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【高校編】分岐・鹿王院樹

みっともなくて(side樹)

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 ロンドンの信頼のおけるホテルのひと部屋に華を、まぁ身も蓋も無い言い方をするならば、閉じ込めてきた。
 まさしく軟禁といわれても仕方ない。本人はのほほんとしていたが。その信頼と愛情がこそばゆい。利用しているみたいで、少し申し訳なく思う。
 もっとも明日鍋島が到着するまでのひと晩だけなので、俺の我儘に付き合って欲しいと思う。

(側にいられないから)

 さすがに同じ宿舎やホテルに華を連れて行く訳にはいかない。
 それでも、華をロンドンまで連れてきたのはーー軟禁のような真似をしたのは、危ない目にあって欲しくない、というのは勿論、嫉妬心からの行動だと思う。
 まさかリュカとも知り合いだなんて。

(リュカは)

 あいつは華を、明け透けに言えば、そう、「欲しそう」に見ていた。
 幼馴染?
 幼稚園での「結婚の約束」、華に昔の記憶がないことを、その華にとっては辛い事実を、俺は初めて感謝した。
 汚い人間だと思う。本当に。自分に対する嫌悪感、そんなものを感じたのは産まれて初めてで、でもどうすればいいのか分からない。
 愛情と独占欲と入り混じった、みっともない欲望でいっぱいの心の中。華に知られたら嫌われてしまうだろうか?

(いや、)

 俺は考え直す。
 きっと華は受け入れる。ふわりと包んでくれるだろう。だからこそーー知られたくない。
 せめて、自分で言うのも面映ゆいが「かっこいい男」でいたいと思う。華の隣に立つのに、相応しい人間でいられたら……あまり自信は、ないけれど。

 そんなことを考えつつも、だからこそ練習にも練習試合にも、気が入った。
 そして始まった本番のグループリーグ。初戦こそベンチスタートだったが、二試合目にはスタメンに選ばれた。そのまま、3試合目にも。
 観客席で祈るように試合を見つめる華。これくらいの年代別代表の試合は、観客がそこまで多いわけではない。華はすぐに見つかる。鍋島は物珍しそうに華に付き添っていた。
 華と目が合う。そっと微笑まれて、その度に気が引き締まった。
 無事にグループリーグ突破が決まったその夜、リュカが俺たちが泊まるホテルに、唐突に訪ねてきた。

「ようイツキ、グループリーグ突破おめでとう」
「そっちこそ」

 フランス代表もまた、順当にトーナメントへ駒を進めていた。
 リュカもフォワードとして試合に出ていて、3試合で2得点を挙げていた。

「どうした、急に」
「あのさ」

 リュカは微笑む。少し垂れ気味の、綺麗な薄い青色の目。さらさらの金の髪ーー「王子様」のようだなと俺は思った。

(俺とは違うな)

 目つきが悪くて、無愛想で、……どちらかというと無骨な人間だと思う。
 華の気持ちを疑うなどということは、決してない。けれど、こうも完璧な人間を見ると少し落ち込む。

「次の試合、当たるだろ」

 俺は頷く。
 決勝トーナメント1回戦、いきなりリュカと当たる。

「オレが勝ったらさ、ハナにアタックしてもいい?」

 俺はどんな顔をしていたんだろう。だけれど反射的に出たのは「ダメだ」という一言だった。

「なんで? ダメ? 本来は、決めるのはイツキじゃなくてハナでしょ? でもオレはイツキのことリスペクトしてるから、セーセードードーとセンセンフコクしにきたんだよ」
「知るか。ダメだ」
「だからさ、勝ったらだって」

 リュカは肩をすくめる。

「別にイツキの許可なんかなくたっていいんだよ。あくまでこれはオレの……なんていうの? ジンギ?」
「そうか」

 すう、と腹が決まる。笑顔ではなく目を細くして、リュカを見る。ほんの少し低いところにある、その空のような瞳は、少し挑発的に俺を見ていた。
 ふう、と息を吐く。

(リュカの言う通りだ)

 誰を選ぶかなんて、華が決めることで、俺が決めることじゃない。それでも華は俺のそばにいてくれると確信してるし、それは揺るがない。

(だけれど)

 それでも、負けてたまるか、と思う。

「一点も取らせん」
「あは、イツキらしいね」

 リュカは笑う。

「試合楽しみだね」
「そうだな」
「オレが点を決めるのが」
「ふ、言っていろ」

 腕を組んでリュカに笑ってやる。

「全部止めてやる」
「そっちこそ言ってろ、だよ。ほんとに自信家だなぁ」

 ゆったりとリュカは笑う。
 リュカと別れて、部屋に戻るために廊下を歩きながらふと気づく。

(ずいぶんとサッパリした)

 ひとりで抱え込んでいた、ドロドロとしたものが随分楽になっていて、俺はひとりで笑ってしまう。

(俺も好戦的だなあ)

 性格なんだろうか。
 ひとりで抱え込んでいるより、宣戦布告されて戦うほうが、よほど性に合っているらしい。
 負ける気はしない。華を奪われる気もない。

「やれるものなら、やってみろ」

 小さく呟く。
 正々堂々、迎え撃って撃破してやる。
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