上 下
421 / 702
【高校編】分岐・山ノ内瑛

続く雪

しおりを挟む
「えらい素直に吐いたらしいであのオッサン」

 アキラくんが言うには、だ。あの警察官、白井(さん)は、青花との関係を認めたらしい。
 あれから約1週間。
 青花は普通に学校に来てるし、相変わらずな感じだし……少し、怖い。

「華を脅すことに成功したら、また会ってやると言われたんやって」
「ほえー」

 さすがヒロイン(の顔面)だなぁ、と感心してるとアキラくんは細いため息をついた。

「……ほんま、何もなくて良かった」
「ありがと、ね?」
「ん」

 よしよし、と頭を撫でてくれてるのはアキラくんの家のソファでのこと。
 なにやらアキラくんのお父さんからお話があるらしく、学校終わりにお邪魔したのです。

(……ウチの子と別れてくれとかだったら、どうしよ)

 変なことに巻き込みまくってるし。
 なんだか不安になってる私のこめかみに、ちゅ、と口づけ。

「大丈夫やで華」
「……アキラくん、何か知ってるの」
「んー」

 私とアキラくんは、ソファに並んで座って、お話したりなんとなくイチャついてみたり。

「教えて」
「……親父の方が詳しいから」

 そう言ってアキラくんは、私の手を取って小さく笑った。

「詳しい?」

 そう聞き返したとき、がちゃりと開くリビングのドア。

「あ、お邪魔してます」

 立ち上がって、ぺこりと挨拶。

「ごめんねお待たせして」

 スーツ姿のアキラくんのお父さんは、にこりと笑っている。

「わざわざご足労いただいちゃって」
「いえ、全然」

 むしろたくさんイチャつけて楽しかったです、みたいな……。

「飯は出前でも取るから」
「わ、ほんま?」

 アキラくんが少し嬉しそうに言う。

「晩飯作んのめんどくさーって思っててん」
「せやろ」

 ケタケタと親子で笑い合う。笑顔はお母さんそっくりだけど、笑い方はお父さんに似てるかもしれない。
 血の繋がりなんか、少なくともこの親子にとってはあんまり関係ないことみたいだな、なんて思う。
 ダイニングテーブルで、ピザの広告を三人で眺めながら注文を決める。
 注文のあと、お父さんがコーヒーを入れてくれた。
 マグカップに入った、あったかなホットコーヒー。

「アキラ、砂糖入れすぎちゃうか」
「疲れとんねん学生は」
「まったく」

 呆れたように言うお父さんも、なかなか砂糖多目のタイプ。……うん、やっぱり親子。

「で、華さん」

 お父さんは、ふと私に水を向けた。

「わざわざ来てもらったのには、理由があります。あまり、外で話せない理由が」
「……はい」

 なんだかホッコリしてた私は慌てて気合を入れ直す。そうだ、ここに呼ばれたのはお夕食に呼ばれたわけじゃない。

「すでにアキラから聞いてるとは思いますが」

 ちら、とアキラくんに視線。
 アキラくんも肯く。

「あの警察官、白井は……桜澤青花、あなたと昨年春ごろトラブルになったあの少女との繋がりを白状しました」

 私は頷いた。

「もちろん、この段階で桜澤さんから話を聞くことも可能です。ですが」

 一瞬置いて。
 きゅ、とアキラくんが手を握ってきた。

(?)

 ちらりとアキラくんを盗み見る。
 心配そうな目線とぶつかる。……どうしたのかな。

「もしかしたら、……別の事件にも関わっているかもしれません」

 アキラくんのお父さんはつづける。

「青百合学園の文化祭。あの薔薇園で」

 その言葉に、私は息を飲む。
 文化祭で起きた事件というと、ひとつしか思い浮かばない。ーーおかあさんを、殺した犯人。
 そいつが、目の前に現れた。

(……招待状がなくては入れないから)

 私はぐるぐると考える。

(学園内の誰かの手引きじゃないかとは、思っていたけれど)

 ……青花、だったのか。
 きゅ、とアキラくんの手を握りしめてから、お父さんの話の続きを聞く。

「桜澤さんは、あの犯人、あいつとーー関わりがある可能性があります」

 だから、とアキラくんのお父さんは立ち上がり、頭を下げた。

「華さん。ほんまに巻き込んでしまって申し訳ないと思ってます」
「え、あ、お父さん!?」
「せやけどコレは、俺にとってもやり残した事件なんです」

 やり残した、事件……?

「囮になれ、とまでは言いません。つうか、させません。せやけど」

 ぐ、とアキラくんのお父さんは唇を噛む。

「もう少しだけ、桜澤さんとあの男を泳がせといてもええやろうか」
「……親父」

 アキラくんの低い声。

「確認、やけどな? ほんまに華には被害ないねんな? 今回みたいな」
「警察の方でも警備する。桜澤さんとの直接的な接触はもうないはずや」

 アキラくんは黙り込む。
 私は、私は……。

(どうしよう)

 どうすべきなんだろう。
 迷いながら、ふ、とさっきの言葉を思い出す。
 "やり残した事件"……。

「……おとうさん」
「はい」
「さっき、やり残した、って仰ってました」
「はい」

 お父さんの、関西なまりの、はっきりとした返事。

「……てことは」

 私は目線を落として、口を開く。

「まだ事件、終わってないんですね」
「はい」

 即答、だった。

「終わってません」

 私はきゅ、と目を瞑る。
 暗闇を落ちてくる雪。大きな雪片。あの日の雪空。

(……お母さん)

 まだ、事件、終わってなかったんだって。
 あの日の雪は、まだ止んでない。
 私の心で、まだ降り続いてる。

(そろそろ、……止んでもいいのかな)

 ねえ、お母さん。
 私は目を開く。
 お父さんに向けて、私は頭を下げた。

「お願いします」

 アキラくんが私を握る手が、強くなる。私もそれを握り返してーー続けた。

「どうか、事件を」

 顔を上げた。
 目線がかち合う。

「終わらせてください」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも、私男性恐怖症なんですけど…。

三木猫
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公の美鈴。どうせ転生するなら悪役令嬢とかライバルに転生したかったのにっ!!男性が怖い私に乙女ゲームの世界、しかもヒロインってどう言う事よっ!? テンプレ設定から始まる美鈴のヒロイン人生。どうなることやら…? ※本編ストーリー、他キャラルート共に全て完結致しました。  本作を読むにあたり、まず本編をお読みの上で小話をお読み下さい。小話はあくまで日常話なので読まずとも支障はありません。お暇な時にどうぞ。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...