上 下
534 / 702
【高校編】分岐・相良仁

現実であるということ(side青花)

しおりを挟む
 風紀委員だっていう設楽華が、校門で活動してて、あたしはわざと視界に入りに行く。
 びくりと揺れる肩。あたしを見て凍りつく設楽華。

(あたしのせいだって、勘付いてはいるみたいね)

 チンピラくん3人にさせた襲撃ーー結局報告は何もないんだけど、この怯え方を見てると上手くいったみたいね?

(あーウケる)

 あたしの邪魔するからじゃん、とあたしは思う。邪魔っていうか、シナリオ通りに動いてもらわなきゃ困るのよ。

(話しかけてやろうかな)

 あのチンピラくんたち、コイツどんな目に遭わせてくれたんだろ? 写真くらい送ってくれてもいいのに!
 上機嫌で近づこうとすると、二年生の先生が設楽華を呼んだ。
 こないだ、階段であたしたちを受け止めた先生。そこそこイケメン。
 あたしがせっかく階段から落ちて、設楽華が進めないシナリオを進めてやろうとしていたのに。要はーー中々、"悪者"になってくれないから。

(まぁ、仕方ないとは思うのよ)

 あたしは手を見る。ここは"現実"だ。0と1で構成されたゲームの世界なんかじゃない。だから、差異があるのは仕方ない。
 たとえば、設楽華にしたって髪型から違う。入学式に発生するはずだった、色んなイベントも発生していない。
 なら、今後その差異をどう埋めていくのか……トライアンドエラーの繰り返しだとは思うけど、色々試していくしかない。
 ないけれどーー設楽華は邪魔だ。
 "悪役"になるか、退場してもらうか。設楽華の選択肢は、どちらかしか、ない。
 設楽華は、先生に呼ばれて歩いて行ってしまう。ちぇ、残念。どうだったか、こっそり聞きたかったのに。
 あたしはクスクス笑う。

(どんな表情カオするんだろ!)

 その日の放課後、あたしはネットで知り合った同じ年の女の子とカラオケに来てた。同じアイドルが好き(ってことにして)超盛り上がる。

「え、青ちゃんて青百合なんだ! お嬢様じゃん!」
「えー、そんなことないよ。高校からだし」

 その子……、ええと名前なんだっけ、そうだ、ユア。ユアちゃんに向かって、あたしは微笑む。

「すごいよ~」
「ありがとう。あ、飲む?」

 あたしが鞄から取り出したのは缶ビール。ちょっとぬるくなってるけど、ま、いいか。
 このカラオケ、ほんとは持ち込み不可なんだけど、この時間のアルバイトがいちいち防犯カメラなんて見てないのはチェック済み。
 ユアちゃんはびっくりした顔をする。

「え、お酒?」
「みんな飲んでるよ」
「そおなの?」

 不思議そうに、恐々とあたしから缶ビールを受け取るユアちゃん。

(みんなって誰とか思わないのかなー)

 くすくす笑いながら、あたしは先にプルタブを開けた。かしゅり、と音がする。あたしはそれをごくりと飲んで見せた。
 ユアちゃんはおっかなびっくり、って感じで口をつける。

「……苦っ」
「初めてだとそんなだよ」

 にっこり微笑んでみせると、ユアちゃんは少しあたしに憧憬みたいな目線を送る。
 
(こう言う感じの……この年頃のコってさ、大人になりだかるよね)

 感覚的なものだと思う。引っかかるのだ。心の底面にゴリゴリに固まった劣等感だとかコンプレックスだとか、そういうのがちょっと歪なコ。そういう子は前世むかしから狙い目だった。

 髪を染めて。
 ピアスをあけて。
 お酒を飲んで。
 タバコを吸って。

(くっだらない)

 ひとつとして、大人の要件に達してない。そんなものは子供でもできる。

(そんなだから、)

 あたしは心の中で薄く笑う。

(悪いに騙されちゃうんだよ?)

 でも自業自得だよね、とあたしは思う。バカなのが悪いんだもん。

(例えば、)

 あたしはふと思い返す。

(詐欺師に騙された人のリストって、需要が高いんだよね)

 こくり、とまたビールを喉に流し込む。

(その人たちは、ーーカモは死ぬまでカモ)

 流し込んだビールをごくりと飲み込んで、あたしは首を傾げた。

「そういえば、ユアちゃんって彼氏いるの?」
「いまいなーい」

 ユアちゃんはつまらなさそうに言う。とろんとした目つき。あは、あれくらいで酔っちゃった?

「青百合のひと紹介しようか?」
「えっまじで!? でも、」

 ユアちゃんの目線が泳ぐ。

「わたし、いまさぁ、太っちゃってるから。ダイエットしてからかなぁ」
「ダイエット?」
「そう。なかなか続かなくて、」

 そう言うユアちゃんは、ほんの少しぽっちゃりしてる。まぁそういう子を選んだんだけど。あとヒトの話信じやすそうな子。

「いいタバコあるよ?」
「タバコ?」

 あたしは微笑む。

「痩せれて、すっごい明るくなるタバコ」
「えー?」
「天然で、自然で、オーガニックなものだから、体に悪くないよ」
「ふうん?」

 首をかしげるユアちゃん。

「そーなんだ。でもオーガニックなものなら安心だね」

あたしは笑いたくなる。

(自然のものなら何でも安心だと思うのなら、トリカブトのサラダでも食べているといいーー)

 あたしは"タバコ"を取り出した。天然で自然でオーガニックってのは、嘘じゃない。少々の混ぜ物はあるにしてもーーゆったりと、微笑む。
 天帝はなぜこんなものを世に創りたもうたのか。

「少しだけ、ためしてみる?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも、私男性恐怖症なんですけど…。

三木猫
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公の美鈴。どうせ転生するなら悪役令嬢とかライバルに転生したかったのにっ!!男性が怖い私に乙女ゲームの世界、しかもヒロインってどう言う事よっ!? テンプレ設定から始まる美鈴のヒロイン人生。どうなることやら…? ※本編ストーリー、他キャラルート共に全て完結致しました。  本作を読むにあたり、まず本編をお読みの上で小話をお読み下さい。小話はあくまで日常話なので読まずとも支障はありません。お暇な時にどうぞ。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

処理中です...