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【高校編】分岐・鍋島真
試合
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私は都内の広い体育館のロビーで、少しだけ、ほんの少しだけ(なぜか!)不機嫌だった。
(いや、私が不機嫌になる理由はなにもないんですよ!?)
ないけども。ないんだけども。
(そっちが来い来い言うから来たのに)
ぷう、と頬を膨らませながら、私は観覧席へ向かう階段を登った。
真さんが唐突に(あの人はいつだって唐突だ)「明日試合あるから来てね~じゃーね~」と電話してきたのは昨日の夜遅くだ。寝ようとしてたらかかってきたのです。
行くとも行かないとも返事する前に切られて電話。直後にメールで送られてきたのはこの体育館の場所と時間。
「……なんで来ちゃったんでしょーね?」
私はプラスチックの冷たい観覧席に座りながら呟いた。なんででしょうね?
(誘われたのが嬉しかった?)
うーん、私はひとりで少しだけ悩む。よく分かんないし、なんか真さんのこと考えると不正脈の症状が出てる気がする。病院行った方がいいのかなぁ。
(ていうか、普通に仲良しさんじゃん)
女の子と。
ロビーで、女の子(って言っても私より年上ーー中身はともかく)と楽しそうに話してる真さんを見てしまった。
剣道着っていうのかな、紺色の袴姿。なんていうか、あの人はああいうのも似合うんですねって、遠目で一瞬見とれてしまった。
それから声をかけようと近づこうとすると、女の子がぽん、と真さんの腕を叩いて笑顔で話しかけた。真さんも普通に笑顔で会話しててーー。
(私じゃなくてもいいじゃん!)
ふん、と思う。
(ていうか、4つ下だもんな私)
大人の魅力? 的なのないもん。あの女の子、キレーな感じで……そうだ、真さんの趣味ぴったりなんじゃないかな。
(基本年上が好きなはず、だし)
じゃあなんで私?
やっぱりきまぐれ?
(たまには珍味、的な……?)
考え出すとぐるぐる思考が回る。
(あ、やば、なんだろう)
少し涙目。情緒不安定気味?
「どうしたの?」
声をかけられて、振り向くと大学生くらいかな、男の人が笑っていた。メガネかけて、すらっとしてる感じの人。
「え、あ、すみません、なんでも」
「そう? ごめんね、泣いてるみたいに見えたから」
「あー、目にゴミが」
「そっか」
男の人は笑って、なぜか私の横に座る。
「?」
「君かな、鍋島くんの教え子って」
「え」
少しぽかん、と見つめる。
「鍋島って、鍋島真さんですか?」
「そーそー」
にこにこと微笑まれる。
「教え子……ああ、はい」
たしかに、家庭教師してもらっているのでそんな関係性かもしれない。
(教え子か)
ふと、そう思う。特に意味はないはずなんだけど。
「噂通り、綺麗な子だね」
「いえいえ、すみません」
なぜか謝ってしまった。
(だってなー)
真さん綺麗すぎて。私の唯一の悪役令嬢スペック(顔面)でも対抗できてるんだか、できてないんだか。しかも多分ゲームよりもりもり食べてるせいで、多少お肉の付きが……いいような……。
「何年生?」
「高1です」
「学校どこ? 都内?」
「いえ、神奈川の……青百合です」
「へー、お嬢様じゃん」
曖昧に笑う。
本当は、都内の女子校を志望していたんだけど……まさかの受験当日に39℃の熱を出して泣く泣く諦めた。
(背水の陣で、滑り止めを青百合にしてたんだよなー……)
青百合に入るイコール、ゲームのシナリオに少し沿っちゃう気がして!
(ミスったよなー……)
だけど、入学してみれば授業のカリキュラムもすごく合ってる気がするし、ふつうに友達もできて楽しい。
(来年、ヒロインちゃんと遭遇しなきゃいいだけだもんな)
邪魔なんかしないので、松影・石宮的変な子でなければ頑張っていただいて……、なんて考えている。
(いい子だといいな)
ゲームのヒロインちゃんは、ふつうにいい子だったから。
「ぼーっとしてるね?」
言われて、ハッと我にかえる。
「あ、はい、すみません」
「鍋島くんが心配してたよ。君のこと」
「はい?」
「ぼーっとしてるって」
む、と私は眉をひそめた。ほんとに失礼なっ!
(とはいえ、もう"クソガキ"ではないよなー)
二十歳の立派な大学生だ。ハタチにしては、しっかりしてる方だと思うし。
(というか、)
私は思う。この人、ナニモノ?
という、私の視線に気がついたのか、その人はまた優しそうなエクボを浮かべた。
「あ、ごめんね挨拶遅くなって。オレね、鍋島の先輩です。もう卒業してるけど」
「あ、そうなんですか」
そう言いながら手を差し伸べて来られたので、私も握ろうとする。エリート社会人ともなると、ご挨拶は握手なのねぇと思って……でもできなかった。先輩さんと、私の手は触れた瞬間にエンガチョされた。
「わっ」
「先輩、何、僕のに勝手に触ろうとしてるんですか? てか、触りました? 触りましたよね、今、僕のに触りましたよね」
「僕の、って」
先輩さんは苦笑した。真さんが不機嫌そうな表情で立っている。少し息が荒い。
(アップとかしてたのかな?)
なんか、走ってた感じ。邪魔しちゃったのだろうか。
「おつかれさまです」
ぺこりと頭を下げた。真さんはふう、と息をついて「あっち」と少し離れた席を指差した。
「華、あっちに移動して、半径3メートル以内にこの人が入ってきたら叫んで」
「えぇ……?」
「酷くない鍋島?」
腕を掴まれて、ずるずると移動させられた。
「これでよし」
「よし、なんですか……?」
「うん」
真さんは満足気に笑う。相変わらず、なんか優雅というかなんというか。
「じゃあね、時間空いたらすぐ来るから」
「はぁ」
私はぽかんと頷きながら、真さんの背中を見送る。
(あー、)
袴姿の真さんを見ながら、1つ気づいた。
(姿勢いいのって剣道してるからだったんだ)
すうっと伸びた背筋。
いまも、その後ろすがたは本当に綺麗で、私はまた不整脈が発生する。
(?)
本当に病院、行くべきなのかもしれない。
(いや、私が不機嫌になる理由はなにもないんですよ!?)
ないけども。ないんだけども。
(そっちが来い来い言うから来たのに)
ぷう、と頬を膨らませながら、私は観覧席へ向かう階段を登った。
真さんが唐突に(あの人はいつだって唐突だ)「明日試合あるから来てね~じゃーね~」と電話してきたのは昨日の夜遅くだ。寝ようとしてたらかかってきたのです。
行くとも行かないとも返事する前に切られて電話。直後にメールで送られてきたのはこの体育館の場所と時間。
「……なんで来ちゃったんでしょーね?」
私はプラスチックの冷たい観覧席に座りながら呟いた。なんででしょうね?
(誘われたのが嬉しかった?)
うーん、私はひとりで少しだけ悩む。よく分かんないし、なんか真さんのこと考えると不正脈の症状が出てる気がする。病院行った方がいいのかなぁ。
(ていうか、普通に仲良しさんじゃん)
女の子と。
ロビーで、女の子(って言っても私より年上ーー中身はともかく)と楽しそうに話してる真さんを見てしまった。
剣道着っていうのかな、紺色の袴姿。なんていうか、あの人はああいうのも似合うんですねって、遠目で一瞬見とれてしまった。
それから声をかけようと近づこうとすると、女の子がぽん、と真さんの腕を叩いて笑顔で話しかけた。真さんも普通に笑顔で会話しててーー。
(私じゃなくてもいいじゃん!)
ふん、と思う。
(ていうか、4つ下だもんな私)
大人の魅力? 的なのないもん。あの女の子、キレーな感じで……そうだ、真さんの趣味ぴったりなんじゃないかな。
(基本年上が好きなはず、だし)
じゃあなんで私?
やっぱりきまぐれ?
(たまには珍味、的な……?)
考え出すとぐるぐる思考が回る。
(あ、やば、なんだろう)
少し涙目。情緒不安定気味?
「どうしたの?」
声をかけられて、振り向くと大学生くらいかな、男の人が笑っていた。メガネかけて、すらっとしてる感じの人。
「え、あ、すみません、なんでも」
「そう? ごめんね、泣いてるみたいに見えたから」
「あー、目にゴミが」
「そっか」
男の人は笑って、なぜか私の横に座る。
「?」
「君かな、鍋島くんの教え子って」
「え」
少しぽかん、と見つめる。
「鍋島って、鍋島真さんですか?」
「そーそー」
にこにこと微笑まれる。
「教え子……ああ、はい」
たしかに、家庭教師してもらっているのでそんな関係性かもしれない。
(教え子か)
ふと、そう思う。特に意味はないはずなんだけど。
「噂通り、綺麗な子だね」
「いえいえ、すみません」
なぜか謝ってしまった。
(だってなー)
真さん綺麗すぎて。私の唯一の悪役令嬢スペック(顔面)でも対抗できてるんだか、できてないんだか。しかも多分ゲームよりもりもり食べてるせいで、多少お肉の付きが……いいような……。
「何年生?」
「高1です」
「学校どこ? 都内?」
「いえ、神奈川の……青百合です」
「へー、お嬢様じゃん」
曖昧に笑う。
本当は、都内の女子校を志望していたんだけど……まさかの受験当日に39℃の熱を出して泣く泣く諦めた。
(背水の陣で、滑り止めを青百合にしてたんだよなー……)
青百合に入るイコール、ゲームのシナリオに少し沿っちゃう気がして!
(ミスったよなー……)
だけど、入学してみれば授業のカリキュラムもすごく合ってる気がするし、ふつうに友達もできて楽しい。
(来年、ヒロインちゃんと遭遇しなきゃいいだけだもんな)
邪魔なんかしないので、松影・石宮的変な子でなければ頑張っていただいて……、なんて考えている。
(いい子だといいな)
ゲームのヒロインちゃんは、ふつうにいい子だったから。
「ぼーっとしてるね?」
言われて、ハッと我にかえる。
「あ、はい、すみません」
「鍋島くんが心配してたよ。君のこと」
「はい?」
「ぼーっとしてるって」
む、と私は眉をひそめた。ほんとに失礼なっ!
(とはいえ、もう"クソガキ"ではないよなー)
二十歳の立派な大学生だ。ハタチにしては、しっかりしてる方だと思うし。
(というか、)
私は思う。この人、ナニモノ?
という、私の視線に気がついたのか、その人はまた優しそうなエクボを浮かべた。
「あ、ごめんね挨拶遅くなって。オレね、鍋島の先輩です。もう卒業してるけど」
「あ、そうなんですか」
そう言いながら手を差し伸べて来られたので、私も握ろうとする。エリート社会人ともなると、ご挨拶は握手なのねぇと思って……でもできなかった。先輩さんと、私の手は触れた瞬間にエンガチョされた。
「わっ」
「先輩、何、僕のに勝手に触ろうとしてるんですか? てか、触りました? 触りましたよね、今、僕のに触りましたよね」
「僕の、って」
先輩さんは苦笑した。真さんが不機嫌そうな表情で立っている。少し息が荒い。
(アップとかしてたのかな?)
なんか、走ってた感じ。邪魔しちゃったのだろうか。
「おつかれさまです」
ぺこりと頭を下げた。真さんはふう、と息をついて「あっち」と少し離れた席を指差した。
「華、あっちに移動して、半径3メートル以内にこの人が入ってきたら叫んで」
「えぇ……?」
「酷くない鍋島?」
腕を掴まれて、ずるずると移動させられた。
「これでよし」
「よし、なんですか……?」
「うん」
真さんは満足気に笑う。相変わらず、なんか優雅というかなんというか。
「じゃあね、時間空いたらすぐ来るから」
「はぁ」
私はぽかんと頷きながら、真さんの背中を見送る。
(あー、)
袴姿の真さんを見ながら、1つ気づいた。
(姿勢いいのって剣道してるからだったんだ)
すうっと伸びた背筋。
いまも、その後ろすがたは本当に綺麗で、私はまた不整脈が発生する。
(?)
本当に病院、行くべきなのかもしれない。
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