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【高校編】分岐・鹿王院樹

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 みーんみんみん、と窓の外で蝉が鳴いている。私はだらりと自分の部屋の椅子にしなだれかかっていた。

(あー、敦子さんに見られたらだらしがないってめっちゃ怒られるやつー……)

 キャミソールにショートパンツ。
 でもまぁ、いま、ひとりだし。えへへ。

(ていうか、あんま話せなかったなぁ)

 色々と、それどころじゃなかったから。子育て(?)大変すぎて……。
 窓の外を見ながら、アイスキャンデーをぺろりぺろりと舐める。

「……美味しっ」

 思わず呟く。暑い日に食べるアイスは格別ですよ。一枚、窓ガラスを隔てた外側は灼熱の暑さだけれど……。
 8月の眩しい日差しに、目を細める。
 その時、ドアがばあんと開いた。

「こら華、何その格好。はしたない」
「そっちの方でしたか」

 だらしない、じゃないんだ……っていうか!

「あ、敦子さん、なんで!?」

 ヒマリちゃんがママのとこに帰ってすぐ、アメリカに帰国したはずじゃ!
 慌てて起き上がる。

「今度は普通に仕事。あなたにも来てもらうわよ」
「へっ」
「樹くんにも付き合ってもらうつもりなんだけれど」

 敦子さんの背後には、思い切り目を逸らして私を見ないようにしてくれてる樹くん。

「……その、服を着てくれないか」
「ごごごごごめんなさい」

 謝りながら思う。でもでも、いきなりドア開けちゃう敦子さんが悪いと思わない!?

 結局、そのまま敦子さんに振袖を着つけられた。黒地に、大きな白い鶴と赤い牡丹、菊が散らしてある。ところどころに金の縁取り。ちょっとオトナっぽくて、気に入った。……けど、これわざわざ買ってきたのかな……。おいくら万円……?
 スーツに着替えてる樹くんは黙って拍手していた。なにそれなんの反応なの……? いや、褒められて悪い気はしないけれど!

「すまない、語彙がない」
「なんの?」
「華の素晴らしさを言い表す語彙力が……俺に……ない……」
「そんなに悔しそうに言わなくたって」

 というか、そんな素晴らしさないと思うんですけどね。いやお着物は素晴らしいけれど!
 ありがと、とちょっと甘えたい気分で樹くんのスーツの袖を掴んで首をかしげると、樹くんの眉間のシワが深くなった。何やら照れてしまったらしい。

「てか、樹くんも和服が良かったよ!」

 単に見たかった。似合うんだもの。

「今日はビジネスだからな」

 私は首を傾げた。お仕事モードってことでしょうか? こころなしか、いつもよりキリッとしてる気もするよ。ちょっとドキドキ。

「はーい、いちゃついてないで、出発出発~」
「待って敦子さん、なんなの今日?」
「今日はね~、クソジジイが会長してるグループ会社のひとつ、重工の会社創立130年記念パーティーなのよ」
「へぇん」

 私は話半分に頷く。

「この際に、あなたと樹くんをキッチリ、きぃぃっちり皆様にご紹介しておこうと思って」
「はあ」

 ゆるゆると頷く。要はついて行ってご挨拶すればいいってことかな?

 なんてかるーく考えてたら、パーティー始まる前から色んなオトナたちに囲まれて閉口してまった。場所は都内の大きなホテル。日本庭園が立派で有名なとこだ。

「いやいやいや実にお似合いでらして、まるで女雛と男雛のような」
「はぁ」
「イヤねぇあの方は例えが古くて。ところでお式はいつなのかしら、披露宴はなさるのよね? ご招待客はお決めに?」
「おいおい検討していこうとしているところです」

 私の気の抜けた「はぁ」と違ってキビキビとオトナ、というか社会人らしい回答をしてくれてるのは、もちろん樹くん。
 ……いや私、しっかりせねばだね? 中身オトナだもんね? けれどもブランクが私の邪魔をする、と言い訳させてください。
 目を白黒させていると、ふと樹くんは私の手を取って歩き出した。パーティー会場から出て、ホテルのお庭まで連れ出された。

「大丈夫か?」
「なにが?」
「不慣れだろうから」

 じっ、と見つめられた。心配してくれたらしい。私は笑う。

「大丈夫だよー」
「……俺と結婚したら、こういう場に付き合ってもらう機会も増えると思うのだが」
「おっけー」

 気楽な感じで返事をすると、樹くんは私の髪をさらりさらりと撫でながらほんの少し、笑った。
 優しいその表情に、思い切り甘えたい気分になって一歩近づく。樹くんはそっと抱き寄せてくれた。

「いや仲が良くて羨ましいな」

 突然聞こえた声に、慌ててばっと離れる。だ、誰かいたの!?
 立っていたのは今回のパーティーの主役、……なんだろう、クソジジイこと御前ゴゼンの大伯父様。

「あ、」
「この度はお招きいただきまして」

 樹くんはもう一度私を抱き寄せた。

「?」
「ふん、招いてなどおらんわ。急に来よったんだ敦子が」

 そう言いながら、御前は私を見た。私はその視線に、少しだけ身じろぐ。なんか、あまり良い感情じゃない視線な気がして。……元々、好かれてるとは思ってなかったけれど。

「……こんな風に育つのが分かっていたら」

 御前は笑った。

「ワシが引き取っておくべきだったなぁ」
「御前」

 樹くんが少し硬い声で言う。硬い声っていうか……ちょっと怒ってる?
 思わず見上げた。
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