670 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹
頭撫でられデイ
しおりを挟む
「そんなシーンあったっけ……?」
学校のカフェテリアではなくて、たまに千晶ちゃんとお茶する街中のカフェ。そのすみっこの、なんだか落ち着くソファ席で、私たちは向き合って話していた。
私は暖かいカフェオレをチビチビ飲みながら千晶ちゃんに尋ねた。千晶ちゃんは「わたしもハッキリとは」と少し眉を寄せる。
「何せ、記憶が古すぎて」
「ん、まぁ」
「ただ、確かあったと思うんだよね」
うーん、と眉間に指を当てる千晶ちゃん。
「ええとね、全く別の件で"ゲームの華"ちゃんが何か不正っぽいことをして、その時に似た会話があった」
「……ていうか、さー……」
私はぽつり、と口を開く。
「なあに?」
「最近、ちょっと考えてることがあるんだけど」
「? 言ってみて」
千晶ちゃんに促され、私はぽつりぽつりと話し出す。
「私、シナリオと同じ道歩いてない?」
「どういうこと?」
「実はね」
私は肩をすくめた。
「樹くんと話してるんだけど、……このまま嫌がらせが続くようなら、転校も視野に入れようかって」
「それは」
千晶ちゃんは口ごもる。
「……華ちゃんは何も悪くないのに」
「そうなんだけどね」
青花に関しては「私何もしてません」って断言できる。
「まぁ、今のところ実害ないから。フワッと想定してるだけ、っちゃしてるだけなんだけど」
私は言いながら首をかしげる。
(それに)
ちょっと、やり残してることもあるんだ。
「うん」
「それにね、こういう、……シナリオにのった発言? っていうのかな」
私はため息をつく。
「他にもしてるんじゃないかって」
「そうかな?」
「んー。だとしたら、私」
少し泣きそうになって、カフェオレの入ったカップをぎゅうと握りしめた。
「シナリオ通りの、運命を」
「ストップストーップ!」
千晶ちゃんは顔の前で手を大きく交差させた。格闘技のレフェリーみたいに。
「華ちゃん、それはない。それは。樹くんが華ちゃん捨てるなんて、それこそ地球が滅んでもあり得ない」
「んー、そう、かな」
私も、自分で言うのもなんだけれど……それはない、とは思ってる。
「そのうちボロ出すよ、あの子。それに……もし耐えられなくなったら、ほんとに転校しちゃいな? それで華ちゃんの気がラクになるならさ」
「……だね」
私は軽く肩の力を抜いた。
帰宅すると、圭くんが壁の絵を入れ替えていた。圭くんのお父さんが描いた、白鳥の絵。
「あれ、変えちゃうの」
「ハナ」
圭くんは思いっきり眉をしかめた。
「あのオンナ、また来たんだ」
「……桜澤さん?」
「そう。なんなの」
ふうう、と圭くんは思い切り息を吐き出す。
「この絵はここにあるべきじゃない、そうしないとシナリオ……? が進まないってその一点張り」
「ここにあるべきじゃない、って」
「ハナが持ってるべきなんだって」
「……へ?」
圭くんは肩をすくめる。
「ほんとにウザいから、テキトー言ってつまみ出したんだけど」
「うん」
「この絵はハナが持ってて」
「……ええっ!?」
私はびくりと肩をゆらした。なにそれなにそれ!?
「あのオンナの言う通りにする訳じゃないよ? けど、ハナが持ってるのがしっくりするような気がしたんだ」
「あの、でも、その」
「ダメ? おれ、ハナに持っててもらいたい」
きゅるん、と首を傾げられたら、もう……断れないじゃないですか……っ!
「わ、わかった。でも、いつでも返すからね」
「ん」
圭くんはニッコリと笑う。
「とーさんも喜ぶ」
「喜ぶかなぁ?」
「うん」
ものすごく嬉しそうにされたから、とりあえず部屋に飾ってもらったけれどーーこれ、やっぱ、シナリオ通りに進んでいませんかねコレ。
(こーなりゃヤケクソだわ)
このままシナリオ通りに進むようなら、転校して戦線離脱してやるんだから……!
そんな気合いを入れて絵を見つめていると、部屋の扉がノックされた。
「? どーぞ」
「入るぞ」
樹くんの声がして、私は思わず頬が緩む。あー、好きな声。
「どうしたの?」
夕食まではまだ間があるはずだ。
「いや、これ」
樹くんはコンビニの袋を掲げた。
「寒くなる前に」
「あ、食べたかったアイス!」
大人気のアイス。盛夏の間はどこに行っても手に入らなかったのです。
9月とはいえまだまだ暑い。ツクツクホーシも現役。
「外で食べよう~」
「蚊がくるぞ」
「いーのいーの」
鯉の池を見ながら、二人で並んでアイスを食べる。いちおう、樹くんは蚊取り線香をつけてくれた。豚さん型の、よくあるやつ。ふんわりと香る、蚊取り線香の匂い。
「あのさー」
ふと、鯉を見ながら口を開く。
「子供の頃から思ってたんだけど」
「うむ?」
「この鯉ってお高い?」
初めて来た時に考えてたのだ、ここの鯉っていわゆる高級錦鯉なんじゃないかって。
「いや?」
樹くんは首を傾げた。
「貰い物とか、金魚すくいにまじってた鯉の稚魚が育ったやつだからなぁ」
「あ、そーなの?」
てっきり一千万とかするやつかと。
「いないいない」
「そーなんだ」
素人目にはよくわかりませんね。池の傍にかがんでじっと見ていると、唐突にぽん、と頭を撫でられた。
「?」
今日、ほんと頭撫でられデイかも。
「今日も大変だったようだな」
「あー」
私は手に持ったアイスを眺める。そうか、それでアイス買ってきてくれたのか。
「……割と転校を考えてるんだけど」
「うむ」
「やり残してることがあるんだよね」
「風紀委員の話か?」
「そ」
私は頷く。それさえやり遂げたら、ぶっちゃけ学校なんかどこだっていいんだよなー……。
学校のカフェテリアではなくて、たまに千晶ちゃんとお茶する街中のカフェ。そのすみっこの、なんだか落ち着くソファ席で、私たちは向き合って話していた。
私は暖かいカフェオレをチビチビ飲みながら千晶ちゃんに尋ねた。千晶ちゃんは「わたしもハッキリとは」と少し眉を寄せる。
「何せ、記憶が古すぎて」
「ん、まぁ」
「ただ、確かあったと思うんだよね」
うーん、と眉間に指を当てる千晶ちゃん。
「ええとね、全く別の件で"ゲームの華"ちゃんが何か不正っぽいことをして、その時に似た会話があった」
「……ていうか、さー……」
私はぽつり、と口を開く。
「なあに?」
「最近、ちょっと考えてることがあるんだけど」
「? 言ってみて」
千晶ちゃんに促され、私はぽつりぽつりと話し出す。
「私、シナリオと同じ道歩いてない?」
「どういうこと?」
「実はね」
私は肩をすくめた。
「樹くんと話してるんだけど、……このまま嫌がらせが続くようなら、転校も視野に入れようかって」
「それは」
千晶ちゃんは口ごもる。
「……華ちゃんは何も悪くないのに」
「そうなんだけどね」
青花に関しては「私何もしてません」って断言できる。
「まぁ、今のところ実害ないから。フワッと想定してるだけ、っちゃしてるだけなんだけど」
私は言いながら首をかしげる。
(それに)
ちょっと、やり残してることもあるんだ。
「うん」
「それにね、こういう、……シナリオにのった発言? っていうのかな」
私はため息をつく。
「他にもしてるんじゃないかって」
「そうかな?」
「んー。だとしたら、私」
少し泣きそうになって、カフェオレの入ったカップをぎゅうと握りしめた。
「シナリオ通りの、運命を」
「ストップストーップ!」
千晶ちゃんは顔の前で手を大きく交差させた。格闘技のレフェリーみたいに。
「華ちゃん、それはない。それは。樹くんが華ちゃん捨てるなんて、それこそ地球が滅んでもあり得ない」
「んー、そう、かな」
私も、自分で言うのもなんだけれど……それはない、とは思ってる。
「そのうちボロ出すよ、あの子。それに……もし耐えられなくなったら、ほんとに転校しちゃいな? それで華ちゃんの気がラクになるならさ」
「……だね」
私は軽く肩の力を抜いた。
帰宅すると、圭くんが壁の絵を入れ替えていた。圭くんのお父さんが描いた、白鳥の絵。
「あれ、変えちゃうの」
「ハナ」
圭くんは思いっきり眉をしかめた。
「あのオンナ、また来たんだ」
「……桜澤さん?」
「そう。なんなの」
ふうう、と圭くんは思い切り息を吐き出す。
「この絵はここにあるべきじゃない、そうしないとシナリオ……? が進まないってその一点張り」
「ここにあるべきじゃない、って」
「ハナが持ってるべきなんだって」
「……へ?」
圭くんは肩をすくめる。
「ほんとにウザいから、テキトー言ってつまみ出したんだけど」
「うん」
「この絵はハナが持ってて」
「……ええっ!?」
私はびくりと肩をゆらした。なにそれなにそれ!?
「あのオンナの言う通りにする訳じゃないよ? けど、ハナが持ってるのがしっくりするような気がしたんだ」
「あの、でも、その」
「ダメ? おれ、ハナに持っててもらいたい」
きゅるん、と首を傾げられたら、もう……断れないじゃないですか……っ!
「わ、わかった。でも、いつでも返すからね」
「ん」
圭くんはニッコリと笑う。
「とーさんも喜ぶ」
「喜ぶかなぁ?」
「うん」
ものすごく嬉しそうにされたから、とりあえず部屋に飾ってもらったけれどーーこれ、やっぱ、シナリオ通りに進んでいませんかねコレ。
(こーなりゃヤケクソだわ)
このままシナリオ通りに進むようなら、転校して戦線離脱してやるんだから……!
そんな気合いを入れて絵を見つめていると、部屋の扉がノックされた。
「? どーぞ」
「入るぞ」
樹くんの声がして、私は思わず頬が緩む。あー、好きな声。
「どうしたの?」
夕食まではまだ間があるはずだ。
「いや、これ」
樹くんはコンビニの袋を掲げた。
「寒くなる前に」
「あ、食べたかったアイス!」
大人気のアイス。盛夏の間はどこに行っても手に入らなかったのです。
9月とはいえまだまだ暑い。ツクツクホーシも現役。
「外で食べよう~」
「蚊がくるぞ」
「いーのいーの」
鯉の池を見ながら、二人で並んでアイスを食べる。いちおう、樹くんは蚊取り線香をつけてくれた。豚さん型の、よくあるやつ。ふんわりと香る、蚊取り線香の匂い。
「あのさー」
ふと、鯉を見ながら口を開く。
「子供の頃から思ってたんだけど」
「うむ?」
「この鯉ってお高い?」
初めて来た時に考えてたのだ、ここの鯉っていわゆる高級錦鯉なんじゃないかって。
「いや?」
樹くんは首を傾げた。
「貰い物とか、金魚すくいにまじってた鯉の稚魚が育ったやつだからなぁ」
「あ、そーなの?」
てっきり一千万とかするやつかと。
「いないいない」
「そーなんだ」
素人目にはよくわかりませんね。池の傍にかがんでじっと見ていると、唐突にぽん、と頭を撫でられた。
「?」
今日、ほんと頭撫でられデイかも。
「今日も大変だったようだな」
「あー」
私は手に持ったアイスを眺める。そうか、それでアイス買ってきてくれたのか。
「……割と転校を考えてるんだけど」
「うむ」
「やり残してることがあるんだよね」
「風紀委員の話か?」
「そ」
私は頷く。それさえやり遂げたら、ぶっちゃけ学校なんかどこだっていいんだよなー……。
0
お気に入りに追加
3,077
あなたにおすすめの小説
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも、私男性恐怖症なんですけど…。
三木猫
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公の美鈴。どうせ転生するなら悪役令嬢とかライバルに転生したかったのにっ!!男性が怖い私に乙女ゲームの世界、しかもヒロインってどう言う事よっ!?
テンプレ設定から始まる美鈴のヒロイン人生。どうなることやら…?
※本編ストーリー、他キャラルート共に全て完結致しました。
本作を読むにあたり、まず本編をお読みの上で小話をお読み下さい。小話はあくまで日常話なので読まずとも支障はありません。お暇な時にどうぞ。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します
珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。
そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。
それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。
さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる