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【高校編】分岐・鹿王院樹

成績

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 夏休み明け最初の実力テスト、その結果が、職員室前の廊下に張り出されていた。高等部全学年の、上位50人の氏名と点数だ。

(個人情報的なのはいーんだろうか)

 そう思うんだけれど、まぁ、上位50人くらいは「頑張ったね!」的な意味で張り出されても良いのかもしれない。

「……5位かぁ」

 人だかりのなか、なんとか自分の名前を見つけた。

「設楽さん上がってるじゃん!」

 一緒に見にきた大村さんは、私の名前をみてはしゃぐ。

「ありがとー」

 えへへ、と笑うと「設楽さん頑張ってたもんね!」と頭を撫でられた。なんていうんだろ、褒められて素直に嬉しいです。

(でもほんとに頑張ったもんな!)

 手前味噌だけれどさー。高二の夏は受験を制するらしいからさ……。いつかも聞いたようなフレーズだなこれ。毎年言われてない?

「大村さんは?」
「17位」
「あ、でも古典は3位? すごっ」
「数学に足引っ張られたよねー……あ、鹿王院くん、45位」

 樹くんの名前を見つけて、大村さんは感心したように言った。

「すごいよねー、ずらりと特進のメンバーの名前の中に、唯一のスポクラ」
「家庭教師がいいですから」

 なんて自慢気に言ってしまうけど、原作ゲームでは樹くんの成績はもっと良かった。

(今ほど忙しくないはずだったもんね)

 部活と、家の仕事のお手伝いはゲームのままだ。
 けれど、今……つまり現実では、樹くんはクラス自体違う。ゲームでは「青百合組」なんて呼ばれる内部進学組のクラスにいた。
 でも、今はスポクラ、スポーツ特待の生徒が殆どを占めるクラスに在籍しているし、その上に年代別の代表に選ばれたり、合宿に呼ばれたりして、忙しさが段違いなのだ。学校に来れない日だって結構ある。

(なにが影響したんだろ?)

 樹くんのサッカー人生に、なにがそんな変化をもたらしたんだろうか。

「あのさ、ノロケ?」
「えへへ」

 まぁ、家庭教師とは何を隠そう私のことだったりするのですよ。
 そんな話をのんびり話していると「はああ!?」って声がして振り向く。

「あ、痛い子」

 大村さんが眉をしかめる。痛い子、なんて呼ばれちゃってるのは桜澤青花だ。思わず身体をすくめた。

(あの男のひと……)

 お寿司屋さんで、唐突に私を襲撃(?)した犯人が、直前まで一緒にいたのが青花だった、らしい。

(でも、青花がけしかけたっていう証拠が、何一つなくて)

 犯人も未成年、出来心、突発的な犯行だった、反省もしている、ってことで不起訴になった。親御さんも出てきて平謝りだったけれど。青ざめてたなぁ……人間ってあんな顔色になるんだなぁ……。
 とにかくまあ、関わり合いになりたくなくて、大村さんに小さく「行こ?」と袖を引いた。大村さんも頷く。

「ちょっと! 逃げるの設楽華!?」

 びしり、と青花は私の背中に向けて大声で叫ぶ。

「こんな順位、あるはずがないじゃない! 不正よ!」

 私はゆるゆると振り返る。不正? その言葉はーー許せなかった。私の努力を否定された気がした。

「根拠はなに? 桜澤さん」

 私は青花に向き直り、はっきりくっきり言った。

「私が不正をした、なんて証拠は」

 私の声は、思ったよりあたりに響いたみたいで、廊下がしんとなる。

「証拠お? 証拠ならあるわよ!」

 ふんす、と青花は鼻息荒く、胸を張る。

「設楽華がこんな成績、とれるはずがないからっ!」

 私はなんだか、全身から力が抜けそうになって肩を落とした。

(……それは、ゲームでの話でしょ?)

 毎年留年ギリギリなとこを、学園長に泣きついて進級させてもらって、とかだったっけ……?

(でもいま、"私"は特進クラスにまでいるのに)

 そのへん、青花はどう捉えてるんだろ……。ま、いいか。

(あほらしー)

 なんか急に、怒りが抜けていった。こんな子相手してる暇があったら、英単語覚えてた方がいいよ。

「時間の無駄。いこ、大村さん」
「だね」

 踵を返した私に、大村さんは微笑む。青花はびっくりした顔をーーけれどとても、嬉しそうな顔をしていた。

(?)

 なんでだろ。
 不思議に思いながらも、その日はいつもの通りに過ぎて行った。

「あ、立候補するの華ちゃん」

 委員会の帰り、廊下を歩いてると千晶ちゃんと出会う。千晶ちゃんの視線の先には、私が持ってた立候補届。
 じきに、生徒会選挙が始まるのです。

「うん」

 軽く肩をすくめた。

「当選するとは思ってないんだけど、風紀の委員長、なれたら色々早いかなって」

 前世紀につくられた、古臭い校則の改革!

「当選してよ華ちゃん、手伝う」

 千晶ちゃんはハーフアップにしてる髪に触れた。

「ポニテのが落ち着く。ポニテなんか若いうちしかできないんだから、好きなだけうなじ晒させて欲しい」

 これまた中身がオトナな千晶ちゃんらしい見解だけれど、私は首を傾げた。

「何歳でも、似合うなら良くない?」

 ていうか千晶ちゃんは美人さんなので、どんな髪型でも似合うと思うのですよねー……。

「そーかなー? ま、とにかく手伝う! 絶対変だもん」

 千晶ちゃんは口を尖らせた。

「それはそうと、」

 千晶ちゃんはふと口調を変えた。

「見てたよ、昼の、桜澤青花との一件」
「あー」

 私は苦笑いして頬をかいた。

「なんか、ちょっとイラっときて」
「あれはムカつくよ。てか、誰も華ちゃんが不正したなんて信じてないから大丈夫」

 千晶ちゃんはそっと私の頭をぽん、と撫でてくれた。なんだか撫でられデイだなぁ。

「そういえば、あの時青花笑ってたんだけど」
「え?」
「私があそこ離れる直前」
「……ああ」

 千晶ちゃんは顎に手を当て、少し考える。

「もしかしたら、……場面は全然ちがうんだけど、似たようなセリフがあったんだよね」
「え、ゲームに?」
「うん、それのことかも」

 千晶ちゃんはふと周りを見回し「あとでカフェ来れる?」と小さく言った。
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