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【高校編】分岐・鹿王院樹

彼女が水着に着替えても(side大村)

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 あの2人のことは、ほっといたらいいのよ、なんて思う。

(だってさー)

 設楽さん相手だよ? なんか、普通のペースで、とかって少しズレてそうだし。まぁその点は鹿王院くんも一緒、かな。

「セクシーさが足りてないんじゃない!?」
「色気!? 色気の問題なの?」

 設楽さんはちょっとショックっぽい。

「あんなにラブラブなのにあり得ないって、設楽さんやる気出して」

 設楽さんは目を白黒させて「いや私もしたいんだけど」なんて口走ったからもう、みんなやる気が出てしまった。

「設楽さん、明日は水着はどんなご予定!?」
「えーと」

 説明が難しかったのか、設楽さんはトランクから水着を取り出した。
 白いビキニ。って言っても、大きめのフリルが付いててそこまで露出感はない。ちなみに、わたしとお揃い。色違いだけど。

「可愛い」
「可愛いけど」
「セクシーではない」

 割と「進んでる」子たちがびしびしと指を指す。設楽さんは「ええっ」なんて言って身を小さくした。

「で、でもこれ以上露出は無理です……」
「買いに行こう」
「へ?」

 設楽さんはきょとんと、その子を見上げた。

「このホテル、水着のショップ入ってたよ。閉まる前に行こう! ほら!」
「いやいやいや、ええっと」

 なんて言う設楽さんを引きずって、その子たちは出て行った。みんな「ばーい」なんて言って手を振る。

「ばいばーい」
「アホ可愛いよね設楽さん」

 残ったメンバーはのんびりとそんな話をしていた。
 しばらく別の子の「彼氏と別れてちょっと気になってる人にアピールするか」について討論していると、設楽さんたちが帰ってくる。

「買えた!?」

 一緒に行った子がウインクしてサムズアップした。

「みたーい」
「や、ヤダ」
「でも一度見せてたほうが良くない? 変だったら変って言うから! ほら!」
「うう……」

 設楽さんはバスルームに消えた。
 やがて、薄く薄くドアが開く。

「あのう」
「出てきてよ!」

 ぐいぐい、と腕をとられて出てきた設楽さんをみて、皆一瞬息を飲んだ。
 白いビキニだった。でも、同じ白でもデザインが全く違う。オフショルダーで、トップスは首のとこでリボン結びにするタイプ。設楽さん、結構ムネあるから余計に強調されちゃってる。
 両腰のとこなんて、金の輪っかが付いちゃってた。

(うっわ、)

 ……セクシーさとは、またなんか違うんだよな。
 設楽さん、時々オトナだなーと思うことあるけど、基本ぼーっとしてるし、うん、セクシーではない。
 普通だったら「わ、全然雰囲気違う! セクシー! 別人!」てなるかもなんだけど、残念ながら、設楽さんは設楽さんのまま、っていうか。
 うーん、なんていうんだろー。

「えろ」

 別の子が言って、わたしは納得する。うん、これ着てる設楽さん、えろい。設楽さんは設楽さんのまま、単にえろくなっただけだった。……残念な子だなぁ。美人なのに……。

「こここここれ布の面積がなくないですか」

 設楽さんは身を縮めて言う。

「少なくないよ! ちゃんと隠れてるよ!」
「隠れ方が足りないです」
「でもさ、」

 別の子が言う。

「設楽さん、普段ちょっとおとなしめな服装だし、どっちかって言うとシンプルじゃない? そういうの、新鮮かもだよ」

 にこり、とその子は続けた。

「実際のところ、設楽さんと鹿王院くんの関係だから、あたしたちはどーこー言えないけどさ、でも新鮮なとこ見せるのは悪いことじゃないと思うよ」
「おお、大人の意見……」

 みんながそう言ってその子を見たのは、その子がさっき「しちゃった」カミングアウトした子だからだ。
 設楽さんもぽかんとした後、弱々しく頷いた。思うところがあったらしい。

 翌朝、朝から設楽さんは「やっぱ無理」「面積が」「面積」と抵抗しまくっていたけれど、友人たちに半ば無理矢理着せられてしまっていた。

「どうしよう」
「オレ直視できない。鹿王院に殺される」

 同じ班の男子は、設楽さんを見たいような見たくないような表情で、こっそり顔を見合わせていた。わたしは苦笑する。

「とりあえずさー、見せに行こうか」

 同じ班の女の子が設楽さんの手を引く。設楽さんはおずおずと頷いた。

 最初、鹿王院くんって、なんかオトナっぽい雰囲気だし怖いイメージがあった。まぁそんなことなくて普通の男子高校生なんだなぁと設楽さん通じて、思ってはいたけれど。

「勢いがあるね」
「さすがスポクラ……」

 スポクラの同じクラスの男子たちと、海が少し深くなってるところで「助走をつけて誰が一番遠くまで飛べるか選手権」に普通に参加していたので(もちろん非公式っていうか、彼らが勝手にやってるだけ)ちょっと意外だと思ってしまった。
 プールでやると怒られるもんね。
 この海水浴場は、浜じゃなくて遊歩道から直接海に入るスタイル。だから、いきなり水深があって怖かったりなんだけど、彼らはそうでもないらしい。次々に飛び込んでいく。鹿王院くんも、そこそこ遠くまで飛んだみたいだ。
 設楽さんはすっかり自分の格好も忘れて「わー」なんて言いながら拍手していた。そんなだから「アホ可愛い」なんて形容されるんだって! あと残念だよ何かが残念だよ設楽さん。
 スイスイ泳いで、ざばり、と遊歩道まで上がってきた鹿王院くんは、視界に設楽さんを入れた途端にたっぷり10秒くらい沈黙した。

「樹くん?」

 設楽さんは不思議そうに首を傾げた。

「華」

 鹿王院くんはよく分からない声で言った。

「さすがに聞いてないぞそれは」
「それ?」

 鹿王院くんは、遊歩道に置いてあった椅子にかけられてたバスタオルをひっつかむと、設楽さんに巻きつけた。そして抱き上げる。お姫様ダッコで。
 設楽さんはワタワタしている。
 鹿王院くんは、ものすごく険しい顔をして、設楽さんを連れてスタスタ歩いて行ってしまった。

「あー、やりすぎでしたかね」
「おっかねー。近くにいなくて良かった」

 班の女子と男子がそんな風に話してるけど、わたしはそんなに心配ないと思う。

「あれ、照れてただけじゃない?」
「あんな怖いカオで……?」

 友達はそう言うけれど、でも、すぐに肩をすくめた。

「てか、余計なお節介だったね」
「まぁそう思うけど……なんで?」
「だって、腰のとこ見た? 背中側」
「ああ」

 わたしは頷く。アザかな? って思った、いくつかのそれ。

「キスマークじゃない?」
「うっそ」
「なんだっけー、えーっとね」

 友達は少し考えて、それから言った。

「腰とか背中のキスマークは、独占とか嫉妬とかって意味なはず~」
「あー」

 わたしは納得した。超納得した。
 しばらくして戻ってきた設楽さん(元の白いおとなし目の、わたしとお揃いの水着に着替えてた)は頬がちょっと紅潮してる。

「なにがあったの?」
「なっ、ななななにもっ!?」

 設楽さんは言うけれど、わたしはバッチリ気づいてしまった。
 設楽さん設楽さん、お腰のキスマーク、なんだか増えてませんか?
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