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【高校編】分岐・相良仁

フラペチーノ(side青花)

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 "前世の記憶"が戻ったのは中学生の頃だった。

(まー、これは随分と健康的な環境に生まれ変わったモンね)

 呆れて笑った。
 前世で、かつて、あたしは「まとも」に生きたことはなかった。
 14で家出して、行き着いた街でフラフラしてたら、気がついたらあたしは(これに関しては幸運だったのかもしれない)「まともじゃない」連中の幹部の男のオンナになってた。
 ヤクザじゃない。いわゆる、「半グレ」ーー。

(でもやってたコトはヤクザよね)

 暴力、売春、恐喝、それからクスリ。決まった組織を持たない半グレのアメーバみたいな動きを、あたしはその男の横で見てきた。どんな風にクスリを仕入れるのか。どんな風に捌くのか。誰をターゲットにしたらいいのか。誰を使えばいいのか。どうすれば自分は捕まらないのか。
 結局、その男もあたしも、まともな死に方はしなかった。
 でも死ぬときに、なんとなく思ったのだ。暇つぶしに、死ぬ直前になんとなくしてたゲーム、あのヒロインになってみたいなぁ、って。

(ホントになるとは、ね)

 くすくす、と笑う。こうなればやってみるしかない。

(でも、どっちも上手くいかないのよねー)

 どっちも、ってのは「学園内でシナリオをすすめること」「外部では設楽華を排除すること」、まぁどっちに転んでもいいと思っているのだけれど、どちらも上手くいかない。

(……あの担任、妙じゃない?)

 設楽華の担任。やたらと一緒にいるような? 気のせい?

(もしかしたら、学園長あたりから言われてるのかも)

 あの子をヨロシク、って。
 設楽華は、学園内ではトップクラスの権力を持っているはずだ。とんでもないレベルのお嬢様で、学園長の親戚で。

(確か、ゲームではそれを傘にきてやりたい放題、だったはずだけれど……)

 今はそんなことはしていない。真面目な風紀委員チャンだ。それでは困る。ていうか、ムカつく。マジメちゃんっていちばんムカつく。正義ヅラして、ちゃんと生きてますってカオしちゃってさ。

(きちんと悪役令嬢するか、もしくは居なくなってもらわないと)

 あたしの楽しい逆ハー生活の予定に支障が出るじゃない。まったく。

(現実とはいえ、

 あーほんと、邪魔だけはやめて、ってかんじ。ええと、邪魔はしてほしいんだけど、シナリオに沿ってよねー。

(空気読めないのかしら)

 ぼーっとしたカオしてるし。
 なんて自分の部屋で思い出してムカついてたら、机の上のスマホが鳴った。
 "取引先さん"からのメッセージ。顧客増やせます? ってお話ですこし迷う。

(コドモ相手はあんまなぁ)

 引き出せる金額に限界がある。男子よりは女子がいいのは間違いないんだけどーー。カラダで稼がせれるし。

(オトナ相手はリスク高いけど、)

 そう考えて、ふと思い出した。
 そーいや、ちょっと前にしてたパパ活で(欲しいものにどうしても少しお金が足りなかったのだ)知り合ったオトコのひとがいた。
 あのヒトとかどうかなぁ。
 名前は白井、だっけなんだっけ……。確か公務員とか言ってたかな。

(いざとなればこっちから脅せばいい)

 パパ活なんて体のいい言葉で、金額よってはカラダ売る子なんかいくらでもいる。……あたし含めて。

(でも白井サンは微妙)

 あんましたくないタイプ……。
 そうだ、あたしじゃなくて別の子紹介して、そーいうことさせちゃえ。そしたら白井サンもこっちの言うこと聞かなきゃいけなくなるし。うん、そうしよ。
 あたしは上機嫌で部屋を出た。
 新発売のドリンクを買いに行かなきゃなのだ。SNSにあげなきゃ。太るから写真撮ってスグ捨てるけど。
 自室は二階だから、とんとんと階段を降りる。

「青花ちゃん」
「なぁにママ」

 階段を降りたところに、ママが立っていた。

「あのね、そのカバン、どうしたの? すごく高そうなんだけれど……」
「あ、これ?」

 にこり、と笑う。ハイブランドの中でも、さらに高級な部類に入る新作のおカバンちゃん。
 どーしても欲しかった。車が買える値段でも。

「同級生の子がくれたんだよ。ほら、青百合ってお嬢様ばっかだから、お下がりとかふつーにくれるの。そもそもそんなにしない、って言ってたよ」
「あ、そ、そうなの?」

 クッソド庶民の(ヘドが出る)ママにはブランド物だって分かっても、それがどれくらいの値段かまでは分からないみたい。

「図書館行ってくるね」
「はぁい」

 安心した様子でママは笑った。あたしも笑い返す。バーカ、一生底辺這い回ってろ。
 ひとりで行くのもムナシイから、テキトーにクラスの男子を呼び出す。クラスの男子はカンタンになびいてくれたのにねー、攻略対象くんたちはそうは行かないんだなぁ。

(好感度、足りてないのかなぁ)

 カフェの前で待ってると、すぐに男子たちが集まってきてくれた。グループトークで送ったから、何人もきてる。あは、やっぱあたしってヒロイン。

「桜澤さん、今日も可愛いね」
「え、そ、そんなことないよっ」

 びっくりした、ってカオで赤くなってみせる。言った男子は照れ顔で満足そうだ。ヨカッタネ~。ドリンク代おごってくれた。
 隅っこの席にあたしたちは座る。

(……あれ?)

 設楽華の担任じゃん。持ち帰りで注文してたのか、透明のプラスチックカップを両手に持ってさっさと店を出て行ってた。ひとつはあたしのと同じ、新発売のクリームたっぷりフラペチーノ。

「あ、相良先生」

 男子の1人が言う。へえ、そんな名前だったんだ。

「あ、じゃあやっぱあれ、相良先生だったんだ」
「あれ?」

 首を傾げてみせた。男子は赤くなる。

「さっき店の前に車止めてた。デートっぽい」
「マジ!? 彼女、可愛い?」
「サングラスしてたし、反対向いてたからはっきり分かんなかったけど、美人っぽかった」
「へー」

 そんな会話を聞きながらあたしはイラついた。あたし以外の女の話題で盛り上がらないでくれる?
 空気を察した誰かが話題を変える。ありがとね。あたし、他の女があたしより目立つの、本気で嫌いだから。
 そうしてあたしは写真を撮り終わった、その生クリームだのなんだのたっぷりのフラペチーノに、結局ふたくちだけ口をつけた。
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