お見合い相手は無愛想な警察官僚でした 誤解まみれの溺愛婚

にしのムラサキ

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番外編

【番外編SS】お母さんの休日(下)(美保/修平視点)

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【美保視点】


「八重~、久しぶり!」
「お、前より元気そう」

 レストラン、向かいの席に座った私に、八重は少し安心したように笑った。

「元気そう?」

 私は首を傾げた──いつも、元気な気分でいたけれど。

「この間会った時、やばかったよ」

 この間……というのは、美雨が2ヶ月くらいのときかな。家までお祝いを持ってきてくれたんだけれど。

「あー、寝不足だったかも」
「最近は眠れてるの……って、寝てないよね」

 八重が苦笑いする。

「部屋で寝てたんでしょ?」
「うん、……それでだいぶ回復」

 頬に手を当てた。

「あー、よく寝た。あんなに続けて寝たの、ほんと久しぶり……」
「ま、今日はのんびりしなよ。せっかくの旦那さんからのプレゼントなんだから」
「うん」

 頷きながら、思う。睡眠って、大切だあ。

「寝てないと、こう。心の余裕が違う……」

 毛羽立ってた、って思う。こう、落ち着いてみると……精神状態が。

「そりゃそーでしょ。母親になったからってスーパーマンになるわけじゃないし」

 八重はなんだかフラットだ。

「鮭なら死んでる。産卵したら死ぬでしょ鮭」
「さ、さけ」
「美保は鮭より弱そうなのに、頑張ってるよ」

 鮭と比べて褒められた。
 でも八重は力説してるから、素直に頷く。

「そんな美保ちゃんにプレゼントです」
「え、ええっ、ごめん、いいの? 私、何も持ってきてな……」
「いいのいいの。あたしがプレゼントしたかっただけ~」

 八重から渡されたのは、小さな包み。
 開けてみると、外国ブランドの、オーガニックのハンドクリーム。

「これ天然なやつ? うん、なんかそんなんだから、美雨ちゃんなめても大丈夫らしい」
「わ、ごめんわざわざ~」

 私はあんまり気にしないけど(普通のドラッグストアのハンドクリーム使ってる)、美雨のことまで考えてプレゼントしてくれて。

「あ、ありがと……」

 八重がギョッとする。

「な、泣かないでよ美保」
「だって、だってぇ」

 なんか染みてしまって、えぐえぐ泣いてる私の前に、ウェイターさんがとっても普通に前菜を持ってきてくれる。

「……あ、八重。飲まないの?」
「今日は美保に付き合う~」

 2人でお水で、乾杯して。
 たくさん食べて、たくさん話して──素面なのにケタケタ笑った。
 部屋に帰って、シャワーを浴びて、柔らかなお布団にコロリと横になる。

「……美雨」

 急に寂しくなった。
 会いたい。柔らかさに触れたい、声が聞きたいし匂いが嗅ぎたい。
 スマホで、美雨の写真を見る。何枚撮ったか分からないけれど、……実際、普段あまり見る余裕はない。

(目の前にいるもんなぁ)

 必死すぎて、今まであんまり記憶がない。気がついたら寝返りしてたし、支えたらお座りするようになっていた。すごくグラグラしてるけど……。
 ふと修平さんの写真に目がいく。
 結婚してずいぶん経つし、子供まで産まれてるのに……まだ顔をみると「好き!」ってなるから、うん、私やられちゃってるなぁ。
 美雨と修平さんの動画を見ながら、私は眠りに落ちていく。

 ば、と目が覚める。

「うっそ」

 時計の針は11時で……レイとチェックアウトだから、まだ間に合うけど!

「何時間寝たの……?」

 私はぼうっと、窓の向こうの晩秋の青空を見上げながら思う。
 半年ぶりくらいに思う。
 あー、よく寝た、って。

※※※

【修平視点】


「美雨、そろそろ諦めてはどうだ」

 俺の腕の中で顔を真っ赤にして泣く、美雨。

「今日は残念ながら、君の母親は休日だ」

 ミルクは拒否された。オムツも大丈夫。室温もいつも通り、服装も暑いわけではなさそう、体温も平熱、便秘でもない。
 うむ、と頷く。

「問題ない」

 泣いてるが、泣いてるけれど、問題ない。
 想定の範囲内だ。
 俺は美雨を抱いて、マンションを出た。
 土曜の夕方、西空には真っ赤な夕陽。
 美雨は泣き止んで、それを見つめる。
 夕方に外に出ることが少ないせいか、物珍しかったのだろう。
 金と赤の混じり合う、不思議な色彩。たなびく雲はどこか現実的ではないほどに、綺麗で。

「綺麗だな」

 美雨は黙って見つめている。
 空をカラスが飛んで、美雨は見えているのかいないのか、そちらに目線を向けて「あう」とだけ言った。
 スタイでよだれを拭いてやる。
 泣き止んだ美雨を連れて、マンションに戻る。

「いまから風呂と、ミルクと、離乳食と、寝かしつけと」

 ひとりでやるのは、どれも初めてだ。
 というか、離乳食(十倍粥)は美保が冷凍してくれているし。

「……粥が先がいいのか?」

 俺は迷いながら、小さな声で歌を歌う。
 美保がいつも、美雨に歌っている歌を歌う。腕の中で美雨が嬉し気に笑うから、調子にのってたくさん歌った。

 なんとか、美雨の寝かしつけまでを完了させて(多分何回か起きるけれど)自分のぶんの飯を作ってもぐもぐと食べる。

(寝てる間に、風呂に入ろう)

 シャワーだけだけれど、と浴びていると……泣いている気配。
 慌てて飛び出すと、美雨はスヤスヤ眠っていた。

「……これか」

 美保が風呂から飛び出てきた理由。なんだか泣いてる気がする、いや泣いている! ……と。

(いつも、これくらい気を張っているんだなぁ)

 今日くらいは、リラックスして過ごしてくれているといいが、と脱衣所に戻った。

 翌日、美保が昼過ぎに戻ってきて驚く。

「夜までゆっくりしたら良かったのに」
「なんか」

 美保がえへへと笑った。

「修平さんと、美雨に会いたくなって……美雨、お土産だよ」

 しばらくキョトン、としていた美雨はやがて、火がついたように泣き出した。安心したんだろう。
 美保に抱っこされて、甘えた声で泣き続ける美雨を見ながら、俺はまだまだだなぁ、と思う。

「あれー?」

 美保が目を細める。

「美雨、美雨ちゃん。あなた、こんなに可愛かったっけ?」

 美保の声に少し余裕が戻っていて、俺は安心する。美雨の頬にキスをする美保。
 美保から美雨へのお土産、は可愛らしいワンピース。

「……これは」
「ね?」
「似合うな」
「でしょう!?」

 美保はすごく嬉しそう。……自分の買い物をしたら良かったのに、と思うけれど、美保が満足そうなのでヨシとした。
 美雨はなにがなんだか、この動きにくい服はなんですか、って顔でコロコロ転がっている。それを夫婦で写真だの動画だの撮って、顔を見合わせて笑った。

「また修平さんのスマホ、美雨で容量いっぱいになっちゃいますねー」
「? 6:4くらいで、美保のほうが多いぞ」
「!?」

 真っ赤になる美保の写真も撮ってしまう。

「……!? け、消して。今のは消してください」
「いやだ可愛いから」

 美保がスマホを取ろうとするけれど、残念ながら俺の方がずっと背が高い。

「諦めろ」
「うー」

 少し拗ねる美保の唇に、キスを落とす。
 美保は拗ね顔なのに、嬉しそうだから可愛い。
 美雨はコロンコロンと寝返りがえりを繰り返しながら、呆れたように、こちらに視線を向けている気が──しないでも、ない。
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