28 / 41
好きなもの、好きなこと
しおりを挟む
高速道路、ちょうど万博公園の太陽の塔が見えたあたり──で、私は目を覚ます。
楢村くんの車の助手席、あたりは夕方のオレンジ色。
波長の長いその色が、季節が秋になってきていることを目に鮮やかに映し出す。
「……ごめん、寝てた」
「寝とったら。疲れたやろ」
楢村くんはまっすぐに前を見ながら言う。私は軽く首を振って、ドリンクホルダーにある緑茶のペットボトルを手に取った。ごくごくと飲み干す。
(……楽しかった)
ぼうっと流れていく景色を見つめながら、そう思う。フルーツたっぷりのかき氷も美味しかったし、猫かわいかったし、神社もびっくりしたけど楽しかった。
そもそも車乗ってるの好きだし──
(あれ?)
私は楢村くんの横顔を見る。横顔のラインが綺麗なの、羨ましい──と、それはいい。そうじゃなくて。
「楢村くん、あのさ」
「なん?」
「私が猫好きなの──お母さんとかから、聞い、た……?」
楢村くんはしばらく黙る。それから口を二回、開いた。
「……う」
ややあって、
「ん」
私は何度か目を瞬いて──それから顔を覆いたくなる。
(今日の、で、デー……おでかけ)
頬が熱い。反対側を向いて、夕空を見つめる。
(私の、好きなもの、で──)
かき氷が好きって言ったから、かき氷。
猫が好きって知ったから、猫カフェ。
ドライブが好きって言ったから、京都までドライブ──
(ぶ、不器用……っ)
楢村くん、不器用だ。
へんなの、セフレ作るくらいなんだから女慣れしてるはずなのに……不器用だ!
三回、深呼吸した。
それから小さく口を開く。
「あ、りがと……」
「!!」
楢村くんがびっくりしてて、私はそれにびっくりする。
「な、なに? 楽しかったんだからお礼くらい言うでしょ!」
「……っ、楽しかったん、やな?」
「……!」
口が滑った! 口が!
慌ててごまかすように、言葉を続ける。
「あっと、神社はなんで?」
「……一緒に行った友達と、こないだたまたま飲んで。あそこが恋愛成就で有名になってるって聞いて」
「恋愛成就……さっきも言ってたけど」
首を傾げた。
「あの。もしかしてさ、恋愛とか、……してるの?」
「ん」
楢村くんは頷く。
……えっと。
「ば、ばかなの!? なんで私と結婚するの!? ていうか結婚するのに成就してどうするのー! 不倫はダメでしょう!」
言いながら胸の痛みに耐える。
なにそれ、なにそれ、なにそれ!?
「──瀬奈やで」
「え?」
「俺が恋してんのは、瀬奈だけや」
ぎゅっと手を握りしめる。
また、そんなことを──言って──信じない。信じないぞ。騙されてなんか、やるもんか。
ふ、と車が減速を始める。ぱっと前を見ると、渋滞のテールランプが並んでいた。
「事故渋滞っぽいな」
カーナビを見て、楢村くんは言う。
完全に停車した車内で、楢村くんは私を見て。
「顔、真っ赤やで瀬奈」
「──っ」
「そろそろ素直に陥落してくれてもええと思うんやけど」
「っ、しない、そんなの、しない」
「……ごめんな」
楢村くんがハンドルを強く握る。
「俺が、俺がアホやったから。瀬奈に最低なことしたから」
「……わかってる、ん、じゃん」
言いながら、思う。
抵抗しなかった、ちゃんと言葉にしなかった私も悪いんだって。
なのに──楢村くんは自分一人が悪いみたいな言い方をする。
(それはつまり、──やっぱり、楢村くんに当時気持ちがなかったから)
そうしてそれを、なにがきっかけか分からないけれど、ずっと自分を責めて──いて。
その償いを今、しようとしてくれていて。
だって、まだ──私が楢村くんを好きなのは、表情で丸わかりだと思うから。
「なあ瀬奈、ほんまに好き」
ぎゅっと手を握られる。
「ほんまはな、ロマンチックなプロポーズをするつもりやってん」
「ろ、ロマンチック……!?」
「なんで皆してそんな顔するんや」
楢村くんは自分の頬を軽く撫でて、それから私に向き直る。
「けど多分、瀬奈を呆れさせるだけやと思うから」
「呆れたり、しないけど……」
「ほんま? バラの花びらを敷き詰めた夜景の見えるホテルで、バラの花束差し出しても笑わへん?」
「え!? なんで!? どうしてそんなこと思い付いたの!?」
「……ええんや、どうせ俺はマグロとか釣っとったらええんや」
「マグロ……?」
「とにかくな、もう俺は瀬奈を手放さんし、死ぬまで想い伝え続けて瀬奈が素直に俺に陥落するのを待つことにしたんや」
「そんな日は来ないけど」
「来させてみせるわ」
ぐい、と引き寄せられて──こめかみにキス。
「愛しとる、瀬奈」
「──っ」
ぷい、と顔を逸らした私の頭を楢村くんが撫でる。髪を少しくしゃくしゃにして。
その手の温かさが、どうしても──愛おしく思えてしまって。
そんなことしたくないのに、私は微かに彼の手に擦り寄ってしまう。
「──あ、かん。可愛すぎか」
「っ、な、なにが!?」
慌てて身体をずらした私の太ももに、楢村くんが手を置く。
「あの、楢村くん?」
「動かへんなあ、クルマ」
「えっと、あ、うん……」
居並ぶ車列。
空は少しずつ、藍色を深めつつあって──
つ、と楢村くんの指が動いて、スカートをずり上げる。
「な、楢村くん?」
「すべすべやんな、瀬奈の足」
「す、すべすべ……っ!?」
太ももをゆるゆると撫でながら、その指が少しずつ内腿に向かっていく。
「ぁ……っ」
くすぐったさの中にたしかに感じる甘い疼きに、私はきゅっと眉を寄せた。
下着のクロッチ越しに、きゅうと肉芽を摘まれる。
「ひゃあんっ!」
楢村くんの車の助手席、あたりは夕方のオレンジ色。
波長の長いその色が、季節が秋になってきていることを目に鮮やかに映し出す。
「……ごめん、寝てた」
「寝とったら。疲れたやろ」
楢村くんはまっすぐに前を見ながら言う。私は軽く首を振って、ドリンクホルダーにある緑茶のペットボトルを手に取った。ごくごくと飲み干す。
(……楽しかった)
ぼうっと流れていく景色を見つめながら、そう思う。フルーツたっぷりのかき氷も美味しかったし、猫かわいかったし、神社もびっくりしたけど楽しかった。
そもそも車乗ってるの好きだし──
(あれ?)
私は楢村くんの横顔を見る。横顔のラインが綺麗なの、羨ましい──と、それはいい。そうじゃなくて。
「楢村くん、あのさ」
「なん?」
「私が猫好きなの──お母さんとかから、聞い、た……?」
楢村くんはしばらく黙る。それから口を二回、開いた。
「……う」
ややあって、
「ん」
私は何度か目を瞬いて──それから顔を覆いたくなる。
(今日の、で、デー……おでかけ)
頬が熱い。反対側を向いて、夕空を見つめる。
(私の、好きなもの、で──)
かき氷が好きって言ったから、かき氷。
猫が好きって知ったから、猫カフェ。
ドライブが好きって言ったから、京都までドライブ──
(ぶ、不器用……っ)
楢村くん、不器用だ。
へんなの、セフレ作るくらいなんだから女慣れしてるはずなのに……不器用だ!
三回、深呼吸した。
それから小さく口を開く。
「あ、りがと……」
「!!」
楢村くんがびっくりしてて、私はそれにびっくりする。
「な、なに? 楽しかったんだからお礼くらい言うでしょ!」
「……っ、楽しかったん、やな?」
「……!」
口が滑った! 口が!
慌ててごまかすように、言葉を続ける。
「あっと、神社はなんで?」
「……一緒に行った友達と、こないだたまたま飲んで。あそこが恋愛成就で有名になってるって聞いて」
「恋愛成就……さっきも言ってたけど」
首を傾げた。
「あの。もしかしてさ、恋愛とか、……してるの?」
「ん」
楢村くんは頷く。
……えっと。
「ば、ばかなの!? なんで私と結婚するの!? ていうか結婚するのに成就してどうするのー! 不倫はダメでしょう!」
言いながら胸の痛みに耐える。
なにそれ、なにそれ、なにそれ!?
「──瀬奈やで」
「え?」
「俺が恋してんのは、瀬奈だけや」
ぎゅっと手を握りしめる。
また、そんなことを──言って──信じない。信じないぞ。騙されてなんか、やるもんか。
ふ、と車が減速を始める。ぱっと前を見ると、渋滞のテールランプが並んでいた。
「事故渋滞っぽいな」
カーナビを見て、楢村くんは言う。
完全に停車した車内で、楢村くんは私を見て。
「顔、真っ赤やで瀬奈」
「──っ」
「そろそろ素直に陥落してくれてもええと思うんやけど」
「っ、しない、そんなの、しない」
「……ごめんな」
楢村くんがハンドルを強く握る。
「俺が、俺がアホやったから。瀬奈に最低なことしたから」
「……わかってる、ん、じゃん」
言いながら、思う。
抵抗しなかった、ちゃんと言葉にしなかった私も悪いんだって。
なのに──楢村くんは自分一人が悪いみたいな言い方をする。
(それはつまり、──やっぱり、楢村くんに当時気持ちがなかったから)
そうしてそれを、なにがきっかけか分からないけれど、ずっと自分を責めて──いて。
その償いを今、しようとしてくれていて。
だって、まだ──私が楢村くんを好きなのは、表情で丸わかりだと思うから。
「なあ瀬奈、ほんまに好き」
ぎゅっと手を握られる。
「ほんまはな、ロマンチックなプロポーズをするつもりやってん」
「ろ、ロマンチック……!?」
「なんで皆してそんな顔するんや」
楢村くんは自分の頬を軽く撫でて、それから私に向き直る。
「けど多分、瀬奈を呆れさせるだけやと思うから」
「呆れたり、しないけど……」
「ほんま? バラの花びらを敷き詰めた夜景の見えるホテルで、バラの花束差し出しても笑わへん?」
「え!? なんで!? どうしてそんなこと思い付いたの!?」
「……ええんや、どうせ俺はマグロとか釣っとったらええんや」
「マグロ……?」
「とにかくな、もう俺は瀬奈を手放さんし、死ぬまで想い伝え続けて瀬奈が素直に俺に陥落するのを待つことにしたんや」
「そんな日は来ないけど」
「来させてみせるわ」
ぐい、と引き寄せられて──こめかみにキス。
「愛しとる、瀬奈」
「──っ」
ぷい、と顔を逸らした私の頭を楢村くんが撫でる。髪を少しくしゃくしゃにして。
その手の温かさが、どうしても──愛おしく思えてしまって。
そんなことしたくないのに、私は微かに彼の手に擦り寄ってしまう。
「──あ、かん。可愛すぎか」
「っ、な、なにが!?」
慌てて身体をずらした私の太ももに、楢村くんが手を置く。
「あの、楢村くん?」
「動かへんなあ、クルマ」
「えっと、あ、うん……」
居並ぶ車列。
空は少しずつ、藍色を深めつつあって──
つ、と楢村くんの指が動いて、スカートをずり上げる。
「な、楢村くん?」
「すべすべやんな、瀬奈の足」
「す、すべすべ……っ!?」
太ももをゆるゆると撫でながら、その指が少しずつ内腿に向かっていく。
「ぁ……っ」
くすぐったさの中にたしかに感じる甘い疼きに、私はきゅっと眉を寄せた。
下着のクロッチ越しに、きゅうと肉芽を摘まれる。
「ひゃあんっ!」
10
お気に入りに追加
1,962
あなたにおすすめの小説
ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~
せいとも
恋愛
救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。
どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。
乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。
受け取ろうとすると邪魔だと言われる。
そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。
医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。
最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇
作品はフィクションです。
本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。
表紙イラストはイラストAC様よりお借りしております。
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
俺様上司と複雑な関係〜初恋相手で憧れの先輩〜
せいとも
恋愛
高校時代バスケ部のキャプテンとして活躍する蒼空先輩は、マネージャーだった凛花の初恋相手。
当時の蒼空先輩はモテモテにもかかわらず、クールで女子を寄せ付けないオーラを出していた。
凛花は、先輩に一番近い女子だったが恋に発展することなく先輩は卒業してしまう。
IT企業に就職して恋とは縁がないが充実した毎日を送る凛花の元に、なんと蒼空先輩がヘッドハンティングされて上司としてやってきた。
高校の先輩で、上司で、後から入社の後輩⁇
複雑な関係だが、蒼空は凛花に『はじめまして』と挨拶してきた。
知り合いだと知られたくない?
凛花は傷ついたが割り切って上司として蒼空と接する。
蒼空が凛花と同じ会社で働きだして2年経ったある日、突然ふたりの関係が動き出したのだ。
初恋相手の先輩で上司の複雑な関係のふたりはどうなる?
表紙はイラストAC様よりお借りしております。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる