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番外編
【番外編SS】買い物
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(時系列、新婚旅行後くらい)
※※※
なんとなく、風の雰囲気が秋らしくなってきた、そんな土曜日のお昼過ぎ。
修平さんは朝から休日出勤してて、私は家でのんびり片付けをしていた。
ちょうどコーヒーカップを棚に仕舞ったところで、スマホが震える。
「はいはい~」
ダイニングテーブルに置いていたスマホを手に取ると、修平さん。どうしたのかな?
「もしもし」
電話にでると──今日はもう上がれるから、良ければ買い物にでも行かないか、っていうお誘いだった。
『秋服を見たいと言っていただろう?』
覚えててくれたんだ!
嬉しくなって、電話越しなのに満面の笑み。
「わ、行きます!」
『では駅で待ち合わせよう』
心なしか、修平さんもちょっと嬉しそうで──私は軽い足取りで、クローゼットへ向かった。
……だって、なんか。お外で待ち合わせって、……デートみたい。
あんまり待たせちゃいけないけど、ああでもないこうでもない、って服を選ぶ。
「秋らしすぎる? 暑いかなぁ、まだ」
姿見の前で何着も服をとっかえひっかえ。
ちらりと時計を見ると、……もうこんな時間!
「お、お化粧もなおさなきゃ」
爪も、せめてオイルくらい塗っておけばよかった。
結局なんだか、いつも通りな格好で電車に飛び乗る。高めのヒールを履いたのが、せめてもの抵抗(?)です。
電車の中で、修平さんから「少しだけ遅れる」とメッセージ。
(どうしよう、カフェにでもいようかな?)
駅について、新しくなった駅舎をぼうっと眺めていると……ぽん、と肩を叩かれた。
少しの違和感とともに振り返る。
修平さんじゃない、感じだったから。
「こんにちは~」
なんか、普通のお兄さんだった。……から、油断した。ナンパだとすぐに気がつかなかった。
「お姉さん、いま待ち合わせまで時間あります?」
「えっと」
すぐに断って場所を移動すれば良かったのに……お兄さんの横に、もうひとり男の人が立って、にこにこ笑顔。
「少しだけ遊ばない?」
「待ち合わせの時間まででいいから」
(なんだかなぁ……)
ナンパなんて、久しぶりだ。学生以来じゃないかな?
おかげで断るタイミング、逃してしまった……。けれど、慌てて手を振る。
「待ち合わせしてるので」
「うん、だからそれまで」
「その友達も一緒でいいよ!」
なかなか諦めが悪い。
ナンパじゃなくて、何か売りつける系かも。どっちにしろ、困ってしまう。
と、そのとき。
「ほう」
地を這うような、低い声。
ぱっ、と見上げる。男の人の背後に、彼らを見下ろすようにしてスーツ姿の修平さんが立っていた。
こうしてみると、修平さん、背が高いなぁ……最近見慣れてきたから、そう感じてなかったけれど……。
「俺も一緒でいいのか?」
冷たい目で、彼らを見下ろしてひとこと。
男の人たちは、ヒャッて顔をして私と修平さんを交互にみやった。
「ところで、俺の妻になんの用事が?」
「あ、いえいえいえ」
「道を聞いていただけです、はい」
男の人たちは、さらっと笑って足早に去っていく──私は修平さんに頭を下げた。
「すみません、変なところを」
「いや、待たせたせいだ。済まん」
ぐるる、って噛みつきそうな顔で男の人たちが去っていった方向をみながら、修平さんは私の手を取る。
それから、優しい目つきで私を見て。
「怖かったか」
「ふふ、いえ」
小さく首を振る。
「すぐに修平さん来てくれるって、わかってましたから」
修平さんは少し黙って、じっと私を見つめる。なんとなく、耳が赤い、ような……。
しばらくそうして、うやうやしく私の手を取った。
「行こうか」
「……はい」
手を握って、歩き出す。
しばらくは道沿いのショップを覗いたりしていたけれど、これというものがなくて、結局お散歩になってしまう。
ていうか、散々歩き回らせてしまったなぁ!
「すみません、おつかれなのに」
修平さんは少しだけきょとん、とした後、頬を緩めて──笑う。
「美保とこうするのが楽しいんだ」
「修平さん」
「きみといると、ものすごく──癒される」
繋いでいた手を、きゅ、と繋ぎなおす。
私はあったかくて大きな手に右手を包まれながら、幸せな気持ちになって目を細めた。
そうして、家の近くの駅まで来た時──。
「す、すみません……」
「それはいい。怪我はないか?」
私は頬が熱い。
もーう、なんでこうなるかなぁ。
格好つけて履いたヒール、折れてしまいました。もう長いこと履いていたからなぁ……。新卒の時に、初ボーナスで買ったやつです。
「はい……」
しゅん、として靴を眺める。
駅前の広場、花壇のレンガに座らせてもらって、修平さんは傅くように私の足首をチェックしてる。
「しゅ、修平さん」
通りすがるひとたちが、チラチラとこちらを見て……。
「きみは怪我をしてるくせに、してないなんて言うこともあるからな」
「ほ、本当ですって!」
「……どうやらそのようだな」
修平さんはそう言って、今度は私の前で背中を向けた。
「……へ?」
「おぶって帰ろう」
「え、いえっ、そんな」
「お姫様抱っことどちらがいい」
修平さんは振り向き、至極真面目な顔で言う。お、お姫様抱っこ……!?
「うう……お、おんぶでお願いします」
「了解だ」
軽々とおぶわれて、私たちは帰路につく。
「……わー」
思わず、景色に見惚れた。
金色の夕陽に滲み、街がきらきらしてる。
「修平さんの視界から見る景色って、こんななんですね……」
いつもより、色んなものが見渡せる気がした。修平さんは「そんなに違うか」とぽつりと答える。
それから、ほんの少し楽しげな声で続けた。
「明日は靴を買いに行こうか、美保」
「……ですねぇ」
素敵な靴があるといいな。
そう思いながら、私はきゅうっと修平さんにしがみついた。
※※※
なんとなく、風の雰囲気が秋らしくなってきた、そんな土曜日のお昼過ぎ。
修平さんは朝から休日出勤してて、私は家でのんびり片付けをしていた。
ちょうどコーヒーカップを棚に仕舞ったところで、スマホが震える。
「はいはい~」
ダイニングテーブルに置いていたスマホを手に取ると、修平さん。どうしたのかな?
「もしもし」
電話にでると──今日はもう上がれるから、良ければ買い物にでも行かないか、っていうお誘いだった。
『秋服を見たいと言っていただろう?』
覚えててくれたんだ!
嬉しくなって、電話越しなのに満面の笑み。
「わ、行きます!」
『では駅で待ち合わせよう』
心なしか、修平さんもちょっと嬉しそうで──私は軽い足取りで、クローゼットへ向かった。
……だって、なんか。お外で待ち合わせって、……デートみたい。
あんまり待たせちゃいけないけど、ああでもないこうでもない、って服を選ぶ。
「秋らしすぎる? 暑いかなぁ、まだ」
姿見の前で何着も服をとっかえひっかえ。
ちらりと時計を見ると、……もうこんな時間!
「お、お化粧もなおさなきゃ」
爪も、せめてオイルくらい塗っておけばよかった。
結局なんだか、いつも通りな格好で電車に飛び乗る。高めのヒールを履いたのが、せめてもの抵抗(?)です。
電車の中で、修平さんから「少しだけ遅れる」とメッセージ。
(どうしよう、カフェにでもいようかな?)
駅について、新しくなった駅舎をぼうっと眺めていると……ぽん、と肩を叩かれた。
少しの違和感とともに振り返る。
修平さんじゃない、感じだったから。
「こんにちは~」
なんか、普通のお兄さんだった。……から、油断した。ナンパだとすぐに気がつかなかった。
「お姉さん、いま待ち合わせまで時間あります?」
「えっと」
すぐに断って場所を移動すれば良かったのに……お兄さんの横に、もうひとり男の人が立って、にこにこ笑顔。
「少しだけ遊ばない?」
「待ち合わせの時間まででいいから」
(なんだかなぁ……)
ナンパなんて、久しぶりだ。学生以来じゃないかな?
おかげで断るタイミング、逃してしまった……。けれど、慌てて手を振る。
「待ち合わせしてるので」
「うん、だからそれまで」
「その友達も一緒でいいよ!」
なかなか諦めが悪い。
ナンパじゃなくて、何か売りつける系かも。どっちにしろ、困ってしまう。
と、そのとき。
「ほう」
地を這うような、低い声。
ぱっ、と見上げる。男の人の背後に、彼らを見下ろすようにしてスーツ姿の修平さんが立っていた。
こうしてみると、修平さん、背が高いなぁ……最近見慣れてきたから、そう感じてなかったけれど……。
「俺も一緒でいいのか?」
冷たい目で、彼らを見下ろしてひとこと。
男の人たちは、ヒャッて顔をして私と修平さんを交互にみやった。
「ところで、俺の妻になんの用事が?」
「あ、いえいえいえ」
「道を聞いていただけです、はい」
男の人たちは、さらっと笑って足早に去っていく──私は修平さんに頭を下げた。
「すみません、変なところを」
「いや、待たせたせいだ。済まん」
ぐるる、って噛みつきそうな顔で男の人たちが去っていった方向をみながら、修平さんは私の手を取る。
それから、優しい目つきで私を見て。
「怖かったか」
「ふふ、いえ」
小さく首を振る。
「すぐに修平さん来てくれるって、わかってましたから」
修平さんは少し黙って、じっと私を見つめる。なんとなく、耳が赤い、ような……。
しばらくそうして、うやうやしく私の手を取った。
「行こうか」
「……はい」
手を握って、歩き出す。
しばらくは道沿いのショップを覗いたりしていたけれど、これというものがなくて、結局お散歩になってしまう。
ていうか、散々歩き回らせてしまったなぁ!
「すみません、おつかれなのに」
修平さんは少しだけきょとん、とした後、頬を緩めて──笑う。
「美保とこうするのが楽しいんだ」
「修平さん」
「きみといると、ものすごく──癒される」
繋いでいた手を、きゅ、と繋ぎなおす。
私はあったかくて大きな手に右手を包まれながら、幸せな気持ちになって目を細めた。
そうして、家の近くの駅まで来た時──。
「す、すみません……」
「それはいい。怪我はないか?」
私は頬が熱い。
もーう、なんでこうなるかなぁ。
格好つけて履いたヒール、折れてしまいました。もう長いこと履いていたからなぁ……。新卒の時に、初ボーナスで買ったやつです。
「はい……」
しゅん、として靴を眺める。
駅前の広場、花壇のレンガに座らせてもらって、修平さんは傅くように私の足首をチェックしてる。
「しゅ、修平さん」
通りすがるひとたちが、チラチラとこちらを見て……。
「きみは怪我をしてるくせに、してないなんて言うこともあるからな」
「ほ、本当ですって!」
「……どうやらそのようだな」
修平さんはそう言って、今度は私の前で背中を向けた。
「……へ?」
「おぶって帰ろう」
「え、いえっ、そんな」
「お姫様抱っことどちらがいい」
修平さんは振り向き、至極真面目な顔で言う。お、お姫様抱っこ……!?
「うう……お、おんぶでお願いします」
「了解だ」
軽々とおぶわれて、私たちは帰路につく。
「……わー」
思わず、景色に見惚れた。
金色の夕陽に滲み、街がきらきらしてる。
「修平さんの視界から見る景色って、こんななんですね……」
いつもより、色んなものが見渡せる気がした。修平さんは「そんなに違うか」とぽつりと答える。
それから、ほんの少し楽しげな声で続けた。
「明日は靴を買いに行こうか、美保」
「……ですねぇ」
素敵な靴があるといいな。
そう思いながら、私はきゅうっと修平さんにしがみついた。
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