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【高校編】分岐・相良仁

泣き虫(side仁)

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 「彼女っぽいことする」って華が言うから、あーこいつ俺の彼女なんだ、って思ってなんかヤバイくらい幸せになる。なんだこれ……。
 おかげで、華がすうすう眠ってる道中、ほんとに一瞬だった。夢見心地? まぁ安全運転安全運転、こんなとこで死んだら元も子もねー。観光地近くの駐車場に車を停めた。

「起きた? おねんねオジョーサマ」
「……せめて眠り姫とかさ」

 寝ぼけ眼で苦情を呈してくる華は可愛い。本気で可愛い。可愛いからキスしてしまう。

「んー!?」
「眠り姫ならこうしなきゃだろ?」
「ね、眠り姫撤回」
「ダメだね」

 撤回撤回、と口では抵抗する華だけど、身体は全然そんなことなくて、ついいじめたくなる。
 ひょい、と助手席にいた華を自分の膝の上に乗せる。
 唇を重ねながら、熱い口腔を、柔らかな舌を味わいながら華の身体に触れた。

「ふ、あ、仁、やめ」
「やーめない」

 とろんとした目も、蕩けそうなカラダも、全部俺のだって思うとクるものがある。だって「彼女」なんだもんな? 華の耳を噛む。びくりと揺れる身体。……ほんとに、耳、弱いよな。
 甘い声が漏れて、それから「ずるいよ」と華は小さく言う。

「こんなにしても、抱いてくれないくせに」
「……傷つけそうで怖い」
「なにを?」

 不思議そうに言う華を抱きしめる。

「ねえ、私、もう17だよ」

 18と変わんないよ、と言う華の手に、俺はそっと触れる。

「なぁ、まだ気づかない?」
「なにが?」

 きょとんとした顔。
 その返答に思わず笑ってしまう。いや、気づくだろフツー。
 少し身体を離して、華をニヤニヤと見た。
 楽しげな俺を見て、不思議そうに自分の手に目をやった華が「あ」と少し間抜けな声を出した。

「え、あ、これ」
「よくあるパターンのやつ」

 照れ隠しで、あえて明るく言う。いや、照れるな、こういうの。

「……」

 華はじっと自分の左手薬指にはめられてる、ダイヤの指輪を見つめている。

「……起きないかドキドキした」

 華の顔が見れなくて、外の様子、あー晴れてんなぁ、とか、横の車に人が帰ってきたなぁ(キス見られなくて良かったけど、膝に乗せてるから気まずそうな顔された、すみませんねイチャついてて)とか、そんなことを考えていた。
 すぐに出て行く車の後ろ姿をぼけっと眺める。
 けれど、黙りこくる華にふと不安になって華を見た。

「……華」

 華は静かに泣いていた。せっかく化粧してんのにボロボロだ。

「華、」

 もう一度名前を呼んで抱きしめた。

(そんなに、)

 そんなに嬉しいと思ってくれてるのか。

「華、結婚しよう?」

 しゃくりあげながら、何度も頷いてくれる華に、俺まで泣きそうになる。

(大事にしよう)

 改めて思う。何度でも思う。
 かつて、前世で。苦しいくらいに、「俺だったら大事にするのに」って何度も思った。俺がそう思ってる横で、華は別の男に何度も傷つけられて軽んじられて、挙げ句の果てに、ーー殺されて。

(だから、そのぶん、幸せにする)

 幸せで幸せで、華がとろけそうになるくらいに、幸せにする。
 華が笑うことが、俺の幸せだから。ほかになにも要らないから。

「高校出たら、すぐにでも」

 こくり、と頷く華はぎゅうぎゅうと俺にしがみついて離れそうにない。

「まぁそんなわけで、17歳おめでと」
「……あ、そ、だった。今日だった」

 間抜けな華の顔。……忘れてたのか。もう17だなんだと言っていたくせに。俺は笑う。

「なんだ、誕生日だからデート行きたいのかと思ってた」
「や、違う、違って」

 華は俺を見上げる。

「仁のこと知りたくて」
「俺のこと?」
「どんな風に育ったの?」

 俺は首を傾げた。

「家族はどんなひと、好きな音楽は昔と変わらないの? 友達とはどんな風に遊んでたの、とか……なんか、そんな、普通のこと」

 華は静かに続ける。

「私、仁のことが知りたいの。知らないことあって、当たり前なんだけど、それでも知りたい」
「……なんでも話すよ」

 もはや隠し事なんかないんだ。俺がそう答えると、華はふんわりと笑った。


 化粧をちょっと直した華と、手を繋いで土産物屋やらなんやら続く道を歩く。華はサングラスをかけて、少し大人びた服装で、まあ年の差があるのは分かるだろうけれど、いっしょにいてそこまで悪目立ちはしていないっぽい。
 こないだの向日葵畑の時も思ったけど、元から綺麗な顔立ちだから、少し年上に見られるんだよな、こいつ。
 途中から「お腹が空いた」以外の言葉を発しなくなった華のために、てきとうな店に入る。湯葉丼と大きく出ていた、古民家をリフォームしたっぽい感じの店。

「ちょっとまって、湯葉御膳も美味しそう。なにこれ刺身湯葉? なにそれ?」

 座卓の上にメニューを広げて、華は至って真剣だ。俺は悩む華を眺めながらとっても幸せ。

「食べたいもん全部食べたら? 誕生日だし」
「ううっ、でもなぁ、うーんうーん」

 ……心なしか、さっきプロポーズした時より真剣な顔してないか? 俺、湯葉に負けたの? そんなことないよな?

「決めた、湯葉御膳にしよう。仁は?」
「じゃあそっちの魚のほう」
「……少し交換しようね?」

 華は「お願い」って顔で俺を見上げる。「気が向いたらな」なんてニヤニヤ笑って答えるけど、そんな可愛い顔されて言うこと聞かないわけがない。
 料理を持ってきてくれた、60くらいの着物を着た女性は俺たちを見て少し不思議そうにしたあと、華の指輪を見て笑った。

「あら、ご婚約されてるんですか」
「えへ、さっきもらったんです」

 嬉しそうな華に俺は顔が少し緩んじゃうし、その女性も「あらあらおめでとうございます」と笑った。

「ずいぶんお若い奥さまもらわれるのね」
「はぁ」

 曖昧に頷いた。

「どちらで出会われたの?」
「あー、職場で?」

 まぁ嘘じゃない。華の護衛は俺の仕事だし。前世はまぁ、置いといて。

「よっぽど大事にされなきゃ逃げられちゃうわよ」

 からかうように言われて、俺はやっぱり苦笑いした。ふと華が口を開く。

「あの、すっごい大事にされてるので大丈夫です」

 その言葉に俺と女性はきょとん、としたあと俺はちょっと泣きそうになる。なんだこれ。
 女性は「まぁまあ、ご馳走さま」と嬉しそうに笑った。

「ラブラブなのねぇ」

 照れたように笑う華を見てると、ちょっと本格的に涙腺が緩む。

「あらら。ごめんなさい、旦那さん、泣き虫なのねぇ」

 まだ旦那ではないですよ、と言う華の声が、何だか信じられないくらいに幸せそうだから、結局俺は泣いてしまった。ちょっと涙腺がどうにかしている、としか思えない。
 だって、たったこれくらいで泣いてしまうだなんて。
 たったこれくらいで、泣いてしまうくらいに幸せだなんて。
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