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【高校編】分岐・黒田健

【side青花】咲いた咲いた

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 テレビのクイズ番組を家族で見てて、機嫌が良いあたしはわざと変な回答を連発する。

「舌切り雀、最後どうなった? だって。あおちゃん分かるー?」

 父親がいたずらっぽくあたしを見た。

「ええと」

 あたしは微笑む。

「玉手箱開けたら、えっと~」
「玉手箱だって!」

 弟が笑った。

「でてこないよ、姉ちゃん!」
「あれー? そうだっけ」

 首をかしげると、家族はみんな笑った。ああ茶番。全員ここで殺したらどうなるだろう? あったかいのが冷たくなる。あたしは息ができる。
 想像して、少しだけ血が廻るのがわかった。あたしの指先はいつも冷たい。

(でも、いつもよりはマシ)

 昨日は、楽しかった。すごく。

(別人の身体を操ってるみたい)

 いつでもタイムラグがあるように思える。……あたしの頭をパカリと開けたら、きっと脳に小さな「あたし」が入ってこの身体を操ってる。
 バカバカしいB級映画の、宇宙人みたいに。やぁみんな、これがホントのあたしだよ!
 想像してくすくす笑うと、弟があたしを覗き込む。

「何がたのしいの?」
「想像笑い」
「想像笑いー?」

 呆れたように弟は笑う。

「さすが姉ちゃん、天然だなぁ」
「そんなことないよ」
「そんなことあるわよ」

 母親もそう言って笑う。
 はぁみんな幸せそうで何よりだわ。このところ、あたしが大人しいからみんな安心してる。

(あたしは昨日、犬を殺したというのに)

 これで三匹目。
 でももう、これ以上犬は無理だろう。警戒も強くなっているし、警察に捕まってはもとも子もない。

(……お金が欲しい)

 自分の生活圏内から外へ出ると、どうしてもお金がかかる。でもこれ以上この近辺で「事件」が起きるのは好ましくないことだった。

(あたしには前科があるから)

 正確には「前科」ではないのだけれどーー中学の頃の「鳩」。
 どうしたって、警察関係者にあたしのことを連想する人は出てくるだろうから。
 こんな時に「おんな」という性別はとても便利だ。それも「若くて可愛い」。すごく役に立つ。
 あたしは部屋でベットにころんと転がってスマホをチェックした。パパ活の掲示板、そこで出会った白井っていうオジサンとのメール。
 何度か既に会ってる。金払いも良いし、寝てる間にチェックした身分証も「合格」だった。

(警察官、ねぇ)

 こんなことしてていいのぅ? と思うけれど、まぁ、あたしが言えた義理じゃないからほっとく。

「明後日かぁ」

 頭の中でスケジュールを確認する。大丈夫だ。了承の返信をする。
 ふ、と考えた。

(そういえば、進まないのよね)

 ゲームの「シナリオ」を進める作業……が、なかなか。

(そもそもの設楽華が、鹿王院樹に執着していないから)

 だから、当然ながらあたしに嫌がらせも何もない。女王然として振る舞うとかもない。やっかみ半分の噂話はたくさんあるけれどーー。

(そこに尾鰭をつけていくのは簡単)

 だけれど、そうしたところで彼女は動かないだろう。だって、動く理由がない。
 あの子には恋人がいて、それに満足しているようだった。とても。

「あ、」

 天啓だ。あたしはそう思った。

「そうだ」

 思わず声に出す。そうだ。

「邪魔なんだ」

 設楽華が、鹿王院樹に執着するというのが「ゲームの前提」なのだとすれば。
 それを邪魔しているのは、……決まってる。

「黒田健が」

 邪魔なんだ。

「あいつがいなくなれば」

 設楽華は支えとして鹿王院樹を必要とするだろう。どうやら仲は悪くないみたいだから。時折話しているのをみかける。

「そっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっか~」

 あたしは笑う。楽しくて笑う。そっかこんなところに正解があったんだ!

「黒田健を殺そう」

 あたしはガバリと起き上がる。楽しくて仕方ない。ワクワクしていた。こんなに楽しみなことができるなんて、いつぶりだろう!?
 あたしの楽しい気分に水をさすように、ブーっとスマホが震える。白井からの返信だ。

「あ」

 スマホを手に取り、まじまじと見つめた。

「こいつ使えるかも」

 だって、あたし一人じゃ無理だ。
 ゲームでもそうだったけれど、黒田健は空手をしていた。現実的には、同じ学園にいないけれどーー名前を検索したら大会の結果が嫌というほど出てきた。

(正面からじゃかないっこない)

 体格差も随分ある。おんなとしてもかなり小柄なあたしと、180くらいはありそうな黒田。

「どーうやろーっかなー」

 とりあえずは、白井があたしのいうことを全部、ぜえんぶ聞くように仕向けなきゃいけない。その上で。

「でもなぁ」

 黒田だけをピンポイントで殺すのは得策じゃない。黒田は「あたしの生活圏内」にいる人間だから。

(恋人が揉めた相手、はそこそこ容疑ポイント高くない?)

 今となって設楽華と揉めた(それも刃物を使って)ことが悔やまれる。

(じゃあ、どうすればいい?)

 答えは簡単だった。木を隠すには森の中。

「咲いた、咲いた」

 あたしは少し鼻歌を歌ってしまう。他は何色? 赤、白、黄色。
 あたしは青色。
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