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【高校編】分岐・黒田健

【side青花】

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 まぁ遅かれ早かれ、ってやつだよね、と微笑んでみせると、白井はとろりとした目で頷いた。
 都内のラブホ。監視カメラがない店なんかゴロゴロあって、誰が入ろうと文句を言わない店員がいる店だって腐るほどある。
 だからベッドに座ったあたしの足の指を、床に平伏すみたいにして一本一本丁寧に舐めてる白井とあたしがここにいたって、そうそう咎められ立てたりされないのだ。

「いずれはあの学校関係者だってバレていただろうし」
「けど」

 白井がすこしだけ顔を曇らせた。

「黒田さんの息子さんに、オレが学校にいるとこ見られてて」
「あは」

 あたしは足元にいる白井の頭を足で小突いた。白井が嬉しそうにうめく。

「むしろそれが目的なんだから大丈夫」
「そうなの?」
「うん」

 黒田はあたしを疑う。その確信がある。あいつはーーあの目は。
 ぞくぞくとして嬉しくなった。
 これ見よがしにばらまかれたヒントに、黒田は必ずかかる。
 そうすれば、その時は。

「ほら、おいで。こないだ上手くやってくれたご褒美あげるから」

 そう言うと、白井は嬉しそうにベッドに上がって来た。ギシリと安物のスプリングが軋む。

「じょおずだったよねぇ、けーちろー? ちゃんとあたしのアリバイ証明してくれました」

 頭を撫でると、白井は鼻の穴を膨らませて頷いた。
 あたしのアリバイ。
 新横浜駅での事件だ。
 あの駅で事件を起こすには、相応のリスクがあった。何台もある監視カメラ、雑踏、警備員や駅員の目。

(案外警察もチョロいのね~)

 だから、あたしは横浜市内で「誰かと入れ替わったフリをした」。
 黄瀬を殺して、横浜駅まで出る。そこでトイレに入り、普通に出てくる。それから帰宅。
 警察は簡単にあたしを嗅ぎつける。横浜駅で入れ替わってと頼まれたと訴える。当然最初は信じてもらえない、けど、あたしには「アリバイ」がある。
 警察官たる白井慶一郎と一緒にいた、というアリバイ。
 大したことじゃない。事件当日、午前休を取っていた白井がたまたま繁華街であたしがしつこいナンパにあってるのを目撃し、それを追い払い、未成年があまりウロついて良い界隈ではないと注意を受け身分を明かした、という筋書き。

「白井さんっていうお巡りさんに連絡してください」

 そう言ってウルウルと目を潤ませ、白井は「確かにその女の子です」と証言した。
 これで「1万円でリスクが高いことをするアホな女の子」の出来上がり。
 親には怒られたけど、無罪放免であたしは警察署を出た。
 ぴくりと手が震える。

(ああ、息ができる)

 このところ連日で、あんなに大きな生き物を殺せているから!

(酸素がある)

 生きている、感じがするーー。

「黒田さんの息子さんが好きなの?」

 唐突に言われて、あたしはきょとんとする。

「好き?」
「や、ええと。拘ってるから」

 白井は目線をウロウロさせた。あたしは笑う。

「違うわよ。殺したいの。邪魔だから。目の前であいつが痙攣するのが見たい。あったかいのが冷たくなるのを見ていたい」

 そう言って笑うあたしを、白井はじとりとした目で見つめ続ける。

「……羨ましい」
「なにが?」
「きみに殺される黒田さんの息子さんが」
「そう?」

 あたしは笑う。それから耳元で「最後ね」とささやいた。

「けーちろは最後。最後の最後に、あたしが首を絞めてあげるからね」

 その言葉に、白井はウットリと頷く。ああ世の中こんなやつばかりならいいのに。そうすればあたしは殺して殺して、ずうっと息ができているのになぁ。

「黒田を殺したら、設楽華がきっとちゃんと悪役令嬢してくれるはずだから」
「その子にもこだわるよね、青ちゃん」

 なんで? と問われて、あたしは「作業の一環」と端的に答える。
 現実をゲームに近づける作業。

「その子は殺さないの?」
「ふうん?」
「だって白だし」
「白? ああ」

 設楽の「楽」か。白……。
 ふ、とある考えが頭を過ぎる。ああそれも面白いかもしれない。
 楽しげに笑い出したあたしを、白井は嬉しそうに見つめていた。
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