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【高校編】分岐・黒田健

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「夏といえば海だって!」
「だからっていきなり海はハードル高くない? 水着だよ? 花火のほうがさぁ」

 夏休み直前の昼休み、俺の机の前であーだこーだ言い合う2人は、俺に設楽の学校の女子を紹介しろ紹介しろと煩かったヤツらだ。近藤と根岸。
 5月にした紹介の約束だけど、あっちはさすがド級の進学校、中間試験だの模試だの期末試験だの、こっちはこっちで部活だ大会だ、で結局夏休みに会うことになったのだ。

「おい黒田、どうなんだよ」
「知るか」
「つめてーなー、オイ! 自分がラブラブだからってな!」
「そーだそーだ!」

 俺は眉間に深く深くシワを寄せて黙った。果てしなく、どっちでもいいからだ。海だろうが花火だろうが。

(設楽は)

 花火はどうだろう、手を繋いでいれば暗いところもある程度歩けるようにはなっているけど。

「……聞いてみるよ」
「お! 頼むよ黒田大明神!」
「変なあだ名つけんな」

 俺は設楽にメールを送る。向こうも昼休みなのか、すぐに帰ってきた。

「……あっちも海派と花火派といるらしい」
「じゃーさ!」

 近藤が大きく手を挙げた。

「両方!」
「は?」

 聞き返すと、近藤は嬉しそうに言った。

「海行って花火すればいいじゃん!」
「おお、名案」

 名案なのか……?

「オレの親戚のさぁ」

 根岸は言った。

「貸別荘があんだけど。空いてる日聞いてみようか?」
「お、まじー!?」
「泊まりはマズイだろうけど、朝から海行って昼食って夕方から花火してだったらオッケーでそうじゃね?」

 女子側からも! と根岸はすっかりその気だ。

「聞いて聞いて聞いてみて黒田」
「……わーったよ」

 そのままをメールする。しばらく返ってこなくて、根岸と近藤はやきもきしたみてーだけど、やがて返ってきたメールは「おっけー」だった。
 2人はハイタッチを交わす。楽しそうでなによりだよ、ほんとに。

 やがて終了式が来て、夏休みに突入したけどあんまり俺の生活は変わらない。朝練の後が授業じゃなくて、ずっと部活なだけ。多分、近藤(野球部)も根岸(バレー部)も同じ感じだろう。
 設楽は毎日学校らしい。進学校ってのは、夏休みも授業があるらしい。午前中は学校で授業、午後からは予備校の夏期講習。

『クーラー病になりそうだよ』

 部活の後、家のリビングで麦茶を飲んでいると、設楽からのメールが来た。
 時刻は夕方、だけれどまだ蝉は頑張っている、そんな時間。
 寒がりだからな、設楽は。けど暑いのにも弱いから、クーラー無しだとへたるしな。

『風邪引くなよ』
『黒田くんも夏バテしないでね、熱中症とか気をつけて』

 設楽もな、と返信しようとしたら追加でメールが来た。

『怪我にも気をつけてね』

 俺はごん、と机に頭をぶつけた。

(可愛すぎる)

 なにがどう可愛いか、なんて説明不可能だ。ただ、胸に刺さるんだから。

「……なにやってるんだ健」

 親父だった。いつのまにか帰宅していたらしい。

「うるせえ。おかえり。麦茶飲むか」
「なにその甘辛ミックス」

 甘辛ミックスの意味は不明だが、俺は親父に麦茶を注いでやる。

「つーか、今日、早いな」
「んん、まぁ、ね。ちょっと事件もなんとなくうまくいきそうな」
「今なにやってんだ親父」
「いま? いまなぁ、えーと。サンズイ」
「サンズイ? ああ、汚職だのなんだのか。つか、親父んな頭使う仕事できんだな」
「お前、父親に向かってそんな……ま、いいや。うん。立件できそうだし逮捕できそうだし有罪いけそうだし、これなら検事さんにも怒られないで済むや」
「普段怒られてんのか」
「いやいや、全然? たまに」
「結局怒られてんのかよ」

 そんな会話をしていると、母さんが帰宅してきた。珍しく家族が揃う。
 3人で夕飯を作る。その方が早いから。

「そういや」

 料理ができて、テーブルに並んだ。揃って座って、ふと俺は口を開いた。

「来週の日曜、俺、帰るの遅くなるわ」
「どこか行くの?」
「朝から海」

 母さんに答えると、母さんは「まー」と手を頬に当てて微笑んだ。

「デートね。海水浴デートね」
「華さん、あまり日光とか得意じゃないんじゃなかったのか」
「あー、だから無理はさせねーつもりなんだけど」

 俺はざっとあらましを説明した。要は合コンに付き合わされてるんだってこと。

「あら、健ったらキューピッドになるのね」

 キューピッド、とは、これまた。
 俺は少し呆れて母さんを見る。まったく気にせず、母さんは嬉しそうに笑った。

「でも、ほんとに順調ねぇ。あんたと華ちゃん。早くお嫁に来て欲しいわ」
「あ、プロポーズしたわ」

 ちょっと前だけど、

「は!?」

 親父が変な声を出した。

「はやくない!? 高校生でしょ君達」
「はやくねーよ、別に。プロポーズって、結婚決めたらするんだろーが。けど、ちゃんとしたのは警官なってからする。金貯めて」
「警察官は確定なのね」

 母さんは首を傾げた。

「そういえば、いいのよ、大学行っても。うち、そこそこ余裕あるのよ?」
「いーよ、遠回りなだけだ」

 そう答えると、母さんは「そう?」と頷いた。

「結局警官になるのは、もう決めたことだから」
「頑固ねぇ。誰に似たのかしら」
「オレではないな」

 親父は飄々と言う。なんか腹立つーーけど、警官の話が出たついでに、俺は親父に聞きたかったことを聞くことにした。

「なぁ、設楽の亡くなった親父さんって警察官だったらしーんだよ」
「へえ? 奇遇だね」
「それで、」

 俺は少しいいあぐねる。母さんの前でする会話ではなかったか?
 けど、ここで止めるのも変だ。思い切って続けた。

「殉職、されてるらしいんだけど」
「……そうなのか」
「親父、なんかしらねー?」
「うーん、突然言われてもなぁ。なに県警?」
「前、設楽関西に住んでたんだけど」
「あ」

 そう言ったのは、母さんだった。

「もしかして、京都の、通り魔の」
「あー」

 親父も、なにかを思い出すような顔をした。

「そうだ、……設楽さんだ。そうだ……」

 親父は少し、呆然としたように呟いた。

「新聞、とってあるよ。みてみる?」

 そう言われて、俺は頷いた。
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