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【高校編】分岐・相良仁

笑っていて欲しいから(side仁)

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「わー」

 無感動な声で拍手をする小西を、俺は少しだけ睨め付けた。

「お前さ、手伝えよ」
「いやもう、瞬殺だったじゃないですか」
「いや殺してねえからな、つかコイツらからけしかけて来たんだっつの」

 俺はそう言いながら、さっき思いっきり(いや手加減はしたけれど)蹴り倒した若い男の胸ぐらを掴み上げる。あと3人いるけど、全員すやすや夢の中だ。まぁすぐに起きるんじゃない?

 土曜日、華が塾帰りに寄るカフェの近くに不審な4人組がいたからお声がせさせて頂いたところ、まぁ急にお暴れになりましたので鎮圧させていただいた次第……。

「で? おたくはどこのどちらさん?」
「ひゃ、あの、その」

 口から血を流しながら(内臓は傷つけてないから、コレは口の中のケガ)男はパクパクと口を鯉のように動かした。

「あっれー、おしゃべりが苦手でちゅかー?」

 ぎりり、と締め上げると「しゃ、しゃべれまひゅ!」と男は呻いた。

「闇サイト?」

 先に聞くと、男は首を振る。

「ち、ちが、違って」
「?」
「その、……出合い系の」
「出合い系だ?」
「あの、まぁ、その、ちょっと普通の出合い系とは違うんすけど」

 男のジーンズの尻から画面が割れたスマホを小西が抜き取った。男に渡す。

「開いて。どのサイト」
「ひゃ、ひゃい」

 男はが示したサイトは、出合い系は出合い系でもセフレ募集のもの。

「あ、あの。14時にここを通るから、車で拉致ってくれって。嫌がってるフリするけど、それは演技だから、気にしないでくれって……そういうのが、したいんだって」

 男はサイト内のメッセージ内容を開く。ご丁寧に、華の写真が添えられていた。クソ。耳がキン、とした。
 俺はどんな顔をしていたんだろう。男は小さく悲鳴をあげた。

「やだー、相良さんカオこわーい」
「名前だすなよクソ小西」
「きゃーセクハラ!」
「どこが!?」

 男はぷるぷると震えて、「つ、美人局っすか」と呟いた。

「は?」

 俺はふう、と何度か深呼吸をする。殺してはダメだ。殺しては。

「はー……つか、違う違う。それ、その子に恨みあるヤツがその子の名前騙っただけ」
「……」
「良かったね、犯罪者になるとこだったねー」

 俺はスマホを小西に渡す。

「ムダかもだけど、一応発信元探って」
「はい」
「さーて」

 俺は男の目を見る。

「今の反応さぁ、もしかして分かってたんじゃない? 多分そのサイトに書き込んだの、本人じゃないだろうなーって」

 男は露骨に視線をそらし、誤魔化すように卑屈に笑った。

「いやぁ、……、はは」
「分かっててやろーとしたんだな?」
「いえその、……ねぇ?」
「ねえじゃねーぞクソ野郎、去勢すんぞ」
「ひぇっ」

 本気で男は怯えて、本当にしてやろうかななんて思う。ぎりっと歯を食いしばった時、小西が言った。

「相良さーん、そろそろ相良さんのキャワイイ子猫ちゃんがおヒマそうですよ」

 右耳を抑えて言う小西。無線でほかのヤツから連絡が入ったんだろう。

「……その言い方やめろよな」

 俺はぱっと手を離す。どしん、と尻餅をつく男。

「今回はアイツに接触してないから大目に見てやる。次見かけたらマジコロスからな」
「やだー脅迫~」
「お前はいちいち揚げ足とんな」

 もう、と少し気が削がれた。

「全員スマホと身分証回収」
「もうやってます~」

 小西は次々と抜き取りながら言う。

「今から犯罪チックなことしようってのに、免許証持ち歩くのなんでなんでしょ」
「危機感が足んねーんだよ。なぁ?」

 俺の足元でうずくまる男に問いかけると、男はこくこくと頷いた。なんだそりゃ。

「じゃー解散で。早めに家に帰れよ」

 男たちは放ってカフェの裏手から表にまわる。まぁ閉店までにどっか行ってくれりゃ、見つかんねーだろうと思う。見つかってもいいけどボコしたの俺だから色々めんどくさい……。

「おかえり仁、便秘?」
「まーそんなとこ」

 カフェの席に戻ると、華は少し暇そうに紅茶を飲んでいた。

「ケーキ食べ終わっちゃったよ!」
「なんで俺のケーキ半分ないの?」
「あは」

 華は少し楽しそうに笑う。

(まったく)

 軽くデコピン。華はいたずらめいた表情で額をおさえた。

(知らなくていい)

 そう思う。
 自分が狙われているなんてーーこの間のはイレギュラーとして、今後は気付きさえさせない。怖い思いなんかさせない。

(お前は)

 俺は片肘をついて、華を眺めながら思う。

(笑ってるのがいちばんいい)

 胸が暖かくなる。誰より愛しい華の笑顔。

「そういえばね、塾で新しい友達できたんだよ」
「そりゃよかったな」

 "女子高生"としての日常を楽しく過ごす華。それでいいと思う。

「ピアス可愛いねって褒めてくれたの」

 嬉しそうにピアスに手をやる華。きらりと光るのはクリスマスにプレゼントしたダイヤのピアスーーって。

「なぁそいつ男?」
「女の子だよ、もう」

 何よいちいち、と言う華の頬を軽くつねった。

「あんまり俺にヤキモチやかせない方がいーよ」
「え、なんで」
「知りたいなら教えてあげるけど?」
「……遠慮します」

 軽く上目遣い気味にそう答えた華は、むしろそれを期待してそうなカオをしてて、俺はほんの少しほくそ笑む。

「また後でな」
「もう!」

 文句言ってる華は全然不服そうじゃなくて、俺はやっぱり笑ってしまった。
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