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【高校編】分岐・鍋島真
可愛いリスみたいな悪巧みをしてるヒロインちゃんは、尿路結石の夢を見るか
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「だからさぁ、ほんっと、ジャマでぇ」
真さんと寄った都内のファミレス、そこで「ヒロイン」桜澤青花さんはプンスカと唇を尖らせていた。いや、可愛い。客観的に見るとね。ほんとに可愛い。さすがヒロイン……。
ただ、おそらくこの「ジャマ」なのは私のことなんだろーなー、と思うと、こう、胃が……胃がギリギリと……。
私たちの座ってるテーブルは隅の方で、真さんの席は置いてある観葉植物で青花のほうからは見えないと思う。
(わ、私の方ははっきり見えちゃうよ!)
バレたら今度も何か変な噂を立てられそうだよ。ていうか、何されるかわかんなくて怖いよー。ていうかていうか、なんで都内にいるんだよー。ゲームでは確かそんなに遠くない家の設定だったじゃんー!
「華」
「なんですか?」
「こっちおいで」
優雅な手つきと声で呼ばれて、身をかがめながらテーブルをまわる。
真さんの横に座ると、観葉植物の葉の間から、青花とその向かいに座る謎の茶髪の男ーーていうか、同じくらいの少年、が見えた。
「こうやって食べよう。あの尿路結石女子を見ながら」
真さんは、私の腰を抱きながら言う。
「……なぜ尿路結石」
ていうか、4人がけの席で、これは。我々も痛いイチャイチャな感じなんではないでしょうか?
「すっごい痛いらしいよ」
真さんは綺麗に目を細めた。
「食生活気をつけよーっと」
「……そうしてください」
要は痛い子だって言いたいらしい。そういや3大激痛のひとつだとか聞くよなぁ。お肉の食べすぎがどうのとか言うから、ヒトゴトではない。え、まだ若いから大丈夫だよね17だもんね……?
「あの尿路結石ちゃんさぁ」
「その呼び方はどうかと」
「えっ尿路ちゃん?」
「食事中ですよ」
いや、まだ料理来てないけど。
「じゃあ結石ちゃんにしてあげよう」
「……それでいいです、ハイ」
「結石ちゃんさぁ、さっきから君をどうにか悪者にしようと画策してるよ」
ぷすす、と真さんは笑う。
「リスみたいに」
「リス」
真さん、リスになにか恨みでもあるんだろうか。とは思いつつ、私も2人の会話に耳をすます。
「ほかにある? いじめあるある。ほら、いじめとか、あたし関係なかったじゃん? だから何されたらイジメられてるとか分からないんだよね」
「……青ちゃんさぁ、中学んときイジメしてたじゃん。あれ、そっくりそのまま、自分にすればいいんじゃないの?」
「へ?」
きょとん、と青花は首を傾げた。
「いじめ? してないよ?」
「え、……してたじゃん。同じクラスの、なんだっけ、オレ、クラス違ったから名前良く知んねーんだけど。そこそこ可愛いさぁ、髪の長い。ハーフの、茶髪のー」
「え? ああ、あれ、イジメじゃなくない? あのこいじられキャラだもん、いじってたダケだよ?」
それに、と青花は笑った。
「可愛くなくない? あの子。笑うとブスくない? 笑顔ブスって致命的じゃない?」
「……そ? うん、まぁ、可愛かったと思うけど。ま、いーんだけど。多分、その子にやってたこと、青ちゃんされたことにしたら、青ちゃんイジメられてんなーってなるよ」
「そー? あー、でも、何したか分かんないなぁ。あの子途中で転校しちゃったし」
「……隣の中学にな」
「ねー? なんでだろーねー?」
青花は首を傾げた。とてもとても可愛らしく傾げた。
「……覚えてる限りだと。SNSにあることないこと書き連ねる、パパ活募集の掲示板に勝手に写真貼る、AVの女優のとこに顔コラで貼る」
「えっそれ、やりたくない」
ぶーぶー、と青花は軽く机を叩きながら言う。
「……あの子にはやってたじゃん?」
「あの子はそーゆーキャラだもん! あたし、違うもん! やだよ」
「ハイハイ。じゃあ、あとは……あー、夏の制服、背中に霧吹きで水かけてブラ透かすとかしてたな」
「だーかーらー、キャラじゃないの! もっとケナゲっぽいのぉっ」
「……教科書バラバラ事件とか」
「したっけ?」
再びきょとん、と青花は答えた。
「してたしてた。教科書バラバラにしてさ、金魚の水槽にいれてたじゃん。教室のと職員室前のと、あと中庭の鯉のとこ。泣きながら集めて回ってたから覚えてるよ」
「記憶力いーねー、さすが涼くん」
「これ褒められてもなぁ」
涼くん、と呼ばれた少年は苦笑いした。
「それならできそう。そんで設楽華にされた、って泣きながら……え、ヤダ。水槽に手、入れたくないよ」
「まぁそれは他の人に任せたら」
お前のことだから、どうせ取り巻き作ってんだろ、と言う涼くんだとだかに、青花は不服そうに頬を膨らませた。
「そんなことないよー、ただのオトモダチだもん」
「そう?」
「そだよー。そうなら、涼くんだって取り巻きじゃん」
「だな」
なんかお前には逆らえねーんだよなぁ、と彼は呟いた。
「……思い出したけどさ、同じクラスの取り巻き男子たちにさ、お前、あの子に結構エグいことさせてたよな? お前、大爆笑してたけど」
「えぐい? えー、そんなに笑ったなら記憶にあっておかしくないはずだけど? なんだっけ?」
「うん」
そこからの会話を聞いて、私は本格的に気分が悪くなってしまった。
不思議そうな顔をした店員さんが、私の前にハンバーグを置いていくけれど、私は手で口を押さえたまま、しばらく動けなかった。
そんなことが、この世界で、現実に起きていたことが、信じられなかった。それも「子供」と言っていい年齢の人間たちによって。……青花のナカミが、いくつなのかは分からないけれど。
「あはははは! あったね! でもさぁ、別にそんなに嫌がってなかったよ? いじられキャラだもん!」
「嫌がってなかったんじゃなくて、逆らう気力がなかったんじゃねーの」
「そんなことないよー、よく笑ってたよあの子。あたしに」
媚びるみたいにさ、と青花は笑った。とても可愛く、小動物、そう、リスみたいに小首を傾げて。
それから青花たちは立ち上がり、ファミレスから出て行った。
「僕でもやんないこと平気でやってたね、結石ちゃん」
「……さすがに、あれは」
なんとかそう言うので、精一杯だった。犯罪だ。いや、いじめ自体犯罪だと思うけれど、最後のは、ほんとうに、……犯罪だ。それも、性犯罪、なんだと思う。それをさせて、笑ってみてる、って。
(前世の有無でどうの、じゃない)
私ははっきり確信する。あのこは、はっきりと、悪だ。
「でさ、話を戻すけど」
「……はい」
「あれ、あの子、華に虐められてるって装うって話だよね?」
「みたいですね」
「華を陥れようって」
「……ですね」
「全く」
真さんは、ファミレスのガラス製のドアを眺めながらとても綺麗に口の端を上げた。
「命知らずがいたもんだよなぁ」
「……なにするんですか」
「んー?」
秘密だよ、と真さんは人差し指を私の唇に軽くあてた。
「ねえ知ってる?」
「……はぁ」
「尿路結石の治療ってさ」
「はぁ」
「衝撃波を加えて砕くんだよ」
「……」
私は黙ってハンバーグに目線を移した。うん、悪いけど、青花ちゃんの運命はもはや決まっている。
そしてごめんね、私には止められないし、なんなら虐められてたあの子のためにも一度痛い目にあっても構わないと、私は思うんだよ。まさか命までは取られないと思うから。
「バーン」
真さんは楽し気に握った手を広げた。
真さんと寄った都内のファミレス、そこで「ヒロイン」桜澤青花さんはプンスカと唇を尖らせていた。いや、可愛い。客観的に見るとね。ほんとに可愛い。さすがヒロイン……。
ただ、おそらくこの「ジャマ」なのは私のことなんだろーなー、と思うと、こう、胃が……胃がギリギリと……。
私たちの座ってるテーブルは隅の方で、真さんの席は置いてある観葉植物で青花のほうからは見えないと思う。
(わ、私の方ははっきり見えちゃうよ!)
バレたら今度も何か変な噂を立てられそうだよ。ていうか、何されるかわかんなくて怖いよー。ていうかていうか、なんで都内にいるんだよー。ゲームでは確かそんなに遠くない家の設定だったじゃんー!
「華」
「なんですか?」
「こっちおいで」
優雅な手つきと声で呼ばれて、身をかがめながらテーブルをまわる。
真さんの横に座ると、観葉植物の葉の間から、青花とその向かいに座る謎の茶髪の男ーーていうか、同じくらいの少年、が見えた。
「こうやって食べよう。あの尿路結石女子を見ながら」
真さんは、私の腰を抱きながら言う。
「……なぜ尿路結石」
ていうか、4人がけの席で、これは。我々も痛いイチャイチャな感じなんではないでしょうか?
「すっごい痛いらしいよ」
真さんは綺麗に目を細めた。
「食生活気をつけよーっと」
「……そうしてください」
要は痛い子だって言いたいらしい。そういや3大激痛のひとつだとか聞くよなぁ。お肉の食べすぎがどうのとか言うから、ヒトゴトではない。え、まだ若いから大丈夫だよね17だもんね……?
「あの尿路結石ちゃんさぁ」
「その呼び方はどうかと」
「えっ尿路ちゃん?」
「食事中ですよ」
いや、まだ料理来てないけど。
「じゃあ結石ちゃんにしてあげよう」
「……それでいいです、ハイ」
「結石ちゃんさぁ、さっきから君をどうにか悪者にしようと画策してるよ」
ぷすす、と真さんは笑う。
「リスみたいに」
「リス」
真さん、リスになにか恨みでもあるんだろうか。とは思いつつ、私も2人の会話に耳をすます。
「ほかにある? いじめあるある。ほら、いじめとか、あたし関係なかったじゃん? だから何されたらイジメられてるとか分からないんだよね」
「……青ちゃんさぁ、中学んときイジメしてたじゃん。あれ、そっくりそのまま、自分にすればいいんじゃないの?」
「へ?」
きょとん、と青花は首を傾げた。
「いじめ? してないよ?」
「え、……してたじゃん。同じクラスの、なんだっけ、オレ、クラス違ったから名前良く知んねーんだけど。そこそこ可愛いさぁ、髪の長い。ハーフの、茶髪のー」
「え? ああ、あれ、イジメじゃなくない? あのこいじられキャラだもん、いじってたダケだよ?」
それに、と青花は笑った。
「可愛くなくない? あの子。笑うとブスくない? 笑顔ブスって致命的じゃない?」
「……そ? うん、まぁ、可愛かったと思うけど。ま、いーんだけど。多分、その子にやってたこと、青ちゃんされたことにしたら、青ちゃんイジメられてんなーってなるよ」
「そー? あー、でも、何したか分かんないなぁ。あの子途中で転校しちゃったし」
「……隣の中学にな」
「ねー? なんでだろーねー?」
青花は首を傾げた。とてもとても可愛らしく傾げた。
「……覚えてる限りだと。SNSにあることないこと書き連ねる、パパ活募集の掲示板に勝手に写真貼る、AVの女優のとこに顔コラで貼る」
「えっそれ、やりたくない」
ぶーぶー、と青花は軽く机を叩きながら言う。
「……あの子にはやってたじゃん?」
「あの子はそーゆーキャラだもん! あたし、違うもん! やだよ」
「ハイハイ。じゃあ、あとは……あー、夏の制服、背中に霧吹きで水かけてブラ透かすとかしてたな」
「だーかーらー、キャラじゃないの! もっとケナゲっぽいのぉっ」
「……教科書バラバラ事件とか」
「したっけ?」
再びきょとん、と青花は答えた。
「してたしてた。教科書バラバラにしてさ、金魚の水槽にいれてたじゃん。教室のと職員室前のと、あと中庭の鯉のとこ。泣きながら集めて回ってたから覚えてるよ」
「記憶力いーねー、さすが涼くん」
「これ褒められてもなぁ」
涼くん、と呼ばれた少年は苦笑いした。
「それならできそう。そんで設楽華にされた、って泣きながら……え、ヤダ。水槽に手、入れたくないよ」
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「そう?」
「そだよー。そうなら、涼くんだって取り巻きじゃん」
「だな」
なんかお前には逆らえねーんだよなぁ、と彼は呟いた。
「……思い出したけどさ、同じクラスの取り巻き男子たちにさ、お前、あの子に結構エグいことさせてたよな? お前、大爆笑してたけど」
「えぐい? えー、そんなに笑ったなら記憶にあっておかしくないはずだけど? なんだっけ?」
「うん」
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「あはははは! あったね! でもさぁ、別にそんなに嫌がってなかったよ? いじられキャラだもん!」
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それから青花たちは立ち上がり、ファミレスから出て行った。
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「……さすがに、あれは」
なんとかそう言うので、精一杯だった。犯罪だ。いや、いじめ自体犯罪だと思うけれど、最後のは、ほんとうに、……犯罪だ。それも、性犯罪、なんだと思う。それをさせて、笑ってみてる、って。
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「んー?」
秘密だよ、と真さんは人差し指を私の唇に軽くあてた。
「ねえ知ってる?」
「……はぁ」
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「はぁ」
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「……」
私は黙ってハンバーグに目線を移した。うん、悪いけど、青花ちゃんの運命はもはや決まっている。
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