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覚醒自動人形編 下

プロローグ:愚弟の理想

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 僕には、友達がいない。

 流川るせん本家の当主候補として生まれた僕は、生まれてからの十数年間、来るべき戦いのため、母さんに日夜修行に付き合わされていた。

 兄さんには戦いの才能があった。僕より何倍もの霊力を持ち、何倍もの体力を持ち、何倍もの力があった。もう幼少期の時点で、身体能力が人類の種族的限界を突破しつつあったほどに。

 その点、僕は戦いの才能には恵まれなかった。常勝無敗の戦闘民族の一人として生まれたのに、僕には戦場に立ち、戦う力がなかったのだ。

 修行だって一生懸命こなした。でも、どう足掻いても兄さんのように強くはなれなかった。

 でも、そんな僕にも才能があった。それは本家の者には似つかわしくない``発明``の才能だった。

 僕は研究が好きだった。自分の力で、この世にまだ存在しない全く新しい何かを創り出す。僕には、それができるだけの能力があった。

 無論、流川るせん本家は戦場に立ち、勇猛果敢に戦う民族。その才能は、漏れなく来るべき戦いのために活かされる。

 僕の才能は、まず分家派に高く評価された。かつて流川るせん本家の専属技工士だった流川るせん久々ひさひさおじさんによって、僕が遊び半分に書いた論文が評価されたのが全ての始まりだった。

 その論文は、世界の魔法科学技術を一新するほどの凄まじいものだった。流川るせん家の軍事力でさえも革新してしまうほどに。

 この功績が、僕の人生を決定的なものにしたのだ。久々ひさひさおじさんの下で粗方修行を終えた僕は、久々ひさひさおじさんの跡を継ぎ、正式に流川るせん本家専属技工士の座を手に入れた。

 だが同時に、僕の存在は世界から秘匿された。

 僕の存在そのものが、いわば世界を根底から変えてしまう技術力そのものだ。環境と僕の二つが揃うだけで、世界の全てを手に入れられる力を手にできる。

 そうなれば、色んな奴から命を狙われる。下手に外に出れば、誘拐されてしまう可能性があった。誘拐されれば抵抗する力を持たない僕なんて、されるがままだ。

 流川るせんのために自害するか、言いなりになるかの二択しかないだろう。

 だから僕は自分の才能と引き換えに、外の世界とは隔絶して生きる道を選んだのだ。その決断に後悔はしていない。僕は研究さえできるのなら、好きなことさえできるのなら、人とのつながりも外の世界との繋がりも、全部要らなかったから―――。

 でも、やはり人との繋がりがないというのは張り合いがないものだ。

 退屈ではないが、時々刺激的な何かが欲しくなる。ずっと研究施設に引きこもっていると、どうしても刺激不足になりがちだった。

 そんなとき丁度いい娯楽として有用だったのが、市販のラブコメの漫画だった。

 分家派に頼んで巫市かんなぎしからこっそり買ってもらった漫画たちの中に、ある日突然ひょんなことから出会った謎の出自のヒロインと同棲生活を送ることになり、色んな騒動に巻き込まれながら、主人公と相思相愛になっていくといった作風のものが何作かあった。

 そのヒロインは大概宇宙人だったり、異世界から来た何かしらだったりするのだが、中にはアンドロイドもあった。

 大体アンドロイド系のヒロインは統計的に悲壮な過去を持っている場合が多く、物語の進行にしたがって、その過去が少しずつ詳らかになっていくのが常だが、その過去を主人公とともに力を合わせて清算し、絆を深めていく物語に僕は強く憧れた。

 僕には出会いがない。外に出られず、死ぬまで本家領で過ごすと決めた僕に、異性との出会いは絶望的だ。

 大体この手のヒロインは、空から降ってくる、異世界から突然やってくるなどが多いが、こと流川るせん本家領において、そんな奇想天外な事態は起こりえない。

 まず防空圏に侵入した未確認飛翔体は、久々ひさひさおじさんや僕が創った流川るせん本家の防衛システムにより、自前の地対空ミサイルで跡形もなく排除されてしまう。

 転移阻止の魔法がかかっているから、異世界から僕の部屋に繋げるなんてこともできない。逆に僕から異世界に繋げるって真似ならできると思うけれど、正直得体のしれない異世界と僕の部屋を繋げるなんて危険極まりないし、怖がりな僕としては、それはそれで気が進まないやり方だった。

 ともかく十五年生きてきて、そんな女の子との出会いはない。魔法や霊力、科学の概念があるこの世界なら、ラブコメ漫画みたいなことが起こっても不思議ではないのに、十五年生きてきて一度も起こらないとなると流川るせん本家領にいる限り、僕にはあらゆる出会いが絶望的であると理論的に帰結するほかない状況だ。

 そうなると話は変わってくる。出会いがないのなら、自らその手のヒロインを創造する、という話へと。

 幸い、僕には才能があった。発明するという才能が。出会いに関しては絶望的に恵まれない僕だが、その部分を補うように、僕は思ったものを現実に創り出せる技術力を持っていた。

 だったら簡単のことじゃないか。創ればいい、女の子を。自分が理想とする、最高傑作のヒロインを。そう考えれば出会いを待つよりずっと簡単なことだと、すぐに思えたのだ。

 でも現実は僕に容赦なく牙をむく。構想を練るだけなら簡単だが、流石の僕でも人間に限りなく近い存在を人為的に創り出すのは難しかった。

 まず当然のことながら、この世界に人工生命の創造などという神の如き技術の基礎理論など存在しない。あまりにもオーバーテクノロジーすぎて、夢のような話だからだ。

 となると、基礎理論から作る必要があった。

 人間に限りなく近い存在、いわば人工生命の創造。ただの魔生物を創り出すのとは次元が違う。意志を持ち、知能を持ち、思想を持ち、人格を持つ生き物。それを創り出すために、流川るせん家にあったあらゆる文献を読み漁った。

 そこで辿り着いたのが、霊子コンピュータだった。

 遥か太古の昔。二千年間続いた``武力統一大戦時代``よりもずっと昔。超古代文明``カンブリア``と呼ばれたその時代に、究極のスーパーコンピュータが存在した。

 文明が滅びるきっかけとなった大戦で、その技術は既に失われていた。二千年もの間、その技術を呼び覚ませた者は誰一人いなかったのだ。

 流川るせん家の文献でも、詳しいことは分からなかった。霊子コンピュータに関する歴史的記述は、そのほとんどが大戦の業火で失われていたからだ。

 だがわずかに残った記述の中に、こんな記述があった。

 霊子コンピュータを手にした者は、世界の理を知る。それすなわち、世界の法則すら、その手に治められることを意味する。と―――。

 そのとき、僕の頭に天啓が下ったような気がした。僕が復活させるしかない。そう思えてならなかったのだ。

 僕が世界の法則をその手に治めれば、人工生命の創造も夢じゃない。僕の理想とするヒロインたちを創造できるかもしれない。

 復活させた霊子コンピュータで創った者たちを、僕の新たな``仲間``とする。僕が自分の力で創り出した僕だけの``仲間``として、彼女たちを迎え入れるのだ。

 そこまで考えたとき、モチベが天井知らずの状態にまで高まった。

 もうこうなったら誰にも僕を止められない。まだ見ぬ``仲間``のため、世界の法則その全てを手に入れることに心に決めた。

 僕に不可能はない。力仕事さえ絡むことがなければ、世界の法則をその手に治めることなんて簡単だ。むしろ兄さんと修行する方が、難易度が馬鹿高く感じる。

 さあ始めようか。全ては僕と、僕だけの``仲間``の楽園を築くために―――。


 こうして僕の一大研究事業は始まった。だが同時に、無意識ながら思っていたことが一つあった。

 ある日突然主人公の前に現れる美少女アンドロイド。僕一人で研究するでも十分事足りるが、心のどこかで「そういう助手が欲しいな」と思っている自分がいたのは言うまでもない。

 霊子コンピュータが創れれば、その助手も一緒に創ればいい。それまでの辛抱だ。そう言い聞かせ、己の本音を押し殺して―――。
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