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【高校編】分岐・鍋島真
精神年齢(side真)
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「さあ、どうぞどうぞ」
「……お邪魔します」
僕を迎えに来てくれた山ノ内検事の車に乗り込んで、てっきり東京地検に向かうかと思ってたんだけれど、着いたのは山ノ内検事のご自宅だった。
横浜市内の、地下鉄と駅ビル(デパートも入ってる)直結の、タワーマンション。
検事って、そこまでお給料良くないハズなんだけどな。所詮は公務員。
「あら、お客さん?」
リビングから、奥さんと思われる女性が出てきた。切れ長の瞳が印象的なひと。
「お邪魔します」
軽く頭を下げた。
「オレが学生のときお世話になってた先生の教え子。ほら、福島先生。ちょっと色々」
「あら、勉強熱心なのねぇ」
けどこの人、不良検事やからあんま参考にせんほうがええで、と奥さんは続けた。
「いえ、色々勉強させていただいてます」
「ほんま? ほな、後でお茶でも出しますから」
「や、後でそっちでお茶でもするわ。ほな鍋島君、いこか」
ぺこり、と頭を下げて僕は山ノ内検事に続く。自室っぽい部屋に案内されて、そこのソファに腰を下ろした。
「早速ですけど」
この人相手に腹芸もクソもない気がして、僕は書類をさっさと渡す。そして小さく、ほう、と息をついた。
(なんだろう)
よくわからない感情でいっぱいになる。達成感でも、勝利からくる陶酔感とも違う。とりあえずアレだ、一安心って感じかな。ま、ザマーミロとは思うけど。
検事はしばらくペラペラと書類をめくって、それからふうう、と大きく息を吐き出す。
「……3年かかったよ」
伏し目がちに言う。
「ありがとう。これがダメ押しだ。……すまなかった」
「なにがです?」
「君の復讐心を、利用するような真似をして」
「いえ」
僕は首を振った。
「どうせ自分でやる気だったんです」
そう言って肩をすくめてみせる。そう、いつか。検事は真剣な目で答えた。
「デカイ魚だ。鯨だよ。絶対に逃がさない」
「あいつはリス野郎ですよ」
山ノ内検事の比喩にそう答えると、検事は笑った。
「この間もそう言っていたね」
「可愛すぎますかね」
「その判断は任せるけれどーーそうだね」
検事は目を細めた。
「……お茶でもどうかな」
「せっかくなので」
リビングへ向かうと、検事のお子さんがソファでゲームをしていた。中学生らしい。
「おらユウキ、お客さんやぞ」
「お邪魔してます」
僕はその男の子にぺこりと頭を下げた。少年もはにかんだ笑顔で、頭を下げる。
「もうすぐもう1人帰ってくるんやけど」
検事が言う。
「あ、鍋島君、青百合やっけ? 上の子、言うても4番目なんやけど、そいつも今青百合やねん。中三」
「へえ」
そう返事をしたとき、ちょうどリビングの扉が開く。
「ただいまー、おかん、メシ~……ってお客さんおったんかいな!」
やけに騒がしく入ってきた背の高い男の子は、たしかに僕の母校、青百合学園の生徒のようだった。強豪であるバスケ部のジャージを着ている。
「こんにちは」
にこり、と微笑むと一歩引かれた。
「なに?」
「や、キレーやなぁって思って」
ずいぶんハッキリ言う子だな、と半ば感心する。
「いきなり失礼やな、アキラ」
「あ、さーせん」
「気にしてないよ」
「気にしとらんってよ、オトン」
「お前はまず手を洗ってこい」
呆れたように検事が言って、その子、アキラくんは引っ込んで行った。
「騒がしくて」
「いえ……」
返事をしながら考える。さっき、あの子のこと「4番目」と言ってたなぁ。てことは5人兄弟か。今時珍しい。
(華は何人欲しいかな)
なんとなく考える。何人でもいいけれど、できれば華に似て欲しいよなあ。
「ただいま」
奥さんがリビングに戻ってくる。手には白い箱を下げていた。
「あれ、どっか行っとったんか」
「せっかくやから、ケーキ」
僕は軽く眉を下げた。突然お邪魔して手土産もないなんて、僕らしくなかった……というか、まさか家に連れて来られるなんて思ってなかったし。
「それがやな鍋島君」
検事が僕の考えを読んだかのように言う。……思考を読まれるの、なんかヤダな。華もよく嫌がるけど、なるほど。今後もよく観察して思考を読んでいこうと思った。ガンガンいこう。
「カイシャに置いとくんも、ちょーっとアレなんや」
「……というと」
「まぁオレの部屋もいろんな人が出入りするからなぁ、ぶっちゃけ君の言う"リス男"の息がかかった人間がいない、とは限らなくて」
「まぁそうでしょうね」
僕は肩をすくめる。
「調べ本番まで、オレもリスになるわ」
「納得です」
自宅の方が安全、ってことなんだろう。見たところセキュリティの高いマンションっぽいし、いくらオトーサマでも空き巣に入らせるようなマネはできないだろう。……というか、まさか証拠を検事が自宅に置いとくとは思わないかもしんない。
「なにコッソリ話してるの? お茶入りましたよ」
「はいはい」
検事に促されて、ダイニングテーブルに座る。温かい紅茶と、奥さんが買ってきてくれたケーキ。
「あ」
僕はつい声を出した。これ、華が食べたがってたケーキじゃん。千晶と雑誌眺めて「横浜まで食べに行く!」って散々騒いでた。
(僕は食べたよ美味しかったって言ってやろ)
楽しくなって、にやりと笑ってしまう。……華のこととなると、僕の精神年齢7歳くらいになってない? まぁいいや。
そう思ってスマホを取り出し、スリープを解除しようとした瞬間、とってもうろたえた声が聞こえた。
「な、なんでアンタ壁紙が華なん?」
呆然とした言葉に振り向くと、さっきのアキラくんが僕のスマホを凝視して立っていた。
(……ふうん?)
僕は軽く首を傾げた。
この子、"華"って呼び捨てにしたかな?
「……お邪魔します」
僕を迎えに来てくれた山ノ内検事の車に乗り込んで、てっきり東京地検に向かうかと思ってたんだけれど、着いたのは山ノ内検事のご自宅だった。
横浜市内の、地下鉄と駅ビル(デパートも入ってる)直結の、タワーマンション。
検事って、そこまでお給料良くないハズなんだけどな。所詮は公務員。
「あら、お客さん?」
リビングから、奥さんと思われる女性が出てきた。切れ長の瞳が印象的なひと。
「お邪魔します」
軽く頭を下げた。
「オレが学生のときお世話になってた先生の教え子。ほら、福島先生。ちょっと色々」
「あら、勉強熱心なのねぇ」
けどこの人、不良検事やからあんま参考にせんほうがええで、と奥さんは続けた。
「いえ、色々勉強させていただいてます」
「ほんま? ほな、後でお茶でも出しますから」
「や、後でそっちでお茶でもするわ。ほな鍋島君、いこか」
ぺこり、と頭を下げて僕は山ノ内検事に続く。自室っぽい部屋に案内されて、そこのソファに腰を下ろした。
「早速ですけど」
この人相手に腹芸もクソもない気がして、僕は書類をさっさと渡す。そして小さく、ほう、と息をついた。
(なんだろう)
よくわからない感情でいっぱいになる。達成感でも、勝利からくる陶酔感とも違う。とりあえずアレだ、一安心って感じかな。ま、ザマーミロとは思うけど。
検事はしばらくペラペラと書類をめくって、それからふうう、と大きく息を吐き出す。
「……3年かかったよ」
伏し目がちに言う。
「ありがとう。これがダメ押しだ。……すまなかった」
「なにがです?」
「君の復讐心を、利用するような真似をして」
「いえ」
僕は首を振った。
「どうせ自分でやる気だったんです」
そう言って肩をすくめてみせる。そう、いつか。検事は真剣な目で答えた。
「デカイ魚だ。鯨だよ。絶対に逃がさない」
「あいつはリス野郎ですよ」
山ノ内検事の比喩にそう答えると、検事は笑った。
「この間もそう言っていたね」
「可愛すぎますかね」
「その判断は任せるけれどーーそうだね」
検事は目を細めた。
「……お茶でもどうかな」
「せっかくなので」
リビングへ向かうと、検事のお子さんがソファでゲームをしていた。中学生らしい。
「おらユウキ、お客さんやぞ」
「お邪魔してます」
僕はその男の子にぺこりと頭を下げた。少年もはにかんだ笑顔で、頭を下げる。
「もうすぐもう1人帰ってくるんやけど」
検事が言う。
「あ、鍋島君、青百合やっけ? 上の子、言うても4番目なんやけど、そいつも今青百合やねん。中三」
「へえ」
そう返事をしたとき、ちょうどリビングの扉が開く。
「ただいまー、おかん、メシ~……ってお客さんおったんかいな!」
やけに騒がしく入ってきた背の高い男の子は、たしかに僕の母校、青百合学園の生徒のようだった。強豪であるバスケ部のジャージを着ている。
「こんにちは」
にこり、と微笑むと一歩引かれた。
「なに?」
「や、キレーやなぁって思って」
ずいぶんハッキリ言う子だな、と半ば感心する。
「いきなり失礼やな、アキラ」
「あ、さーせん」
「気にしてないよ」
「気にしとらんってよ、オトン」
「お前はまず手を洗ってこい」
呆れたように検事が言って、その子、アキラくんは引っ込んで行った。
「騒がしくて」
「いえ……」
返事をしながら考える。さっき、あの子のこと「4番目」と言ってたなぁ。てことは5人兄弟か。今時珍しい。
(華は何人欲しいかな)
なんとなく考える。何人でもいいけれど、できれば華に似て欲しいよなあ。
「ただいま」
奥さんがリビングに戻ってくる。手には白い箱を下げていた。
「あれ、どっか行っとったんか」
「せっかくやから、ケーキ」
僕は軽く眉を下げた。突然お邪魔して手土産もないなんて、僕らしくなかった……というか、まさか家に連れて来られるなんて思ってなかったし。
「それがやな鍋島君」
検事が僕の考えを読んだかのように言う。……思考を読まれるの、なんかヤダな。華もよく嫌がるけど、なるほど。今後もよく観察して思考を読んでいこうと思った。ガンガンいこう。
「カイシャに置いとくんも、ちょーっとアレなんや」
「……というと」
「まぁオレの部屋もいろんな人が出入りするからなぁ、ぶっちゃけ君の言う"リス男"の息がかかった人間がいない、とは限らなくて」
「まぁそうでしょうね」
僕は肩をすくめる。
「調べ本番まで、オレもリスになるわ」
「納得です」
自宅の方が安全、ってことなんだろう。見たところセキュリティの高いマンションっぽいし、いくらオトーサマでも空き巣に入らせるようなマネはできないだろう。……というか、まさか証拠を検事が自宅に置いとくとは思わないかもしんない。
「なにコッソリ話してるの? お茶入りましたよ」
「はいはい」
検事に促されて、ダイニングテーブルに座る。温かい紅茶と、奥さんが買ってきてくれたケーキ。
「あ」
僕はつい声を出した。これ、華が食べたがってたケーキじゃん。千晶と雑誌眺めて「横浜まで食べに行く!」って散々騒いでた。
(僕は食べたよ美味しかったって言ってやろ)
楽しくなって、にやりと笑ってしまう。……華のこととなると、僕の精神年齢7歳くらいになってない? まぁいいや。
そう思ってスマホを取り出し、スリープを解除しようとした瞬間、とってもうろたえた声が聞こえた。
「な、なんでアンタ壁紙が華なん?」
呆然とした言葉に振り向くと、さっきのアキラくんが僕のスマホを凝視して立っていた。
(……ふうん?)
僕は軽く首を傾げた。
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