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分岐・鍋島真

中学編エピローグ(side真)【続きは高校編へ】

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「悪化してません?」

 僕が大学一年の春、華は中学三年生の春。僕は小西さんのお見舞いに行った。

 ベッドの上で、小西さんは海老のように丸まり「ああ、真さま、すみませんお見苦しいところを、……」と呻いた。

「や、こちらこそ大変な時に?」
「いえ、違うんです。先程華様がいらして、あまりに心配なさるので元気なところを見せようと特技のムーンウォークを披露したところ、案外と怪我に響きまして」

 肝臓真っ二つになってたってのに、なにしてるんだこの人は。
 ていうかムーンウォークできるんだ。ちょっと羨ましい。

「月面歩行もいいですが、お大事にしてください」
「ありがとうございます……」

 あんまり長居するのもなんだかなぁ、って僕は病室を出ようとする。

「あ、真さま」

 引き止められた。

「なんですか?」
「ご入学、おめでとうございます」

 優しく微笑まれる。僕は頭を下げた。

「法学部ですよね? 文一? ご優秀ですね」
「……ありがとうございます」

 少しできた間に、すこしだけ不思議そうな顔をされる。

(僕は)

 窓の向こうの、空を眺めた。あの先には宇宙がある。なんとなく、そう思った。

「あっれ、真さん?」

 がらり、と開いた扉。眼下には華がいた。墨染のようなセーラー服、リボンタイはちゃんと真っ白。

「ははは華さま!」

 小西さんはぴしりと背筋を正した。

「どうなさいました?」
「なんか先生にそう言われるの、慣れないですよ」
「うふふ」

 相良さんたちがボディーガードっていうのは、結局華にバレたらしい。まぁ、仕方ないとも思う。華は嫌がってるみたいだけど。

「忘れ物してーー、あ、あった」

 ベッドサイドの棚の横に、ハンカチが隠れるように落ちていた。ひょい、と拾う。

「じゃあせんせ、お大事にです」

 華はにこりと笑って部屋を出る。小西さんは拝んでいた。

「……なにしてるんです?」
「せんせ、って言われました」
「はぁ」
「至高」
「……はぁ」

 世の中、僕よりヤバい人っているんだなぁというのが素直な感想。
 華を追う。

「華」
「あ、真さん」

 病院前の桜並木の下、振り向く華はなんていうか、パーフェクトだった。他の人からしたら、どうなのかは分からない。でも僕にとって、彼女はパーフェクトだ。見た目とかじゃなくてーーうーん、うまく説明できない。

「どうしたんですか」
「ねえ彼女、お茶しない?」

 なんとなくだった。以前、華に言ったことのある、ちょっとふざけたセリフ。
 華はきょとんとしたあと、くすくすと笑った。

「ふふ、いいですよ、センセ」

 相変わらず僕は華の家庭教師もどきを続けていたので、時々ふざけて先生と呼ばれるのはなんとなく慣れてはいたけど。

(せんせ、っていいかもね)

 僕もあの人に負けず劣らず、変態さんみたいだった。
 ざあ、と風がふいて、桜を巻き上げた。ひらりひらり、ちらりちらり、僕はそれを目で追う。
 ふと、目線を華に戻す。視線がかち合った、と思ったら戸惑うようにそらされた。
 僕はそっと華の手を握る。

「あの、こういうのって、お付き合いしてる人とするべきでは」
「じゃあお付き合いしてくれるの?」
「それは、」
「僕は好きな子と手を繋ぎたい」
「好きな、って」

 困ったように言う華だけど、僕は手を離さない。
 眉を下げてる華の手を、強く強く握って僕は歩き出す。抵抗しなくなっただけ、きっと僕に絆されてきちゃってるんじゃない?

 僕は笑う。
 絶対に離してなんかやるもんか。
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