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【高校編】分岐・鹿王院樹
射す光
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青い。
それだけしか、浮かばなかった。
樹くんが「福島に行こう」と言い出したのは、昨日の夕方。もう夏休みも終わる、って日のこと。
ヒグラシの声が聞こえる濡れ縁で、ぼうっとアイスを舐めながら外を眺めていると、部活から帰宅してきた樹くんがぽすりと横に座った。
「おかえり」
「ただいま」
「食べる?」
「ん」
返事をするのが早いか、樹くんは私の唇をぺろりと舐めた。それから、また唇を重ねて啄まれて、ねじこまれた舌は私の口内を舐めあげて、うっとりしそうな私は慌てて抵抗する。
「あ、アイスだよ」
「なんだ、華のことかと思った」
少しいたずらっぽく言う樹くん。もう!
「ところでな、華」
「うん」
「福島行かないか」
「福島?」
私は首を傾げた。
「部活? トレセン?」
「今回はサッカーではなくて」
樹くんは笑う。福島にはおっきなサッカー施設……? なんていうんだろう、時々合宿だ試合だで行ってるスポーツ施設がある。
「? じゃあなんで?」
「水族館に行かないか」
「あるの?」
「いいのがあるんだ」
樹くんは少しうっとりと言う。
「メンダコが」
「めんだこ?」
「オオメンダコが」
なんじゃそりゃ。まぁきっと、タコなんだろう。名前がタコだもん。
「展示されている。生きてるのが展示されるのなんか滅多にない。いま行かないと」
「あ、そう?」
アイスを食べながら返事する。そのタコは美味しいのかな。
「明日明後日なら時間がとれそうなんだ」
「明日!?」
急だ。急だけれど、…….悲しいかな、樹くんより私はずっとヒマなのだ。まぁ敢えて言うなら塾があるけれど、別の日に振り替えてもらえば問題ない。
「いいよ」
「そうか」
樹くんは素直に喜んだ。なにこれこの顔可愛いぞ……?
そんなわけで、翌日には私と樹くんは新幹線に乗っていた。手を繋いで。
(でもなぁ)
私はあっという間に過ぎていく車窓を見ながら思う。あー、でもこれもどっかで見張られてんのかな、なんて。
「華」
「なぁに?」
ぽん、と頭を撫でられた。
「旅行の時なんかは、相良さんたちは遠慮してもらってるぞ」
「へっ」
「特例だ、俺といるから」
「樹くんといるときはいいの?」
「目を離せないがな」
樹くんは目を細める。うう、だからそんなトラブル体質なんかしてないってば。
そんなこんなで辿り着いた水族館、私は天井を見上げてぽかん、としていた。
「ほえー」
「きれいだな」
横にいる樹くんも、天井をみあげてそう言った。
通り抜け型の水槽、たいていカマボコみたいなトンネル型のそこは、ここでは珍しく三角形のトンネルだ。
自然光が差し込んでいて、それが水と魚に反射して、きらきらと輝いている。
水はどこまでも青くて、ついぽうっと眺めてしまう。銀色に小さく光る魚たちの群れが頭上を通り過ぎていった。
「マイワシだな」
「ほーん」
なんと活きが良さそうな……。
「美味しそうとか思っちゃう」
「それだけ良い状態なんだろう」
樹くんは感心したように言う。
「水量もこれだけあれば……」
「ちょっとまってね水槽これ以上ムリだからね」
ていうか、水族館の大水槽みたいなのはさすがに作らないよね!?
「……」
「返事をして!」
ひゃー! って顔で樹くんを見上げると、楽しそうに笑われた。
「さすがに冗談だ」
「だよね」
ほっ、と息をつく。
「今はな」
「今は!?」
「さあ行くぞ華、オオメンダコが待っている」
「タコはいいのタコは!」
冗談なんだか本気なんだか、な口調で樹くんは言って笑って、歩き出す。
深海の生き物のコーナーまで来て、私と樹くんはなんだか無言になってしまう。暗い、少ししんとした展示室。モーター音が響く。
しかし、変わった生き物って面白いよなー……。進化の過程はどうなってるんだろ。
「いた」
樹くんの声が跳ねる。
水槽の中にいたのは、……これ、タコ? 思っていたタコとはちょっと違う。フヨフヨした、なんだろう、四角っぽくて頭だけタコで……。色は赤い。茹でてないのに……?
「???」
「可愛いなぁ」
「え、あ、うん……」
樹くんの可愛い基準、相変わらずよく分かんないなぁ。
「ウサギみたいだ」
「そう?」
まぁ、耳……あれ耳なの? 的な部分がフヨフヨと水流に揺れているのは、まぁ、可愛い、のかもしれない。
「えーっ、カワイイ!」
「カワイイ~~~なにこれー!」
その時背後から同じ年くらいの女の子2人がやってきて、私たちと並んで水槽を覗き込む。
「カワイイ」
「カワイイ」
きゃっきゃ、と言い合うふたり。え、もしかしてコレ可愛いのが世界のスタンダードなの……?
2人はスマホで写真を撮りまくって(フラッシュは禁止)そのあと楽しげに去っていった。そうか、この生き物、世間的にはカワイイのか。
難しい顔をしていると、樹くんが横で笑った。
「どうしたの?」
「いや、」
繋いでいた手を、またきゅっと握られた。
「華のそういうところ、好きだなと思って」
「?」
「俺のワガママに付き合ってくれるだろう。興味がそこまでなくても、こうして理解しようとしてくれている」
「あ、まー、それは」
なんでだろ?
(単純に、知りたいから?)
樹くんの好きなもの、とか。……違うかな。
「一緒にいて楽しいから」
私は水槽を見ながら答えた。
多分、それだけ。
「そうか」
「うん」
水槽のなかのメンダコが、水流に乗ってふよりと泳いだ。その泳いでる姿は、たしかにちょっとカワイイかも、なんて思ったのだった。
それだけしか、浮かばなかった。
樹くんが「福島に行こう」と言い出したのは、昨日の夕方。もう夏休みも終わる、って日のこと。
ヒグラシの声が聞こえる濡れ縁で、ぼうっとアイスを舐めながら外を眺めていると、部活から帰宅してきた樹くんがぽすりと横に座った。
「おかえり」
「ただいま」
「食べる?」
「ん」
返事をするのが早いか、樹くんは私の唇をぺろりと舐めた。それから、また唇を重ねて啄まれて、ねじこまれた舌は私の口内を舐めあげて、うっとりしそうな私は慌てて抵抗する。
「あ、アイスだよ」
「なんだ、華のことかと思った」
少しいたずらっぽく言う樹くん。もう!
「ところでな、華」
「うん」
「福島行かないか」
「福島?」
私は首を傾げた。
「部活? トレセン?」
「今回はサッカーではなくて」
樹くんは笑う。福島にはおっきなサッカー施設……? なんていうんだろう、時々合宿だ試合だで行ってるスポーツ施設がある。
「? じゃあなんで?」
「水族館に行かないか」
「あるの?」
「いいのがあるんだ」
樹くんは少しうっとりと言う。
「メンダコが」
「めんだこ?」
「オオメンダコが」
なんじゃそりゃ。まぁきっと、タコなんだろう。名前がタコだもん。
「展示されている。生きてるのが展示されるのなんか滅多にない。いま行かないと」
「あ、そう?」
アイスを食べながら返事する。そのタコは美味しいのかな。
「明日明後日なら時間がとれそうなんだ」
「明日!?」
急だ。急だけれど、…….悲しいかな、樹くんより私はずっとヒマなのだ。まぁ敢えて言うなら塾があるけれど、別の日に振り替えてもらえば問題ない。
「いいよ」
「そうか」
樹くんは素直に喜んだ。なにこれこの顔可愛いぞ……?
そんなわけで、翌日には私と樹くんは新幹線に乗っていた。手を繋いで。
(でもなぁ)
私はあっという間に過ぎていく車窓を見ながら思う。あー、でもこれもどっかで見張られてんのかな、なんて。
「華」
「なぁに?」
ぽん、と頭を撫でられた。
「旅行の時なんかは、相良さんたちは遠慮してもらってるぞ」
「へっ」
「特例だ、俺といるから」
「樹くんといるときはいいの?」
「目を離せないがな」
樹くんは目を細める。うう、だからそんなトラブル体質なんかしてないってば。
そんなこんなで辿り着いた水族館、私は天井を見上げてぽかん、としていた。
「ほえー」
「きれいだな」
横にいる樹くんも、天井をみあげてそう言った。
通り抜け型の水槽、たいていカマボコみたいなトンネル型のそこは、ここでは珍しく三角形のトンネルだ。
自然光が差し込んでいて、それが水と魚に反射して、きらきらと輝いている。
水はどこまでも青くて、ついぽうっと眺めてしまう。銀色に小さく光る魚たちの群れが頭上を通り過ぎていった。
「マイワシだな」
「ほーん」
なんと活きが良さそうな……。
「美味しそうとか思っちゃう」
「それだけ良い状態なんだろう」
樹くんは感心したように言う。
「水量もこれだけあれば……」
「ちょっとまってね水槽これ以上ムリだからね」
ていうか、水族館の大水槽みたいなのはさすがに作らないよね!?
「……」
「返事をして!」
ひゃー! って顔で樹くんを見上げると、楽しそうに笑われた。
「さすがに冗談だ」
「だよね」
ほっ、と息をつく。
「今はな」
「今は!?」
「さあ行くぞ華、オオメンダコが待っている」
「タコはいいのタコは!」
冗談なんだか本気なんだか、な口調で樹くんは言って笑って、歩き出す。
深海の生き物のコーナーまで来て、私と樹くんはなんだか無言になってしまう。暗い、少ししんとした展示室。モーター音が響く。
しかし、変わった生き物って面白いよなー……。進化の過程はどうなってるんだろ。
「いた」
樹くんの声が跳ねる。
水槽の中にいたのは、……これ、タコ? 思っていたタコとはちょっと違う。フヨフヨした、なんだろう、四角っぽくて頭だけタコで……。色は赤い。茹でてないのに……?
「???」
「可愛いなぁ」
「え、あ、うん……」
樹くんの可愛い基準、相変わらずよく分かんないなぁ。
「ウサギみたいだ」
「そう?」
まぁ、耳……あれ耳なの? 的な部分がフヨフヨと水流に揺れているのは、まぁ、可愛い、のかもしれない。
「えーっ、カワイイ!」
「カワイイ~~~なにこれー!」
その時背後から同じ年くらいの女の子2人がやってきて、私たちと並んで水槽を覗き込む。
「カワイイ」
「カワイイ」
きゃっきゃ、と言い合うふたり。え、もしかしてコレ可愛いのが世界のスタンダードなの……?
2人はスマホで写真を撮りまくって(フラッシュは禁止)そのあと楽しげに去っていった。そうか、この生き物、世間的にはカワイイのか。
難しい顔をしていると、樹くんが横で笑った。
「どうしたの?」
「いや、」
繋いでいた手を、またきゅっと握られた。
「華のそういうところ、好きだなと思って」
「?」
「俺のワガママに付き合ってくれるだろう。興味がそこまでなくても、こうして理解しようとしてくれている」
「あ、まー、それは」
なんでだろ?
(単純に、知りたいから?)
樹くんの好きなもの、とか。……違うかな。
「一緒にいて楽しいから」
私は水槽を見ながら答えた。
多分、それだけ。
「そうか」
「うん」
水槽のなかのメンダコが、水流に乗ってふよりと泳いだ。その泳いでる姿は、たしかにちょっとカワイイかも、なんて思ったのだった。
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