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幽霊話
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一緒に暮らす1つ年上の従姉の華が、なんだか超絶与太怪談話を仕入れてきたので、僕がは半目になって「行かないよ」と答えた。
「え、何、圭くんたら怖いの。幽霊」
うぷぷぷぷ、なんて口に手を当てて笑うから僕は華の頬をつまんだ。思い切り引っ張る。
「いたたたた、ごめ、ごめんって」
「どこにあるの、その病院だかなんだかの廃墟」
「えと、国道沿いのね」
華の説明を聞いて、僕はスマホの地図アプリを開いた。
「ここ?」
「たぶん」
華が言うのは、昔病院があったとかいう噂がある廃墟。
「ふーん」
僕は指で地図を少し動かして周りの様子を見る。なるほどね。地元とモメてる太陽光発電所と、水力発電所。これは使えそう。
「あのさ」
「うん」
「華に説明してもちゃんとアイツらに伝わるとあんま思えないから、呼んで」
「え、日和ちゃんたち?」
「そー」
僕は微笑む。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、だから」
華は不思議そうに首を傾げ、しかし言われた通りにスマホをスライドした。
たいへん素直でヨロシイですけど、僕以外にも同じように素直なんだろうと思うとちょっとモヤる。
時刻はちょうど18時、今日は雨だから部活も早めに終わっているだろう。
「ご飯つくろーっと」
華はご機嫌だ。僕があまり食べないから(それは申し訳ない)僕と2人だと、あまり作りがいがないらしい。
僕らの保護者は仕事で世界中を飛び回っているから、家事は2人で分担してる。朝食は僕で、夕食は華。
豚と白菜のミルフィーユ鍋(今日は少し冷えるから、だそうだ)が出来た頃、インターフォンが鳴った。
「わーい圭くん、久しぶり」
「よう」
「おじゃましまぁす」
日和と健と翔。華の幼馴染たちだ。
引きこもりの僕が会話する家族以外の人間は、家庭教師の他はほとんど彼らしかいない。
僕は小学校の入学式を拒否して以来、このムダに広くて古い洋館に引きこもっている。たまに出かけるけど。
僕は特に返事をせず「ねぇ変な話、華に吹き込まないでよ」と苦情を伝えた。
「だよねっ! 怖い話なんか!」
日和は翔と健を睨む。健はにやりと笑った。
(なんかなぁ)
コイツは昔から「色々分かってやってる」感じがする。僕がこういう行動をとることくらい読んでいたんだろうなぁムカつく。
「いやぁ」
翔は困ったように笑った。
「そろそろ夏だしさー」
「夏だから怖い話ってのがわかんないよ!」
日和は未だに「トイレの花子さん」が怖いだけあって、こういう話が本当に嫌いだ。
「あのね、日和ちゃん」
食卓に鍋を運びながら、華が楽しそうに言った。
「シャンプーしてる時、後ろから視線感じることない?」
「や、やめてよう華ちゃん」
「でも振り返っても何もいないじゃん」
「いない」
日和は頷いた。
「あんなの気のせいなんだから!」
「そういう時、振り返って何もいない時、ソレ、天井にいるらしいよ」
「やーめーてーよー!」
日和が頬に手を当ててキャアキャア騒いだ。
「もうお風呂入れないよう」
「あははは!」
華は楽しそうだ。日和が可愛そうだから僕はフォローしてあげる。
「日和、幽霊は水に弱いからそもそもお風呂にいないはずだよ」
「え、そ、そうなの?」
「神社とかさ」
僕はコップを並べながら言う。
「参道が橋を越えるところあるでしょ」
「池とかにかかってるやつ?」
「そうそう。あれは神様が出て行かないようにしてあるんだ。霊魂は水を超えられない」
「あ、そうなの?」
きょとんと日和は言う。
「神様レベルで超えられないんだよ。その辺の木っ端幽霊が水場にいられる訳ないでしょ」
「そっか! そうだよねー!」
日和は単純なのでこういうテキトー理論でも納得してくれる。華もふうんって顔をしてた。
「猫かよ」
ぼそりと健が言ったので足を蹴った。ややこしくしないでほしい。
日和には聞こえてなかったみたいでニコニコしている。
「はーいできましたよう!」
華の一言で、5人でテーブルにつく。
もぐもぐと舌鼓を打ちつつ、日和が口を開いた。
「おいし~!」
「これ、ダシがしっかり効いてるね」
「でしょう」
華は自慢気だ。
「通販で買った高級顆粒だしだよ!」
これかけると何でも美味しくなるの! とわざわざキッチンから持ってきた。
「一袋、税抜き5980円」
「高っ! たしかに高級な味! 来たかいあったぁ」
幸せそうにもぐもぐ食べる日和を尻目に、健は「で? なんだって?」と僕に尋ねた。
「あのくだらねー幽霊話がなんだって」
「行って確かめてもいいんだけどさ、雨だし億劫だから航空写真で行くね」
僕はスマホを取り出した。
「あ、圭くん、食事中はスマホだめ」
「すぐ終わるから」
華のお小言をスルーして、僕はまた地図アプリを起動する。
「これが例の病院」
「うん」
みんながスマホをのぞきこむ。
「で、これがダム」
「ダム? ああ、そういえば近くにあるって」
翔は不思議そうに言う。
「このダムは」
僕はブラウザを開いて、ダムの名前を検索した。
「発電施設が備わっている」
「水力発電ってことか?」
「小規模だけどね」
4人に発電所のホームページを見せた。
「近くに太陽光発電所もあるよね」
「あー、むりやり地盤削ってもめてるとこ?」
日和の言葉に、僕は頷いた。
「加えて、雷が落ちそうな……いや、落ちたんだっけ?」
「うん、雷鳴ってたって」
翔が答える。
「だから答えは磁気閃光と、磁界の乱れによる体調不良」
僕は答えて、ぱくりと豚と白菜を食べた。うん、さすが高級ダシ。味音痴な華でもちゃんとお料理できてる。
「え、何、圭くんたら怖いの。幽霊」
うぷぷぷぷ、なんて口に手を当てて笑うから僕は華の頬をつまんだ。思い切り引っ張る。
「いたたたた、ごめ、ごめんって」
「どこにあるの、その病院だかなんだかの廃墟」
「えと、国道沿いのね」
華の説明を聞いて、僕はスマホの地図アプリを開いた。
「ここ?」
「たぶん」
華が言うのは、昔病院があったとかいう噂がある廃墟。
「ふーん」
僕は指で地図を少し動かして周りの様子を見る。なるほどね。地元とモメてる太陽光発電所と、水力発電所。これは使えそう。
「あのさ」
「うん」
「華に説明してもちゃんとアイツらに伝わるとあんま思えないから、呼んで」
「え、日和ちゃんたち?」
「そー」
僕は微笑む。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、だから」
華は不思議そうに首を傾げ、しかし言われた通りにスマホをスライドした。
たいへん素直でヨロシイですけど、僕以外にも同じように素直なんだろうと思うとちょっとモヤる。
時刻はちょうど18時、今日は雨だから部活も早めに終わっているだろう。
「ご飯つくろーっと」
華はご機嫌だ。僕があまり食べないから(それは申し訳ない)僕と2人だと、あまり作りがいがないらしい。
僕らの保護者は仕事で世界中を飛び回っているから、家事は2人で分担してる。朝食は僕で、夕食は華。
豚と白菜のミルフィーユ鍋(今日は少し冷えるから、だそうだ)が出来た頃、インターフォンが鳴った。
「わーい圭くん、久しぶり」
「よう」
「おじゃましまぁす」
日和と健と翔。華の幼馴染たちだ。
引きこもりの僕が会話する家族以外の人間は、家庭教師の他はほとんど彼らしかいない。
僕は小学校の入学式を拒否して以来、このムダに広くて古い洋館に引きこもっている。たまに出かけるけど。
僕は特に返事をせず「ねぇ変な話、華に吹き込まないでよ」と苦情を伝えた。
「だよねっ! 怖い話なんか!」
日和は翔と健を睨む。健はにやりと笑った。
(なんかなぁ)
コイツは昔から「色々分かってやってる」感じがする。僕がこういう行動をとることくらい読んでいたんだろうなぁムカつく。
「いやぁ」
翔は困ったように笑った。
「そろそろ夏だしさー」
「夏だから怖い話ってのがわかんないよ!」
日和は未だに「トイレの花子さん」が怖いだけあって、こういう話が本当に嫌いだ。
「あのね、日和ちゃん」
食卓に鍋を運びながら、華が楽しそうに言った。
「シャンプーしてる時、後ろから視線感じることない?」
「や、やめてよう華ちゃん」
「でも振り返っても何もいないじゃん」
「いない」
日和は頷いた。
「あんなの気のせいなんだから!」
「そういう時、振り返って何もいない時、ソレ、天井にいるらしいよ」
「やーめーてーよー!」
日和が頬に手を当ててキャアキャア騒いだ。
「もうお風呂入れないよう」
「あははは!」
華は楽しそうだ。日和が可愛そうだから僕はフォローしてあげる。
「日和、幽霊は水に弱いからそもそもお風呂にいないはずだよ」
「え、そ、そうなの?」
「神社とかさ」
僕はコップを並べながら言う。
「参道が橋を越えるところあるでしょ」
「池とかにかかってるやつ?」
「そうそう。あれは神様が出て行かないようにしてあるんだ。霊魂は水を超えられない」
「あ、そうなの?」
きょとんと日和は言う。
「神様レベルで超えられないんだよ。その辺の木っ端幽霊が水場にいられる訳ないでしょ」
「そっか! そうだよねー!」
日和は単純なのでこういうテキトー理論でも納得してくれる。華もふうんって顔をしてた。
「猫かよ」
ぼそりと健が言ったので足を蹴った。ややこしくしないでほしい。
日和には聞こえてなかったみたいでニコニコしている。
「はーいできましたよう!」
華の一言で、5人でテーブルにつく。
もぐもぐと舌鼓を打ちつつ、日和が口を開いた。
「おいし~!」
「これ、ダシがしっかり効いてるね」
「でしょう」
華は自慢気だ。
「通販で買った高級顆粒だしだよ!」
これかけると何でも美味しくなるの! とわざわざキッチンから持ってきた。
「一袋、税抜き5980円」
「高っ! たしかに高級な味! 来たかいあったぁ」
幸せそうにもぐもぐ食べる日和を尻目に、健は「で? なんだって?」と僕に尋ねた。
「あのくだらねー幽霊話がなんだって」
「行って確かめてもいいんだけどさ、雨だし億劫だから航空写真で行くね」
僕はスマホを取り出した。
「あ、圭くん、食事中はスマホだめ」
「すぐ終わるから」
華のお小言をスルーして、僕はまた地図アプリを起動する。
「これが例の病院」
「うん」
みんながスマホをのぞきこむ。
「で、これがダム」
「ダム? ああ、そういえば近くにあるって」
翔は不思議そうに言う。
「このダムは」
僕はブラウザを開いて、ダムの名前を検索した。
「発電施設が備わっている」
「水力発電ってことか?」
「小規模だけどね」
4人に発電所のホームページを見せた。
「近くに太陽光発電所もあるよね」
「あー、むりやり地盤削ってもめてるとこ?」
日和の言葉に、僕は頷いた。
「加えて、雷が落ちそうな……いや、落ちたんだっけ?」
「うん、雷鳴ってたって」
翔が答える。
「だから答えは磁気閃光と、磁界の乱れによる体調不良」
僕は答えて、ぱくりと豚と白菜を食べた。うん、さすが高級ダシ。味音痴な華でもちゃんとお料理できてる。
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