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【高校編】分岐・山ノ内瑛

追跡

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 しばらく、なんとなく青花を見つめているとーー。

「え、誰?」

 思わず口にする。青花に話しかけて、一緒に歩き出したのは30代くらいのおとこのひと、で。

「なんやろ」
「……パパ活、とか」

 つい口にしてしまって、後悔する。いくらなんでも、そんなことしてないよね?

「あーごめん、親戚とか」
「親戚やったらあんなことせんやろな」

 するりと組まれた腕と、媚びるように見上げる青花の顔。

「……」
「行こか」

 アキラくんは無言でコーヒーのカップを置いた。

「もう少しゆっくりしてもええけど」
「……でも」
「華」

 アキラくんは目を細めた。

「止めようとか思ってるん?」
「え、あ、だって」
「だって、なん? あいつに関わってええことあった?」
「ない、けど」
「未だに」

 そっと左腕に触れられる。

「華に突き落とされた、とか言うてるやつやで?」
「でも」

 危ないんじゃないの? あんなの。

「なにか、犯罪に巻き込まれたり」
「アレしてること自体が犯罪やろ? 自業自得ちゃうん」

 む、と私は口をつぐむ。
 分かってるけど、でも。

「……じゃあ、声をかけるだけ」
「声?」
「そしたらさ、マズイと思ってやめるんじゃないかな」

 少なくとも今日は、と言うとアキラくんはため息をついた。

「デートやのにっ」
「うん、ごめんね」
「華らしいからええ! 行くで華」

 見失ってまう、とアキラくんに手をひかれて通りに出る。
 繁華な通りは人でいっぱい。

「どこ行く気やろ」
「うーん」

 首を傾げながらついていく。
 歩きながら「あー、ここ」と妙な気分になってくる。やな感じだ。ていうか、うん、多分青花、ラブホ行く気だなコレ……。
 前世の記憶と、あまり変わりない街の配置。

「どないしたん華?」
「いやぁ」

 べつにラブホだけがあるわけじゃないけどさ、普通のお店だって並んでるけどさ、ほら。うん。
 アキラくんもふっと気がついて、眉をひそめた。

「マジ犯罪やないか」
「ねー……」
「さっさと声かけて帰るで。華はこの辺おり?」

 アキラくんはコンビニの中を指差す。

みちにおったらナンパされて連れ込まれてまうからな」
「連れ込まれないよ」

 昼間だよ? と言うとアキラくんは首を振る。

「あーかんあかん。とてもあかん。絶対あかん。せやけど華とアイツ接触させたないし、な?」

 すぐ戻るで、とアキラくんに言われて頷く。コンビニの雑誌の棚の前に立って、窓ガラスからアキラくんを見守る。
 アキラくんの声かけに、びくりと青花は振り向いて、さっと男の人から腕を離した。
 そして何か言い訳をするように言い募ったあと。

「な、なにしてくれてるのっ」

 思わず独り言が出てしまう。
 青花はアキラくんにしなだれかかって、甘えるような仕草で!

「???」

 何をどうしたらそんな反応になるの?
 アキラくんは振り払って、慌てたようにはしる。コンビニのガラス越しに目があって、少し頷かれた。

(待ってろ、ってことかな?)

 アキラくんを青花は追ってはしる。
 取り残された男の人は、しばらくその場でウロウロした後、歩き去って行ってしまった。

(……うーん)

 変なことに巻き込んでしまった。

(アキラくんごめんね)

 しゅん、としてせめてとペットボトルの棚を見る。走って喉渇くかもだし、お茶でも買っておこう。
 レジでお金を払って、また雑誌の前に戻ると、ぽん、と肩を叩かれた。
 もう戻ったのかな、と振り返ると知らない若い男の人、二人だった。

「?」
「誰か待ってるの?」
「あ、はい」
「お姉さん可愛いね?」

 にこにこと言われる。

「あー、ほんとに。彼氏待ってて」
「ほんとー?」
「じゃ、彼氏くるまで少し遊ぼ?」

 手首を掴まれた。

「……叫びますよ?」
「いいよー?」
「怖ーい。気の強い子好き、オレ」
「コンビニでナンパなんかすなや兄ちゃん」

 ぐい、と腕を引かれて誰かの腕の中。

「つうか今ヒトのカノジョに触ってた?」
「あー」
「なあんだ」

 男の人ふたりは明るく笑う。

「ほんとにいたんだ」
「ボーっとしてるからナンパ待ちかと」
「んなわけあるかい。二度と話しかけんなよ」
「ごめんって」
「関西弁ウケる」

 ケタケタ笑いながら、男の人たちはコンビニから出て行った。

「……ごめん華、ひとりにさせた」
「や、ううんっ」

 あんなナンパくらい。

「なーんや、なぁ」

 手を繋いでコンビニを出ながら、アキラくんにペットボトルを差し出す。

「サンキュ。結構あいつ、足早くてビビったわ」
「え、そーなんだ」
「アレ思い出した、100キロババア」
「? なにそれ」
「知らん? 怖い話でなぁ、高速クルマで走ってて、横見たら80歳くらいのバーさんが走っとるっていう」
「ひええ」

 なにそれ、想像すると怖い…….っていうよりは、気味悪いなぁ、それ。

「そんでなんとか撒いてきたんや」

 アキラくんは肩をすくめて、きゅうと私の手を強く握った。
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