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【高校編】分岐・鹿王院樹
「綺麗にして」
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なぜだか安心感のある簀巻きにされる夢を見て、目が覚めたけどやっぱり身動きが取れない。
「……へ?」
樹くんの部屋。カーテンの向こうは、薄暗い。
(朝?)
ぼんやりと、そう思った。
こぽこぽという水槽のエアレーションの音が、なんだか心地良い。
「華、起きたか」
樹くんの少し安心したような声。それから「いや、その、風邪を引きそうだったから」と慌てたように言った。
簀巻きにーーというか、タオルで包まれて、それから、樹くんにぎゅうぎゅう抱きしめられて、あったかいお布団にくゆまれてーー私はどうやら眠っていたらしい。
「服の着せ方も分からないし、」
樹くんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「済まない」
優しく私を撫でる指先。……あ、そうか。私、泣きながら寝ちゃったんだ。
「いや、ごめん、てか、私。あのまま寝ちゃってたの? シャワー浴びながら?」
「うむ」
「え、あ、ごめん?」
「……起きないかと思った」
辛そうに、樹くんは言った。
「もう起きなかったら、どうしようかと」
樹くんの顔をまじまじと見つめる。少し赤い目。泣かせてしまった。
「……おはよう」
ん、と頷きながら、樹くんはまた私をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
「ねえ樹くん」
「なんだ?」
「……しよ?」
樹くんの眉がきつく寄せられる。その目にはなんていうか、訝し気な色が浮かんでいる。思わず笑った。
「あのね」
静かに樹くんは聞いてくれる。
「消して欲しいの」
「なにを」
「シャワーじゃ消えなかったから」
私は汚いままだから、と言うと、やっぱり樹くんは辛そうに私を見る。
「華は綺麗だ」
昨日と同じように、樹くんは言う。
「汚くなんか、ない」
「それでも。それとも、嫌?」
「なにが」
「あんな男に身体中触れられて、あんなモノ押し付けられてた私なんか、」
「華!」
樹くんは少し大きな声で言う。
「馬鹿なことを」
樹くんが私を抱きしめる力が、少し強くなる。
「馬鹿なことを」
繰り返しながら、樹くんの唇が私のものに触れる。優しいキスが降り注ぐように、なんども、なんども。
その合間に、私は哀願する。
「お願い、樹くん」
私を抱いて。私を綺麗にして。
そう願ったのは私なのに、触れる手に恐怖心を覚えて身体が固まる。
「華、やめておこう」
「やだ」
私は泣きながら思う。このまま、樹くんにすら触れられなくなるのは、嫌。
「お願い、何か話してて、この手は樹くんのなんだって自覚させてて」
ゆっくりとキスが落とされてーーその後、樹くんの声が降ってくる。
「華、愛してる」
好きだ。可愛い、綺麗、とにかく沢山の言葉。私は樹くんにしがみついて、少しずつ溶けて行く。
は、と目が覚めるとカーテンの向こうはすっかり明るくなっていた。
キョロキョロと見回す。相変わらずの樹くんの部屋で、やっぱり私はなにも着ていない。
「ええと」
樹くんの姿は見当たらない。とりあえず樹くんのジャージを勝手に借りるけど、もうすっごいブカブカだ。
くう、とお腹が鳴って、私は空腹を意識するーーそして少し笑ってしまった。どんな状況でもお腹って空くんだなぁ!
(私だけ?)
なんだか笑ってしまって、そのまま部屋を出ようとするとがちゃりとドアが開いた。
「ああ、済まない、起きていたか」
なぜだか肩で息をしてる樹くんは、上下ともに部活のジャージ姿で、肩にはエナメルバッグ。
「朝練だけ出ていた、起きる前に戻ってくるつもりだったのだが」
「え、あ、そっか」
私は首を傾げた。今日、ふつうに学校だ。……ていうか?
「授業は?」
「サボる」
樹くんは笑って答えた。
「授業なんか集中できない」
「や、出よう?」
学生の本分じゃん。……私はさすがに今日はお休みするけども。
「うちのクラスはあまり授業は重要じゃないんだ」
「うーん、そうかもだけど」
スポクラな樹くんは、そりゃ部活のが大事なのかもなんだけれど。
「じゃあ華が教えてくれ」
ローテーブルに教科書を並べられてしまった。たしかにウチのクラスのほうが進度、早いけど。
「それよりね」
「?」
「お腹、すいた」
照れて笑う私を見て、樹くんはとても嬉しそうに笑った。安心したような、幸せそうな、そんな顔で。
お手伝いさんの吉田さん作の、純和風朝食をもぐもぐ食べていると、敦子さんがやってきた。
「……随分ブカブカなのを着ているのね、っていうかどういう状況?」
まぁそう言われても仕方ないと思う。
「……ねえやっぱり樹くん、食べにくいから離して」
「? 食べさせてやろうか」
「エンリョします……」
私は樹くんの膝の上で、後ろから抱きしめられている。敦子さんは諦めたようにため息をついて、それから少し笑った。
「食欲はあるのね?」
「えへへ」
敦子さんも安心したように微笑む。……心配かけちゃったなぁ。
「ごめんなさい」
「あなたが」
敦子さんの声が硬くなる。
「あなたが謝ることは、何一つないの」
苦しそうに寄せられた眉。私は思わず目を伏せた。
「いまは休んで」
「……はい」
「何かあったら連絡してね」
たおやかな指が、私を撫でる。敦子さんにそうされるのは殆ど初めてで、私はそっと目を閉じた。
「……へ?」
樹くんの部屋。カーテンの向こうは、薄暗い。
(朝?)
ぼんやりと、そう思った。
こぽこぽという水槽のエアレーションの音が、なんだか心地良い。
「華、起きたか」
樹くんの少し安心したような声。それから「いや、その、風邪を引きそうだったから」と慌てたように言った。
簀巻きにーーというか、タオルで包まれて、それから、樹くんにぎゅうぎゅう抱きしめられて、あったかいお布団にくゆまれてーー私はどうやら眠っていたらしい。
「服の着せ方も分からないし、」
樹くんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「済まない」
優しく私を撫でる指先。……あ、そうか。私、泣きながら寝ちゃったんだ。
「いや、ごめん、てか、私。あのまま寝ちゃってたの? シャワー浴びながら?」
「うむ」
「え、あ、ごめん?」
「……起きないかと思った」
辛そうに、樹くんは言った。
「もう起きなかったら、どうしようかと」
樹くんの顔をまじまじと見つめる。少し赤い目。泣かせてしまった。
「……おはよう」
ん、と頷きながら、樹くんはまた私をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
「ねえ樹くん」
「なんだ?」
「……しよ?」
樹くんの眉がきつく寄せられる。その目にはなんていうか、訝し気な色が浮かんでいる。思わず笑った。
「あのね」
静かに樹くんは聞いてくれる。
「消して欲しいの」
「なにを」
「シャワーじゃ消えなかったから」
私は汚いままだから、と言うと、やっぱり樹くんは辛そうに私を見る。
「華は綺麗だ」
昨日と同じように、樹くんは言う。
「汚くなんか、ない」
「それでも。それとも、嫌?」
「なにが」
「あんな男に身体中触れられて、あんなモノ押し付けられてた私なんか、」
「華!」
樹くんは少し大きな声で言う。
「馬鹿なことを」
樹くんが私を抱きしめる力が、少し強くなる。
「馬鹿なことを」
繰り返しながら、樹くんの唇が私のものに触れる。優しいキスが降り注ぐように、なんども、なんども。
その合間に、私は哀願する。
「お願い、樹くん」
私を抱いて。私を綺麗にして。
そう願ったのは私なのに、触れる手に恐怖心を覚えて身体が固まる。
「華、やめておこう」
「やだ」
私は泣きながら思う。このまま、樹くんにすら触れられなくなるのは、嫌。
「お願い、何か話してて、この手は樹くんのなんだって自覚させてて」
ゆっくりとキスが落とされてーーその後、樹くんの声が降ってくる。
「華、愛してる」
好きだ。可愛い、綺麗、とにかく沢山の言葉。私は樹くんにしがみついて、少しずつ溶けて行く。
は、と目が覚めるとカーテンの向こうはすっかり明るくなっていた。
キョロキョロと見回す。相変わらずの樹くんの部屋で、やっぱり私はなにも着ていない。
「ええと」
樹くんの姿は見当たらない。とりあえず樹くんのジャージを勝手に借りるけど、もうすっごいブカブカだ。
くう、とお腹が鳴って、私は空腹を意識するーーそして少し笑ってしまった。どんな状況でもお腹って空くんだなぁ!
(私だけ?)
なんだか笑ってしまって、そのまま部屋を出ようとするとがちゃりとドアが開いた。
「ああ、済まない、起きていたか」
なぜだか肩で息をしてる樹くんは、上下ともに部活のジャージ姿で、肩にはエナメルバッグ。
「朝練だけ出ていた、起きる前に戻ってくるつもりだったのだが」
「え、あ、そっか」
私は首を傾げた。今日、ふつうに学校だ。……ていうか?
「授業は?」
「サボる」
樹くんは笑って答えた。
「授業なんか集中できない」
「や、出よう?」
学生の本分じゃん。……私はさすがに今日はお休みするけども。
「うちのクラスはあまり授業は重要じゃないんだ」
「うーん、そうかもだけど」
スポクラな樹くんは、そりゃ部活のが大事なのかもなんだけれど。
「じゃあ華が教えてくれ」
ローテーブルに教科書を並べられてしまった。たしかにウチのクラスのほうが進度、早いけど。
「それよりね」
「?」
「お腹、すいた」
照れて笑う私を見て、樹くんはとても嬉しそうに笑った。安心したような、幸せそうな、そんな顔で。
お手伝いさんの吉田さん作の、純和風朝食をもぐもぐ食べていると、敦子さんがやってきた。
「……随分ブカブカなのを着ているのね、っていうかどういう状況?」
まぁそう言われても仕方ないと思う。
「……ねえやっぱり樹くん、食べにくいから離して」
「? 食べさせてやろうか」
「エンリョします……」
私は樹くんの膝の上で、後ろから抱きしめられている。敦子さんは諦めたようにため息をついて、それから少し笑った。
「食欲はあるのね?」
「えへへ」
敦子さんも安心したように微笑む。……心配かけちゃったなぁ。
「ごめんなさい」
「あなたが」
敦子さんの声が硬くなる。
「あなたが謝ることは、何一つないの」
苦しそうに寄せられた眉。私は思わず目を伏せた。
「いまは休んで」
「……はい」
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