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【高校編】分岐・山ノ内瑛

手を繋いで

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 仄暗い学園内のレンガの道を、さくさくとアキラくんは歩く。
 すっかり体育館から遠ざかったあたりで、アキラくんはふと立ち止まった。

「迎え、どこまで来とるん?」
「え?」
「クルマ」

 来とおんやんな? とアキラくんは尋ねてくる。
 私は頷いた。
 お迎えの車はいつも待機してくれている。なんだかちょうどいい時間にーー護衛だか、監視だか(まぁ仁のことなんだけど)の人たちが上手いことやりくりしてくれてるんだろうな、と思ってはいるんだけれど。
 アキラくんは笑って、私の腕から手を離して手を繋ぎ直す。指を絡めて、恋人繋ぎで。

「アキラくん?」
「暗いから分からへんやろ」

 校舎から漏れる明かりで、近くにいてもなんとなく顔がわかる程度の明るさだ。もし人が通りかかっても、誰だか分からないと思う。
 私はふと力を抜いて眉を下げた。

「ごめんね、……付き合わせて」

 もう婚約が解消されたというのに、家同士の都合で当面は「許婚」がいる状態のまま、なのだ。……他の男の子とお付き合いしてます、とはとても言える状況じゃない。

「ええんや。しゃーない。引き離されんかっただけ御の字やで」

 アキラくんは私の頬を指でつつく。

「せやから笑って?」
「アキラくん」
「ひっさびさやん、屋外で手なんかつなぐん」
「あは、そうだね」

 私は笑う。へんな笑い方かもだけど、アキラくんは笑い返してくれた。きゅう、と繋ぐ手に力が入る。

「高等部のほうでええんかな?」
「あ、迎え。うん、そっちのエントランス」
「りょーかい。ほな高等部校舎まで送るわ」
「ありがと」
「その代わり」

 アキラくんはにやりと笑った。

「ちゅーさせて」

 返事をする前に、唇が塞がれた。ほんの一瞬、だけれど。

「お駄賃や」
「私ばっかり得してない?」
「華はいつも得してばっかりでちょーどいいんや」
「なにそれ」

 くすくす、と笑うとアキラくんに抱き寄せられた。

「好き」
「へっ」
「めっちゃ好き。大好き。……なぁ、キスマーク、消えてしもうた?」
「えっと、」
「足の」
「う、ん」

 小さく頷くと、「付け直してもええ?」とアキラくんは相変わらずの耳元で言う。

「あの、えっと」
「嫌や言うてもつけるけど?」
「い、いいよ? でもその、どこに?」

 さすがにもう太ももは恥ずかしいよ!
 少しモジモジとアキラくんを見上げると、アキラくんは笑った。

「だいじょーぶや、足なんかようせん、こんなとこで」
「そ、そう?」

 ホッとして笑ったのもつかの間で、私のシャツのボタンは2つだけ、外された。

「アキラくん、」
「華の鎖骨ってな、おいしそーよな?」
「ひゃっ!?」

 アキラくんは鎖骨を甘噛みしてくる。私は甘い痛みで立っていられなくて、アキラくんにしがみついた。

「……華はえっちぃな? 鎖骨ってヤラシーとこやっけか?」
「ち、違うけど」

 ぺろり、と鎖骨を舐められて、その下に吸い付かれた。じくりとした痛み。

「そのうちちゃんとオシオキしたるからな」
「お、お仕置き?」
「ん」

 にこり、と笑いながらアキラくんはボタンを留めてくれる。

「だって華、期待しとるやん? お仕置き」
「し、してないよう」

 なんとなく、声が弱々しくなっちゃった気がする。うう。
 啄ばまれるように唇にキスもされて、手を繋ぎ直される。

「よし大満足や」
「大満足なの……?」
「おう!」

 アキラくんは元気に私に笑いかけてくれる。

「明日からの活力ゲットって感じやで」
「えへへ、嬉しい」

 好きな人の力になれるって、なんか嬉しい。

「私も頑張れるー、勉強とか」
「特進やもんなー、すごいよな」
「委員会とか」
「……」
「髪を」
「その話はナシやっ」

 私はじとりとアキラくんを見た。

「ていうか、染めたの、私のためだよね?」

 なんか上からな言い方になっちゃうけれど。

「駆け落ちしなくても良さげになってきたけど!?」
「それはそれでやな、やっぱスカウトに見られたいやん!?」
「アキラくんなら、プレーだけで見てもらえるって、目立つって、だって」

 そこまで口走って、私は口ごもる。だって、うん、照れるじゃないですか……。

「だって?」

 アキラくんは少し期待した目で私を見てる。

「だって、なんなん? 華、教えてーや」
「う、あの、その」
「オシオキ、今したろーか?」
「や、待って、その、言う! 言いますから」
「ちぇーっ」

 すっごい残念そうな顔をされた。

「……その、カッコいい、から」

 赤面しつつアキラくんを見上げると、アキラくんはにかり、と笑った。

「せやろ!?」
「うっ、うん」
「カッコええやろ」
「うん」

 こうなりゃヤケだっ。

「カッコいい。普段のアキラくんもカッコイイけど、バスケしてる時のアキラくんその何倍もカッコイイんだよ! だから」

 最後まで言えなかった。角度を変えて、なんども重なる唇。

「なんでそんな可愛らしーこと言うてくれるんやろ、俺の恋人は」

 目を細めて、少し切なそうな顔で、でも嬉しそうにアキラくんは言う。

「ほんとのこと、だもん」
「華さえカッコイイ言うてくれたら、俺満足や」
「……じゃあ、髪」
「それとこれとはまた話が別なんやー! よっしゃ、ほなな、華。愛してるでっ」

 アキラくんは、近くの渡り廊下から私を校舎に押し込む。いつのまにか、高等部まで来てたらしい。あんないちゃつきつつ!?

「か、髪染め直してね!?」
「ほんならなー、また明日っ、風紀委員サン!」

 その呼び方に、はっと周りを見るとちょうど生徒が通りかかったところだった。私とアキラくんを見て、納得顔で通り過ぎていく。

(周り見てるなぁ)

 相変わらず、私の恋人はしっかりした年下くんです。
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