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【高校編】分岐・相良仁
(side仁)
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「バッカじゃないの」
低い声と平手打ち。ばしん、と思い切り頬が打たれた音が辺りに響く。……結構痛い。
「ほんと、……バカじゃないの」
ぎゅう、と抱きしめられた。
「仁の気持ちは分からないよ。ごめんね、そんなに重い経験したことないから」
「いや、ごめん、華」
「なんで謝るの」
華は眉を寄せて俺を睨む。
「でも側にいたい。ていうか、いて。汚いとも怖いとも思わない。でも、」
華は俺を抱きしめてた腕を少し緩める。それから俺の頬に触れた。
「半分背負わせてくれないかな」
「なにを?」
「仁のいろんな気持ちとか、そういうの」
華は少し目を伏せた。
「頼りない? 私。一緒にいて、半分こにできたりしない?」
「……お釣りがくるよ」
言いながら、抱きしめた。頭がごちゃごちゃしてる。……言えば、嫌われると思った。華は優しいから、ひとごろしなんか好きでいてくれないと思ったんだ。
(でも、)
背負ってもらおうとは思わない。
(これは俺が背負うべきものだから)
銃口の先にいたのは、いつだって生きてる人間だった。奪ったのは俺だ。
けれど、背負ってくれると言ってくれるひとがいるだけで、こんなに力が湧くなんて。
「ごめんね、痛かった?」
「痛かった」
「ごめん」
華は微笑む。
「あのさ、華」
「なに? まだなんかあるの」
「俺、これ黙ってたよ。言うつもりなかった。華に黙ったまま、一生やり過ごそうとしてた」
俺の声は少しだけ震える。
「ずるい人間だよ。それでもいいの」
「ひとりで抱えていく気だったの」
華の声はひどく優しい。
「仁は優しいね」
「優しくない」
華の肩口に顔を埋める。
「ずるいだけ」
「優しいよ」
後頭部をよしよし、と撫でられた。
「私は知ってる」
「華」
「顔上げて」
言われた通りにすると、ふっと吹き出された。
「情けないカオ!」
「……しょーがねーだろ」
ふい、と俺は顔を逸らす。
「お前にもう触れられないかと」
「そんなんで不安になるの?」
「なるよ」
当たり前じゃん、と言うと華は笑った。なんていうか、透明な、月の光みたいな微笑み方だった。
唇が重なったのは覚えてるんだけど、それが俺からだったのか、華からだったのかは、後から考えると、正直なところ、イマイチ判然としない。
華を送り届けた頃には、時計の針はとっくに明日に変わっていた。
助手席の華はバスタオルを身体にかけて、少し眠そうにしていた。
「今から課題して寝ると寝不足なんじゃねーの」
「まぁね~」
華は少しげっそりとした表情で言った。
「けどまぁ、なんとかなるでしょ」
「無理すんなよ」
「ん」
「つうか風邪引くなよ」
着替えなんかないし、バスタオルだけ頭から被せてここまで来た。
「仁こそ」
「俺って丈夫なの」
玄関に入るまできっちり送り届ける。と、廊下の奥からパタパタとスリッパを履いた足音がする。
(あ、常盤朱里)
華のツンデレな親戚だ。父親が去年逮捕されて裁判中ってことで、この家に引き取られたのだ。しかしまぁ、ツンデレ美少女って存在するんだなぁ……。
「ちょっと華、あんたこんな夜になにしてーーってびしょ濡れじゃない!? なにしてたの!?」
「学校にテキスト取りに行ってたらプールに落ちちゃって~、相良さんに助けてもらったの」
あはは、と笑う華を少し呆れてみやる。なにが落ちちゃってだ。自分でダイブしたくせに。
「ばっかじゃないの!?」
ふ、と俺に向けられた視線に軽く目礼する。朱里は一瞬、ほんの一瞬だけ俺に酷く憎憎しげな表情をみせた。すぐに元のツンデレ顔に戻って「風呂! 風呂!」と華を急かせる。
「え、あ、うん。じーー相良さん、また」
「はい」
にこり、と笑って玄関から出る。車に戻ってエンジンをかけようとすると、がん、と窓ガラスを叩く音。窓を開ける。
「……朱里様、どうなさいました?」
「そのピアス」
朱里は今度は憎憎しげな視線を隠すことなく、俺を見つめる。
「誰にもらったの?」
「自分で買いましたよ」
淡々と答えた。
(……バレてんじゃん)
華のあんぽんたん、買い物履歴くらい消せよ!
(や、)
すぐに思い返す。俺が油断してたんだ。
「ふーん。そ」
朱里はすっと車から離れる。
「あたし」
見下すように腕を組み、少し離れた距離から朱里は俺を見る。
「あの子が幸せになれる相手じゃないと、認めないわ」
「……どんな権利がおありで?」
思わず聞き返す。
「ないわよ。あの子に関して、あたしが持ってる権利なんか、なに1つない。ないけれど」
朱里はいっそ堂々と言った。
「ないけれど、それでも許せない。バンドマンじゃなくて安心したけど、もっと厄介だったわ」
「バンドマン……?」
なんだ、なにそれなんの話なんだ。
「というか、僕、なんの関係もないですよ?」
にっこりと微笑む。
「ただのボディーガードと対象者で、教師と生徒で、ただそれだけです」
「……あ、そー」
朱里はくるりと踵を返す。
「覚えておきなさいロリ野郎」
「ろ、ろり」
「あたしはアンタを認めない」
カオは見えない。けれど、とても硬い声。
「樹さまや圭と恋をしたほうが、華は幸せになれるの」
「なぁ常盤の元お嬢さん」
「元ってなによ元、って」
くるりと振り向いたその顔に向かって俺は言う。
「そんなに華のことが好きなんですか」
「な、なに言って、そんな、好きなんかじゃっ」
「顔に書いてありますけど?」
窓から手を伸ばし、朱里を指差す。
「恋してますって」
「う、うるさい、事故れ、命に別状がないくらいのアレで事故れっ」
そのまま家の中に飛び込んで行かれてしまった。……しかしなんなんだ、その微妙な優しさは。これがツンデレか。ツンデレなのか。
無事故無違反で帰宅しつつ、俺はそう思った。
低い声と平手打ち。ばしん、と思い切り頬が打たれた音が辺りに響く。……結構痛い。
「ほんと、……バカじゃないの」
ぎゅう、と抱きしめられた。
「仁の気持ちは分からないよ。ごめんね、そんなに重い経験したことないから」
「いや、ごめん、華」
「なんで謝るの」
華は眉を寄せて俺を睨む。
「でも側にいたい。ていうか、いて。汚いとも怖いとも思わない。でも、」
華は俺を抱きしめてた腕を少し緩める。それから俺の頬に触れた。
「半分背負わせてくれないかな」
「なにを?」
「仁のいろんな気持ちとか、そういうの」
華は少し目を伏せた。
「頼りない? 私。一緒にいて、半分こにできたりしない?」
「……お釣りがくるよ」
言いながら、抱きしめた。頭がごちゃごちゃしてる。……言えば、嫌われると思った。華は優しいから、ひとごろしなんか好きでいてくれないと思ったんだ。
(でも、)
背負ってもらおうとは思わない。
(これは俺が背負うべきものだから)
銃口の先にいたのは、いつだって生きてる人間だった。奪ったのは俺だ。
けれど、背負ってくれると言ってくれるひとがいるだけで、こんなに力が湧くなんて。
「ごめんね、痛かった?」
「痛かった」
「ごめん」
華は微笑む。
「あのさ、華」
「なに? まだなんかあるの」
「俺、これ黙ってたよ。言うつもりなかった。華に黙ったまま、一生やり過ごそうとしてた」
俺の声は少しだけ震える。
「ずるい人間だよ。それでもいいの」
「ひとりで抱えていく気だったの」
華の声はひどく優しい。
「仁は優しいね」
「優しくない」
華の肩口に顔を埋める。
「ずるいだけ」
「優しいよ」
後頭部をよしよし、と撫でられた。
「私は知ってる」
「華」
「顔上げて」
言われた通りにすると、ふっと吹き出された。
「情けないカオ!」
「……しょーがねーだろ」
ふい、と俺は顔を逸らす。
「お前にもう触れられないかと」
「そんなんで不安になるの?」
「なるよ」
当たり前じゃん、と言うと華は笑った。なんていうか、透明な、月の光みたいな微笑み方だった。
唇が重なったのは覚えてるんだけど、それが俺からだったのか、華からだったのかは、後から考えると、正直なところ、イマイチ判然としない。
華を送り届けた頃には、時計の針はとっくに明日に変わっていた。
助手席の華はバスタオルを身体にかけて、少し眠そうにしていた。
「今から課題して寝ると寝不足なんじゃねーの」
「まぁね~」
華は少しげっそりとした表情で言った。
「けどまぁ、なんとかなるでしょ」
「無理すんなよ」
「ん」
「つうか風邪引くなよ」
着替えなんかないし、バスタオルだけ頭から被せてここまで来た。
「仁こそ」
「俺って丈夫なの」
玄関に入るまできっちり送り届ける。と、廊下の奥からパタパタとスリッパを履いた足音がする。
(あ、常盤朱里)
華のツンデレな親戚だ。父親が去年逮捕されて裁判中ってことで、この家に引き取られたのだ。しかしまぁ、ツンデレ美少女って存在するんだなぁ……。
「ちょっと華、あんたこんな夜になにしてーーってびしょ濡れじゃない!? なにしてたの!?」
「学校にテキスト取りに行ってたらプールに落ちちゃって~、相良さんに助けてもらったの」
あはは、と笑う華を少し呆れてみやる。なにが落ちちゃってだ。自分でダイブしたくせに。
「ばっかじゃないの!?」
ふ、と俺に向けられた視線に軽く目礼する。朱里は一瞬、ほんの一瞬だけ俺に酷く憎憎しげな表情をみせた。すぐに元のツンデレ顔に戻って「風呂! 風呂!」と華を急かせる。
「え、あ、うん。じーー相良さん、また」
「はい」
にこり、と笑って玄関から出る。車に戻ってエンジンをかけようとすると、がん、と窓ガラスを叩く音。窓を開ける。
「……朱里様、どうなさいました?」
「そのピアス」
朱里は今度は憎憎しげな視線を隠すことなく、俺を見つめる。
「誰にもらったの?」
「自分で買いましたよ」
淡々と答えた。
(……バレてんじゃん)
華のあんぽんたん、買い物履歴くらい消せよ!
(や、)
すぐに思い返す。俺が油断してたんだ。
「ふーん。そ」
朱里はすっと車から離れる。
「あたし」
見下すように腕を組み、少し離れた距離から朱里は俺を見る。
「あの子が幸せになれる相手じゃないと、認めないわ」
「……どんな権利がおありで?」
思わず聞き返す。
「ないわよ。あの子に関して、あたしが持ってる権利なんか、なに1つない。ないけれど」
朱里はいっそ堂々と言った。
「ないけれど、それでも許せない。バンドマンじゃなくて安心したけど、もっと厄介だったわ」
「バンドマン……?」
なんだ、なにそれなんの話なんだ。
「というか、僕、なんの関係もないですよ?」
にっこりと微笑む。
「ただのボディーガードと対象者で、教師と生徒で、ただそれだけです」
「……あ、そー」
朱里はくるりと踵を返す。
「覚えておきなさいロリ野郎」
「ろ、ろり」
「あたしはアンタを認めない」
カオは見えない。けれど、とても硬い声。
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くるりと振り向いたその顔に向かって俺は言う。
「そんなに華のことが好きなんですか」
「な、なに言って、そんな、好きなんかじゃっ」
「顔に書いてありますけど?」
窓から手を伸ばし、朱里を指差す。
「恋してますって」
「う、うるさい、事故れ、命に別状がないくらいのアレで事故れっ」
そのまま家の中に飛び込んで行かれてしまった。……しかしなんなんだ、その微妙な優しさは。これがツンデレか。ツンデレなのか。
無事故無違反で帰宅しつつ、俺はそう思った。
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