上 下
649 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹

運命に沿って

しおりを挟む
 帰国早々、めんどくさくて私は大きな大きなため息をついた。
 一昨日帰国して、昨日は1日お休み。そして今日から通常授業、なんだけど。
 あと数メートルで学園の正面エントランス、ってとこで邪魔されてる。
 目の前には、シクシクと泣き崩れる"ゲームのヒロイン"の青花と、彼女に気遣わしげに寄り添う一年生(多分)の男子数名と、思い切り苦い顔をしてるアキラくんと圭くん。

「ハナ」

 圭くんに言われる。

「気にせず教室行きなよ。こんな虚言癖オンナに付き合うの人生の無駄だよ」
「せやで、華」

 アキラくんも言う。

「こいつ、なんや悲劇のヒロインぶってどーのこーの言うてくるけど、華がんなことするわけないっちゅーねんな」
「ていうか、そもそもハナ、アリバイあるからさ」

 圭くんがイラついた声で言う。

「ハナとイツキ、2人とも時差ボケで明け方まで騒いでて、夜に出かけたりなんかしてないから。ついでに昨日は休みで学校来てないから」
「じゃ、じゃあっ」

 青花はさめざめと言う。

「あ、あたしの教科書ズタズタにしたの誰なのぅ……っ」

 そうだそうだ、と男子くんたちは圭くんとアキラくんに言う。2人は呆れたようにほとんど同時にため息をついた。

「知らないよ。キミ、敵多そうだしその内の誰かじゃない? 少なくともハナじゃない」
「設楽先輩じゃなくてもっ、その取り巻きとかじゃないのかっ!」

 男子くんが声を上げる。取り巻き取り巻き言うけれど!

「私に友達はいても、取り巻きなんかいないです」

 一応、そう言うけれど睨まれた。びくりと肩を引くと、アキラくんが私と男子くんの間にずいっと入ってくれた。

「いい加減にせぇや。オンナ怖がらせてどないすんねん、クソダサいわ」
「怖がらせてるのはそっちだろう! だいたい、友達だと思ってようが、取り巻きは取り巻きだ!」

 頭が痛くなってきた。これ、ずっと平行線なのでは……? 思わず眉間を揉んだ。
 青花サンは相変わらずさめざめと震えながら泣いている。小動物のよう……。

「だいたい、なんでお前たちは青花さんの味方をしないんだ!? そこの女王気取り女と、健気で可愛らしい青花さん、どう考えても悪いのはそっちの女だろう!」

 "女王"か、……。ゲームで華がそう呼称し、呼称させていたあだ名。

「キミたちの目、フシアナなの? そのオンナのどこがケナゲ?」

 心底不思議そうに圭くんが言うと、青花は悲しそうに圭くんを見上げた。

「な、なんで信じてくれないの……? はっ!」

 青花は気がついたように私を見る。

「脅してるのね!?」
「誰を!?」

 思わず聞き返した。

「圭くんをっ……! きっとあの絵を人質にとって!」
「だからあの白鳥の絵ならおれが持ってるんだって!」

 圭くんのイラつきは最高潮って感じだった。

「なんだと!? なんて汚いんだ設楽華っ! 権力を振りかざし、女王気取りするだけでなく弟まで脅して……! そこまでして、なぜ青花さんに嫌がらせするんだっ!?」

 憤る男子くん。
 全身から力が抜けた。疲れた。時差ボケであんまり眠れてないし、……これ付き合わなきゃダメかなあ?

「なんとか言え! 女王、設楽華!」
「女王か」

 ふと聞き慣れた声が割り込んできた。朝練終わりなんだろう、部活の格好のまんまの樹くん。

「華に相応しいな。無論、気高く美しいという意味合いでだが」
「いやごめんね樹くん、それ私に当てはまってはない」

 一応突っ込んだ。残念ながら、あなたの許婚さんにそんな素敵要素はない。自分で言うのも、なんなんだけどさ……。

「そうか?」

 ふむ、と首をかしげる樹くん。なぜそんなに心底不思議そうに……。

「ないよ。気高くないし美しくない」
「華は気高いし美しいぞ?」
「なんなのその謎の評価は……」

 樹くんは昔から私に対して高評価過ぎる。

「そーだよ、設楽さんは気高いというよりはエンゲル係数が高くて、美しいというよりは顔と中身のギャップが残念だよ」

 通りすがりだったっぽい、大村さんが加勢してくれた。加勢……?

「なにその微妙な表情」
「いえ……」
「あ、でも鹿王院くんの稼ぎなら、設楽さんくらい食べてもエンゲル係数上がんないか」
「私、そんなに食べてます……?」

 大村さんが残念そうな顔で私を見た。え、そんなに?

「何度も警告しているはずだ、桜澤」

 樹くんは、私の肩を抱く。アキラくんが「げっ」て顔をした。

「華に近づくな、と」
「な、なんでですかぁ?」

 青花はうるうるとした瞳で樹くんを見上げた。

「なんで、青花のこと信じてくれないんですかあ?」
「証拠もないことを信じられるか」

 そう言われた瞬間、青花は「ふーん?」みたいな表情を一瞬浮かべた。え、ねえ、なに考えてますの……?

「いいか桜澤。次こんなことがあれば学園側にも通告する。いいな?」
「権力を使う気だろう! 自分が学園長の親戚だからって!」

 男子くんに、びしりと指さされた。私は弱々しく首を振る。もう本気で疲れた。ぐったりだよ。
 予鈴がなった。教室へ向かわなきゃだ。

(授業もあるし、委員会もなんか忙しくなるし!)

 なんでこんな濡れ衣祭りに参加しなきゃいけないんだよう……。

「ごめんね、私、忙しいの。帰ってくれる……?」

 言いながら、ハッとした。これ、ゲームでも華のセリフだった。"あたくし忙しいんですの! 庶民の陳情にお付き合いしてる暇はなくてよ! そろそろ兎小屋にお帰りくださる!?"だったけど、まぁ意味合いは似てる?
 青花はほくそ笑んでいた。もしかして、これ、言わされた?

(ゲームのシナリオに沿うように?)

 私はぞくりとする。
 私か運命に逆らいたくても、この子は無理やりに沿わせてくるのではないか、そう思ってーー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉
ファンタジー
女子高生である九条皐月は、トラックにはねられて意識を失っい、気づけば伯爵令嬢に転成していた。なんだかんだとその世界でフェーリエとして生きていく覚悟を決めた皐月。十六歳になったある日、冒険者デビューを果たしたフェーリエは謎の剣士ユースに出会う。ひょんな事からその剣士とパーティーを組むことになり、周りに決められたパーティー名は『覆面ズ』。やや名前に不満はあるものの、フェーリエはユースとともに冒険を開始した。 世界が見たいフェーリエと、目的があって冒険者をするユース。そんな覆面ズの話。 ※不定期更新 書けたらその都度投稿します

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの
BL
日乃本帝国。日本によく似たこの国には爵位制度があり、同性婚が認められている。 ある日、片田舎の男爵華族・柊(ひいらぎ)家は、一通の手紙が原因で揉めに揉めていた。 それは、間もなく成人を迎える第二皇子・日乃本 義(ひのもと ただし)の、婚約者選定に係る招待状だった。 参加資格は十五歳から十九歳までの健康な子女、一名。 日乃本家で最も才貌両全と名高い第二皇子からのプラチナチケットを前に、十七歳の長女・木綿子(ゆうこ)は哀しみに暮れていた。木綿子には、幼い頃から恋い慕う、平民の想い人が居た。 「子女の『子』は、息子って意味だろ。ならば、俺が行っても問題ないよな?」 常識的に考えて、木綿子に宛てられたその招待状を片手に声を挙げたのは、彼女の心情を慮った十九歳の次男・柾彦(まさひこ)だった。 現代日本風ローファンタジーです。 ※9/17 少し改題&完結致しました。 当初の予定通り3万字程度で終われました。 ※ 小説初心者です。設定ふわふわですが、細かい事は気にせずお読み頂けるとうれしいです。 ※続きの構想はありますが、漫画の読み切りみたいな感じで短めに終わる予定です。 ※ハート、お気に入り登録ありがとうございます。誤字脱字、感想等ございましたらぜひコメント頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

鑑定の結果、適職の欄に「魔王」がありましたが興味ないので美味しい料理を出す宿屋のオヤジを目指します

厘/りん
ファンタジー
 王都から離れた辺境の村で生まれ育った、マオ。15歳になった子供達は適正職業の鑑定をすることが義務付けられている。 村の教会で鑑定をしたら、料理人•宿屋の主人•魔王とあった。…魔王!?  しかも前世を思い出したら、異世界転生していた。 転生1回目は失敗したので、次はのんびり平凡に暮らし、お金を貯めて美味しい料理を出す宿屋のオヤジになると決意した、マオのちょっとおかしな物語。 ※世界は滅ぼしません ☆第17回ファンタジー小説大賞 参加中 ☆2024/9/16  HOT男性向け 1位 ファンタジー 2位  ありがとう御座います。        

婚約破棄がお望みならどうぞ。

和泉 凪紗
恋愛
 公爵令嬢のエステラは産まれた時から王太子の婚約者。貴族令嬢の義務として婚約と結婚を受け入れてはいるが、婚約者に対して特別な想いはない。  エステラの婚約者であるレオンには最近お気に入りの女生徒がいるらしい。エステラは結婚するまではご自由に、と思い放置していた。そんなある日、レオンは婚約破棄と学園の追放をエステラに命じる。  婚約破棄がお望みならどうぞ。わたくしは大歓迎です。

処理中です...