ以外はあくまで知り合い以上の他人か、ただの他人かのどちらかなのだ。
「おい、おまえ」
さっきまで傍観していたポンチョ女が百足野郎の身体の隙間から、目だけを覗かせて俺を睨んでくる。さっきまでの綻ばせた顔色を一変させ、俺も負けじと険しい顔で応戦する。
「おれもビルんなかであのフードのやつとたたかう。オメーとギガレックスとキモいぬいぐるみどもはあそこでたちおーじょーしてるザコどもをブチのめしてろ」
ポンチョ女は顎で視線を誘導すると、そこにはいつのまに張られたのか、ぱっと見ガラス製に見える箱の中に、例の全能度五百くらいの群体がすっぽり閉じ込められて身動き取れない状況になっていた。
内側から魔法や魔術、あらゆる武器でカチ割ろうとしているが、箱があまりにも堅すぎるせいで、ヒビすら入る気配がない。紛れもなく強力な霊力由来のバリアで、袋のネズミとなっていた。さっきから全然気配も何もしないと思っていたら、バリアの中で燻ってやがったようだ。確かに雑魚なのは認めるが―――。
「なんでテメェに指図されなきゃなんねぇんだ? つーか、テメェが行く必要皆無だと思うんだが?」
それはそれ、これはこれだ。百代はいいとして、なんでコイツの言い分も聞かなきゃならないのか。
「あーしは、ねんのためだよ。せんりょくはおーいほーがいーだろ、むこーはよ」
より一層ポンチョ女を強く睨むが、奴はどこ吹く風だ。
コイツが行ったとして、一体なんの足しになるのだろうか。確かに百足野郎は有用だが、ポンチョ女自体は雑魚極まりない存在だ。正直僅かとはいえ俺や百代の不意を突けるだけの実力を持つ奴からしたら、コイツの存在はクソザコナメクジ以外の何者でもないし、そのクソザコナメクジのせいで僅かな隙が生まれ、そこを付け入られたらその時点で負け確。いくら百足野郎が有用だからって、自惚れすぎである。
そもそもの話、ビル内で百足野郎が暴れたら色々ブチ壊れるだろうし、敵の思う壺だと思うんだが。
「どっちみちここにいてもできることねーよ、おめーらでカタつけられるだろ? だったらしごとのあるほーにいくよ、レクと……みれーがしんぱいだし」
「テメェに心配される筋合いなんざねぇと思うけどな。むしろ邪魔になるだけじゃねぇの?」
「むーちゃんはゆーのーだから」
「テメェは無能じゃん」
「だまれ、ばをあらすしかげーのねーやつはだまってせんぱいのゆーこときーとけや」
「あ? たかが数年先に動いてるってだけだろうが。実力も能力も大したことねぇくせに大口叩くんじゃねぇよ」
ポンチョ女は盛大に、これでもかってくらいの恨みをこめて舌打ちをかます。
舌打ちしたいのはこっちだし、何もできない分際で先輩ヅラとか八つ裂きにして灰にすんぞボケカスってハナシだが、ここでコイツと殺りあったところで意味はない。無駄に疲弊するだけだし、なにより目下の雑魚どもを排除するのが先だ。巨人女はクソ間抜けにもまだ気絶しているし、澄連はアレだし、統率できそうな奴は誰一人いない。
御玲たちがいる戦場を混乱させたくない俺としては、コイツを行かせたくはないのだが、それを言ってもコイツは従わないだろう。せめて百足野郎だけで行くなら、好きにしろって話で終えられるのだが、俺の予想が正しければおそらく―――。
「百足野郎、テメェだけで上手くやれるか?」
駄目元で聞いてみる。ムカデだし、表情筋がないから何を思い、何を感じているのかさっぱり読めないが、口元の触覚を打ち鳴らし、気味の悪い金切り音を唸らせて胴体を左右に揺らす。
「それはできません、おいていけません、まもりますってさ」
「ああ!? お前この状況がわかんねぇ馬鹿じゃねぇだろ!! そんな足手纏い抱えて殺り合えると本気で思ってんのか!?」
思わず怒鳴ってしまった。ダメで元々だったとはいえ、だ。
ポンチョ女の存在は完全なる足手纏い。そして今回の敵は今まで戦ってきたような、魔術すら使えないギャング連中とはわけが違う。ほんの僅かな隙が戦局をひっくり返しうるぐらいの技量を持った敵だ。ポンチョ女を抱えながら戦うなんざ舐めプもいいところ、それで勝てるのはいくら百足野郎でも自惚れがすぎるってもんだ。
「どうでもいいです、そんなにだいじなら、なんとかしてみせるといい」
通訳代わりのポンチョ女がうそぶく言葉に、反論の糸口が一瞬にして断たれた。喉から出そうになった言葉を胃袋に押し返す。
大事なものを守りたければ自分でなんとかしてみせろ。御玲のことで頭が一杯で考えが回らなかったが、百代に委ねた時点で俺がどうこう言う筋合いは本来ない。
筋が通っていないことが嫌いな割に自分の事になると言ってしまう。そんなの小物がやることだ。今ここで気づいただけまだマシだと思いたいが、気づいた以上、今の俺では百足野郎の考えは変えられない。ここで喧嘩してゴリ押し説得なんざそれこそ愚策だ。
クソ怠げに頭を掻きむしり、恨めしく奴らを睨むが、ため息を吐き散らして視線を外した。
「百代の邪魔だけはすんなよ」
納得したわけじゃない。筋が通っていないことを相手に強要するのが許せないだけだ。そうでなけりゃポンチョ女の言うことなんざ聞く意味も価値もない。こうなったらここは素直に従っておいてとっとと雑魚どもをブチのめし、俺も御玲たちと合流して俺の懐に潜り込んできた本丸をブチのめす。
思考を切り替え、百代が展開した防壁に閉じ込められているクソ間抜けども一瞥し、いつまでも地面に伸びたまんまと巨人女に駆け寄った。
「おい! いつまで寝てやがる、起きろ間抜け!」
デカい奴ってのは一つ一つの挙動も長いのか。そんなクソつまんねぇことを考えつつ、巨人女の顔面に蹴りを入れ、百代が張ったバリアの中にいまだ囚われている間抜けどもをじっと見据えるのだった。
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