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【高校編】分岐・鹿王院樹
平手打ち
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私はぽかん、と池の鯉を見ながら思った。
(……樹くんが、変だ)
なんとなく。なんだろう、この違和感。
あの事件があって、それから3日くらいは私も家からすら出たくなかったけれど、樹くんや敦子さん、圭くんも静子さんも優しく支えてくれて、精神的にだいぶ回復してきていた。
だから、やっぱり朝練の後帰宅してくれた樹くんに「お散歩でも行こうかな」と提案してみたのだ。
ちょっと元気になってきてます、ってとこも見せたかった。
ふ、と顔を上げて樹くんは微笑んで「じゃあ庭にしよう」と言った。
「え、うん」
私は首を傾げた。まぁ、この家のお庭、広いからいいんだけれど。
のんびりお散歩をして、その日はまぁ、それで良かった。
(けど)
ふう、とため息をつく。
あれから1週間。なんやかんやと理由をつけて、樹くんはこの家から私を出そうとしない。
(学校もまだ早いって言われちゃったしなー)
暇だと色々考えてしまう。
「どうした?」
私のため息に、樹くんが穏やかに微笑んで髪を撫でる。
「んー」
樹くんをみあげる。何か考えがあるのかな? だとすれば、私がワガママを言いすぎるのも、なんだかなぁ。
「華」
「なぁに」
「そろそろ戻ろう。冷えてきたし」
1月なかば、底冷えのする寒さだ。ふ、と目の前をフワリと雪が舞い落ちた。
「……雪だ」
「積もるかな」
樹くんに手を引かれながら、私たちはお庭を歩く。
「華」
「なぁに」
「今から少し、でかける」
「うん」
なんだろう、と首をかしげると、樹くんは振り返って、笑った。
「やっぱり、……跡を継ごうと思って」
「へ」
樹くんがプロ選手になるために捨てた「会社を継ぐ」将来。
「え、なんで!?」
「プロになれば遠征も多い。華を一人にすることも増える」
その言い方に、私は酷い違和感を覚えた。……え、それって。
「……選手になるの、やめるの?」
「大学では続けると思うが」
樹くんは穏やかだ。
「プロは、そうだな、もうない」
「な、なんで」
言いながら、気がついてる。「華を一人に」……私をひとりにしたくない、から?
「出張なども多いが、まぁプロに比べたら融通が効くだろう」
「ち、ちょっと待って樹くん」
「華」
するり、と大きな手で頬を撫でられた。大きくて、手に筋肉がついてる。怪我もあるしその跡もあるーーいっぱい、練習してるから。
「前から言っている。華は、俺のそばで、ただ笑っていて欲しい。嫌な思いも辛い思いも、なにひとつして欲しくない」
のろのろと見上げた先の、樹くんの目に迷いはない。息を飲む。
「軟禁のような真似をして悪いとは思っている。だが、華」
しがみつくように、抱きしめられた。樹くんのほうが、よほど身体が大きいのに。
「もう、耐えられない。華が傷ついてしまうのが、……傷ついてしまうかも、しれないのが」
私は軽く目を閉じる。このひとに守られた世界で生きていくのは、とても幸せなことなんだろう。羽毛に包まれたように大事にされて、多分死ぬまでそんな感じで。
(でも)
私は目を伏せる。それって、幸せなのかなぁ。
だから、私は樹くんの足を大きく踏んだ。わりと思い切り。
「……っ!?」
少し緩んだ腕の中から抜け出して、思い切りその顔を平手打ちした。
ばぢん! って変な音出るし、寒い中だったから手が痛い……っていうか、樹くんも痛かっただろうと思う。
「は、華?」
「私のために樹くんが犠牲になって、それで私、喜ぶと思った!?」
「いや、違う、華」
樹くんは頬を押さえて、首を振る。
「これは俺のエゴだ。ワガママだ。分かってる」
「分かってない!」
「けれど、華」
「けれども何もないっ!」
私はびしりと樹くんに向かって指を突きつけた。
「だいたい、ヨーロッパのクラブからオファーだスカウトだの、何も言ってくれてなかったよ!?」
「それは、ある程度決まってから」
「ちゃんと相談してっ! で」
私は首を傾げた。
「どこの国から来てたの」
「……イギリスと、イタリアと、ドイツと」
「すごいじゃん」
「どこも二部リーグからだぞ」
「うん」
「……いいのか」
「個人的にはイタリアかな」
ご飯が一番美味しそうだよ、と笑って見せると、それでも樹くんは泣きそうな顔をした。
「だが」
「心配しないで、外国まで行っちゃえばそれこそもう、こんなことないよ」
「そうだろうか」
樹くんは私をそっと抱きしめた。
「そう、だろうか」
「心配かけてごめんね」
「華が謝ることはなにひとつ、ない」
「明日から学校行っていい?」
「それとこれとは、話が別だ」
「えー」
私は唇を尖らせた。すぐにキスされる。
「わ、なに」
「キスかと思って」
「違う、わぁ」
ひょい、と横抱きに持ち上げられて(お姫様だっこ、好きだよなぁ)さくさくと樹くんは歩き出す。
「登下校は車ですること」
「うん」
「校内でもひとりにならないこと。なりそうだったらすぐ俺に連絡しろ」
何があっても行く、と樹くんは言う。
私は頷きながら、青花はいまどうしてるなかな、とぼんやり考えた。
(白井の逮捕は知ってるのかな)
黒幕は、絶対に青花だと確信はしているのだけれどーー。
ちらり、と樹くんの顔を見る。一応、伝えてはあるけれど、未だに証拠は出ていないらしかった。
「ところで」
「ん?」
「どこへ?」
お姫様だっこされたまま、連れてこられたのは樹くんの部屋で、ベッドの上で、降ってくるようなキスは樹くんの不安の言葉の代替のようでもあった。
(……樹くんが、変だ)
なんとなく。なんだろう、この違和感。
あの事件があって、それから3日くらいは私も家からすら出たくなかったけれど、樹くんや敦子さん、圭くんも静子さんも優しく支えてくれて、精神的にだいぶ回復してきていた。
だから、やっぱり朝練の後帰宅してくれた樹くんに「お散歩でも行こうかな」と提案してみたのだ。
ちょっと元気になってきてます、ってとこも見せたかった。
ふ、と顔を上げて樹くんは微笑んで「じゃあ庭にしよう」と言った。
「え、うん」
私は首を傾げた。まぁ、この家のお庭、広いからいいんだけれど。
のんびりお散歩をして、その日はまぁ、それで良かった。
(けど)
ふう、とため息をつく。
あれから1週間。なんやかんやと理由をつけて、樹くんはこの家から私を出そうとしない。
(学校もまだ早いって言われちゃったしなー)
暇だと色々考えてしまう。
「どうした?」
私のため息に、樹くんが穏やかに微笑んで髪を撫でる。
「んー」
樹くんをみあげる。何か考えがあるのかな? だとすれば、私がワガママを言いすぎるのも、なんだかなぁ。
「華」
「なぁに」
「そろそろ戻ろう。冷えてきたし」
1月なかば、底冷えのする寒さだ。ふ、と目の前をフワリと雪が舞い落ちた。
「……雪だ」
「積もるかな」
樹くんに手を引かれながら、私たちはお庭を歩く。
「華」
「なぁに」
「今から少し、でかける」
「うん」
なんだろう、と首をかしげると、樹くんは振り返って、笑った。
「やっぱり、……跡を継ごうと思って」
「へ」
樹くんがプロ選手になるために捨てた「会社を継ぐ」将来。
「え、なんで!?」
「プロになれば遠征も多い。華を一人にすることも増える」
その言い方に、私は酷い違和感を覚えた。……え、それって。
「……選手になるの、やめるの?」
「大学では続けると思うが」
樹くんは穏やかだ。
「プロは、そうだな、もうない」
「な、なんで」
言いながら、気がついてる。「華を一人に」……私をひとりにしたくない、から?
「出張なども多いが、まぁプロに比べたら融通が効くだろう」
「ち、ちょっと待って樹くん」
「華」
するり、と大きな手で頬を撫でられた。大きくて、手に筋肉がついてる。怪我もあるしその跡もあるーーいっぱい、練習してるから。
「前から言っている。華は、俺のそばで、ただ笑っていて欲しい。嫌な思いも辛い思いも、なにひとつして欲しくない」
のろのろと見上げた先の、樹くんの目に迷いはない。息を飲む。
「軟禁のような真似をして悪いとは思っている。だが、華」
しがみつくように、抱きしめられた。樹くんのほうが、よほど身体が大きいのに。
「もう、耐えられない。華が傷ついてしまうのが、……傷ついてしまうかも、しれないのが」
私は軽く目を閉じる。このひとに守られた世界で生きていくのは、とても幸せなことなんだろう。羽毛に包まれたように大事にされて、多分死ぬまでそんな感じで。
(でも)
私は目を伏せる。それって、幸せなのかなぁ。
だから、私は樹くんの足を大きく踏んだ。わりと思い切り。
「……っ!?」
少し緩んだ腕の中から抜け出して、思い切りその顔を平手打ちした。
ばぢん! って変な音出るし、寒い中だったから手が痛い……っていうか、樹くんも痛かっただろうと思う。
「は、華?」
「私のために樹くんが犠牲になって、それで私、喜ぶと思った!?」
「いや、違う、華」
樹くんは頬を押さえて、首を振る。
「これは俺のエゴだ。ワガママだ。分かってる」
「分かってない!」
「けれど、華」
「けれども何もないっ!」
私はびしりと樹くんに向かって指を突きつけた。
「だいたい、ヨーロッパのクラブからオファーだスカウトだの、何も言ってくれてなかったよ!?」
「それは、ある程度決まってから」
「ちゃんと相談してっ! で」
私は首を傾げた。
「どこの国から来てたの」
「……イギリスと、イタリアと、ドイツと」
「すごいじゃん」
「どこも二部リーグからだぞ」
「うん」
「……いいのか」
「個人的にはイタリアかな」
ご飯が一番美味しそうだよ、と笑って見せると、それでも樹くんは泣きそうな顔をした。
「だが」
「心配しないで、外国まで行っちゃえばそれこそもう、こんなことないよ」
「そうだろうか」
樹くんは私をそっと抱きしめた。
「そう、だろうか」
「心配かけてごめんね」
「華が謝ることはなにひとつ、ない」
「明日から学校行っていい?」
「それとこれとは、話が別だ」
「えー」
私は唇を尖らせた。すぐにキスされる。
「わ、なに」
「キスかと思って」
「違う、わぁ」
ひょい、と横抱きに持ち上げられて(お姫様だっこ、好きだよなぁ)さくさくと樹くんは歩き出す。
「登下校は車ですること」
「うん」
「校内でもひとりにならないこと。なりそうだったらすぐ俺に連絡しろ」
何があっても行く、と樹くんは言う。
私は頷きながら、青花はいまどうしてるなかな、とぼんやり考えた。
(白井の逮捕は知ってるのかな)
黒幕は、絶対に青花だと確信はしているのだけれどーー。
ちらり、と樹くんの顔を見る。一応、伝えてはあるけれど、未だに証拠は出ていないらしかった。
「ところで」
「ん?」
「どこへ?」
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