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【高校編】分岐・鹿王院樹
迷子
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「えっへっへっへ迷っちゃいましたねこれはね」
日本人の悪いところは笑ってごまかすところだ、なんて聞いたことはあるけれど、とりあえずまぁ、笑ってみた。そんなフランスは第二の都市、リヨンの晴れ渡った空の下。
綺麗な街並みだ。石造りの、細かな彫刻が彫られた建物、可愛らしい白い路面電車も走ってるし、旧市街の石畳の道も素敵だった。
(お、怒られる)
私は地図を握りしめ、とにかくホテルに帰ろうとしていた。
(だって、だって美食の街なんて書いてあるからっ)
真さんのところへ行った千晶ちゃんに「絶対にホテルから出るな」と厳命されていたのに……つい。ガイドブックに載ってた美味しそうなジェラート屋さん。どうしても、どうしても、どーしても行きたかったのだ。
時間もまだお昼過ぎ。ガイドブックによると、夜は治安が悪いみたいだけれど昼間は置き引きに注意すればいいくらい、らしい。
そんなわけで置き手紙だけ残して、ふらりと外出してみたはいいものの、何せ初のヨーロッパ、ついついフラフラ街並みを見学してみたりして、気づけば「ここどこ?」状態。
「ええと、地図によると。これがこの駅だから、こう?」
典型的な地図が読めない人の動き(地図を現実の位置に合わせる)をしていると、ぽん、と肩を叩かれた。
「?」
立っていたのは、……にこにことした白人の若い男の人。迷ってるの? みたいなジェスチャーをしてくる。
こくこくと頷くと地図を覗き込んできた。ホテルを指差して、男の人を見上げると微笑み返される。
すっと手を繋いで、歩き出す男の人。
(案内してくれるってことかな?)
ぼけーっと付いて行こうとした時、ぐいっと体を引かれた。見上げると、多分同じくらいの年齢かな? な、これまた白人の男の子だった。
振り向いた男の人に、その子は少しキツイ口調でなにかを伝える。すると、男の人は肩をすくめて歩いていってしまった。
「???」
何が何だか分からず、キョロキョロしていると男の子と目が合う。優しく笑ってくれたけど、少し怒ってるような目だった。
「君さ、」
「え、日本語」
「今の付いてったらどうなってたと思う?」
「え、」
道案内しようとしてたわけじゃなかったのか。
「なんで駅のこっち側まで来ちゃったか知らないけど、……この辺治安良くないよ。君、いま結構エグめのナンパされてたの」
「……エグめ?」
何でしょうかそれは。
「ふつーにヤられちゃうとこだったよ」
「ええええええ!?」
なんという! てか治安悪い地域があったの!?
「手前の通りで地図片手にウロウロしてるのみかけて、追いかけてきたら案の定でびっくりしてる」
「えー、あの」
とりあえず、私は頭を下げた。
「ありがとうございました……」
男の子は「付いてきて」と言って歩き出した。てくてく付いていく。
気がつくと、人通りも多くなって、明るい街並みに戻っていた。
「どこに行きたいの」
「このホテル……」
地図を見せた。男の子はうなずく。
「あれに乗ろう」
指さされたのは路面電車。
「え、あ、はい」
二人で乗り込む。
「あのー」
「なに?」
少し迷って、それから言う。
「なんで日本語?」
「昔、日本に住んでて。東京と神戸」
男の子は微笑んだ。
「君は観光?」
「あ、はい、ええと」
「タメ口でいいよ。同じくらいじゃない?」
「ええと、もうすぐ17。まだ16だけど」
「同じ年だ。僕は17」
にこり、と男の子は笑った。
「ていうかさ」
「はい?」
「君、僕にもちゃんと警戒しなきゃだよ? 僕がなにか企んでたらどうするの」
ほいほい着いてきちゃってさ、と呆れたように言われる。
(あ)
ぽかんと男の子を見上げた。心配気な視線とぶつかって、ふふふと笑ってしまう。
「どうしたの?」
「悪い人は、そんな風な目で見ないと思う」
「?」
男の子は自分の目元に手をやる。
「だってすごく心配してくれてるもの」
「ああ、そうかも。だって」
男の子は笑う。
「君さ、神戸にいた時の仲が良かった女の子に似てるんだもんな」
「それで助けてくれたの?」
「まぁそんなとこ」
男の子は肩をすくめた。
(でもこの子、)
似てなくても助けてくれた気もする。
(ていうか、ほんと反省だ……)
知らない街、ひとりでうろついちゃダメだった。
「ここかな」
言われて車窓を見ると、見たことのある街並み!
「あ、この辺!」
「降りよう」
路面電車を降りて、歩いてすぐにホテルはあった。
「良かった……!」
「ひとり旅なの?」
「ううん、友達と来てるんだけど、ちょっと今日別行動、で……」
「華ちゃんッッッッ!!!!!!」
ホテルの入り口から、千晶ちゃんがものすごい形相で飛び出してきた。
「なにしてるの!?」
「ご、ごめん。道に迷って……、でも、この人に助けてもらった」
千晶ちゃんは、男の子を見る。
「……どうも?」
「ええと、その」
男の子は少し呆然としていた。
「? どうしたの」
「いや、君、ハナっていうの? 苗字は?」
「苗字? あの、」
「あの! どうも助けていただいてありがとうございました!」
千晶ちゃんが遮り、私の腕をとる。そのまま引きずるようにホテルに向かう。
「あ、あの! 本当にありがとう!」
呆然と立ち尽くす男の子に、なんとかそれだけは伝えられた。
部屋に帰ると正座させられました。
「あのう、でもですね、中身的にはもう大人でありまして」
「で、道に迷って、得体の知れない男の子をホテルまで連れてきちゃった、と」
その言い方にむっとする。
「あの子はそんな子じゃないよ!」
「なんでわかるの」
「なんで」
ぐっと口をつぐむ。まぁそれは、うん
、なんとなくだけど。
(なんか)
あの子のこと、知ってる気がするんだよなぁ。
「華ちゃん?」
「は、はい」
千晶ちゃんが仁王立ちになって私の名前を呼ぶ。
「はーんーせーいーしーてーまーすか」
「ううう、はい」
頬を思い切りつままれて、何度も謝った。ほんとにごめんなさい……。
平謝りに謝ると、千晶ちゃんはふと思い出したように言った。
「あのね、一応と思って」
「うん」
「樹くんに連絡したんだけど」
「ええっ」
こんな時に心配かけられないのに……! さあっと血の気が引いた。
「スマホの電源切れてる?」
「あ、そういえば」
私はスマホを手に取った。うん、反応なし……。
「言いたいことは色々あるけれど、そこはもう婚約者様にお任せします」
千晶ちゃんがそう言ったちょうどその時、ドアを大きく叩く音がした。
「ご到着かしら」
「……えぇ!?」
千晶ちゃんが開けたドアの外には、ものすごく険しい顔の樹くんがいた。
……怒ってますよね?
ていうか、ロンドンにいるはずなのでは?
日本人の悪いところは笑ってごまかすところだ、なんて聞いたことはあるけれど、とりあえずまぁ、笑ってみた。そんなフランスは第二の都市、リヨンの晴れ渡った空の下。
綺麗な街並みだ。石造りの、細かな彫刻が彫られた建物、可愛らしい白い路面電車も走ってるし、旧市街の石畳の道も素敵だった。
(お、怒られる)
私は地図を握りしめ、とにかくホテルに帰ろうとしていた。
(だって、だって美食の街なんて書いてあるからっ)
真さんのところへ行った千晶ちゃんに「絶対にホテルから出るな」と厳命されていたのに……つい。ガイドブックに載ってた美味しそうなジェラート屋さん。どうしても、どうしても、どーしても行きたかったのだ。
時間もまだお昼過ぎ。ガイドブックによると、夜は治安が悪いみたいだけれど昼間は置き引きに注意すればいいくらい、らしい。
そんなわけで置き手紙だけ残して、ふらりと外出してみたはいいものの、何せ初のヨーロッパ、ついついフラフラ街並みを見学してみたりして、気づけば「ここどこ?」状態。
「ええと、地図によると。これがこの駅だから、こう?」
典型的な地図が読めない人の動き(地図を現実の位置に合わせる)をしていると、ぽん、と肩を叩かれた。
「?」
立っていたのは、……にこにことした白人の若い男の人。迷ってるの? みたいなジェスチャーをしてくる。
こくこくと頷くと地図を覗き込んできた。ホテルを指差して、男の人を見上げると微笑み返される。
すっと手を繋いで、歩き出す男の人。
(案内してくれるってことかな?)
ぼけーっと付いて行こうとした時、ぐいっと体を引かれた。見上げると、多分同じくらいの年齢かな? な、これまた白人の男の子だった。
振り向いた男の人に、その子は少しキツイ口調でなにかを伝える。すると、男の人は肩をすくめて歩いていってしまった。
「???」
何が何だか分からず、キョロキョロしていると男の子と目が合う。優しく笑ってくれたけど、少し怒ってるような目だった。
「君さ、」
「え、日本語」
「今の付いてったらどうなってたと思う?」
「え、」
道案内しようとしてたわけじゃなかったのか。
「なんで駅のこっち側まで来ちゃったか知らないけど、……この辺治安良くないよ。君、いま結構エグめのナンパされてたの」
「……エグめ?」
何でしょうかそれは。
「ふつーにヤられちゃうとこだったよ」
「ええええええ!?」
なんという! てか治安悪い地域があったの!?
「手前の通りで地図片手にウロウロしてるのみかけて、追いかけてきたら案の定でびっくりしてる」
「えー、あの」
とりあえず、私は頭を下げた。
「ありがとうございました……」
男の子は「付いてきて」と言って歩き出した。てくてく付いていく。
気がつくと、人通りも多くなって、明るい街並みに戻っていた。
「どこに行きたいの」
「このホテル……」
地図を見せた。男の子はうなずく。
「あれに乗ろう」
指さされたのは路面電車。
「え、あ、はい」
二人で乗り込む。
「あのー」
「なに?」
少し迷って、それから言う。
「なんで日本語?」
「昔、日本に住んでて。東京と神戸」
男の子は微笑んだ。
「君は観光?」
「あ、はい、ええと」
「タメ口でいいよ。同じくらいじゃない?」
「ええと、もうすぐ17。まだ16だけど」
「同じ年だ。僕は17」
にこり、と男の子は笑った。
「ていうかさ」
「はい?」
「君、僕にもちゃんと警戒しなきゃだよ? 僕がなにか企んでたらどうするの」
ほいほい着いてきちゃってさ、と呆れたように言われる。
(あ)
ぽかんと男の子を見上げた。心配気な視線とぶつかって、ふふふと笑ってしまう。
「どうしたの?」
「悪い人は、そんな風な目で見ないと思う」
「?」
男の子は自分の目元に手をやる。
「だってすごく心配してくれてるもの」
「ああ、そうかも。だって」
男の子は笑う。
「君さ、神戸にいた時の仲が良かった女の子に似てるんだもんな」
「それで助けてくれたの?」
「まぁそんなとこ」
男の子は肩をすくめた。
(でもこの子、)
似てなくても助けてくれた気もする。
(ていうか、ほんと反省だ……)
知らない街、ひとりでうろついちゃダメだった。
「ここかな」
言われて車窓を見ると、見たことのある街並み!
「あ、この辺!」
「降りよう」
路面電車を降りて、歩いてすぐにホテルはあった。
「良かった……!」
「ひとり旅なの?」
「ううん、友達と来てるんだけど、ちょっと今日別行動、で……」
「華ちゃんッッッッ!!!!!!」
ホテルの入り口から、千晶ちゃんがものすごい形相で飛び出してきた。
「なにしてるの!?」
「ご、ごめん。道に迷って……、でも、この人に助けてもらった」
千晶ちゃんは、男の子を見る。
「……どうも?」
「ええと、その」
男の子は少し呆然としていた。
「? どうしたの」
「いや、君、ハナっていうの? 苗字は?」
「苗字? あの、」
「あの! どうも助けていただいてありがとうございました!」
千晶ちゃんが遮り、私の腕をとる。そのまま引きずるようにホテルに向かう。
「あ、あの! 本当にありがとう!」
呆然と立ち尽くす男の子に、なんとかそれだけは伝えられた。
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「で、道に迷って、得体の知れない男の子をホテルまで連れてきちゃった、と」
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「なんでわかるの」
「なんで」
ぐっと口をつぐむ。まぁそれは、うん
、なんとなくだけど。
(なんか)
あの子のこと、知ってる気がするんだよなぁ。
「華ちゃん?」
「は、はい」
千晶ちゃんが仁王立ちになって私の名前を呼ぶ。
「はーんーせーいーしーてーまーすか」
「ううう、はい」
頬を思い切りつままれて、何度も謝った。ほんとにごめんなさい……。
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「あのね、一応と思って」
「うん」
「樹くんに連絡したんだけど」
「ええっ」
こんな時に心配かけられないのに……! さあっと血の気が引いた。
「スマホの電源切れてる?」
「あ、そういえば」
私はスマホを手に取った。うん、反応なし……。
「言いたいことは色々あるけれど、そこはもう婚約者様にお任せします」
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「……えぇ!?」
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