上 下
458 / 702
【高校編】分岐・黒田健

カンヅメ

しおりを挟む
 何が何だか分からないうちに、私はホテルに連れ込まれた。いや、変な意味じゃないです。普通の、ちゃんとしたーーというか、高級なホテルのスイートルームにカンヅメにされております。

「なぜに」
「だからセツメーしたデショ、ハナ」

 圭くんがメインルームのソファでのんびり画集を見ながら言う。

「マスコミ対策」
「マスコミの意味が分からないよ」

 私は大きな嵌め込みガラスから、眼下の景色を眺めた。あんまり綺麗じゃない横浜の海。くるくる回る観覧車。

「敦子さんが出世したのは分かったよ」
「だからさ、……御前ゴゼンが失脚したんだよ。失脚どころか、……逮捕まで」
「へっ」
「ついでに防衛省のエライさんも逮捕されたんだよ」
「防衛省?」

 首をかしげる。

「なんか、事務官のリークらしいんだけど……護衛艦の装備品に関する収賄容疑」
「護衛艦? 大伯父様ってそんな仕事してたの?」
「常盤って、重工がかなりの比率をしめてるらしいから」

 重工ってそんなモノも作ってるんですねぇ、と私は頷いた。ちょっと現実感がない。

「シューワイ、シューワイねぇ」
「それで敦子さんがあそこのトップに立ったワケ」
「はー」
「……ハナ、理解してる?」
「うん、まぁ」

 私はゆるゆると頷いた。いや、なんかでかい出来事すぎてよく分かんないですよ。

「ちなみに護衛艦って英語だと」
「うん」
「デストロイヤー」
「なんでやねん!」

 思わず突っ込んだ。和訳と英訳全然イメージ違うんですけど!

(まぁ、運用する国の違いなのかなぁ)

 そんなこんなで、まぁ敦子さんはバタバタしてるんだろうけれど、私と圭くんはのんびりと過ごさせてもらっていた。
 ランチもお部屋に運んでもらう。

「わ、美味しそう」

 メニューにはなかったんだけど、夏バテ気味だしおかずサラダとか出来ませんか~って聞いたらホントに作ってくれた。有り難いー! ドレッシングもさっぱり系。ローストビーフも乗ってて、お肉食べたい欲も満たされちゃう。

「これなら食べられそうですー!」
「ハナはなんだかんだ言って、食べ始めたら何でも食べると思うけどね」

 可愛げのないことを言う圭くんをじとりと睨むと、コンシェルジュさんは少し楽しそうに笑った。

「それから、お夕食もこちらにお運びいたしますので」
「え、レストランとか、は……」

 無言で微笑まれた。これは完全に否定の笑みだよね……。というか、ほんとに落ち着くまでカンヅメ? どこにも行けないとかだったらどうしよう……。

(息が詰まっちゃう気がするよ……)

 美味しくサラダを完食して、とりあえず学校のテキストを開く。
 私はテキストと問題集、それから数日分の着替えだけを持ち込んでいた。圭くんは着替えのほかは画集とスケッチ帳だけ。でもなんだか充実してそう。

 その日の夕方に、黒田くんが訪ねてきた。制服だから、部活があったんだと思う。夏休みなのに……って、本当は私も夏課外があったはずなんだけれど!

(サボっちゃったやぁ)

 や、厳密にはサボりとは違うかもなんだけれど。

「え、なんで!?」
「親父に場所聞いて」

 私は首を傾げた。お父さんって、……神奈川県警? なんでそこまで話が回ってるんだろう?

「とりあえず土産」
「……!!!」

 私は戦慄した。どうしても食べたくて食べたくて、でもなかなか手に入らなかったリンゴのケーキ!

「リンゴの形になってるとこが尊い……」
「いやその感覚はよくわかんねーけど」

 少し面白そうに、黒田くんは言う。

「設楽に話聞いて、ちょっと俺も食べてみたかったから」

 ついでだよ、と黒田くんは普通っぽく言うけれど、ほんとに並ぶのに、このお店。

「えへへ、ありがとう」
「……座ったら?」

 ずっと無言だった圭くんがぽつりと言った。黒田くんはぺこり、と頭を下げてソファに座る。私はウッキウキで紅茶を淹れようと立ち上がる。ケーキには紅茶派です。

「ちょっと待ってハナ、ここの置いてある紅茶、そんな風にテキトーに淹れないでバチが当たる」
「え、そんないいお茶なの……!?」

 慌てて銘柄を確認する。するけど、よくわからない。

「おれ淹れるから」

 圭くんは軽く笑って立ち上がる。黒田くんは妙な顔をしていた。

「こだわるんだな、弟」
「オトートじゃない」

 電気ケトルを持って、圭くんは黒田くんの前に立った。ゆっくりと目を細める。

「遠い親戚。……結婚できるくらいにね」
「……へぇ」

 黒田くんは片眉を上げた。私はお皿を準備しながら、2人の会話をなんとなく聞いていた。

「ねえねぇ、なんでケーキよっつあるの?」

 私はケーキの箱を開けて首をかしげる。黒田くんは不思議そうな顔をした。

(私と、圭くんと、黒田くんと)

 敦子さんのぶん?

「あとひとり、いるんだろ? 親戚だかイトコだか」
「え?」

 ぽかん、と圭くんと顔を見合わせた瞬間に、圭くんのスマホが鳴る。

「……嫌な予感がするよ」

 圭くんは呟いて、その通話に出た。二言三言、会話したあと、軽く眉を寄せる。

「ハナ」
「なぁに?」
「あの子も一緒、なんだってさ」
「あの子?」

 ふと聞き返して、黒田くんを見る。黒田くんは「逮捕されたオッサンだかジーサンだかのコドモだって聞いたけど」と不思議そうに返してくれた。
 私はちょっとぽかん、と考えてから圭くんを見る。
 圭くんは肩をすくめた。

「ハナの考えてる通り。……シュリ、しばらく一緒にここで過ごすみたい」
「……えええっ」

 年に一回、年末年始の親戚の集まりでしか会わない、あの口攻撃が年々キツくなるあの、御前のお嬢さん、シュリちゃんでしょうか……!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おてんば末っ子令嬢、実は前世若頭だった!? 〜皆で領地を守ります!〜

撫羽
ファンタジー
組長の息子で若頭だった俺が、なんてこったい! 目が覚めたら可愛い幼女になっていた! なんて無理ゲーだ!? 歴史だけ古いヤクザの組。既に組は看板を出しているだけの状況になっていて、組員達も家族のアシスタントやマネージメントをして極道なのに平和に暮らしていた。組長が欠かさないのは朝晩の愛犬の散歩だ。家族で話し合って、違う意味の事務所が必要じゃね? と、そろそろ組の看板を下ろそうかと相談していた矢先だった。そんな組を狙われたんだ。真っ正面から車が突っ込んできた。そこで俺の意識は途絶え、次に目覚めたらキラキラした髪の超可愛い幼女だった。 狙われて誘拐されたり、迫害されていた王子を保護したり、ドラゴンに押しかけられたり? 領地の特産品も開発し、家族に可愛がられている。 前世極道の若頭が転生すると、「いっけー!!」と魔法をぶっ放す様な勝気な令嬢の出来上がりだ! 辺境伯の末娘に転生した極道の若頭と、前世でも若頭付きだった姉弟の侍従や皆で辺境の領地を守るぜ! ムカつく奴等にはカチコミかけるぜ!

最弱勇者とは呼ばせない~ダンジョン最下層に転移させられるも大罪少女と出会い、傲慢の継承者として誰よりも強くなってしまった

柊真菰
ファンタジー
 ごく普通の高校生、柊日向が高校生活を送っていると、突然、不思議な光に包まれ、ある異世界の王国【ルクスニア王国】に勇者として召喚された。  勇者として召喚された5人の高校生、その中で最弱だったのが、主人公柊日向だった。  勇者でありながら、ステータスは平均以下、スキルも周りから比較され、武器もまともに振るえず、ついたあだ名は【最弱勇者】。  そのあだ名は王城だけでなく、国民の間でも広がり、柊日向が受ける視線は自然と辛辣になっていった。 そんな中、勇者として魔王を討伐するために、勇者一行は日々訓練に励むことになる。  1か月間の訓練期間を終えたころ、日向は、ルクスニア王国の随一の魔法使いに呼び出され、そこで、卑劣な罠にはまり、ダンジョン最下層に転移させられた。  ダンジョン最下層は誰一人として踏み入れたことのない未知の階層、最弱勇者と呼ばれた日向が生き残れる環境ではなかったが、それでも1か月間で得た知識を活用し、運良くも生き抜いていく。  そんな時、偶然にも封印されている少女と出会う。  助けを求める声に応え、役に立たないスキルを活用し助け出すことに成功するが、そこで日向は力尽きてしまう…………。  これは、最弱勇者と大罪少女が怒涛の戦いを、時には甘々な展開を繰り広げる休む暇のない物語。 ※ファンタジー小説大賞挑戦作品となりますので、応援してくださると嬉しいです。 ※主人公が活躍するまで少し長いですが、気楽に読んでいくださるとうれしいです。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結保障】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。 そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。 悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。 「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」 こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。 新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!? ⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです⭐︎

後妻を迎えた家の侯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
 私はイリス=レイバン、侯爵令嬢で現在22歳よ。お父様と亡くなったお母様との間にはお兄様と私、二人の子供がいる。そんな生活の中、一か月前にお父様の再婚話を聞かされた。  もう私もいい年だし、婚約者も決まっている身。それぐらいならと思って、お兄様と二人で了承したのだけれど……。  やってきたのは、ケイト=エルマン子爵令嬢。御年16歳! 昔からプレイボーイと言われたお父様でも、流石にこれは…。 『家出した伯爵令嬢』で序盤と終盤に登場する令嬢を描いた外伝的作品です。本編には出ない人物で一部設定を使い回した話ですが、独立したお話です。 完結済み!

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

処理中です...