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【高校編】分岐・鍋島真
逮捕
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「ですから大村さんになにをしたんです」
「大村さん? 大村さんって誰かなぁ? 僕知らない」
リビングのソファで本から目を離さない真さんの膝の上で、私はじとりと彼を睨みつけるーーけど、全く意に介さず、飄々と真さんはそう言ってのけた。
(……ちぇ)
さすがに誘導尋問にひっかからないかー。
(答えが「何もしてない」なら、なんで大村さんのこと知ってるの? って突っ込めたのに)
返ってきたのは「それ誰」だから、……ううむ。
真さんは静かに口の端を上げた。本を見たまま。
「100年早いよね」
「ぐっ」
この、クソガキ!
むっとして真さんを見つめていると、ふと視線が降ってきた。
「どうしたの?」
「?」
「そんなヤらしー顔しちゃってさ」
「してませ、むぐう」
急にキスするから、変な声が出てしまう。
「あは、素っ頓狂」
「そっちが、急に」
抵抗する声はとても、弱い。
そもそも抵抗なんて、この人にはできないんだから。
重なる唇に、侵入ってくる舌。いいように口内を弄ばれて、応えようとした舌は絡めとられる。
離れていく唇と、もうとろんとしてしまってる、私と。
「あっは、ほんと君ちょろい」
「……ちょろくなんか」
「マジちょろかわ~」
なんですかそれ、って思ってる間にまた唇を貪られて、気がついたら全身トロトロになってて、目が覚めたら朝だった。
「……んぅ」
「可愛くない声がすごく可愛い」
よく分からない褒め言葉と一緒に、抱き寄せられる。……あれ、もしかして褒められてない?
「……当たってますけど」
朝から元気だなぁ、……って。
「学校!」
「サボろうよ」
ねえ、しよ? って甘い声でのお誘い。理性がぐらりと溶けそうになって、それを慌てて立て直す。
「無理! 行きます」
「イきます?」
「言ってない!」
「イってない?」
朝から男子中学生並みの知性(頭、ものすごく良い人なはずなんだけど)の真さんの綺麗なおでこをぺしりと叩いて、私はベッドから飛び出た。
制服を着て、……朝ごはんはコンビニで買おう! と玄関を出ようとした腕を掴まれる。
「ひゃう!?」
「全く。電車で行く気?」
寝起きだと思えない出で立ちで、真さんはくるりと車のキーを回す。
「いやもう時間が」
島津さんにお迎えきてもらえる余裕はない!
「送るよ」
「え、大学は?」
「華が電車で痴漢野郎にケツ揉みしだかれてるとこ想像したら地球を滅ぼしかねないから、送らせて」
「……お願いしまーす」
やりかねないから、この人。
結局車で送ってもらって、遅刻寸前ギリギリセーフで滑り込み。
教室の大村さんの顔を見て、開口一番。
「な、なにも分からなかった!」
「ふふーん? 何が?」
にこりとした大村さん。……まぁ、悪いことでは、多分、ない。……おそらくは。
その日の放課後のことだった。
委員会の書類をまとめて、暗くなる前に学園を出た。
しばらく歩いたところで、ぽん、と背中を叩かれる。
「?」
「設楽華さんですね」
「ええと、そうですが?」
立っていた男のひとは、ぴらりと私に一枚の紙を見せつける。
「桜澤青花さんに対する傷害容疑で、逮捕状が出ています」
「ほへ」
私はぽかん、とそのA4サイズの紙を見つめる。
逮捕状(通常逮捕)って書いてある、その紙。
被疑者氏名は「設楽華」……。
(ていうか、桜澤って)
戸惑う私に、男の人は淡々と続ける。
「署までご同行願います」
ぐっと唇をかみしめた。
なにをどうしたのかは知らないけれど、これが青花の仕組んだ何かなのは、間違いない……。
(真さんに来てもらって)
弁護士さん、呼んでもらってーー本当に何もしてないし、知らないんだ。それでなんとかなる、と私は小さく頷く。
下手に抵抗するより、いい気がした。時折生徒も通りかかるし……逮捕されてるなんて噂が上がるのも困る。
「分かりました」
そう返事をしたものの。
私はよく考えるべきだった。
その紙の名前、それが「設楽」のままであったことに、もっと違和感を持つべきだったのだ。
私はとっくに「鍋島華」だったの、だから。
「大村さん? 大村さんって誰かなぁ? 僕知らない」
リビングのソファで本から目を離さない真さんの膝の上で、私はじとりと彼を睨みつけるーーけど、全く意に介さず、飄々と真さんはそう言ってのけた。
(……ちぇ)
さすがに誘導尋問にひっかからないかー。
(答えが「何もしてない」なら、なんで大村さんのこと知ってるの? って突っ込めたのに)
返ってきたのは「それ誰」だから、……ううむ。
真さんは静かに口の端を上げた。本を見たまま。
「100年早いよね」
「ぐっ」
この、クソガキ!
むっとして真さんを見つめていると、ふと視線が降ってきた。
「どうしたの?」
「?」
「そんなヤらしー顔しちゃってさ」
「してませ、むぐう」
急にキスするから、変な声が出てしまう。
「あは、素っ頓狂」
「そっちが、急に」
抵抗する声はとても、弱い。
そもそも抵抗なんて、この人にはできないんだから。
重なる唇に、侵入ってくる舌。いいように口内を弄ばれて、応えようとした舌は絡めとられる。
離れていく唇と、もうとろんとしてしまってる、私と。
「あっは、ほんと君ちょろい」
「……ちょろくなんか」
「マジちょろかわ~」
なんですかそれ、って思ってる間にまた唇を貪られて、気がついたら全身トロトロになってて、目が覚めたら朝だった。
「……んぅ」
「可愛くない声がすごく可愛い」
よく分からない褒め言葉と一緒に、抱き寄せられる。……あれ、もしかして褒められてない?
「……当たってますけど」
朝から元気だなぁ、……って。
「学校!」
「サボろうよ」
ねえ、しよ? って甘い声でのお誘い。理性がぐらりと溶けそうになって、それを慌てて立て直す。
「無理! 行きます」
「イきます?」
「言ってない!」
「イってない?」
朝から男子中学生並みの知性(頭、ものすごく良い人なはずなんだけど)の真さんの綺麗なおでこをぺしりと叩いて、私はベッドから飛び出た。
制服を着て、……朝ごはんはコンビニで買おう! と玄関を出ようとした腕を掴まれる。
「ひゃう!?」
「全く。電車で行く気?」
寝起きだと思えない出で立ちで、真さんはくるりと車のキーを回す。
「いやもう時間が」
島津さんにお迎えきてもらえる余裕はない!
「送るよ」
「え、大学は?」
「華が電車で痴漢野郎にケツ揉みしだかれてるとこ想像したら地球を滅ぼしかねないから、送らせて」
「……お願いしまーす」
やりかねないから、この人。
結局車で送ってもらって、遅刻寸前ギリギリセーフで滑り込み。
教室の大村さんの顔を見て、開口一番。
「な、なにも分からなかった!」
「ふふーん? 何が?」
にこりとした大村さん。……まぁ、悪いことでは、多分、ない。……おそらくは。
その日の放課後のことだった。
委員会の書類をまとめて、暗くなる前に学園を出た。
しばらく歩いたところで、ぽん、と背中を叩かれる。
「?」
「設楽華さんですね」
「ええと、そうですが?」
立っていた男のひとは、ぴらりと私に一枚の紙を見せつける。
「桜澤青花さんに対する傷害容疑で、逮捕状が出ています」
「ほへ」
私はぽかん、とそのA4サイズの紙を見つめる。
逮捕状(通常逮捕)って書いてある、その紙。
被疑者氏名は「設楽華」……。
(ていうか、桜澤って)
戸惑う私に、男の人は淡々と続ける。
「署までご同行願います」
ぐっと唇をかみしめた。
なにをどうしたのかは知らないけれど、これが青花の仕組んだ何かなのは、間違いない……。
(真さんに来てもらって)
弁護士さん、呼んでもらってーー本当に何もしてないし、知らないんだ。それでなんとかなる、と私は小さく頷く。
下手に抵抗するより、いい気がした。時折生徒も通りかかるし……逮捕されてるなんて噂が上がるのも困る。
「分かりました」
そう返事をしたものの。
私はよく考えるべきだった。
その紙の名前、それが「設楽」のままであったことに、もっと違和感を持つべきだったのだ。
私はとっくに「鍋島華」だったの、だから。
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