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参上! 花筏ノ巫女編
見参、花筏百代
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それは、燃え滾る憎悪のようだった。
頭上すら覆い尽くす広大な魔法陣。鮮血を彷彿とさせるほど真っ赤なそれは、躊躇なく空を血肉で彩る。
「な、なんだ……こりゃあ……?」
武力統一大戦時代が終わり三十年。比較的平和な世に生まれた自負があり、その中でも任務請負人として様々な死線を潜り抜けてきた彼をもってして、頭上に描かれたその魔法陣の本質を全く見抜けずにいた。
その魔法陣からは霊力が感じられない。魔法であれば、魔術であれば、魔法陣から術者の霊力なりなんなりが感じとれるものだ。霊力がなければ魔法は使えないのだから当然である。
だが頭上の魔法陣は霊力を必要としていない。強いて何を欲しているかと言えば、身震いするほどの濃密な怨念であろうか。
任務請負人として培った長年の経験が告げている。あの魔法陣から放たれる何かを現実に放ってはならないと。あの魔法陣からは全てを消し去ろうとする邪悪さしか感じられないと。
「ありゃだめだ……! なんとかして食い止めねぇと」
立ち上がろうとするが、身体が言うことを聞かない。スケルトン・アークから放たれた闇の瘴気による影響が、まだ残っているのだ。
「御玲さん、どうしやす?」
闇の瘴気で未だ動けないレクたちをよそに、カエルが自慢の脚力を生かし、御玲の肩に飛び乗る。
体全体を赤黒い鱗のようなもので覆い、我を忘れて暴れ狂う主人をじっと見つめていたが、カエルが肩に飛び乗った瞬間、呆れたように大きなため息をついた。
「止めるしかないでしょう。アレを発動してしまえば、澄男様のことです。きっと後悔するでしょうから」
「でもどうやって止めるか……」
カエルはがま口を手でおさえ、ミキティウスは腕を組む。
澄男の暴走を止める。言葉にするだけなら容易だが、実際になんとかするとなると、途端に難易度は跳ね上がる。
いま現時点で動ける戦力はカエル、ミキティウス、御玲、トトの四人。全員澄男に対応するように動けばなんとかできる可能性はあるが、今はスケルトン・アークがいる。
スケルトン・アークを捌きながら澄男に対応することが可能かと問われると、途端に戦力不足になってしまう。スケルトン・アークを倒せるのは、この場において澄男とトトの二人しかいないからだ。
「この際、アークはトト・タートに任せて……」
と考えた矢先、暴走する澄男に加え、スケルトン・アークの相手もこなしているトトの姿が目に入った。かろうじて対応できているが、もはや余裕はほとんどない。動きは目に見えて鈍ってきており、スタミナの消耗は隠せない状態だ。
むしろ澄男が機能していない状況で、よく黙々と孤軍奮闘できるものである。継戦能力の高さは疑いようもないが、それでも限界に近い事は思案するまでもない事柄であった。
「人が足りない……!」
仮に全員で澄男に挑んだとしても、止められるかどうか定かではない。
澄男は馬鹿だが、力だけは途方もなく強いのだ。今まで戦ってきた相手が反則的に強すぎただけで、澄男も周囲の者たちから見れば十分に人外の部類に入る存在である。
尋常ではない不死性によって守られているため如何なる致命傷も致命打にならず、力は無駄に強いから下手に近づけば一撃で大ダメージを食らってしまう。竜人化し、肉体能力が跳ね上がっている状態なら尚更だった。
「誰か、あともう一人いれば……」
「むむ。なら、わっちが加勢しようぞ」
「助かります……って、え!?」
ナチュラルに独り言に割って入ってきたから普通に返事をしてしまったが、我に帰ってみれば聞き覚えのない声だった。
あまりに自然すぎる登場に警戒することすら忘れていた自分を恥じながらも、すぐさま一歩下がって槍を構え、反射的にその声の主へ矛先を向ける。
「もしっ、待たれよ女子。わっちは敵ではないぞ」
「その言葉、信用するに値しませんが」
「むむ、一年から聞いておらぬか? 姉がおるという話を」
「……まず、ひととせとは誰でしょうか。そのような話も聞いていませんけれど」
「む……? はっ! し、しもうた! ここでは真名を名乗っておらなんだか……ふ、不覚……!」
「……どなたか存じませんが、今は取り込み中です。戦力にならないような外野は消えなさい」
どこからやってきたのか、まるで何もないところから湧いて出てきた時点で怪しさしかない。
それに霊力の類もほとんど感じず、一見ただの一般人である。一刻を争う状況で、正体不明の相手をしている余裕はない。
『御玲さん、ちょっとコイツの相手していいすか』
どう追い返すべきか、守る人間が三人も四人も増えるのは明らかに無駄だし、そもそも誰なのか分からないし、全く今日は意味の分からないのが次から次へと乱入してくるし、なにがどうなっているのかと愚痴交じりに頭を巡らせていた矢先、カエルが突然霊子通信を送ってきた。
しかし回線から流れてくる気配は、いつも見るふざけた感じのものではなく、非常に真剣な、鬼気迫る何かだ。いつもと全然違う感覚に、自然と気が引き締まる。
『……何か考えが?』
『いやぁ、よく考えてみてくださいよ。ここは南ヘルリオン山脈。魔生物の巣窟と名高い魔境ですぜ? そんな所に霊力皆無の一般ピーポーがソロで来ると思いますかい?』
『……い、言われてみれば……』
暴走した澄男の対処、そしてスケルトン・アークの対処を同時並行で行わねばならず、戦力の割り振りに思考を割いていたから気づくのが遅れてしまった。
確かに、カエルの言う通りなのだ。自分らがいる場所は、魔生物という名の魑魅魍魎が跋扈する自然界、南ヘルリオン山脈。下手をすれば澄男らでも勝てるかどうか怪しい天災級魔生物すら出現しうるこの場所で、霊力がまるで感じられない一般人が、それも護衛もなしに危険しかない山奥に来るはずがないのである。
では、目の前で「いやじゃからの、わっちは一年を助けにきたのであって……」とあせあせしながらなにやら言い訳を吐いている巫女は、どうやってここまできたというのだろうか。
『それを確かめやす』
カエルは肩から飛び降りて、細長い手足を動かし、巫女へ近づく。そして―――。
「妙技!! スライディングスカートめくべろえあ!?」
いつぞやの、瞬発的にスカートの真下をスライディングでくぐり抜け、その風圧で舞い上がったのをいいことに中を覗くあの技を繰り出した。
繰り出したのだが、何故かカエルは巫女の真下をスライディングする直前、見えない壁に激突して潰れたスライムのように事切れた。
「なんぞその妖気、女子の敵か?」
「あえ、あ……いや、ちょっと、ね。ほら、スカートの中はロマンが詰まってるからさ……」
「これはすかーとではない。正真正銘、巫女装束ぞ」
「コスプレじゃなくて?」
「なんぞそれは」
「あ、モノホンの方っすか。それで、ここでは何用できたんすかね。どこかに護衛の方でも?」
「わっち一人でだが。一年がなにやら大きな妖気を放つ魔物と戦っておるようなので、助けに参った次第じゃ」
「だからひととせって誰すか」
「む? はっ、ぬおおお!! またやってしもうた! ここではえっと……とと・たぁと? じゃったか。そう呼ばれておったんじゃった。片仮名は覚えづらくて敵わぬ!!」
なにやら一人悶絶している巫女。トト・タートがひととせなる名前で呼んでいるあたり尚更意味が分からないのだが、それよりもここまで一人でどうやって辿り着いたのか、謎がさらに深まるばかりだ。
「して、そなた。魔物の類ではないな。何故姿を隠しておる?」
巫女服を着た少女の独特なペースに困惑する中で、カエルが頭を掻きながら、一歩踏み出した瞬間。少女から突然``少女らしさ``が消え失せた。同時に、背後にいたミキティウスから、今まで感じたことのない切迫した威圧感が走り、カエルも暗澹とした黒い雰囲気を出し始める。
いつもはおちゃらけた、明るくふざけた雰囲気しかない澄連には似つかわしくない変化っぷりに、尚更置いてけぼりをくらってしまう。
「……カエル。コイツはヤバいぞ」
「みてぇだな。人外に片足突っ込んでる。その程度だったらやりやすかったんだが」
「どういうことです?」
「御玲さん、すみませんが下がっててください。ここは俺とカエルが対応します」
ミキティウスは身体に稲妻をほんの少し走らせ、既に臨戦態勢を整えていた。
置いてけぼりを食らって状況が益々読めない。いつもは全く見せない雰囲気を醸し出しているし説明が欲しいのだが、雰囲気からしてそれすらやってくれそうな雰囲気ではない。
彼女からはほとんど霊力を感じず、一般人と大差ないことしか分からないのに、何を焦っているのだろうか。
二人とも守ってくれるように前に立ちはだかる。本当なら嬉しく思うところだが、ぬいぐるみに守られている気がして素直に喜べない自分がいた。
それに、やはり霊力が感じられないせいで、いまいち緊迫感が伝わらない。そよ風すら感じさせない無であるそれが、脳内の疑問符を増やしていく。
「いや、だからの。わっちは敵ではなくて」
「いやぁ、そう言われてもねぇ……そんな完璧な擬態しててなおかつ御玲さんと話嚙みあってねぇのに、それで信じろっつーのは流石に無理あるくないすか」
「確かに今の俺たちはこんなナリではあるが、小娘に気取られるほど落ちぶれてはいない。まさか、俺たちの目を欺けるほどの霊力操作を使えるとはな」
「仕方なかろう! こうでもせんと外に出れぬし、道行く民草に話しかけることすらできぬのじゃ! 姿を変えとるそなたらなら、分かるであろう?」
「そりゃそうだろうぜ? アンタみてぇなのが霊力垂れ流してたら、今頃大国の一つや二つ滅んでるだろうし、人間も軽く億単位で死ぬ。下手すりゃ一日足らずで絶滅だ。擬態するのは当然ってもんさ。でもな」
「問題は俺たちの目も欺けたことだ。敵意がないのは伝わるが、アンタほどなら敵意なんていくらでも隠せる。信用するに値しないな」
いつもふざけてばかりでわけの分からないことばかり言う連中が、いつになく真面目な対応していて拍子抜けするしかない。
いつもこれだけ真面目だったら、と思わずにはいられないが、それを言うために割り込むことを許してはくれない。二人から醸し出される雰囲気が、唇に否応なく糸を縫いつけてくる。
「むー……困ったのう。言葉のかけ合いは無意味、肉体での語り合いを望むか……」
「別に望んじゃいねぇけど、それしか証明材料がないってんなら、そうなるな。その場合、オレとアンタのタイマンってことになるが」
「おい、大丈夫かよカエル。流石にこのナリでタイマンは無理があるぞ」
「知ってる。しゃーねぇだろ? いつかはバレることだ」
カエルは何かを諦めたような、悟ったような表情だった。いつも肌身離さずつけている黒色の眼帯に手をかける。
彼の表情は今まで関わってきて一度も見たことのない顔であったが、それゆえだろうか。背筋が一瞬で冷たくなる。カエルから、濃密な霊力の渦が滲み出始めていたからだ。
それはたった二頭身しかない、小さなぬいぐるみに収まるとは到底思えないほどの、色濃い粘ついた常闇の覇気―――。
「んで、どうする? ここでやり合うか? やり合うならさっさと」
「んにゃ、やらぬ。興味こそあれど信用を得るのなら、一年を呼び戻せば済む話じゃからの」
「……はぁ? いや、ンなことしたら戦線が崩壊」
「一年ッ、一年! こっちゃ来い!」
今から戦う、そんな雰囲気を醸し出していたカエルを何気なく一蹴し、スケルトン・アークと暴走した澄男を事実上同時に相手していたトト・タートを手招きする。
普通に考えて化け物二体を死に物狂いで相手している最中の者に行う態度ではないし、カエルの言う通りここでトト・タートが抜ければ戦線崩壊は確実で、暴走した澄男とスケルトン・アークがここら一帯に災厄をもたらすこととなるのは、どんな阿呆でも分かることである。
流石にそれが分からないような馬鹿でもなし、一体何を考えているのか。
「当主さ……ゲフンゲフン、お、お姉様!? きていらっしゃったんですか!?」
「暇じゃから寄ろうと思っておったのじゃが先約があってのう。そしたらそなたが、なにやら濃い邪気に呑まれて追ったから助けに来たのじゃ。まあ、ちょう来い」
「いや、状況分かりますよね!?」
「分かっておる。大して問題にならぬから、早う来い」
「いや……そりゃあ、そうでしょうけど……はい、分かりました」
なにやら諦めたかのような、悟りを開いたかのような表情で澄男とスケルトン・アークを捨ておき、手招きした巫女へかけよる。気のせいか口調が変わっている。こっちが素だろうか。
「あ……えっと……」
澄男が暴走し、スケルトン・アークが暴れ回っている状況で呼び戻され、しどろもどろになるトト・タート。
今は呑気に自己紹介などしている暇はない。暇はないのだが、巫女からは何一つ焦りというものを感じられない。さっさとやるべきことをやりにいきたいのに、カエルたちから放たれる雰囲気がただならないだけに、動こうにも動けない状況にあった。
「えっと……この方は、ですね。まあ、端的に申しますと……私の姉……っす。名前はモモヨ、と言います」
「うんむ! 改めて、わっちは百代という。敵ではないゆえ、よろしゅう頼むぞ! ちなみにじゃが北支部所属じゃ! 北支部の輩は以後よろしゅう!」
元気良く自己紹介してくれているところ悪いが、何度も言うように今はそれどころではない。周りが見えていないのか、それとも見る気がないのか、段々とイライラが募ってきた。
その反面、カエルたちから滲み出ていた暗澹とした雰囲気が鳴りを潜める。何故だか安心したように、胸を撫で下ろした。
カエルたちのノリがいつものふざけた感じに戻ったのを見計らい、今がチャンスとばかりに話を押し進めることにする。
「……色々言いたいことがありますが、今は捨ておきましょう。それで、あなたは戦える人間と見てよろしいですね?」
いつまでもほんわかしているわけにはいかない。むしろこんなにグダついているのに、こちらになんら影響がないのが不思議だが、まず確認するべきはモモヨと名乗った巫女が、戦力として扱えるかどうかである。
ここまで一人でこられたことや、トト・タートの姉という観点から、ちょっと腕っ節に自信がある程度の弱者ではないと思うが、いかんせん霊力が全く感じられないせいで、大まかな強さが未だに測れずにいた。
「まあ、それなりにはの」
「時は一刻を争います。あなたを援軍と見込んで、私たちとともに澄男さまとスケルトン・アークの鎮圧を」
「んいや、わっちが一人でやる」
思わず「はぁ?」と間抜けな声を出してしまった。トト・タートは額に顔を当て、カエルとミキティウスは何故か当然だというように首を何度も縦に振る。その他、レク、自分、ブルーは唖然として言葉が出てこない。
「見たところ、わっち一人で問題ない相手じゃ。そなたらは回復に勤しむといい」
「……え、あ……ちょ、待ちなさいよ!」
「む? まだ何かあるのか」
一人勝手に行こうとするモモヨという巫女を思わず呼び止める。
自分ひとりで問題ないなどと意味不明なことを言い出され、もう敬語で取り繕うことも面倒になった。
「いや……あなた、戦力比を理解しているの!? 相手の強さは大国すら滅ぼしうる天災級、それも二人よ! 片方は私の主人だけど……人が敵う存在じゃないわ!」
「気持ちはありがたいが、そなたらが相手する方が危ないぞ。死に急ぐようなものじゃし、元よりわっちは負ける気など欠片もないから安心せい」
「はぁ!? いや……死に急いでいるのはあなたの方だし、負ける気がしないって一体どこからそんな自信が」
「あ、あの!!」
どこらへんが安心できるというのか。負ける気がしない。その根拠はどこから湧いて出るのか。
わけのわからないことばかりで、こんな無意義な言い合いをしている暇もないことなど分かっているはずなのに問いかけてしまう自分を恥じていると、さっきまで困惑していたトトが、割って入るように前に立った。
「あの……その。ここはお姉様に任せてくれませんでしょうか……」
「……何故」
「その、もう勝負は速攻でついてしまうと言いますか、私たちが割って入る余地がないと言いますか」
「だからどうして……」
「すみません。それは姉様だから、としか」
理由になっていない。そしてトトの口調が完全に敬語になっているし、色々とツッコミたいことが大量に湧いて出てきて止まらない。
モモヨが姉様だからなんだというのか。それで澄男とスケルトン・アークに勝てるのなら、苦労などないだろうに。
「ひと……こほん。とと、後は任せたぞ!」
「え。あ……はい」
モモヨと名乗った巫女は、もう面倒だと思ったのだろう。妹と思われるトトに全て丸投げして、澄男とスケルトン・アークが暴れ回っている戦禍の中心に余裕綽々と走っていった。
とてもじゃないが、今から怪物二人を相手にしに行く人間の行動ではない。色々とモヤモヤするし、主人は使い物にねらなくなってしまうし、乱入ばかりで本来の任務内容が何だったのかもよく分からなくなっているし、もうこうなったら自分だってヤケだ。ならば説明役に任命された妹を、存分に使い果たすとしよう。
丸投げされ、どう説明しようかと考えているトトに、容赦なく詰め寄る。霊力の影響で動けないレクやブルーも詰め寄りこそしないが、説明しろという熱視線を躊躇なしに浴びせてくる。
「本当に……本当にもう……! ウチの当主様は!」
トトは深いため息とともに、額に顔を当てたと思いきや、猫耳パーカーを脱ぎ捨てた。パーカーを脱ぎ捨てたのだから裸になってしまうのかと思いきや、そんなことはない。彼女はパーカーの下に``あるもの``を着ていたのだ。
それは任務遂行前、南支部の執務室にある木造箪笥で見かけた―――。
「お話しますよ、ええ! い、も、う、と、の! 私がね!」
巫女服を着たトト・タートの地団駄が、虚しく響いたのだった。
百代と名乗ったその巫女は、全ての面倒事をトトに丸投げし、好き放題暴れ回る澄男とスケルトン・アークに近づく。
彼女からは一片の焦りも感じられない。山奥に登山がてら、軽くピクニックに来たような足取りで、今にもレジャーシートを地面に敷いて、弁当箱を開きそうな勢いであった。
「もしッ、もし。そなたは確か、朝方に北支部の駐車場で会うた奴よな?」
全身から赤黒い霊力を吹き出し、獣のように吠える澄男。しかし百代は全く動じない。むしろつい最近知り合った知り合いに、久しぶりに話しかけ、他愛ない雑談に興じようとしているほどのフランクさである。
「むー……理性が飛んでおる、か。なにやらもう一つ別の、禍々しい魂も感じおるし、これは少々、荒療治が必要かのぅ。ではまず」
実質天災が二つ渦巻く戦場で、呑気に腕を組み思考に耽るが、それも束の間。彼女の所作に迷いなど一切ない。頭上に浮かぶ、紅い魔法陣を一瞥する。
―――``かの歩みの所、一本道故零れ梅``
―――``至る所に、何処に鈞天``
刹那、大空を支配していた紅い魔法陣は、跡形もなく粉々に砕け散った。霊力を必要とせず、怨念のみで常闇に包まれた天空を支配していた魔法陣は、その産声をあげる目前で儚く終焉を迎えたのだ。
何故なのか、それを説明できる者はこの場にいない。真意を知るは、目の前の巫女ただ一人だけである。
スケルトン・アークが奇声をあげた。山々の木々を倒し、大地を引き裂き、空を飛ぶ鳥たちを墜落させ、闇の瘴気で逃げ行く野生動物を昏倒させる。そして、漆黒の大剣を真上から容赦なく振り下ろす。
闇の霊力がたっぷり込められた、骸骨巨人の一撃。大地はひび割れ、衝撃波で木々は薙ぎ倒される。人間はおろか、生き物ならどんなものでも跡形もなくなるであろうその一撃は、年端のいかぬ少女にすぎない百代の身体を粉々に砕いた―――。
と、思われた。
スケルトン・アークの攻撃は確実に彼女の脳天を捉えていた。本来なら漆黒の大剣が彼女の小さい身体に抉り込み、彼女の脳を真っ二つにし、骨を砕き、臓腑を炸裂させることだろう。人間が、生き物が、人外の化物が放つ、大地を破る攻撃に耐えられるわけがないからだ。
しかし現実は違う。
砕け、その身を炸裂させたのは、スケルトン・アークが装備していた大剣の方だったのだ。
漆黒の大剣は跡形もなく砕け散り、衝撃は大剣だけでなく、スケルトン・アークにすら蝕む。両腕をも粉砕され、スケルトン・アークは耐え切れずにその場で倒れ込んだ。厳密には体幹では耐えられないほどの衝撃を受けて、吹き飛ばされてしまったのだ。
「そなたからは……言い知れぬ怒り、悔しさ? を感じる。それが今の姿なのじゃろうが……感情は吐き出すが吉ぞ。わっちが受け止めてやるから、そなたの心、わっちにぶつけてみせるがよい!」
もはやスケルトン・アークなど眼中にない。あるのは暴走した澄男のみ。スケルトン・アークの大剣振り下ろし攻撃をノーガードで頭から受け切ってなお、ハキハキとした笑顔で澄男に向かって身体を構えた。
地鳴りのような咆哮とともに、四足歩行となった澄男は大地を蹴りあげる。
竜人化した澄男の肉体能力は尋常ではない。蹴り上げられた大地は剥がれ、山のように聳り立つ。
地面を蹴り上げて走る澄男の速度は、対戦車ミサイルなど優に超える。衝撃波で山肌を削り、木々を粉々にして一瞬のうちに百代の間合いへと入り込む。
その間、およそ一秒に満たず。人間の反射神経の限界は〇.一秒とされているが、それよりも短い時間であろう。いかなる達人でも人間である限り反応できない、純然たる人間の限界を超えた速度。一人の少女に、当然対応できるはずもない。
「ほいっと!」
できるはずもない。この世に存在する、誰もがそう思ったであろう。
人間の条件反射すらも超えた速度で暴走する澄男だったが、真正面に立っていた百代は、気がつけば彼の真横に移動していた。そしてその勢いそのままに、突っ込んできた澄男の足を払って腕を掴むと、ぐるんと一回転させる。
そのまま勢い良く背中から地面に叩きつけられ、地面に大きなひび割れが生じた。
カハ、と乾いた悲鳴をあげる澄男だったが、百代は素知らぬ顔だ。むしろ不満げですらあった。
「そなた、やはり力は強いが使い方がなっとらんな。そんな愚直な使い方をしていては、今のように投げ技でかわされたとき、どうするつもりじゃ?」
怒りで我を忘れている相手に冷静なツッコミ。無論それで澄男が我に帰ることなどなく、彼の猛攻は続く。
力一杯の殴る蹴るの応酬。四足歩行ゆえにその動きは極限までに野生的で、獲物を狩る肉食獣を彷彿とさせるが、百代はその全ての攻撃を涼しい顔で受け流していた。
彼女はその場から一歩も動いていない。腕や脚、腰など。身体の動かせる所を全て使って、必要最低限の所作で澄男の理不尽な攻撃をのほほんとした顔で弾いていく。
衝撃波などで地形は悲鳴をあげているものの、百代本人は隙を見て懐からおにぎりを取り出し、それをもぐもぐ食べる余裕すらある始末である。
「むむ……これは酷い。それだけの力を持ちながら、そのほとんどを無駄遣いしておるとは。爺がおったら怒髪天を衝いて拳骨をくらっておるじゃろうのう……」
おにぎりを食べ終え、指についた米粒を呑気に舐めとる百代。その態度からは嘆息と落胆が滲み出ていた。
人智を超えた格闘戦が繰り広げられてなお、百代には巫女服に乱れも汚れも一つない。戦う前と変わらぬ白さが、そこにあった。
「だが、そなたの想い、しかと受け取った。その怒り、わっちが鎮めてやろうぞ」
さっきまで吹き飛ばされていたスケルトン・アークがようやく立ち上がる。
腕の修復が完全に終えていないが、口腔部から漆黒の球体を練り上げる。濃密な闇属性の霊力で構成された、高密度霊力弾。放たれれば周囲は濃い闇に侵され、しばらくは人や野生動物が近づくことすらできない暗黒領域と化すだろう。
当然、人に当たればひとたまりもない。確実に骨すら残らずこの世から消滅してしまう。
だがそれだけではなかった。スケルトン・アークに触発されたように、澄男もまた霊力を練り上げ始めたのだ。
スケルトン・アークと同等の霊力、それも荒ぶる炎の乱流が、あたり一面を業火の海に飲み込んでいく。
闇と炎が支配する災厄の渦中、百代は呑気に嘆息していた。彼女の周りに荒れ狂う霊力の嵐など、全く意に介していないように。そして―――。
天災は、容赦なく放たれた。
少女一人消し炭にするには、あまりにも過剰な攻撃。下手をしなくても国の一つや二つ更地になってもおかしくない霊力の奔流が、それも黒と赤の二本、彼女を跡形もなく消そうと迫る。
漆黒の霊力と、豪快に燃え滾る紅き霊力。その二つがぶつかり合い、相乗効果で威力は倍、全てを破壊し尽くす混沌の濁流と化す。
「高出力なだけの霊力など無意味ぞ!」
化す、はずだった。
その光景は異様であった。本来なら全てを無に帰するほどの霊力であるはずなのに、その霊力は何故か、彼女の左腕に吸収されていく。
紅い霊力も漆黒の霊力も、その破壊力が産声をあげる暇もなく彼女の左腕に全て貪り食われる。まるで彼女自身がブラックホールにでもなったかのように、それらは全て彼女へと収束した。
「格闘戦ができる者に対して無策に蓄積霊力を放つなど、その隙に殴ってくれと言っているようなものぞ! 少しは考えて戦わぬか! 力の無駄遣いにも程があるわ!」
怒りに我を忘れている相手に些か理不尽な言い分ではあるが、それが正しいのだから、誰も何も言うまい。その隙を見逃したのは、彼女に明らかに敵意がないからであり、それに―――。
「よいか。よぉくその心に刻むがよい。霊力とは、こう扱うのじゃ」
左腕に紅と黒の霊力を渦巻かせながら、目を閉じる。そしてカッと見開いた次の瞬間。
空間が歪んだ。音という音、光という光、この世に存在する物体の流動、時間と空間。その全てがほんの一瞬だけ停止したのだ。
周囲を焼き尽くしていた業火は一瞬で消え、空を覆っていた闇の天幕は消滅。再び時が動き出したそのとき、世界は完全なる静寂に支配された。
存在するのは百代、更地となった山肌、倒れ地に埋もれた木々、禿げた大地、無風の世界。そして石像のように微動だにしない四足歩行の澄男のみであった。
スケルトン・アークの姿はない。どうなったかは考えるまでもないだろう。簡単だ。跡形もなく消滅したのだ。百代と名乗る、一人の少女が放った絶大な``霊圧``によって。
「んぁー、それとじゃ、わっちがそなたらより吸収した霊力。何故腕に貯めたか、分かるかの? こうするためじゃ」
百代は左手を右から左へ振った。側から見れば何をしているのか、皆目分からない所作だ。動作としては左手で相手の右の頬を叩いたようなものだったが、その手は空を裂いていたが、変化が起こったのは一コマ後のことであった。
「グガッ!!」
地面の表層を削り、倒れた木々さえも粉々にするほどの衝撃波とともに、その場で動けず小刻みに身を震わせていた澄男が吹き飛ばされたのである。
竜人化し、身体能力が限界突破した身でありながらも、なすすべなく。彼はボールのように転げ回った末、御玲やレクたちの前で事切れた。
死んではいない。再生能力があるから、怪我もしていない。ただ気絶しただけである。
「これにて、任務完了……じゃな!」
後に残ったのは、朗らかな笑顔で終戦を宣言する、天真爛漫な巫女ただ一人だけであった。
何事も、最も忙しくなるのは戦後である。
戦後処理の作業量は戦いの規模に依存する。元々大規模な戦いなど想定していなかったレク・ホーランとトト・タートは、その処理に悩まされることとなった。
巫女姿となったトトを尻目に、荒れ果てた荒野と化した山肌を呆然と眺める。
南支部の裏手の山はヘルリオン山脈の一部だが、本来は草木溢れる未到の自然界であった。
しかしスケルトン・アークの出現や澄男の暴走、百代と名乗るトトの姉の参戦により、戦前の自然は見る影もなくなり、禿げた山肌が露わとなってしまった。
さらに言うなら霊力の濃度も異様に高くなっており、このままでは未知の魔生物の温床になりかねない上、草木が消滅したため南支部を中心とする人里が、土砂災害や水害の影響を受けやすくなってしまっていた。
合同任務の責任者として、背負えるキャパシティを大幅に超える二次被害を出してしまっている。
「なんじゃそなたら、神妙な顔を並べおって。任務は果たせたというに」
レクやトトの苦悩など露にも知らず、能天気に歩いて帰ってきた百代は、これまた呑気に懐から肉まんを取り出し、それを勢いよく頬張った。
この空気の中、よくもまあ能天気に飯が食えたものだと誰もが思ったが、お首にも出さない。レクもトトも、そして御玲も理解しているのだ。この手の人種に、空気を読めと言っても無駄なことなど。
「しかし珍妙な輩よな。手加減したとはいえ、わっちの霊力びんたの衝撃波を真面にくらって傷一つないとは。尋常ならざる治癒能力ぞ」
百代とは別にもう一人、この惨状を作り出した張本人である澄男は、百代の``霊力びんた``なる一撃を受けて、間抜けにも伸びていた。身体も普通の人間の姿に戻っている。
「いま澄男さまに起きられると面倒なので、しばらく寝ててもらいましょう。それで……」
百代以外の全員が、主人をそんな雑に扱っていいのかと思いながらも、御玲が見渡す壮観となった景色に、誰もが澄男から視線を外し、肩を落とした。
綺麗さっぱり禿げてしまった南支部の裏手の山。景観が損なわれたというレベルでは既になく、人の手では修復不可能な規模の損害である。
植林などする予定のなかったレクとしては、打つ手がない、というのが本音だった。
「ふむん。なれば、わっちがなんとかしてやろう」
無い胸を堂々と見せつけてくる百代。
直すと言っても、人一人でなんとかできるものではない。数百人規模で植林して、数十年以上世話し続けて、やっとどうにかできるかというスケールの話である。
唐突に何を言ってんだと言いたくなる気持ちを、強く抑える。
「そう難しくもあるまい。これほどの霊力が満ちているのじゃ。根や種があれば、また生える」
「いやだから……」
「ええい、黙って見ておれぃ!」
説明を要求したが虚しく、少女の気迫に満ちた一喝に口が縫われた。
自分よりも年下の少女に黙らされたのは男として不甲斐なさを感じなくもないのだが、そんなことよりも彼女が何をしようとしているのか。それが純粋に気になった。
トトは、百代をじっと見つめている。その目に邪念は一切なく、まるで師を仰ぐ弟子のように真剣そのものだ。彼女は百代のことを姉と言っていたが、その関係はただの姉妹関係で片付けられない何かがあるのか。気になるところではある。
ブルーは完全に眉唾だと思っているようで、やれるもんならやってみろって感情を、顔や態度からありありと表現している。
ブルーに関しては想定通りなので今更何も疑問には思わないが、一方で御玲は表情が硬いものの、視線は百代一点に集中していた。
眉唾と思っていながらも、内心気になってはいるようだ。肩に乗っているカエルのぬいぐるみと青色のロン毛の少年となにやら話し込んでいたし、その影響だろうか。
総じてブルーを除いてみんな百代がやろうとしていることに気になっているようだ。この惨状を本当になんとかできるなら、それはそれで凄まじいことだと内心ワクワクするのも無理もない話だろう。
「植物とは、まず種子から成る。そして土に根を張って芽を出し、天より出でし陽光を、その葉で以って成長してゆくのじゃ。そして―――」
なにやら独りぶつぶつと講義を語る百代。ブルーの「グダグダいってねーではやくしろよ」という気迫を背後から受けつつ、彼女の所作を窺う。
時間稼ぎをしているようにも見えるが、彼女の顔から感情の変化は一切見られない。あたかも素で語っているような感じだ。
もしも焦りなどを感じさせないようにしているなら飛んだ演者だが、自分の洞察力から察するに、彼女はあくまで素のように思えた。
長い長い講義が終わり、ようやく何かをし始める。背後からのブルーの苛立ちが臨界点突破寸前だったところを考えると、ギリギリ急かさずに済んで良かったと胸を撫でおろす。
「では、始めるとするかの」
百代の一声で、長い長い講義で緩んでいた空気が、一気に急変した。
空気が重く感じる感覚。息を吸うと肺に錘が入ったかのような錯覚すら感じさせる。苦しいというわけではないが、息を吐こうとすると吐きにくい。息を吐いても、肺に残っている濃厚な感覚だ。
しかし変化はそれだけではなかった。
ほんの少しばかりの息苦しさを感じさせながらも、周囲の観察を忘れない。それが功を奏したというべきか。無数の青白い光の点々が、空を泳いでいたのだ。
「な、なんだ……これ」
長い長い任務請負人生活をもってして、いま視界に広がる光景は、一度たりとも見たことがない。そう断言できると思った。
空から大地、その全てに至るまで辺り一面を覆い尽くすは青白い蛍のような儚い光。それらは空を泳いで百代の周りを舞う。まるで蛍が百代の周りを飛んでいるようにも思えるが、今は昼間で蛍が目立つような時間帯ではない。それにあの青白い蛍のようなものからは、生物とは全く別の気配を感じさせる。
感覚からして、青白くフワフワしたものは霊力だ。高密度の霊力が、何らかの力によって球体状に濃縮され、百代の周りを浮遊しているのである。
本来霊力は目に見えないもので、蛍のように可視化できるものではない。もしも可視化されているとしたら、それは術者によって意図的に大気中の霊力分布が操作されていることを意味する。
言うだけなら簡単だが、大気中の霊力分布を操作するなど、魔術師はおろか高名な魔導師でも、できる者はいないだろう。普通に考えて、体の外にある霊力は誰のものでもないのだから、操れるわけがないはずなのだ。
百代は黙々と作業をしている。霊力の球体はしばらく浮遊していたが、手を振り下げた瞬間、青白い光ががすっと地面の中に埋もれていった。
だが本当に言葉にならなかったのは、次の瞬間だった。
「は……はぁ!?」
流石に、これはもう声を荒げるしかない。
浮遊していた霊力の粒子群が地面に埋もれた直後、まるで時間を倍速化させているかのように地面から無数の植物が生えてきたのだ。
ただの雑草から樹木まで、全ての植物が一気に生え揃う異様な景色。植物はそれぞれの成長過程を経て荒野を埋め尽くし、味気ない茶色を雑草たちや新しく生えた森の木々たちが、瑞々しい緑色で彩っていく。
もう、その様を呆然と眺めることしかできない。
いま目の前に起こっている出来事は、まさしく神の身技。人間の知識通念では説明できない、純然たる超常の力によって成せる秘奥であった。
「ふぅ。こんなものかの。どうじゃ? これで困りはしなかろう」
彼女の謎の身技により、禿げた山肌と荒野は、一瞬にして元の彩を取り戻してしまった。
本来なら完全修復に数百年はかかるであろう被害が、ものの数分で元通りになってしまったのだ。もう、何も言えることがない。彼女の全てが、この場にいる全ての者の理解力を超越したのだ。
「あ……え? いや、え?」
「ど、どーゆーこったよ、わけわかんねー……」
「これは……なるほど」
未だ現実を受け入れられず困惑するレクたちをよそに、御玲(みれい)はため息をつきつつ、トトに視線を投げる。
「それだけのことができる能をお持ちの方。そう割り切るしかない、ですか」
トトは真剣な眼差しで明確に首を縦に振った。
「むむ。まだ何か問題か? もしや、少し育てすぎたか? 望むなら剪定するが?」
「いやいやいやいや、もういいもういい!! 十分だから!!」
「そ、そうです当し……じゃなくて姉様!! その、そろそろ戦後処理をですね!!」
能天気な顔で、剪定しようかなどと言ってくる巫女に、もはやこれ以上の奇想天外はお呼びでない。もはや誰も、立て続けに起こる予想外の出来事たちにお腹いっぱいであった。
「さて、とりあえず詳しい話やらなにやらは南支部で聞くから、どっか行くなよ。まずはむーさんと合流……ってあれ?」
「むーちゃん! おかりー!」
ようやくゴタゴタがひと段落したところで、もう一匹の主要人物を思い出す。``骸骨の軍勢``をたった一匹で相手していたはずのむーちゃんである。
相手の総数は、五百。肉体能力も当然ながら全能度四桁級であるし、必要なら合流して手助けをと思ったのだが、むーちゃんは小さい百足となってちゃっかりとブルーの下へ帰ってきていた。
「む、むーさん? まさかだけど、あの軍勢をたった一匹で……?」
「ええ、そうですが、なにかもんだいでもありますか。ってさ」
「……はぁ? いやいや、そんなあっさりしてる相手じゃ……いや、もういいか……」
その端的な答えに、もう額に手を当てることしかない。流石に今回ばかりは、キャパシティオーバーである。
「澄男さまは私が担いでいきます。南支部へ戻りますか」
「おう。今回は流石に色々ありすぎた。とりあえず帰って状況整理するぞ。協力してくれるよな? トトに百代とやらも」
「は、はい。そのつもりっす」
「いいぞ。暇じゃからの」
御玲は澄男を担ぎ、カエルたちは御玲の肩に乗り、レクはブルーとともに、トトは百代とともに帰途に着く。
まだ任務は終わらない。予想外のことばかり起きた、今回の任務。状況整理のための、最後の話し合いである。
頭上すら覆い尽くす広大な魔法陣。鮮血を彷彿とさせるほど真っ赤なそれは、躊躇なく空を血肉で彩る。
「な、なんだ……こりゃあ……?」
武力統一大戦時代が終わり三十年。比較的平和な世に生まれた自負があり、その中でも任務請負人として様々な死線を潜り抜けてきた彼をもってして、頭上に描かれたその魔法陣の本質を全く見抜けずにいた。
その魔法陣からは霊力が感じられない。魔法であれば、魔術であれば、魔法陣から術者の霊力なりなんなりが感じとれるものだ。霊力がなければ魔法は使えないのだから当然である。
だが頭上の魔法陣は霊力を必要としていない。強いて何を欲しているかと言えば、身震いするほどの濃密な怨念であろうか。
任務請負人として培った長年の経験が告げている。あの魔法陣から放たれる何かを現実に放ってはならないと。あの魔法陣からは全てを消し去ろうとする邪悪さしか感じられないと。
「ありゃだめだ……! なんとかして食い止めねぇと」
立ち上がろうとするが、身体が言うことを聞かない。スケルトン・アークから放たれた闇の瘴気による影響が、まだ残っているのだ。
「御玲さん、どうしやす?」
闇の瘴気で未だ動けないレクたちをよそに、カエルが自慢の脚力を生かし、御玲の肩に飛び乗る。
体全体を赤黒い鱗のようなもので覆い、我を忘れて暴れ狂う主人をじっと見つめていたが、カエルが肩に飛び乗った瞬間、呆れたように大きなため息をついた。
「止めるしかないでしょう。アレを発動してしまえば、澄男様のことです。きっと後悔するでしょうから」
「でもどうやって止めるか……」
カエルはがま口を手でおさえ、ミキティウスは腕を組む。
澄男の暴走を止める。言葉にするだけなら容易だが、実際になんとかするとなると、途端に難易度は跳ね上がる。
いま現時点で動ける戦力はカエル、ミキティウス、御玲、トトの四人。全員澄男に対応するように動けばなんとかできる可能性はあるが、今はスケルトン・アークがいる。
スケルトン・アークを捌きながら澄男に対応することが可能かと問われると、途端に戦力不足になってしまう。スケルトン・アークを倒せるのは、この場において澄男とトトの二人しかいないからだ。
「この際、アークはトト・タートに任せて……」
と考えた矢先、暴走する澄男に加え、スケルトン・アークの相手もこなしているトトの姿が目に入った。かろうじて対応できているが、もはや余裕はほとんどない。動きは目に見えて鈍ってきており、スタミナの消耗は隠せない状態だ。
むしろ澄男が機能していない状況で、よく黙々と孤軍奮闘できるものである。継戦能力の高さは疑いようもないが、それでも限界に近い事は思案するまでもない事柄であった。
「人が足りない……!」
仮に全員で澄男に挑んだとしても、止められるかどうか定かではない。
澄男は馬鹿だが、力だけは途方もなく強いのだ。今まで戦ってきた相手が反則的に強すぎただけで、澄男も周囲の者たちから見れば十分に人外の部類に入る存在である。
尋常ではない不死性によって守られているため如何なる致命傷も致命打にならず、力は無駄に強いから下手に近づけば一撃で大ダメージを食らってしまう。竜人化し、肉体能力が跳ね上がっている状態なら尚更だった。
「誰か、あともう一人いれば……」
「むむ。なら、わっちが加勢しようぞ」
「助かります……って、え!?」
ナチュラルに独り言に割って入ってきたから普通に返事をしてしまったが、我に帰ってみれば聞き覚えのない声だった。
あまりに自然すぎる登場に警戒することすら忘れていた自分を恥じながらも、すぐさま一歩下がって槍を構え、反射的にその声の主へ矛先を向ける。
「もしっ、待たれよ女子。わっちは敵ではないぞ」
「その言葉、信用するに値しませんが」
「むむ、一年から聞いておらぬか? 姉がおるという話を」
「……まず、ひととせとは誰でしょうか。そのような話も聞いていませんけれど」
「む……? はっ! し、しもうた! ここでは真名を名乗っておらなんだか……ふ、不覚……!」
「……どなたか存じませんが、今は取り込み中です。戦力にならないような外野は消えなさい」
どこからやってきたのか、まるで何もないところから湧いて出てきた時点で怪しさしかない。
それに霊力の類もほとんど感じず、一見ただの一般人である。一刻を争う状況で、正体不明の相手をしている余裕はない。
『御玲さん、ちょっとコイツの相手していいすか』
どう追い返すべきか、守る人間が三人も四人も増えるのは明らかに無駄だし、そもそも誰なのか分からないし、全く今日は意味の分からないのが次から次へと乱入してくるし、なにがどうなっているのかと愚痴交じりに頭を巡らせていた矢先、カエルが突然霊子通信を送ってきた。
しかし回線から流れてくる気配は、いつも見るふざけた感じのものではなく、非常に真剣な、鬼気迫る何かだ。いつもと全然違う感覚に、自然と気が引き締まる。
『……何か考えが?』
『いやぁ、よく考えてみてくださいよ。ここは南ヘルリオン山脈。魔生物の巣窟と名高い魔境ですぜ? そんな所に霊力皆無の一般ピーポーがソロで来ると思いますかい?』
『……い、言われてみれば……』
暴走した澄男の対処、そしてスケルトン・アークの対処を同時並行で行わねばならず、戦力の割り振りに思考を割いていたから気づくのが遅れてしまった。
確かに、カエルの言う通りなのだ。自分らがいる場所は、魔生物という名の魑魅魍魎が跋扈する自然界、南ヘルリオン山脈。下手をすれば澄男らでも勝てるかどうか怪しい天災級魔生物すら出現しうるこの場所で、霊力がまるで感じられない一般人が、それも護衛もなしに危険しかない山奥に来るはずがないのである。
では、目の前で「いやじゃからの、わっちは一年を助けにきたのであって……」とあせあせしながらなにやら言い訳を吐いている巫女は、どうやってここまできたというのだろうか。
『それを確かめやす』
カエルは肩から飛び降りて、細長い手足を動かし、巫女へ近づく。そして―――。
「妙技!! スライディングスカートめくべろえあ!?」
いつぞやの、瞬発的にスカートの真下をスライディングでくぐり抜け、その風圧で舞い上がったのをいいことに中を覗くあの技を繰り出した。
繰り出したのだが、何故かカエルは巫女の真下をスライディングする直前、見えない壁に激突して潰れたスライムのように事切れた。
「なんぞその妖気、女子の敵か?」
「あえ、あ……いや、ちょっと、ね。ほら、スカートの中はロマンが詰まってるからさ……」
「これはすかーとではない。正真正銘、巫女装束ぞ」
「コスプレじゃなくて?」
「なんぞそれは」
「あ、モノホンの方っすか。それで、ここでは何用できたんすかね。どこかに護衛の方でも?」
「わっち一人でだが。一年がなにやら大きな妖気を放つ魔物と戦っておるようなので、助けに参った次第じゃ」
「だからひととせって誰すか」
「む? はっ、ぬおおお!! またやってしもうた! ここではえっと……とと・たぁと? じゃったか。そう呼ばれておったんじゃった。片仮名は覚えづらくて敵わぬ!!」
なにやら一人悶絶している巫女。トト・タートがひととせなる名前で呼んでいるあたり尚更意味が分からないのだが、それよりもここまで一人でどうやって辿り着いたのか、謎がさらに深まるばかりだ。
「して、そなた。魔物の類ではないな。何故姿を隠しておる?」
巫女服を着た少女の独特なペースに困惑する中で、カエルが頭を掻きながら、一歩踏み出した瞬間。少女から突然``少女らしさ``が消え失せた。同時に、背後にいたミキティウスから、今まで感じたことのない切迫した威圧感が走り、カエルも暗澹とした黒い雰囲気を出し始める。
いつもはおちゃらけた、明るくふざけた雰囲気しかない澄連には似つかわしくない変化っぷりに、尚更置いてけぼりをくらってしまう。
「……カエル。コイツはヤバいぞ」
「みてぇだな。人外に片足突っ込んでる。その程度だったらやりやすかったんだが」
「どういうことです?」
「御玲さん、すみませんが下がっててください。ここは俺とカエルが対応します」
ミキティウスは身体に稲妻をほんの少し走らせ、既に臨戦態勢を整えていた。
置いてけぼりを食らって状況が益々読めない。いつもは全く見せない雰囲気を醸し出しているし説明が欲しいのだが、雰囲気からしてそれすらやってくれそうな雰囲気ではない。
彼女からはほとんど霊力を感じず、一般人と大差ないことしか分からないのに、何を焦っているのだろうか。
二人とも守ってくれるように前に立ちはだかる。本当なら嬉しく思うところだが、ぬいぐるみに守られている気がして素直に喜べない自分がいた。
それに、やはり霊力が感じられないせいで、いまいち緊迫感が伝わらない。そよ風すら感じさせない無であるそれが、脳内の疑問符を増やしていく。
「いや、だからの。わっちは敵ではなくて」
「いやぁ、そう言われてもねぇ……そんな完璧な擬態しててなおかつ御玲さんと話嚙みあってねぇのに、それで信じろっつーのは流石に無理あるくないすか」
「確かに今の俺たちはこんなナリではあるが、小娘に気取られるほど落ちぶれてはいない。まさか、俺たちの目を欺けるほどの霊力操作を使えるとはな」
「仕方なかろう! こうでもせんと外に出れぬし、道行く民草に話しかけることすらできぬのじゃ! 姿を変えとるそなたらなら、分かるであろう?」
「そりゃそうだろうぜ? アンタみてぇなのが霊力垂れ流してたら、今頃大国の一つや二つ滅んでるだろうし、人間も軽く億単位で死ぬ。下手すりゃ一日足らずで絶滅だ。擬態するのは当然ってもんさ。でもな」
「問題は俺たちの目も欺けたことだ。敵意がないのは伝わるが、アンタほどなら敵意なんていくらでも隠せる。信用するに値しないな」
いつもふざけてばかりでわけの分からないことばかり言う連中が、いつになく真面目な対応していて拍子抜けするしかない。
いつもこれだけ真面目だったら、と思わずにはいられないが、それを言うために割り込むことを許してはくれない。二人から醸し出される雰囲気が、唇に否応なく糸を縫いつけてくる。
「むー……困ったのう。言葉のかけ合いは無意味、肉体での語り合いを望むか……」
「別に望んじゃいねぇけど、それしか証明材料がないってんなら、そうなるな。その場合、オレとアンタのタイマンってことになるが」
「おい、大丈夫かよカエル。流石にこのナリでタイマンは無理があるぞ」
「知ってる。しゃーねぇだろ? いつかはバレることだ」
カエルは何かを諦めたような、悟ったような表情だった。いつも肌身離さずつけている黒色の眼帯に手をかける。
彼の表情は今まで関わってきて一度も見たことのない顔であったが、それゆえだろうか。背筋が一瞬で冷たくなる。カエルから、濃密な霊力の渦が滲み出始めていたからだ。
それはたった二頭身しかない、小さなぬいぐるみに収まるとは到底思えないほどの、色濃い粘ついた常闇の覇気―――。
「んで、どうする? ここでやり合うか? やり合うならさっさと」
「んにゃ、やらぬ。興味こそあれど信用を得るのなら、一年を呼び戻せば済む話じゃからの」
「……はぁ? いや、ンなことしたら戦線が崩壊」
「一年ッ、一年! こっちゃ来い!」
今から戦う、そんな雰囲気を醸し出していたカエルを何気なく一蹴し、スケルトン・アークと暴走した澄男を事実上同時に相手していたトト・タートを手招きする。
普通に考えて化け物二体を死に物狂いで相手している最中の者に行う態度ではないし、カエルの言う通りここでトト・タートが抜ければ戦線崩壊は確実で、暴走した澄男とスケルトン・アークがここら一帯に災厄をもたらすこととなるのは、どんな阿呆でも分かることである。
流石にそれが分からないような馬鹿でもなし、一体何を考えているのか。
「当主さ……ゲフンゲフン、お、お姉様!? きていらっしゃったんですか!?」
「暇じゃから寄ろうと思っておったのじゃが先約があってのう。そしたらそなたが、なにやら濃い邪気に呑まれて追ったから助けに来たのじゃ。まあ、ちょう来い」
「いや、状況分かりますよね!?」
「分かっておる。大して問題にならぬから、早う来い」
「いや……そりゃあ、そうでしょうけど……はい、分かりました」
なにやら諦めたかのような、悟りを開いたかのような表情で澄男とスケルトン・アークを捨ておき、手招きした巫女へかけよる。気のせいか口調が変わっている。こっちが素だろうか。
「あ……えっと……」
澄男が暴走し、スケルトン・アークが暴れ回っている状況で呼び戻され、しどろもどろになるトト・タート。
今は呑気に自己紹介などしている暇はない。暇はないのだが、巫女からは何一つ焦りというものを感じられない。さっさとやるべきことをやりにいきたいのに、カエルたちから放たれる雰囲気がただならないだけに、動こうにも動けない状況にあった。
「えっと……この方は、ですね。まあ、端的に申しますと……私の姉……っす。名前はモモヨ、と言います」
「うんむ! 改めて、わっちは百代という。敵ではないゆえ、よろしゅう頼むぞ! ちなみにじゃが北支部所属じゃ! 北支部の輩は以後よろしゅう!」
元気良く自己紹介してくれているところ悪いが、何度も言うように今はそれどころではない。周りが見えていないのか、それとも見る気がないのか、段々とイライラが募ってきた。
その反面、カエルたちから滲み出ていた暗澹とした雰囲気が鳴りを潜める。何故だか安心したように、胸を撫で下ろした。
カエルたちのノリがいつものふざけた感じに戻ったのを見計らい、今がチャンスとばかりに話を押し進めることにする。
「……色々言いたいことがありますが、今は捨ておきましょう。それで、あなたは戦える人間と見てよろしいですね?」
いつまでもほんわかしているわけにはいかない。むしろこんなにグダついているのに、こちらになんら影響がないのが不思議だが、まず確認するべきはモモヨと名乗った巫女が、戦力として扱えるかどうかである。
ここまで一人でこられたことや、トト・タートの姉という観点から、ちょっと腕っ節に自信がある程度の弱者ではないと思うが、いかんせん霊力が全く感じられないせいで、大まかな強さが未だに測れずにいた。
「まあ、それなりにはの」
「時は一刻を争います。あなたを援軍と見込んで、私たちとともに澄男さまとスケルトン・アークの鎮圧を」
「んいや、わっちが一人でやる」
思わず「はぁ?」と間抜けな声を出してしまった。トト・タートは額に顔を当て、カエルとミキティウスは何故か当然だというように首を何度も縦に振る。その他、レク、自分、ブルーは唖然として言葉が出てこない。
「見たところ、わっち一人で問題ない相手じゃ。そなたらは回復に勤しむといい」
「……え、あ……ちょ、待ちなさいよ!」
「む? まだ何かあるのか」
一人勝手に行こうとするモモヨという巫女を思わず呼び止める。
自分ひとりで問題ないなどと意味不明なことを言い出され、もう敬語で取り繕うことも面倒になった。
「いや……あなた、戦力比を理解しているの!? 相手の強さは大国すら滅ぼしうる天災級、それも二人よ! 片方は私の主人だけど……人が敵う存在じゃないわ!」
「気持ちはありがたいが、そなたらが相手する方が危ないぞ。死に急ぐようなものじゃし、元よりわっちは負ける気など欠片もないから安心せい」
「はぁ!? いや……死に急いでいるのはあなたの方だし、負ける気がしないって一体どこからそんな自信が」
「あ、あの!!」
どこらへんが安心できるというのか。負ける気がしない。その根拠はどこから湧いて出るのか。
わけのわからないことばかりで、こんな無意義な言い合いをしている暇もないことなど分かっているはずなのに問いかけてしまう自分を恥じていると、さっきまで困惑していたトトが、割って入るように前に立った。
「あの……その。ここはお姉様に任せてくれませんでしょうか……」
「……何故」
「その、もう勝負は速攻でついてしまうと言いますか、私たちが割って入る余地がないと言いますか」
「だからどうして……」
「すみません。それは姉様だから、としか」
理由になっていない。そしてトトの口調が完全に敬語になっているし、色々とツッコミたいことが大量に湧いて出てきて止まらない。
モモヨが姉様だからなんだというのか。それで澄男とスケルトン・アークに勝てるのなら、苦労などないだろうに。
「ひと……こほん。とと、後は任せたぞ!」
「え。あ……はい」
モモヨと名乗った巫女は、もう面倒だと思ったのだろう。妹と思われるトトに全て丸投げして、澄男とスケルトン・アークが暴れ回っている戦禍の中心に余裕綽々と走っていった。
とてもじゃないが、今から怪物二人を相手にしに行く人間の行動ではない。色々とモヤモヤするし、主人は使い物にねらなくなってしまうし、乱入ばかりで本来の任務内容が何だったのかもよく分からなくなっているし、もうこうなったら自分だってヤケだ。ならば説明役に任命された妹を、存分に使い果たすとしよう。
丸投げされ、どう説明しようかと考えているトトに、容赦なく詰め寄る。霊力の影響で動けないレクやブルーも詰め寄りこそしないが、説明しろという熱視線を躊躇なしに浴びせてくる。
「本当に……本当にもう……! ウチの当主様は!」
トトは深いため息とともに、額に顔を当てたと思いきや、猫耳パーカーを脱ぎ捨てた。パーカーを脱ぎ捨てたのだから裸になってしまうのかと思いきや、そんなことはない。彼女はパーカーの下に``あるもの``を着ていたのだ。
それは任務遂行前、南支部の執務室にある木造箪笥で見かけた―――。
「お話しますよ、ええ! い、も、う、と、の! 私がね!」
巫女服を着たトト・タートの地団駄が、虚しく響いたのだった。
百代と名乗ったその巫女は、全ての面倒事をトトに丸投げし、好き放題暴れ回る澄男とスケルトン・アークに近づく。
彼女からは一片の焦りも感じられない。山奥に登山がてら、軽くピクニックに来たような足取りで、今にもレジャーシートを地面に敷いて、弁当箱を開きそうな勢いであった。
「もしッ、もし。そなたは確か、朝方に北支部の駐車場で会うた奴よな?」
全身から赤黒い霊力を吹き出し、獣のように吠える澄男。しかし百代は全く動じない。むしろつい最近知り合った知り合いに、久しぶりに話しかけ、他愛ない雑談に興じようとしているほどのフランクさである。
「むー……理性が飛んでおる、か。なにやらもう一つ別の、禍々しい魂も感じおるし、これは少々、荒療治が必要かのぅ。ではまず」
実質天災が二つ渦巻く戦場で、呑気に腕を組み思考に耽るが、それも束の間。彼女の所作に迷いなど一切ない。頭上に浮かぶ、紅い魔法陣を一瞥する。
―――``かの歩みの所、一本道故零れ梅``
―――``至る所に、何処に鈞天``
刹那、大空を支配していた紅い魔法陣は、跡形もなく粉々に砕け散った。霊力を必要とせず、怨念のみで常闇に包まれた天空を支配していた魔法陣は、その産声をあげる目前で儚く終焉を迎えたのだ。
何故なのか、それを説明できる者はこの場にいない。真意を知るは、目の前の巫女ただ一人だけである。
スケルトン・アークが奇声をあげた。山々の木々を倒し、大地を引き裂き、空を飛ぶ鳥たちを墜落させ、闇の瘴気で逃げ行く野生動物を昏倒させる。そして、漆黒の大剣を真上から容赦なく振り下ろす。
闇の霊力がたっぷり込められた、骸骨巨人の一撃。大地はひび割れ、衝撃波で木々は薙ぎ倒される。人間はおろか、生き物ならどんなものでも跡形もなくなるであろうその一撃は、年端のいかぬ少女にすぎない百代の身体を粉々に砕いた―――。
と、思われた。
スケルトン・アークの攻撃は確実に彼女の脳天を捉えていた。本来なら漆黒の大剣が彼女の小さい身体に抉り込み、彼女の脳を真っ二つにし、骨を砕き、臓腑を炸裂させることだろう。人間が、生き物が、人外の化物が放つ、大地を破る攻撃に耐えられるわけがないからだ。
しかし現実は違う。
砕け、その身を炸裂させたのは、スケルトン・アークが装備していた大剣の方だったのだ。
漆黒の大剣は跡形もなく砕け散り、衝撃は大剣だけでなく、スケルトン・アークにすら蝕む。両腕をも粉砕され、スケルトン・アークは耐え切れずにその場で倒れ込んだ。厳密には体幹では耐えられないほどの衝撃を受けて、吹き飛ばされてしまったのだ。
「そなたからは……言い知れぬ怒り、悔しさ? を感じる。それが今の姿なのじゃろうが……感情は吐き出すが吉ぞ。わっちが受け止めてやるから、そなたの心、わっちにぶつけてみせるがよい!」
もはやスケルトン・アークなど眼中にない。あるのは暴走した澄男のみ。スケルトン・アークの大剣振り下ろし攻撃をノーガードで頭から受け切ってなお、ハキハキとした笑顔で澄男に向かって身体を構えた。
地鳴りのような咆哮とともに、四足歩行となった澄男は大地を蹴りあげる。
竜人化した澄男の肉体能力は尋常ではない。蹴り上げられた大地は剥がれ、山のように聳り立つ。
地面を蹴り上げて走る澄男の速度は、対戦車ミサイルなど優に超える。衝撃波で山肌を削り、木々を粉々にして一瞬のうちに百代の間合いへと入り込む。
その間、およそ一秒に満たず。人間の反射神経の限界は〇.一秒とされているが、それよりも短い時間であろう。いかなる達人でも人間である限り反応できない、純然たる人間の限界を超えた速度。一人の少女に、当然対応できるはずもない。
「ほいっと!」
できるはずもない。この世に存在する、誰もがそう思ったであろう。
人間の条件反射すらも超えた速度で暴走する澄男だったが、真正面に立っていた百代は、気がつけば彼の真横に移動していた。そしてその勢いそのままに、突っ込んできた澄男の足を払って腕を掴むと、ぐるんと一回転させる。
そのまま勢い良く背中から地面に叩きつけられ、地面に大きなひび割れが生じた。
カハ、と乾いた悲鳴をあげる澄男だったが、百代は素知らぬ顔だ。むしろ不満げですらあった。
「そなた、やはり力は強いが使い方がなっとらんな。そんな愚直な使い方をしていては、今のように投げ技でかわされたとき、どうするつもりじゃ?」
怒りで我を忘れている相手に冷静なツッコミ。無論それで澄男が我に帰ることなどなく、彼の猛攻は続く。
力一杯の殴る蹴るの応酬。四足歩行ゆえにその動きは極限までに野生的で、獲物を狩る肉食獣を彷彿とさせるが、百代はその全ての攻撃を涼しい顔で受け流していた。
彼女はその場から一歩も動いていない。腕や脚、腰など。身体の動かせる所を全て使って、必要最低限の所作で澄男の理不尽な攻撃をのほほんとした顔で弾いていく。
衝撃波などで地形は悲鳴をあげているものの、百代本人は隙を見て懐からおにぎりを取り出し、それをもぐもぐ食べる余裕すらある始末である。
「むむ……これは酷い。それだけの力を持ちながら、そのほとんどを無駄遣いしておるとは。爺がおったら怒髪天を衝いて拳骨をくらっておるじゃろうのう……」
おにぎりを食べ終え、指についた米粒を呑気に舐めとる百代。その態度からは嘆息と落胆が滲み出ていた。
人智を超えた格闘戦が繰り広げられてなお、百代には巫女服に乱れも汚れも一つない。戦う前と変わらぬ白さが、そこにあった。
「だが、そなたの想い、しかと受け取った。その怒り、わっちが鎮めてやろうぞ」
さっきまで吹き飛ばされていたスケルトン・アークがようやく立ち上がる。
腕の修復が完全に終えていないが、口腔部から漆黒の球体を練り上げる。濃密な闇属性の霊力で構成された、高密度霊力弾。放たれれば周囲は濃い闇に侵され、しばらくは人や野生動物が近づくことすらできない暗黒領域と化すだろう。
当然、人に当たればひとたまりもない。確実に骨すら残らずこの世から消滅してしまう。
だがそれだけではなかった。スケルトン・アークに触発されたように、澄男もまた霊力を練り上げ始めたのだ。
スケルトン・アークと同等の霊力、それも荒ぶる炎の乱流が、あたり一面を業火の海に飲み込んでいく。
闇と炎が支配する災厄の渦中、百代は呑気に嘆息していた。彼女の周りに荒れ狂う霊力の嵐など、全く意に介していないように。そして―――。
天災は、容赦なく放たれた。
少女一人消し炭にするには、あまりにも過剰な攻撃。下手をしなくても国の一つや二つ更地になってもおかしくない霊力の奔流が、それも黒と赤の二本、彼女を跡形もなく消そうと迫る。
漆黒の霊力と、豪快に燃え滾る紅き霊力。その二つがぶつかり合い、相乗効果で威力は倍、全てを破壊し尽くす混沌の濁流と化す。
「高出力なだけの霊力など無意味ぞ!」
化す、はずだった。
その光景は異様であった。本来なら全てを無に帰するほどの霊力であるはずなのに、その霊力は何故か、彼女の左腕に吸収されていく。
紅い霊力も漆黒の霊力も、その破壊力が産声をあげる暇もなく彼女の左腕に全て貪り食われる。まるで彼女自身がブラックホールにでもなったかのように、それらは全て彼女へと収束した。
「格闘戦ができる者に対して無策に蓄積霊力を放つなど、その隙に殴ってくれと言っているようなものぞ! 少しは考えて戦わぬか! 力の無駄遣いにも程があるわ!」
怒りに我を忘れている相手に些か理不尽な言い分ではあるが、それが正しいのだから、誰も何も言うまい。その隙を見逃したのは、彼女に明らかに敵意がないからであり、それに―――。
「よいか。よぉくその心に刻むがよい。霊力とは、こう扱うのじゃ」
左腕に紅と黒の霊力を渦巻かせながら、目を閉じる。そしてカッと見開いた次の瞬間。
空間が歪んだ。音という音、光という光、この世に存在する物体の流動、時間と空間。その全てがほんの一瞬だけ停止したのだ。
周囲を焼き尽くしていた業火は一瞬で消え、空を覆っていた闇の天幕は消滅。再び時が動き出したそのとき、世界は完全なる静寂に支配された。
存在するのは百代、更地となった山肌、倒れ地に埋もれた木々、禿げた大地、無風の世界。そして石像のように微動だにしない四足歩行の澄男のみであった。
スケルトン・アークの姿はない。どうなったかは考えるまでもないだろう。簡単だ。跡形もなく消滅したのだ。百代と名乗る、一人の少女が放った絶大な``霊圧``によって。
「んぁー、それとじゃ、わっちがそなたらより吸収した霊力。何故腕に貯めたか、分かるかの? こうするためじゃ」
百代は左手を右から左へ振った。側から見れば何をしているのか、皆目分からない所作だ。動作としては左手で相手の右の頬を叩いたようなものだったが、その手は空を裂いていたが、変化が起こったのは一コマ後のことであった。
「グガッ!!」
地面の表層を削り、倒れた木々さえも粉々にするほどの衝撃波とともに、その場で動けず小刻みに身を震わせていた澄男が吹き飛ばされたのである。
竜人化し、身体能力が限界突破した身でありながらも、なすすべなく。彼はボールのように転げ回った末、御玲やレクたちの前で事切れた。
死んではいない。再生能力があるから、怪我もしていない。ただ気絶しただけである。
「これにて、任務完了……じゃな!」
後に残ったのは、朗らかな笑顔で終戦を宣言する、天真爛漫な巫女ただ一人だけであった。
何事も、最も忙しくなるのは戦後である。
戦後処理の作業量は戦いの規模に依存する。元々大規模な戦いなど想定していなかったレク・ホーランとトト・タートは、その処理に悩まされることとなった。
巫女姿となったトトを尻目に、荒れ果てた荒野と化した山肌を呆然と眺める。
南支部の裏手の山はヘルリオン山脈の一部だが、本来は草木溢れる未到の自然界であった。
しかしスケルトン・アークの出現や澄男の暴走、百代と名乗るトトの姉の参戦により、戦前の自然は見る影もなくなり、禿げた山肌が露わとなってしまった。
さらに言うなら霊力の濃度も異様に高くなっており、このままでは未知の魔生物の温床になりかねない上、草木が消滅したため南支部を中心とする人里が、土砂災害や水害の影響を受けやすくなってしまっていた。
合同任務の責任者として、背負えるキャパシティを大幅に超える二次被害を出してしまっている。
「なんじゃそなたら、神妙な顔を並べおって。任務は果たせたというに」
レクやトトの苦悩など露にも知らず、能天気に歩いて帰ってきた百代は、これまた呑気に懐から肉まんを取り出し、それを勢いよく頬張った。
この空気の中、よくもまあ能天気に飯が食えたものだと誰もが思ったが、お首にも出さない。レクもトトも、そして御玲も理解しているのだ。この手の人種に、空気を読めと言っても無駄なことなど。
「しかし珍妙な輩よな。手加減したとはいえ、わっちの霊力びんたの衝撃波を真面にくらって傷一つないとは。尋常ならざる治癒能力ぞ」
百代とは別にもう一人、この惨状を作り出した張本人である澄男は、百代の``霊力びんた``なる一撃を受けて、間抜けにも伸びていた。身体も普通の人間の姿に戻っている。
「いま澄男さまに起きられると面倒なので、しばらく寝ててもらいましょう。それで……」
百代以外の全員が、主人をそんな雑に扱っていいのかと思いながらも、御玲が見渡す壮観となった景色に、誰もが澄男から視線を外し、肩を落とした。
綺麗さっぱり禿げてしまった南支部の裏手の山。景観が損なわれたというレベルでは既になく、人の手では修復不可能な規模の損害である。
植林などする予定のなかったレクとしては、打つ手がない、というのが本音だった。
「ふむん。なれば、わっちがなんとかしてやろう」
無い胸を堂々と見せつけてくる百代。
直すと言っても、人一人でなんとかできるものではない。数百人規模で植林して、数十年以上世話し続けて、やっとどうにかできるかというスケールの話である。
唐突に何を言ってんだと言いたくなる気持ちを、強く抑える。
「そう難しくもあるまい。これほどの霊力が満ちているのじゃ。根や種があれば、また生える」
「いやだから……」
「ええい、黙って見ておれぃ!」
説明を要求したが虚しく、少女の気迫に満ちた一喝に口が縫われた。
自分よりも年下の少女に黙らされたのは男として不甲斐なさを感じなくもないのだが、そんなことよりも彼女が何をしようとしているのか。それが純粋に気になった。
トトは、百代をじっと見つめている。その目に邪念は一切なく、まるで師を仰ぐ弟子のように真剣そのものだ。彼女は百代のことを姉と言っていたが、その関係はただの姉妹関係で片付けられない何かがあるのか。気になるところではある。
ブルーは完全に眉唾だと思っているようで、やれるもんならやってみろって感情を、顔や態度からありありと表現している。
ブルーに関しては想定通りなので今更何も疑問には思わないが、一方で御玲は表情が硬いものの、視線は百代一点に集中していた。
眉唾と思っていながらも、内心気になってはいるようだ。肩に乗っているカエルのぬいぐるみと青色のロン毛の少年となにやら話し込んでいたし、その影響だろうか。
総じてブルーを除いてみんな百代がやろうとしていることに気になっているようだ。この惨状を本当になんとかできるなら、それはそれで凄まじいことだと内心ワクワクするのも無理もない話だろう。
「植物とは、まず種子から成る。そして土に根を張って芽を出し、天より出でし陽光を、その葉で以って成長してゆくのじゃ。そして―――」
なにやら独りぶつぶつと講義を語る百代。ブルーの「グダグダいってねーではやくしろよ」という気迫を背後から受けつつ、彼女の所作を窺う。
時間稼ぎをしているようにも見えるが、彼女の顔から感情の変化は一切見られない。あたかも素で語っているような感じだ。
もしも焦りなどを感じさせないようにしているなら飛んだ演者だが、自分の洞察力から察するに、彼女はあくまで素のように思えた。
長い長い講義が終わり、ようやく何かをし始める。背後からのブルーの苛立ちが臨界点突破寸前だったところを考えると、ギリギリ急かさずに済んで良かったと胸を撫でおろす。
「では、始めるとするかの」
百代の一声で、長い長い講義で緩んでいた空気が、一気に急変した。
空気が重く感じる感覚。息を吸うと肺に錘が入ったかのような錯覚すら感じさせる。苦しいというわけではないが、息を吐こうとすると吐きにくい。息を吐いても、肺に残っている濃厚な感覚だ。
しかし変化はそれだけではなかった。
ほんの少しばかりの息苦しさを感じさせながらも、周囲の観察を忘れない。それが功を奏したというべきか。無数の青白い光の点々が、空を泳いでいたのだ。
「な、なんだ……これ」
長い長い任務請負人生活をもってして、いま視界に広がる光景は、一度たりとも見たことがない。そう断言できると思った。
空から大地、その全てに至るまで辺り一面を覆い尽くすは青白い蛍のような儚い光。それらは空を泳いで百代の周りを舞う。まるで蛍が百代の周りを飛んでいるようにも思えるが、今は昼間で蛍が目立つような時間帯ではない。それにあの青白い蛍のようなものからは、生物とは全く別の気配を感じさせる。
感覚からして、青白くフワフワしたものは霊力だ。高密度の霊力が、何らかの力によって球体状に濃縮され、百代の周りを浮遊しているのである。
本来霊力は目に見えないもので、蛍のように可視化できるものではない。もしも可視化されているとしたら、それは術者によって意図的に大気中の霊力分布が操作されていることを意味する。
言うだけなら簡単だが、大気中の霊力分布を操作するなど、魔術師はおろか高名な魔導師でも、できる者はいないだろう。普通に考えて、体の外にある霊力は誰のものでもないのだから、操れるわけがないはずなのだ。
百代は黙々と作業をしている。霊力の球体はしばらく浮遊していたが、手を振り下げた瞬間、青白い光ががすっと地面の中に埋もれていった。
だが本当に言葉にならなかったのは、次の瞬間だった。
「は……はぁ!?」
流石に、これはもう声を荒げるしかない。
浮遊していた霊力の粒子群が地面に埋もれた直後、まるで時間を倍速化させているかのように地面から無数の植物が生えてきたのだ。
ただの雑草から樹木まで、全ての植物が一気に生え揃う異様な景色。植物はそれぞれの成長過程を経て荒野を埋め尽くし、味気ない茶色を雑草たちや新しく生えた森の木々たちが、瑞々しい緑色で彩っていく。
もう、その様を呆然と眺めることしかできない。
いま目の前に起こっている出来事は、まさしく神の身技。人間の知識通念では説明できない、純然たる超常の力によって成せる秘奥であった。
「ふぅ。こんなものかの。どうじゃ? これで困りはしなかろう」
彼女の謎の身技により、禿げた山肌と荒野は、一瞬にして元の彩を取り戻してしまった。
本来なら完全修復に数百年はかかるであろう被害が、ものの数分で元通りになってしまったのだ。もう、何も言えることがない。彼女の全てが、この場にいる全ての者の理解力を超越したのだ。
「あ……え? いや、え?」
「ど、どーゆーこったよ、わけわかんねー……」
「これは……なるほど」
未だ現実を受け入れられず困惑するレクたちをよそに、御玲(みれい)はため息をつきつつ、トトに視線を投げる。
「それだけのことができる能をお持ちの方。そう割り切るしかない、ですか」
トトは真剣な眼差しで明確に首を縦に振った。
「むむ。まだ何か問題か? もしや、少し育てすぎたか? 望むなら剪定するが?」
「いやいやいやいや、もういいもういい!! 十分だから!!」
「そ、そうです当し……じゃなくて姉様!! その、そろそろ戦後処理をですね!!」
能天気な顔で、剪定しようかなどと言ってくる巫女に、もはやこれ以上の奇想天外はお呼びでない。もはや誰も、立て続けに起こる予想外の出来事たちにお腹いっぱいであった。
「さて、とりあえず詳しい話やらなにやらは南支部で聞くから、どっか行くなよ。まずはむーさんと合流……ってあれ?」
「むーちゃん! おかりー!」
ようやくゴタゴタがひと段落したところで、もう一匹の主要人物を思い出す。``骸骨の軍勢``をたった一匹で相手していたはずのむーちゃんである。
相手の総数は、五百。肉体能力も当然ながら全能度四桁級であるし、必要なら合流して手助けをと思ったのだが、むーちゃんは小さい百足となってちゃっかりとブルーの下へ帰ってきていた。
「む、むーさん? まさかだけど、あの軍勢をたった一匹で……?」
「ええ、そうですが、なにかもんだいでもありますか。ってさ」
「……はぁ? いやいや、そんなあっさりしてる相手じゃ……いや、もういいか……」
その端的な答えに、もう額に手を当てることしかない。流石に今回ばかりは、キャパシティオーバーである。
「澄男さまは私が担いでいきます。南支部へ戻りますか」
「おう。今回は流石に色々ありすぎた。とりあえず帰って状況整理するぞ。協力してくれるよな? トトに百代とやらも」
「は、はい。そのつもりっす」
「いいぞ。暇じゃからの」
御玲は澄男を担ぎ、カエルたちは御玲の肩に乗り、レクはブルーとともに、トトは百代とともに帰途に着く。
まだ任務は終わらない。予想外のことばかり起きた、今回の任務。状況整理のための、最後の話し合いである。
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