上 下
656 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹

キツネ

しおりを挟む
 大村さんは、びしりと私を指差す。

「設楽さんにはあって、その映像に映る人物にはないものがあります。そしてそれはその映像に映っていません」

 私は首を傾げて、あの映像を思い返す。そんなものあったっけ?

(髪留めとかも使ってないし、制服は同じだったし、靴下も学校指定)

 メガネでもないし。なんだろう。
 首をかしげると、大村さんは……なんていうか、鷲掴みにしてきた。背後から。

「ひゃう!?」
「このありすぎるバスト!」
「や、やめて大村さんっ」

 私は何をされているのですかっ!

「設楽さんは制服のシャツ、ぱつんぱつんなのよ!」
「え、い、言わないでっ」

 太りすぎてる自覚はあるんだってええええ!

「ボタン飛びそうなくらいに」
「そこまではないよっ」

 樹くんとアキラくんを見ると、サッと目をそらされた。何その反応!? ねえ!?

「ところがその人、すとーんとしてるわよね? すとーん。この子と違って」

 大村さんは、もう一度私の胸をつつく。や、やめい!

「このサイズは何したって隠せないわ! ゆえに、その人物は設楽さんではないっ!」

 私は涙目で胸を押さえながら、青花に目をやる。青花は「す、す、す、すとーんとしてて悪かったわね!?」と少し裏返った声で叫んだ。

「そ、その女がむしろ胸に肉ありすぎなんでしょ! 脂肪っ」
「うっ」

 私は言葉に詰まる。し、脂肪っ。

「ちゃうで華、多分そこには夢とか希望とかが詰まってるんや気にせんとき!」

 アキラくんのよく分からないフォロー……。

「そうだぞ全体的には痩せているほうだ」

 気遣わしげに樹くんにもフォローされた。……もしかして最近太ってきてるとか思ってた? ねぇ?

「つうかやな、その反応。やっぱ、そいつ、アンタ自身やないんか?」

 アキラくんにびしり、と指さされて、青花は目線をそらす。そして大村さんからスマホを取り返すと「しょ、証拠不十分なようなので、今日はこれでっ」と叫んで、走り去って行ってしまった。

「なんやったんや。つか、そろそろ教師側からもなんやアクションしてもらわな困るで」
「いちおう、働きかけはしているのだが」

 樹くんの声に、私は驚いて樹くんを見た。いつの間に?

「しかし、実害がないので教師陣の腰が重い」
「せやけどこんなん精神的に来るで。なぁ?」

 優しく眉を下げたアキラくんに心配げに言われて、私は微笑み返す。

「大丈夫だよー、もういざとなれば転校するから」
「華が譲ることはない」
「は!? イヤやそんなんっ!」
「えっやだよ!」

 樹くんが眉をひそめて、アキラくんと大村さんがほとんど同時に叫ぶ。ありがたいなぁ、心配してくれて……。
 なんだかジンワリしつつ、その後はふつうに過ごす。
 ところが、休み時間のことだった。ふと青花が教室の窓から見えた。教室は3階にあるから、向こうからは私に気がついてなかっただろうけれど……まじまじと眺める。移動教室っぽくて、教科書とノートを抱えて("私"がビリビリにしたはずでは……?)クラスの男子数人と楽しげに笑い合いながら歩いている。

(可愛い、よね?)

 原作ゲームと同じ姿の青花。髪型も顔つきも体型も、そのままで。中身だけが違う。

(私は随分違うよなぁ)

 中身はもちろん、髪型も違うし、顔つきも違う気がする。同じ顔なんだけど、多分表情とか……それから、体型。大村さんに指摘されるまでもなく、以前千晶ちゃんにも言われた通り「"ゲームの華"はそんなに胸大きくなかった」。はい、多分、ていうか確実に、食べすぎが原因かと思われます……。

(でもゲームの華、細すぎたよ!)

 華奢を通り越しちゃうくらいにほっそりしすぎてた。い、いや別に少しふっくら(してないとは言ってもらえるけれども)してる自分を肯定してるわけではなくってですね……?
 そこまで考えて、ハッと気がついた。気がついてしまった。

(……もしかして、そのせい!?)

 "ゲーム"の華にはなかったこの胸部が、もしかして樹くんが私のことを好きになってくれた要因なのでは……!?
 私はその要因を見下ろす。重くてしんどいからつい机に乗せちゃう、それ。

(むむっ)

 私は眉をひそめた。だとしたら、だとしたら、私はどうすればいいのでしょう?
 帰宅して、私はなんだかモヤモヤと過ごす。

(別に、いーんだけどね?)

 いやよくない。良くないのかな? でも好きになってもらえないより、マシじゃない?
 そんな考えがぐるぐるして、止まらない。別に、好きになってもらうきっかけが何だって、今、樹くんが私のことを好きでいてくれているのは、ほんとうなんだから……。
 でも、部活ですっかり疲れ切って帰宅した樹くんに、つい言ってしまう。
 少し自分の考えで拗ねちゃったのかもしれない、……我ながらメンドくさいと思う。思うけれども。

「ねー、樹くん」
「なんだ?」

 疲れてるのに、樹くんは優しい。帰宅した樹くんについて回るみたいに、部屋まで付いてきてしまっても、穏やかに私の髪を撫でてくれている。少し不機嫌そうな私が、不思議そうではあった。

「樹くんはさ、」
「うむ」
「私とおっぱい、どっちが好きなの?」

 ぽかんとされた。メチャクチャぽかんとしてた。

(わぁ、なんていうか)

 キツネにつままれたようなカオってこういう顔、なんだろうなぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉
ファンタジー
女子高生である九条皐月は、トラックにはねられて意識を失っい、気づけば伯爵令嬢に転成していた。なんだかんだとその世界でフェーリエとして生きていく覚悟を決めた皐月。十六歳になったある日、冒険者デビューを果たしたフェーリエは謎の剣士ユースに出会う。ひょんな事からその剣士とパーティーを組むことになり、周りに決められたパーティー名は『覆面ズ』。やや名前に不満はあるものの、フェーリエはユースとともに冒険を開始した。 世界が見たいフェーリエと、目的があって冒険者をするユース。そんな覆面ズの話。 ※不定期更新 書けたらその都度投稿します

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの
BL
日乃本帝国。日本によく似たこの国には爵位制度があり、同性婚が認められている。 ある日、片田舎の男爵華族・柊(ひいらぎ)家は、一通の手紙が原因で揉めに揉めていた。 それは、間もなく成人を迎える第二皇子・日乃本 義(ひのもと ただし)の、婚約者選定に係る招待状だった。 参加資格は十五歳から十九歳までの健康な子女、一名。 日乃本家で最も才貌両全と名高い第二皇子からのプラチナチケットを前に、十七歳の長女・木綿子(ゆうこ)は哀しみに暮れていた。木綿子には、幼い頃から恋い慕う、平民の想い人が居た。 「子女の『子』は、息子って意味だろ。ならば、俺が行っても問題ないよな?」 常識的に考えて、木綿子に宛てられたその招待状を片手に声を挙げたのは、彼女の心情を慮った十九歳の次男・柾彦(まさひこ)だった。 現代日本風ローファンタジーです。 ※9/17 少し改題&完結致しました。 当初の予定通り3万字程度で終われました。 ※ 小説初心者です。設定ふわふわですが、細かい事は気にせずお読み頂けるとうれしいです。 ※続きの構想はありますが、漫画の読み切りみたいな感じで短めに終わる予定です。 ※ハート、お気に入り登録ありがとうございます。誤字脱字、感想等ございましたらぜひコメント頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

鑑定の結果、適職の欄に「魔王」がありましたが興味ないので美味しい料理を出す宿屋のオヤジを目指します

厘/りん
ファンタジー
 王都から離れた辺境の村で生まれ育った、マオ。15歳になった子供達は適正職業の鑑定をすることが義務付けられている。 村の教会で鑑定をしたら、料理人•宿屋の主人•魔王とあった。…魔王!?  しかも前世を思い出したら、異世界転生していた。 転生1回目は失敗したので、次はのんびり平凡に暮らし、お金を貯めて美味しい料理を出す宿屋のオヤジになると決意した、マオのちょっとおかしな物語。 ※世界は滅ぼしません ☆第17回ファンタジー小説大賞 参加中 ☆2024/9/16  HOT男性向け 1位 ファンタジー 2位  ありがとう御座います。        

婚約破棄がお望みならどうぞ。

和泉 凪紗
恋愛
 公爵令嬢のエステラは産まれた時から王太子の婚約者。貴族令嬢の義務として婚約と結婚を受け入れてはいるが、婚約者に対して特別な想いはない。  エステラの婚約者であるレオンには最近お気に入りの女生徒がいるらしい。エステラは結婚するまではご自由に、と思い放置していた。そんなある日、レオンは婚約破棄と学園の追放をエステラに命じる。  婚約破棄がお望みならどうぞ。わたくしは大歓迎です。

処理中です...