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抗争東支部編
エルシアの決意
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仙獄觀音に割り込まれ、反論する暇もなく現実世界に引き戻されたエルシアは自分が守るエリアの中央でぼうっと立ち尽くしていた。
澄男。当初は眼中にすらなく、何故本部が場数をほとんど踏んでいない新人を指名したのか、皆目見当がつかなかった。自分たちが当てにしていたのはあくまで``閃光``と``百足使い``のみだったからだ。
しかし本部の決定には余程の事情がない限り逆らえない。不信と疑念を抱きつつも、何食わぬ顔を装って彼らを迎え入れた。
だが澄男は極めて横暴な人物だった。仲間以外は信用しない、仲間のためなら東支部のルールを反故にしようとする。
当然、そんな横暴を許せるはずもない。結局彼の言い分を聞くことはなかった。
所詮、男は信用できるものではない。``閃光``の二つ名で有名なレク・ホーランでさえ、中威区暴閥と傘下ギャングスターの連合軍に対抗するための戦力としてしか期待はしていなかったほどに、異性という存在は人格問わず信じがたいものだった。
全ては``東支部の悪夢``が事の始まりなのだから―――。
「しかし……」
今の今まで自覚はなかったが、無意識に否定していたのかもしれない。いや、否定していたと言ってもいい。
凪上雅和。本来ならば東支部の安寧のため、この世から抹殺するべき存在。``東支部の悪夢``を引き起こし、数多くの東支部請負人に心の傷を残した諸悪の根源。
自分たちは彼の存在から目を背けることで、精神の安寧を図ってきた。今までそうだったように、これからもそれで変わりはしないと思っていた。
復讐など誰も望まない。かくいう自分が望んでいない。復讐を掲げ戦端を開けば、再び多くの犠牲を払うことになる。折角大姉様に拾っていただいた命を、復讐や報復などという物騒な感情で投げ捨てていいわけがない。自分だけでなく、他の護海竜愛も、そして東支部請負人も、そう自分に言い聞かせて日々を過ごしてきた。
でも現状に心から納得しているのか。そう問われれば、答えは否だ。
凪上家は東支部の秩序を乱した根源の一つ。その根源が、再び東支部に災厄をもたらそうとしている。澄男という新人請負人の言うように、自分たちは未だ彼らから下に見られていることに変わりはない。
未だ奴隷扱いされていた、あのときのように―――。
エルシアは腰に携えた刀の鞘を強く握る。そして任務請負証の霊子通信を起動させた。相手は大姉様だ。
『……お願いしたく存じます。私は―――』
やるべきことではないかもしれない。淡々と自分に与えられた仕事をこなしていれば、それで良かった。でも東支部、ひいては中威区東部に真の平和をもたらすには、今こそが絶好の機会なのではないだろうか。そう考える自分が最初の一歩を踏み出したとき、気づいたら霊子通信によって形作られる精神世界に大姉様が現れる。
自分の懇願に、大姉様の答えは―――。
澄男。当初は眼中にすらなく、何故本部が場数をほとんど踏んでいない新人を指名したのか、皆目見当がつかなかった。自分たちが当てにしていたのはあくまで``閃光``と``百足使い``のみだったからだ。
しかし本部の決定には余程の事情がない限り逆らえない。不信と疑念を抱きつつも、何食わぬ顔を装って彼らを迎え入れた。
だが澄男は極めて横暴な人物だった。仲間以外は信用しない、仲間のためなら東支部のルールを反故にしようとする。
当然、そんな横暴を許せるはずもない。結局彼の言い分を聞くことはなかった。
所詮、男は信用できるものではない。``閃光``の二つ名で有名なレク・ホーランでさえ、中威区暴閥と傘下ギャングスターの連合軍に対抗するための戦力としてしか期待はしていなかったほどに、異性という存在は人格問わず信じがたいものだった。
全ては``東支部の悪夢``が事の始まりなのだから―――。
「しかし……」
今の今まで自覚はなかったが、無意識に否定していたのかもしれない。いや、否定していたと言ってもいい。
凪上雅和。本来ならば東支部の安寧のため、この世から抹殺するべき存在。``東支部の悪夢``を引き起こし、数多くの東支部請負人に心の傷を残した諸悪の根源。
自分たちは彼の存在から目を背けることで、精神の安寧を図ってきた。今までそうだったように、これからもそれで変わりはしないと思っていた。
復讐など誰も望まない。かくいう自分が望んでいない。復讐を掲げ戦端を開けば、再び多くの犠牲を払うことになる。折角大姉様に拾っていただいた命を、復讐や報復などという物騒な感情で投げ捨てていいわけがない。自分だけでなく、他の護海竜愛も、そして東支部請負人も、そう自分に言い聞かせて日々を過ごしてきた。
でも現状に心から納得しているのか。そう問われれば、答えは否だ。
凪上家は東支部の秩序を乱した根源の一つ。その根源が、再び東支部に災厄をもたらそうとしている。澄男という新人請負人の言うように、自分たちは未だ彼らから下に見られていることに変わりはない。
未だ奴隷扱いされていた、あのときのように―――。
エルシアは腰に携えた刀の鞘を強く握る。そして任務請負証の霊子通信を起動させた。相手は大姉様だ。
『……お願いしたく存じます。私は―――』
やるべきことではないかもしれない。淡々と自分に与えられた仕事をこなしていれば、それで良かった。でも東支部、ひいては中威区東部に真の平和をもたらすには、今こそが絶好の機会なのではないだろうか。そう考える自分が最初の一歩を踏み出したとき、気づいたら霊子通信によって形作られる精神世界に大姉様が現れる。
自分の懇願に、大姉様の答えは―――。
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