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【高校編】分岐・山ノ内瑛

それぞれの思惑【side瑛父】【side青花】

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【side瑛父】

 取り寄せた記録を、俺はつぶさに眺めた。
 設楽さんの奥さん、すなわち華さんの母親の遺体の写真。遺体には数十か所の刺し傷があり、胸部の傷は肺にまで達していた。それが致命傷。

(あのときーー)

 俺は思い返す。犯人、甘ヶ瀬俊郎は、確保されてすぐに犯行を自供した。

「設楽笑さんに交際を迫ったが、断られ逆上した」

 誰も疑わなかった。
 設楽さんにつけられた沢山の傷は、いわゆる「憎さ百倍」のもので、別段にこういった事件で珍しいものではない。
 なかったのに、ーーひっかかっていた。もう、何年も。

(違和感の原因は、これや)

 足についた刺し傷。
 執拗なほどに。

(殺すつもりなんやったら、ハナからよな)

 なのに、その傷の大半は「足」についている。太腿から、くるぶしにまで。

(つまりーー)

 俺はぐっと唇をかみしめた。

(甘ヶ瀬は、華さんを追おうとした)

 ベランダから落ちた、華さんを。笑さんは追いすがり、けれど甘ヶ瀬は笑さんを殺すつもりは無かった。だから、追って来られないように、足を刺した。執拗にーーけれど、抵抗されて、なのか、弾みで、だったのか、何なのかは聞いてみなくては分からないが、胸部を刺してしまった。

(そして、それが致命傷でーー)

 その頃には、近所の住人が目を覚ましていた。甘ヶ瀬は、目的を遂げられずに逃走。そして。

(おそらくは、もう一度、華さんを狙うために)

 そのために「笑さんのストーカー」を装った。
 その分かりやすいストーリーは、すべての人間を騙すことに成功した。警察も、検察も、裁判官も、弁護士も、皆騙された。
 俺は添付されてた証拠品の写真を見つめる。
 一見、笑さんの写真にみえる。けれど、すべてに華さんも写っていた。

(せやけど、証拠はない)

 思わず奥歯をかみしめた。証拠は、どこにもない。



【side青花】

 色々うまくいかなくて、イライラしてあたしは設楽華の写真をパパ活SNSの掲示板に貼り付けた。

(こーれくらいなら良いわよね)

 ふん、と何かやり返してやった気分になって、あたしはそれをみつめた。せいぜいオッサンたちの妄想にでも使われなさい!

(見た目はいいから)

 くすくす、笑う。オッサンたちからのメッセージはまぁ無視するけれど。

(なーんで、みんな、あたしのこと信用してくんないんだろ?)

 あたし、が……「ゲームのヒロイン」たる「あたし」が「悪役令嬢」に階段から突き落とされた、って言ってるのに。

(あの取り巻きのせいかなぁ)

 取り巻き、だよね? 噂によると設楽華に髪染めOKのお墨付きもらった、んだっけ、……? よく知らないけど、校則が厳しいこの学校でそんなことが許されるのは「女王陛下」設楽華の取り巻きだから、でしょ!

(なのにさぁ)

 先生も、クラスの女子も、信じてくれなくて……青花、カナシイ。

(ま、男子たちは信じてくれてるけれど)

 それがまぁ、救いかなぁなんてぼけっとしてたら、まぁやっぱり設楽華は入れ食い状態でウケる。

「……っ、と?」

 あれれ? とあたしは一通のメッセージに目をつけた。あれ?

「あたし、名前までは出してない、よね?」

 不思議に思いながら、あたしはそのメッセージを見つめる。

『華、みつけた』

 その短いメッセージの裏側には、隠しきれないドロドロした喜びが溢れてて、思わずあたしは唇をあげた。

「……なぁんか、面白いことになりそうね?」

 くすくす、とあたしは笑ってそのメッセージに返信を送る。

『ごめんなさい、間違えて友達の写真貼っちゃった。これ、あたしじゃないんです。けど、華の知り合いのひとですか?』

 送信をタップしながら、あたしは目を細める。

(だってだって、上手くいかないなら)

 思う通りに、動いてくれないのなら。

ゲームここから退場してもらうのも、アリかなぁってあたしは思うのよね」

 すぐに返信がある。華はどこにいますか? 会いたい。そんな内容。

(いいわねいいわね、なんか病的ね!)

 あたしはソイツに名前を聞いた。

(本名名乗るかしら? まぁ、なんだっていいんだけれど)

返ってきた返信はシンプルに、苗字だけ。

『甘ヶ瀬です』

 本名なんだか偽名なんだか分からない。だけれど、あたしは甘ヶ瀬さんと遊ぼうときめたのだ。設楽華で。
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